StudyMed医師国家試験

噴門の静脈瘤はどこから来てどこへ流れるか―血行路で選ぶ胃静脈瘤治療

第110回医師国家試験 I問題 第12問

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第110回 I問題 第12問

胃噴門周囲の静脈瘤〈Lg-c〉の治療法はどれか。

  1. a.肝動脈塞栓術
  2. b.内視鏡的粘膜切除術
  3. c.内視鏡的静脈瘤結紮術
  4. d.内視鏡的静脈瘤硬化療法
  5. e.バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術〈BRTO〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は胃静脈瘤の治療法を選ぶ問題だ。ポイントは「静脈瘤がどこにあるか」ではなく、「その静脈瘤にどこから血液が入り、どこへ抜けていくか」という血行動態にある。まずLg-cという分類記号が何を意味するか、覚えているかな。
医学生医学生
cはcardia、噴門の静脈瘤ですよね。fが穹窿部だったと思います。
ドクタードクター
その通り。門脈圧亢進症取扱い規約では、噴門輪に近接するものをLg-c、噴門から穹窿部に連なるものをLg-cf、噴門から離れて穹窿部に孤立するものをLg-fと分ける。そしてLg-cの多くは食道静脈瘤と連続しているんだ。
医学生医学生
食道静脈瘤とつながっているということは、供血路も同じなんでしょうか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。食道静脈瘤とLg-cは、主に左胃静脈、いわゆる胃冠状静脈から血液を受けて、噴門部を経て食道へ上行し、奇静脈から上大静脈へ流れる。つまり両者はひとつながりの血行路なんだ。一方、孤立性の穹窿部静脈瘤は後胃静脈や短胃静脈から供血され、胃腎短絡を通って左腎静脈へ抜けることが多い。
医学生医学生
解剖の講義で門脈と大静脈の側副路を覚えさせられましたが、ここで効いてくるんですね。
ドクタードクター
まさに基礎が臨床に直結する場面だ。では、Lg-cは食道静脈瘤と同じ血行路に属するのだから、治療はどう考える?
医学生医学生
食道静脈瘤に準じた内視鏡治療ですね。消化器内科の実習ではEVLをよく見ました。結紮術が正解かと思ったんですが……。
ドクタードクター
そこが迷いどころだね。内視鏡的静脈瘤結紮術は、静脈瘤を吸引してゴムバンドで縛る方法で、簡便・安全で緊急止血にも強い。ただ、縛れるのは粘膜面に見えている静脈瘤そのものだけで、供血路を閉塞させる効果は乏しい。胃の静脈瘤は径が大きく範囲も広いことが多く、胃壁も厚いので十分に吸引・結紮しにくいんだ。
医学生医学生
それに対して硬化療法は、供血路まで処理できるということですか。
ドクタードクター
そう。内視鏡的静脈瘤硬化療法は、静脈瘤を穿刺して硬化剤を注入し血栓化させる。エタノールアミンオレイトを静脈瘤内に入れると、硬化剤が供血路である左胃静脈の方向にも流れて、供血路ごと閉塞できる。だから食道静脈瘤と連続するLg-cでは、硬化療法が標準的な選択になるんだ。実臨床ではEVLが選ばれる場面もあるけれど、根本的な血行路の処理という点で硬化療法が優る、と理解しておこう。
医学生医学生
BRTOも静脈瘤の治療ですよね。こちらはなぜ違うんですか。
ドクタードクター
BRTOはバルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術で、大腿静脈から左腎静脈を経て胃腎短絡にカテーテルを入れ、バルーンで短絡を塞いだうえで硬化剤を逆行性に注入する。つまり胃腎短絡という「出口」があることが前提だ。だから胃腎短絡を排血路とする穹窿部静脈瘤、Lg-fやLg-cfが適応になる。Lg-cは食道側へ流出するので、一般的な適応ではない。
医学生医学生
入口と出口のどちらから攻めるか、という違いなんですね。残りの肝動脈塞栓術と粘膜切除術は、そもそも対象疾患が違う気がします。
ドクタードクター
その感覚で正しい。肝動脈塞栓術は肝動脈から栄養を受ける肝細胞癌の治療で、門脈系の静脈血がうっ滞してできる静脈瘤には効かない。内視鏡的粘膜切除術は早期胃癌や大腸腺腫などの粘膜病変を切除する方法で、粘膜下の拡張静脈を切ったら大出血してしまう。
医学生医学生
整理すると、Lg-cは左胃静脈から食道へ流れるので硬化療法、Lg-fは胃腎短絡があるのでBRTO、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に発展知識を押さえよう。孤立性胃静脈瘤からの出血では、瞬時に固まる組織接着剤のシアノアクリレートを内視鏡的に注入して止血する。BRTOで短絡路を閉じると門脈圧が上がるため、術後に食道静脈瘤や腹水が悪化することがある点にも注意が必要だ。また硬化剤のエタノールアミンオレイトは溶血や腎障害を起こしうるので、肝予備能や腎機能が悪い患者では慎重に使う。
医学生医学生
出血の現場ではS-Bチューブで圧迫止血することもあると、救急の実習で聞きました。
ドクタードクター
そうだね、内視鏡治療までの一時止血として使われる。ほかにも門脈圧を下げるTIPSや部分的脾動脈塞栓術、外科的なHassab手術など選択肢は多いけれど、どれも「どの血行路を断つか」という視点で整理すると覚えやすいよ。

まとめ

胃静脈瘤の治療は、占居部位ごとの血行動態で選ぶのが基本です。噴門部の静脈瘤(Lg-c)は左胃静脈から供血され食道静脈瘤と連続するため、食道静脈瘤に準じて内視鏡的静脈瘤硬化療法を行い、硬化剤で静脈瘤から供血路まで血栓化させます。一方、孤立性の穹窿部静脈瘤(Lg-f)は後胃・短胃静脈から供血され胃腎短絡へ流出するため、短絡路からアプローチするBRTOの適応となり、出血時はシアノアクリレート注入で止血します。結紮術は簡便ですが供血路を処理できず、肝動脈塞栓術は肝細胞癌、粘膜切除術は早期癌の治療であり静脈瘤には用いません。門脈系の側副血行路という解剖の知識を治療選択に結びつけることが、門脈圧亢進症の診療を理解する土台になります。

解答・解説

正解はdです

胃静脈瘤の部位分類と、部位ごとの血行動態の違いから治療法を選ぶ問題である。

Lg-cとは

門脈圧亢進症取扱い規約では、胃静脈瘤の占居部位を Lg-c(噴門輪に近接する静脈瘤)、Lg-cf(噴門部から穹窿部に連なる静脈瘤)、Lg-f(噴門から離れた穹窿部に孤立して存在する静脈瘤)、Lg-b(胃体部)、Lg-a(前庭部)に分ける。Lg-c は多くの場合、食道静脈瘤と連続している。

血行動態の違い

・Lg-c:主な供血路は左胃静脈(胃冠状静脈)で、血液は噴門部を経て食道静脈瘤へ上行する。つまり食道静脈瘤と一体の血行路をもつ。 ・Lg-f(孤立性胃穹窿部静脈瘤):主に後胃静脈・短胃静脈から供血され、胃腎短絡(胃静脈瘤から左腎静脈へ流れる短絡路)を排血路とすることが多い。血流量が多く、瘤径も大きい。

治療法の考え方

Lg-c は食道静脈瘤と同じ血行路に属するため、食道静脈瘤に準じた内視鏡治療の対象となる。中でも内視鏡的静脈瘤硬化療法(EIS:endoscopic injection sclerotherapy)は、硬化剤を静脈瘤内に注入し、静脈瘤のみならず供血路(左胃静脈側)まで血栓化させることができるため、食道静脈瘤と連続する噴門部静脈瘤の治療として標準的である。一方、BRTO は胃腎短絡を経由してアプローチする方法であり、胃腎短絡をもつ穹窿部静脈瘤(Lg-f、Lg-cf)が適応となる。したがって Lg-c に対する治療法としては内視鏡的静脈瘤硬化療法を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  肝動脈塞栓術

    肝動脈塞栓術(TAE:transcatheter arterial embolization、化学療法薬を併用すれば TACE)は、肝動脈から主に栄養を受ける肝細胞癌に対し、栄養動脈を塞栓して腫瘍を壊死させる治療である。肝切除が困難な症例や、破裂した肝細胞癌の止血などに用いられる。静脈瘤は門脈系の静脈血流がうっ滞して生じる病変であり、肝動脈を塞栓しても静脈瘤の血流は減らないため、治療にはならない。

  2. ×b.  内視鏡的粘膜切除術

    内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)は、リンパ節転移のリスクが低い早期胃癌・大腸腺腫などの粘膜病変を、スネアで切除する治療である。静脈瘤は粘膜下層を走る拡張した静脈であり、切除すれば大出血を招く危険があるうえ、広範な静脈瘤を切除で処理することはできない。静脈瘤の治療法ではない。

  3. ×c.  内視鏡的静脈瘤結紮術

    内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL:endoscopic variceal ligation)は、静脈瘤を吸引してゴムバンド(Oリング)で縛り、血流を遮断して壊死・脱落させる方法で、食道静脈瘤に対する代表的な治療である。手技が簡便で安全性が高く、出血時の緊急止血にも用いられる。しかし、結紮するのは粘膜面に見える静脈瘤そのものだけで、供血路を閉塞させる効果は乏しい。胃静脈瘤は瘤径が大きく範囲も広いことが多く、胃壁も厚いため十分に吸引・結紮しにくい。噴門部静脈瘤の標準治療としては、供血路まで塞栓できる硬化療法が優先される。

  4. ○d.  内視鏡的静脈瘤硬化療法

    内視鏡下で静脈瘤を穿刺し、硬化剤を注入して血栓性に閉塞させる治療である。硬化剤には、静脈瘤内に注入するエタノールアミンオレイト(EO)や、静脈瘤周囲に注入するポリドカノール(AS)があり、出血中や血流量の多い胃静脈瘤では瞬時に重合して固まる組織接着剤のシアノアクリレートが用いられる。EO を静脈瘤内に注入すると、硬化剤は静脈瘤を経て供血路である左胃静脈の方向へも流れ、供血路ごと閉塞させることができる。Lg-c は左胃静脈から供血され食道静脈瘤と連続しているため、この方法で食道静脈瘤とともに治療できる。したがって Lg-c の治療法として適切である。

  5. ×e.  バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術〈BRTO〉

    BRTO(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration)は、大腿静脈などから左腎静脈を経て胃腎短絡にカテーテルを進め、バルーンで短絡路を閉塞させて血流を止めた状態で、硬化剤(EO など)を逆行性に注入し静脈瘤を塞栓する血管内治療である。胃腎短絡を排血路とする穹窿部静脈瘤(Lg-f や Lg-cf)が適応となる。Lg-c は主に左胃静脈から食道側へ流出する血行路をもち、胃腎短絡を伴わないことが多いため、BRTO の一般的な適応ではない。

胃静脈瘤の部位分類(門脈圧亢進症取扱い規約)

・Lg-c:噴門輪に近接する静脈瘤。多くは食道静脈瘤と連続する。 ・Lg-cf:噴門部から穹窿部にかけて連なる静脈瘤。 ・Lg-f:噴門から離れて穹窿部に孤立して存在する静脈瘤。 ・Lg-b:胃体部の静脈瘤。 ・Lg-a:胃前庭部の静脈瘤。

主な血行路

・食道静脈瘤・Lg-c:門脈 → 左胃静脈 → 噴門部 → 食道静脈瘤 → 奇静脈 → 上大静脈。 ・Lg-f(孤立性胃静脈瘤):門脈・脾静脈 → 後胃静脈・短胃静脈 → 胃穹窿部 → 胃腎短絡 → 左腎静脈 → 下大静脈。

静脈瘤治療法の整理

・EVL:手技が簡便で、緊急止血に適する。供血路は処理できないため再発しやすい。 ・EIS:静脈瘤と供血路を血栓化でき、再発が少ない。手技がやや煩雑で、肝予備能が著しく低い例(高度黄疸など)や腎機能障害では慎重に用いる。EO は溶血・腎障害の副作用に注意が必要である。 ・シアノアクリレート注入:血流が多い胃静脈瘤(特に出血例)の内視鏡的止血に用いる。 ・BRTO:胃腎短絡を有する孤立性胃静脈瘤の待機的・予防的治療に用いる。短絡路が閉塞するため、門脈圧が上昇し、食道静脈瘤や腹水が悪化することがある。 ・その他:出血時の一時止血には S-B チューブ(Sengstaken-Blakemore チューブ)による圧迫止血、門脈圧を下げる治療として TIPS(経頸静脈的肝内門脈大循環短絡術)、部分的脾動脈塞栓術(PSE)、外科的には Hassab 手術(胃上部血行郭清+脾摘)がある。

POINT

・Lg-c(噴門部静脈瘤)は左胃静脈から供血され、食道静脈瘤と連続する → 食道静脈瘤に準じて内視鏡治療、特に硬化療法(EIS)を行う。 ・Lg-f(孤立性胃穹窿部静脈瘤)は後胃・短胃静脈から供血され、胃腎短絡へ流出する → BRTO の適応。出血時はシアノアクリレートによる内視鏡的止血。 ・EVL は食道静脈瘤の代表的治療だが、胃静脈瘤(大きく広範)には不向きである。 ・肝動脈塞栓術は肝細胞癌、EMR は早期癌の治療である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。