朝は正常、昼に跳ね上がる―ステロイド糖尿病は「狙う時間」で見つける
第110回医師国家試験 I問題 第13問
国試問題にチャレンジ
入院中の患者に対して副腎皮質ステロイド療法(プレドニゾロン25 mg/日を4~6週間使用)を行うことになった。 ステロイド糖尿病の発症を効率的に発見するため繰り返し行うべき検査はどれか。
- a.HbA1c
- b.早朝空腹時血糖
- c.早朝空腹時尿糖
- d.昼食後2時間血糖
- e.75 g経口ブドウ糖負荷試験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
糖質コルチコイドは糖新生の促進、末梢のインスリン抵抗性増大、インスリン分泌抑制により血糖を上げ、特に食後高血糖が目立ちます。朝に投与したプレドニゾロンの作用は昼から夕方に強く、夜には弱まるため、ステロイド糖尿病では早朝空腹時血糖が正常のことが多く、昼食後2時間血糖を繰り返し測定するのが効率的な発見法です。HbA1cは1〜2か月の平均を反映するため急な変化の検出が遅れ、早朝の尿糖は感度が低く、75 g OGTTは負担が大きく繰り返しの監視には向きません。治療はインスリンが基本で、作用時間帯に合わせて朝・昼を中心に調整し、ステロイド減量時には低血糖を避けるためインスリンも減らします。薬の作用の時間的パターンから検査のタイミングを考える視点は、薬剤性の合併症を見逃さない臨床判断の基本です。
解答・解説
正解はdです
副腎皮質ステロイド(糖質コルチコイド)による高血糖、いわゆるステロイド糖尿病の特徴的な血糖変動パターンを理解しているかを問う問題である。
ステロイドが血糖を上げる機序
糖質コルチコイドはインスリン拮抗ホルモンの一つであり、①肝臓での糖新生の促進、②骨格筋・脂肪組織でのインスリン抵抗性の増大(ブドウ糖取り込みの低下)、③膵β細胞からのインスリン分泌の抑制、などにより血糖を上昇させる。中でも末梢のインスリン抵抗性の影響が大きく、糖負荷がかかる食後に血糖が上がりやすい。
血糖変動の時間的パターン
プレドニゾロンは中間型のステロイドで、通常は朝に(あるいは朝に多めに)投与される。血糖上昇作用は内服後数時間してから強くなり、昼から夕方にかけて最大となる一方、夜間には作用が弱まるため、翌朝の早朝空腹時血糖は正常範囲にとどまることが多い。すなわちステロイド糖尿病は「空腹時血糖は正常〜軽度上昇、昼食後から夕方の血糖が著明に上昇」という形をとりやすい。
設問の考え方
発症を効率よく見つけるには、血糖が最も上がりやすい時間帯をねらって、簡便に繰り返し測定できる検査を選べばよい。条件を満たすのは昼食後2時間血糖である。早朝空腹時の検査では高血糖を見逃しやすく、HbA1c は短期間の変化に追随できず、75 g OGTT は負担が大きく繰り返しには向かない。
選択肢考察
- ×a. HbA1c
HbA1c(ヘモグロビンA1c)は、赤血球中のヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合で、赤血球寿命(約120日)を反映して過去1〜2か月の平均血糖を示す。本症例のように投与開始から4〜6週間で生じる急な血糖上昇は、HbA1c に十分反映されるまで時間がかかり、早期発見には向かない。また平均値の指標であるため、日中の一時的な食後高血糖は過小評価されやすい。
- ×b. 早朝空腹時血糖
朝に投与したプレドニゾロンの血糖上昇作用は夜間には減弱するため、早朝空腹時血糖は正常範囲にとどまることが多い。ステロイド糖尿病の主体は日中の食後高血糖であり、早朝空腹時血糖だけを繰り返し測定しても発症を見逃すおそれがある。
- ×c. 早朝空腹時尿糖
尿糖は、血糖値が腎臓での糖再吸収能の限界(腎糖排泄閾値、おおむね160〜180 mg/dL)を超えたときに陽性となる。早朝空腹時は前述のとおり血糖が上がりにくい時間帯であり、尿糖も陰性となることが多い。さらに尿糖は血糖を間接的・定性的に反映するにすぎず、腎閾値の個人差の影響も受けるため、発症の検出には不十分である。
- ○d. 昼食後2時間血糖
朝に投与したプレドニゾロンの作用は昼から夕方にかけて強く現れ、そこにインスリン抵抗性の増大による食後の血糖上昇が重なるため、昼食後は1日のうちで血糖が最も高くなりやすい時間帯である。昼食後2時間の血糖は採血1回(簡易血糖測定器も可)で評価でき、入院中であれば負担なく繰り返し行える。ステロイド糖尿病を効率よく検出する検査として最も適切である。
- ×e. 75 g経口ブドウ糖負荷試験
75 g OGTT(経口ブドウ糖負荷試験)は、空腹時と負荷後の血糖を測定して耐糖能を評価する検査で、食後高血糖型の耐糖能異常も検出できるため、診断的価値そのものはある。しかし10時間以上の絶食が必要で、2時間にわたり複数回採血するなど患者の負担が大きい。さらに早朝に行う検査であり、ステロイドの作用が最も強い昼以降の血糖を反映しにくい。治療期間中に繰り返し行う監視用の検査としては不適当である。
ステロイド糖尿病(ステロイド誘発性高血糖)
・糖質コルチコイドの投与により生じる二次性の糖尿病で、薬剤性糖尿病の中で最も頻度が高い。 ・危険因子:高用量・長期投与、高齢、肥満、糖尿病の家族歴、もともとの耐糖能異常など。 ・特徴:空腹時血糖は上昇しにくく、昼食後〜夕方の高血糖が目立つ。ステロイドの減量・中止により改善することが多い。
モニタリングと治療
・ステロイド投与中は、昼食前・夕食前や昼食後の血糖を重点的に確認する。 ・治療はインスリンが基本となる。朝1回投与のプレドニゾロンでは、昼〜夕方の血糖上昇に合わせて朝・昼の追加インスリンを中心に調整したり、朝に中間型インスリンを用いたりする。ステロイド減量時には低血糖を避けるため、インスリンも速やかに減量する。
糖尿病の診断に用いる血糖値の基準(参考)
・空腹時血糖 126 mg/dL 以上、75 g OGTT 2時間値 200 mg/dL 以上、随時血糖 200 mg/dL 以上、HbA1c 6.5%以上のいずれかで「糖尿病型」と判定する。
ステロイドの主な副作用(整理)
高血糖・糖尿病、感染症、骨粗鬆症、消化性潰瘍、精神症状、満月様顔貌・中心性肥満、高血圧、脂質異常症、白内障・緑内障、筋力低下(ステロイドミオパチー)、副腎不全(急な中止時)など。
POINT
・ステロイド糖尿病は食後高血糖が主体で、早朝空腹時血糖は正常のことが多い。 ・朝投与のプレドニゾロンでは、昼〜夕方に血糖が最も上がる → 昼食後2時間血糖で監視する。 ・HbA1c は1〜2か月の平均を反映するため、急な変化の検出には遅れる。 ・75 g OGTT は負担が大きく、繰り返しの監視には向かない。
