「聞こえていますか?」と聞けない赤ちゃんに―新生児聴覚スクリーニング要精査からの最初の一手
第110回医師国家試験 I問題 第77問
国試問題にチャレンジ
2か月の乳児。新生児聴覚スクリーニングで両耳とも要精査となったため母親に連れられて来院した。身長,体重は正常範囲であり,両側の鼓膜に異常を認めない。サイトメガロウイルス抗体検査は陰性であった。 まず行うべき検査はどれか。2つ選べ。
- a.側頭骨CT
- b.染色体検査
- c.純音聴力検査
- d.重心動揺検査
- e.聴性脳幹反応〈ABR〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児聴覚スクリーニングの結果はパスかリファーの二択であり、要精査となった児では難聴の有無と程度、そして原因・障害部位を改めて評価する必要があります。乳児は自覚的な応答ができないため、聴力の評価には他覚的検査であるABR(必要に応じてASSRを併用)を用い、原因検索には外耳・中耳・内耳の奇形を評価できる側頭骨CTを行います。純音聴力検査は協力が必要な自覚的検査、重心動揺検査は立位が必要な平衡機能検査で、いずれも乳児には施行できず、遺伝性難聴の多くは単一遺伝子変異のため染色体検査では検出できません。先天性CMV感染の除外や、生後1・3・6か月を目安とする早期診断・早期療育の流れまで押さえておくことが、子どもの言語発達を守る実践的な知識につながります。
解答・解説
正解はa, eです
状況の整理
・生後2か月の乳児で、新生児聴覚スクリーニングにおいて両耳とも「要精査(refer)」と判定された。 ・身長・体重は正常範囲で、発育に明らかな問題はない。 ・両側の鼓膜は正常 → 外耳道閉鎖などの外耳奇形や、滲出性中耳炎のような中耳の液体貯留はひとまず考えにくい。 ・サイトメガロウイルス(CMV)抗体が陰性 → 先天性CMV感染(先天性難聴の非遺伝性原因として最多)は否定的である。CMV IgG抗体は母体から胎盤を通じて移行するため、乳児で陰性であれば母体も未感染と考えられ、胎内感染の可能性は低い。
考え方
新生児聴覚スクリーニングは、自動聴性脳幹反応(AABR)や耳音響放射(OAE)を用いて、一定の音量の音に反応が「あるか、ないか」だけを判定する検査である。どの程度の難聴なのか(聴力レベル)、どこに障害があるのかまではわからない。そのため要精査となった児は、耳鼻咽喉科の精密聴力検査機関で、 ①本当に難聴があるか、あるならどの程度か(聴覚閾値の評価) ②難聴の原因・障害部位はどこか(外耳・中耳・内耳の形態評価) を調べる必要がある。 生後2か月の乳児は自分で「聞こえた」と応答できないため、①には患児の協力を必要としない他覚的聴力検査(ABRなど)を用い、②には画像検査(側頭骨CT)を用いる。早期に難聴の有無と程度を確定し、生後6か月頃までに補聴器装用などの療育を開始することが、言語発達のために重要とされる。
選択肢考察
- ○a. 側頭骨CT
行うべき検査である。高分解能の側頭骨CTにより、外耳道閉鎖、耳小骨奇形などの中耳奇形、内耳奇形(蝸牛の低形成やMondini型奇形、前庭水管拡大、内耳道狭窄など)の有無を評価できる。難聴の原因・障害部位の推定に役立ち、将来の人工内耳手術の適応や術式を検討するうえでも重要な情報となる。なお蝸牛神経の低形成・欠損の評価にはMRIが有用である。
- ×b. 染色体検査
まず行う検査ではない。先天性難聴の約半数以上は遺伝性と考えられるが、その多くは単一遺伝子の変異(日本人ではGJB2遺伝子が最多で、ほかにSLC26A4など)によるもので、染色体の数や構造の異常を調べる染色体検査(G分染法など)では検出できない。原因検索として行われるのは遺伝子検査(難聴の遺伝学的検査)であり、それも聴力検査で難聴の存在と程度を確認したのち、遺伝カウンセリングを行い家族と相談したうえで実施する。染色体異常症(Down症候群など)を疑わせる身体所見も本例には記載されていない。
- ×c. 純音聴力検査
施行できない。純音聴力検査は、各周波数の音を聞かせて聞こえたら被検者がボタンを押すなどして応答する自覚的検査であり、検査の意味を理解して協力できることが前提となる。一般に4歳前後以降で可能となり、生後2か月の乳児には実施できない。乳幼児では発達段階に応じて、聴性行動反応聴力検査(BOA:生後早期)、条件詮索反応聴力検査(COR:生後6か月頃〜)、遊戯聴力検査(3歳頃〜)などの行動反応を利用した検査を用いる。
- ×d. 重心動揺検査
不適切である。重心動揺検査は、被検者が検査台の上で直立し、重心の揺れを記録して平衡機能を評価する検査である。立位を保持できない生後2か月の乳児には施行できず、またそもそも聴力の評価を目的とした検査ではない。
- ○e. 聴性脳幹反応〈ABR〉
行うべき検査である。ABRは音刺激によって聴神経から脳幹で生じる電位(I〜V波)を頭皮上の電極で記録する他覚的聴力検査で、患児の協力が不要なため乳児にも施行できる(通常は睡眠下・必要に応じ鎮静下で行う)。刺激音の強さを変えてV波が出現する最小の音圧を求めることで聴覚閾値を推定でき、スクリーニング(自動ABR)よりも詳しく難聴の程度を評価できる。ただしクリック音を用いるABRは主に高音域(2〜4 kHz付近)の閾値を反映するため、低〜中音域を含めた周波数別の閾値評価には聴性定常反応(ASSR)を併用する。
新生児聴覚スクリーニング
・方法:自動ABR(AABR)または耳音響放射(OAE)。いずれも睡眠中に短時間で施行できる。 ・AABRは内耳から脳幹までの聴覚路を評価できる。OAEは蝸牛外有毛細胞の機能を反映するため、聴神経以降の障害(オーディトリーニューロパチー)を見逃すことがある。 ・判定は「pass(パス)」か「refer(要再検・要精査)」の二択であり、聴力レベルはわからない。 ・目標は「1-3-6ルール」:生後1か月までにスクリーニング、3か月までに精密検査で診断、6か月までに療育(補聴器装用など)開始。 ・先天性両側難聴の頻度は出生1,000人に1〜2人程度とされる。
精密聴力検査の流れ
①問診(家族歴、周産期歴、感染症)と耳の診察(耳介・外耳道・鼓膜) ②他覚的聴力検査:ABR、ASSR、OAE ③行動反応聴力検査:BOA、COR(月齢に応じて) ④原因検索:画像検査(側頭骨CT、MRI)、先天性CMV感染の検査、遺伝学的検査(カウンセリングのうえ)
先天性難聴の主な原因
・遺伝性(非症候群性が多く、GJB2変異が最多。症候群性にはWaardenburg症候群、Pendred症候群、Usher症候群など) ・先天性CMV感染(非遺伝性で最多。遅発性・進行性の感音難聴をきたすことがある) ・風疹(先天性風疹症候群)、早産・低出生体重、高ビリルビン血症など ・なお先天性CMV感染の確定診断は、生後3週以内の尿などを用いた核酸増幅検査(PCR)でウイルスを検出して行う。生後3週以降の陽性は出生後の感染と区別できない。
POINT
・新生児聴覚スクリーニングで要精査 → 他覚的聴力検査(ABR・ASSR)で難聴の有無と程度を確定する。 ・難聴の原因・部位の検索には側頭骨CT(外耳・中耳・内耳奇形の評価)。 ・純音聴力検査は自覚的検査で乳児には施行不可。重心動揺検査は立位が必要。 ・遺伝性難聴の検索は染色体検査ではなく遺伝子検査で、難聴確認後にカウンセリングのうえ行う。 ・早期診断・早期療育(1-3-6ルール)が言語発達の鍵となる。
