空気はどこから入るのか―「経路」で見抜く気胸の原因と膿胸の落とし穴
第110回医師国家試験 I問題 第18問
国試問題にチャレンジ
気胸の原因となりにくいのはどれか。
- a.肺嚢胞
- b.肋骨骨折
- c.人工呼吸
- d.急性膿胸
- e.鎖骨下静脈穿刺
対話形式の解説
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医学生まとめ
気胸は胸膜腔に空気が入り肺が虚脱する病態で、空気の経路は「肺の破綻(臓側胸膜の損傷)」か「胸壁の穿通」に大別されます。成因は、ブラ・ブレブの破裂による特発性やCOPDなどに伴う続発性の自然気胸、肋骨骨折などによる外傷性気胸、鎖骨下静脈穿刺や陽圧換気などによる医原性気胸に分類されます。一方、急性膿胸は胸膜腔に膿性の液体がたまる感染症で、それ自体は空気の経路を作らないため気胸の原因となりにくく、膿気胸は肺膿瘍の穿破や気管支胸膜瘻など別の機序で生じます。陽圧換気中や外傷時の気胸は緊張性気胸に進展しやすく、ショック徴候があれば画像を待たず緊急脱気が必要です。「空気がどこから入るか」という原理で考える習慣は、気胸の鑑別だけでなく、手技後や人工呼吸中の急変対応にも直結します。
解答・解説
正解はdです
気胸とは、胸膜腔(臓側胸膜と壁側胸膜の間の空間)に空気が入り込み、肺が虚脱した状態である。本来、胸膜腔は陰圧に保たれており、ここに空気が入る経路は大きく二つしかない。 1) 肺の側から:臓側胸膜が破れ、肺胞・気道内の空気が胸膜腔へ漏れる(肺嚢胞の破裂、陽圧換気による肺の損傷、針や骨片による肺の損傷など)。 2) 胸壁の側から:胸壁を貫く損傷で外気が胸膜腔へ入る(開放性外傷など)。 気胸は成因により、自然気胸(基礎疾患のない特発性と、COPD・間質性肺炎などに伴う続発性)、外傷性気胸、医原性気胸(中心静脈穿刺、経気管支肺生検、陽圧換気など医療行為に伴うもの)に分類される。 本問では、選択肢がこの「空気が漏れる経路」を作る病態かどうかを考える。急性膿胸は胸膜腔に膿性の液体が貯留する感染症であり、空気が漏れる経路を作る病態ではないため、気胸の原因となりにくい。
選択肢考察
- ×a. 肺嚢胞
原因となる。肺の胸膜直下にできるブラ(肺胞が壊れて融合した気腔)やブレブ(臓側胸膜内の気腔)が破れると、空気が胸膜腔へ漏れて気胸となる。やせ型・長身の若年男性に多い特発性自然気胸の大部分はこの機序による。COPD(慢性閉塞性肺疾患)などによる気腫性嚢胞の破裂は続発性自然気胸の代表的原因である。
- ×b. 肋骨骨折
原因となる。胸部外傷で肋骨が折れると、鋭い骨折端が臓側胸膜と肺を傷つけて空気が漏れ、外傷性気胸を生じる。同時に肋間動静脈などが損傷されると血胸を合併し、血気胸となることもある。損傷部が一方向弁のように働くと緊張性気胸へ進展しうるため注意が必要である。
- ×c. 人工呼吸
原因となる。陽圧換気では肺胞内に外から圧をかけて空気を送り込むため、肺胞の過膨張や高い気道内圧により肺胞が破綻しうる(圧損傷、barotrauma)。特にARDS(急性呼吸窮迫症候群)やCOPDなど肺が脆弱な患者で起こりやすい。陽圧換気中の気胸は空気が持続的に送り込まれるため緊張性気胸に進展しやすく、急な気道内圧上昇や血圧低下、酸素化悪化を見たら疑う必要がある。
- ○d. 急性膿胸
原因となりにくい(正解)。急性膿胸は、肺炎などの細菌感染が胸膜腔に波及し、膿性の胸水が貯留する病態である。胸膜腔に溜まるのは液体(膿)であり、それ自体は空気の漏れる経路を作らないため、気胸の原因とはなりにくい。なお、肺膿瘍の胸腔内穿破や気管支胸膜瘻を伴う場合などには、膿と空気が同時に胸膜腔に存在する膿気胸を呈することがあるが、これは膿胸が気胸を起こしたというより、肺の破綻という別の機序による。
- ×e. 鎖骨下静脈穿刺
原因となる。鎖骨下静脈は肺尖部の胸膜(胸膜頂)に近接しているため、中心静脈カテーテル挿入のための穿刺の際に針が胸膜と肺を貫き、医原性気胸を生じることがある。動脈誤穿刺と並ぶ代表的な合併症であり、穿刺後には胸部X線写真で気胸の有無とカテーテル先端位置を確認する。超音波ガイド下穿刺は合併症の軽減に役立つ。
気胸の分類
自然気胸 ・特発性(原発性):明らかな肺疾患がない。ブラ・ブレブの破裂による。10〜20歳代のやせ型・長身男性に好発する。 ・続発性:COPD、間質性肺炎、肺癌、結核、肺リンパ脈管筋腫症(LAM)、月経随伴性気胸(胸腔内子宮内膜症)などの基礎疾患に伴う。 外傷性気胸:肋骨骨折、刺創・銃創などの胸部外傷による。 医原性気胸:中心静脈穿刺(特に鎖骨下静脈・内頸静脈)、経気管支肺生検、CTガイド下肺生検、胸腔穿刺、陽圧換気、鍼治療など。
症状と診断
突然の胸痛、呼吸困難、乾性咳嗽で発症する。患側の呼吸音減弱、打診での鼓音を認める。胸部X線写真では虚脱した肺の辺縁(臓側胸膜線)とその外側の肺紋理消失を認める。
緊張性気胸
損傷部が一方向弁となって胸腔内圧が上昇し、縦隔が健側へ偏位して静脈還流が障害され、ショックに至る。頸静脈怒張、気管偏位、患側呼吸音消失、低血圧を認めたら画像を待たず緊急脱気を行う。
膿胸との関係
膿胸は胸膜腔の液体貯留(膿)であり、気胸(空気貯留)とは別の病態である。両者が併存する膿気胸は、気管支胸膜瘻、肺膿瘍の穿破、ガス産生菌感染、手術後などで見られ、胸部X線写真で鏡面像(ニボー)を呈する。
POINT
・気胸は胸膜腔に空気が入る病態で、空気の経路は「肺の破綻」か「胸壁の穿通」である。 ・自然気胸(特発性・続発性)、外傷性気胸、医原性気胸に分類する。 ・医原性気胸の代表は中心静脈(鎖骨下静脈)穿刺、肺生検、陽圧換気。 ・人工呼吸中の気胸は緊張性気胸になりやすい。 ・膿胸は液体貯留であり、単独では気胸の原因となりにくい。
