寄り目の正体は「がんばりすぎ」―調節性内斜視は眼鏡から始める
第110回医師国家試験 I問題 第19問
国試問題にチャレンジ
幼児の調節性内斜視に対し最初に行うのはどれか。
- a.片眼の遮蔽
- b.縮瞳薬の点眼
- c.矯正眼鏡の装用
- d.外直筋短縮手術
- e.プリズム眼鏡の装用
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
調節性内斜視は1〜3歳ごろに多く、遠視を補うための過剰な調節に連動して過剰な輻湊が起こることで生じる内斜視です。治療の第一歩は、調節麻痺下屈折検査で潜伏遠視も含めた遠視の全量を把握し、完全矯正眼鏡を終日装用させることで、これにより眼位の改善と弱視の予防が期待できます。健眼遮閉は合併する弱視に対して併用し、純粋な調節性内斜視は手術適応にならず、プリズム眼鏡は残余斜視への補助にとどまります。高AC/A比で近見時に内斜視が強いタイプには二重焦点眼鏡、部分調節性内斜視の残余斜視には手術を考慮し、乳児内斜視は手術が中心となる点も区別が必要です。近見反応の生理から病態と治療を導く考え方は、視機能の感受性期にある小児の斜視診療を理解するうえで基盤となります。
解答・解説
正解はcです
調節性内斜視は、遠視が原因で生じる内斜視である。発症は1〜3歳ごろの幼児期に多い。
発生の仕組み
遠視の眼は、遠くを見るときも近くを見るときも網膜より後方にピントが合ってしまうため、はっきり見ようとすると常に強い調節(毛様体筋を収縮させて水晶体を厚くすること)を行う必要がある。調節・輻湊(両眼を内側に寄せる運動)・縮瞳の三つは連動しており(近見反応)、強い調節を行うとそれに見合った輻湊が同時に起こる。その結果、眼が内側に寄りすぎて内斜視となる。
治療の考え方
原因が「遠視を補うための過剰な調節」であるから、まずは屈折検査で遠視の程度を正確に評価し、遠視を完全に矯正する凸レンズの眼鏡を常時装用させる。幼児は調節力が強く、通常の検査では遠視が隠れてしまう(潜伏遠視)ため、アトロピンなどの調節麻痺薬を点眼して調節を止めた状態で屈折検査を行い(調節麻痺下屈折検査)、その値に基づいて眼鏡を処方する。眼鏡で調節の必要がなくなれば連動する輻湊も減り、眼位は改善する。 したがって、最初に行う治療は矯正眼鏡(遠視の完全矯正眼鏡)の装用である。
選択肢考察
- ×a. 片眼の遮蔽
最初に行う治療ではない。片眼の遮蔽(健眼遮閉、アイパッチ)は、弱視の治療で用いる方法である。視力の良い方の眼を覆い、弱視眼を強制的に使わせて視機能の発達を促す。調節性内斜視に斜視弱視や屈折異常弱視が合併している場合には、眼鏡装用に加えて行うことがあるが、内斜視の原因である遠視そのものは改善しないため、第一選択にはならない。
- ×b. 縮瞳薬の点眼
最初に行う治療ではない。縮瞳薬(ピロカルピンなど)は急性閉塞隅角緑内障発作などで用いられる薬剤である。かつて海外ではコリンエステラーゼ阻害型の縮瞳薬が調節性内斜視の補助的治療に用いられたことがあるが、副作用や効果の点から現在一般的ではなく、本症の標準的な初期治療ではない。
- ○c. 矯正眼鏡の装用
正しい。調節性内斜視の原因は遠視であり、遠視を凸レンズで完全矯正すると過剰な調節が不要になり、それに伴う過剰な輻湊も解消されて眼位が改善する。眼鏡のみで眼位がほぼ正常化するもの(屈折性調節性内斜視)が典型であり、これが治療の基本となる。眼鏡は調節麻痺下屈折検査の結果に基づいて処方し、終日装用させる。眼位の改善だけでなく、両眼視機能の獲得や、遠視・斜視による弱視の予防・治療にもつながる。近見時に内斜視が強く残るタイプ(非屈折性調節性内斜視、AC/A比が高いもの)では、二重焦点眼鏡(下方に近用の加入度数を入れた眼鏡)を用いることもある。
- ×d. 外直筋短縮手術
最初に行う治療ではない。外直筋短縮術は内直筋後転術と組み合わせて内斜視の手術に用いられる術式である。しかし、調節性内斜視は遠視矯正で眼位が改善するため、純粋な(完全)調節性内斜視は手術の適応にならない。眼鏡で矯正されている眼位に対して手術を行うと、眼鏡装用時に外斜視をきたすおそれがある。眼鏡を十分に装用しても内斜視が残る部分調節性内斜視では、残った非調節性の斜視角に対して手術を検討することがあるが、それも眼鏡治療の後である。
- ×e. プリズム眼鏡の装用
最初に行う治療ではない。プリズム眼鏡は光の進む方向を曲げて、眼位のずれによる像のずれを補正するもので、小角度の斜視による複視の軽減や、斜位による眼精疲労の軽減などに用いられる。調節性内斜視では原因である遠視の矯正が優先され、プリズムは眼鏡装用後に小角度の内斜視が残る場合などに補助的に検討される程度であり、初期治療として用いるものではない。
内斜視の主な分類
・乳児内斜視:生後6か月以内に発症し、斜視角が大きい。遠視との関連は乏しく、治療は手術が中心となる。 ・調節性内斜視:1〜3歳ごろ発症。遠視による過剰な調節性輻湊が原因。 屈折性調節性内斜視:遠視の完全矯正で遠見・近見とも眼位が改善する。AC/A比は正常。 非屈折性調節性内斜視:AC/A比(調節1Dあたりに生じる調節性輻湊量)が高く、近見時の内斜視が強い。二重焦点眼鏡を用いる。 部分調節性内斜視:眼鏡装用で斜視角は減るが内斜視が残る。残余斜視に対して手術を考慮する。 ・その他:外転神経麻痺による麻痺性内斜視、偽内斜視(内眼角贅皮で内斜視のように見えるが眼位は正常)など。
調節麻痺下屈折検査
小児は調節力が強く、遠視の一部が調節で代償されて検査上見えなくなる(潜伏遠視)。アトロピン硫酸塩やシクロペントラートを点眼して調節を麻痺させてから屈折検査を行い、遠視の全量を把握する。
小児の斜視治療で重要な点
視機能は乳幼児期に発達するため(感受性期)、この時期に斜視や屈折異常を放置すると弱視や両眼視機能の障害を残す。早期発見と、眼鏡・遮閉などによる適切な時期の治療が重要である。
POINT
・調節性内斜視の原因は遠視であり、過剰な調節に伴う過剰な輻湊で内斜視となる。 ・治療の第一選択は調節麻痺下屈折検査に基づく遠視の完全矯正眼鏡の常時装用。 ・完全な調節性内斜視は手術の適応とならない(部分調節性の残余斜視は手術を考慮)。 ・高AC/A比で近見時の内斜視が強いタイプには二重焦点眼鏡。 ・弱視を合併すれば健眼遮閉を併用する。
