StudyMed医師国家試験

食べても殺せない好中球―アスペルギルスが狙う慢性肉芽腫症

第110回医師国家試験 I問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第110回 I問題 第1問

アスペルギルス症が最も合併しやすいのはどれか。

  1. a.無ガンマグロブリン血症
  2. b.Wiskott-Aldrich症候群
  3. c.毛細血管拡張性失調症
  4. d.DiGeorge症候群
  5. e.慢性肉芽腫症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、先天性の免疫不全症と、かかりやすい病原体の対応を問う問題だ。免疫のどの部分が壊れているかで、狙ってくる病原体は変わる。アスペルギルスという真菌を、体のどの細胞が処理しているかを考えるのが出発点だよ。
医学生医学生
真菌感染というと、細胞性免疫、つまりT細胞の異常で起こりやすいイメージがあります。
ドクタードクター
カンジダの皮膚粘膜感染やニューモシスチスはたしかにT細胞不全で目立つ。でもアスペルギルスは少し違うんだ。吸い込んだ胞子はまず肺胞マクロファージが処理し、発芽した菌糸は主に好中球がやっつける。だから好中球の数が減ったり、機能が落ちたりするとアスペルギルス症が起こりやすい。
医学生医学生
血液内科の実習で、抗がん薬治療後の好中球減少期にアスペルギルス肺炎を起こした患者さんがいました。そういうことなんですね。
ドクタードクター
まさにその典型だね。では選択肢の中で、好中球などの食細胞そのものの殺菌機能が障害される病気はどれかな。
医学生医学生
慢性肉芽腫症です。NADPHオキシダーゼの異常で活性酸素がつくれない病気でしたよね。
ドクタードクター
正解。食細胞は微生物を貪食したあと、スーパーオキシドや過酸化水素といった活性酸素で殺菌する。慢性肉芽腫症ではそれができないから、食べることはできても殺せない。結果として黄色ブドウ球菌、セラチア、ノカルジアなどの細菌や、アスペルギルス、カンジダなどの真菌による肺炎や膿瘍を繰り返し、病巣に肉芽腫ができる。アスペルギルス症は本症で最も多い真菌感染症で、主要な死因の一つでもあるんだ。
医学生医学生
ほかの選択肢も整理したいです。無ガンマグロブリン血症は抗体が作れない病気なので、細菌感染が中心でしょうか。
ドクタードクター
その通り。X連鎖のBruton型ではBTKの異常でB細胞が成熟できず、母体由来のIgGが減る生後半年ごろから、肺炎球菌やインフルエンザ菌など莢膜をもつ細菌による中耳炎や肺炎を繰り返す。エンテロウイルス感染が重くなりやすいことも知られているね。T細胞と好中球は保たれているから、アスペルギルスが目立つ病気ではない。
医学生医学生
Wiskott-Aldrich症候群は、湿疹、血小板減少、易感染性の三徴でしたね。CBTの過去問で何度も見ました。
ドクタードクター
よく覚えているね。血小板が小さいことも特徴だ。T細胞とB細胞の両方に機能異常がある複合免疫不全で、莢膜をもつ細菌による感染が多く、ヘルペスウイルスなども問題になる。IgM低下、IgAとIgE上昇、自己免疫疾患や悪性リンパ腫の合併もセットで覚えておこう。
医学生医学生
毛細血管拡張性失調症は、小脳失調と眼球結膜の毛細血管拡張が特徴で、神経内科の講義でも出てきました。
ドクタードクター
ATM遺伝子の異常でDNA修復が障害される病気だね。IgAやIgG2の低下で細菌性の気道感染を繰り返すけれど、日和見感染は多くない。むしろAFP高値、放射線への高感受性、リンパ腫や白血病の合併が重要なポイントだ。
医学生医学生
DiGeorge症候群はT細胞が減るので、真菌も危ないのではと少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。22q11.2欠失による胸腺低形成で、低カルシウム血症や円錐動脈幹異常の心疾患を伴う。ただ多くは胸腺が一部残る部分型で、重い日和見感染はそれほど多くない。完全型ではウイルスなどの重症感染が問題になるけれど、好中球の機能は保たれているから、アスペルギルス症が最も典型的とはいえないんだ。
医学生医学生
抗体なら莢膜細菌、T細胞ならウイルスやニューモシスチス、食細胞ならブドウ球菌とアスペルギルス、という対応で覚えればいいんですね。
ドクタードクター
その整理で十分戦える。補体の後期成分欠損ならナイセリア、というのも加えておこう。発展知識として、慢性肉芽腫症は約3分の2がgp91phoxの異常によるX連鎖性で、男児に多い。診断は好中球の活性酸素産生能を調べるDHR試験、古典的にはNBT還元試験を使う。
医学生医学生
カタラーゼ陽性菌に感染しやすい、という説明も習いました。
ドクタードクター
古典的には、カタラーゼ陽性菌は自分の過酸化水素を分解してしまうので食細胞に利用されず殺されにくい、と説明される。現在ではそれだけで全てを説明できないとされているけれど、覚え方としては役に立つよ。治療はST合剤による抗菌薬予防、イトラコナゾールなどの抗真菌薬予防、インターフェロンγで、根治には造血幹細胞移植を考える。炎症性腸疾患に似た腸炎を合併することもあるから、小児の難治性腸炎でも頭の片隅に置いておきたいね。

まとめ

アスペルギルスに対する主な防御は肺胞マクロファージと好中球による自然免疫であり、アスペルギルス症は好中球の減少や機能障害で起こりやすくなります。慢性肉芽腫症はNADPHオキシダーゼの異常で食細胞が活性酸素をつくれず、黄色ブドウ球菌などの細菌やアスペルギルスなどの真菌による感染と肉芽腫形成を繰り返す疾患で、アスペルギルス症は最も多い真菌感染症です。無ガンマグロブリン血症は莢膜をもつ細菌、Wiskott-Aldrich症候群は湿疹・小型血小板の減少・易感染性、毛細血管拡張性失調症は運動失調とAFP高値、DiGeorge症候群は胸腺低形成と低Ca血症・心奇形が特徴です。慢性肉芽腫症は多くがX連鎖性で男児に多く、DHR試験などで診断し、抗菌薬・抗真菌薬予防やインターフェロンγ、造血幹細胞移植で治療します。「どの免疫が壊れるとどの病原体に弱くなるか」という対応表は、先天性免疫不全だけでなく、化学療法中や免疫抑制療法中の感染症診療にもそのまま生きる考え方です。

解答・解説

正解はeです

問われているテーマ

原発性(先天性)免疫不全症では、障害される免疫の部分によってかかりやすい病原体が異なる。本問は、アスペルギルス症(Aspergillus属の糸状菌による感染症)がどの免疫異常で起こりやすいかを問うている。

考え方

免疫不全と易感染性の対応は、おおまかに次のように整理できる。 ・抗体(液性免疫、B細胞)の異常:肺炎球菌やインフルエンザ菌など莢膜をもつ細菌による中耳炎・副鼻腔炎・肺炎を繰り返す。 ・T細胞(細胞性免疫)の異常:ウイルス、ニューモシスチス、皮膚粘膜カンジダ症、抗酸菌などの細胞内寄生体による感染。 ・好中球など食細胞の異常:黄色ブドウ球菌などの細菌や、アスペルギルスなどの糸状菌による深部感染・膿瘍。 アスペルギルスは環境中に広く存在し、吸い込んだ胞子は主に肺胞マクロファージが、発芽した菌糸は主に好中球が処理する。したがってアスペルギルス症は、好中球の数が減る状態(抗がん薬治療後の好中球減少など)や、好中球の殺菌機能が障害される病態で起こりやすい。選択肢の中で食細胞の殺菌機能そのものが障害される疾患は慢性肉芽腫症であり、これが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  無ガンマグロブリン血症

    代表的なX連鎖無ガンマグロブリン血症(Bruton型)は、BTK(Bruton型チロシンキナーゼ)遺伝子の異常によりB細胞が成熟できず、すべてのクラスの免疫グロブリンが著しく低下する疾患である。母体由来IgGが減る生後6か月以降に、肺炎球菌・インフルエンザ菌など莢膜をもつ細菌による反復性気道感染を起こすのが典型である。エンテロウイルス感染が重症化しやすいことも知られる。T細胞と好中球の機能は保たれるため、アスペルギルス症を起こしやすい疾患ではない。

  2. ×b.  Wiskott-Aldrich症候群

    X染色体上のWAS遺伝子(WASPをコードする)の異常による男児の疾患で、湿疹、血小板減少(血小板が小さいのが特徴)、易感染性の三徴を示す。T細胞・B細胞の両方に機能異常がみられる複合免疫不全で、莢膜をもつ細菌による感染が多く、ヘルペスウイルスやニューモシスチスなどの感染も起こりうる。血清IgMの低下とIgA・IgEの上昇、自己免疫疾患や悪性リンパ腫の合併も特徴である。重症度には幅があるが、アスペルギルス症が最も特徴的な疾患ではない。

  3. ×c.  毛細血管拡張性失調症

    ATM遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患で、DNA損傷修復の障害を基盤とする。幼児期からの小脳性運動失調、眼球結膜などの毛細血管拡張、免疫不全を示す。免疫面ではIgAやIgG2の低下、T細胞の減少がみられ、副鼻腔炎・肺炎など細菌による気道感染を繰り返しやすいが、いわゆる日和見感染は多くない。血清AFP高値、放射線への高感受性、悪性腫瘍(とくにリンパ腫・白血病)の合併が重要な特徴である。アスペルギルス症を最も起こしやすい疾患ではない。

  4. ×d.  DiGeorge症候群

    多くは染色体22q11.2の欠失による疾患で、第3・第4咽頭嚢の発生異常から胸腺低形成(T細胞減少)、副甲状腺低形成(低カルシウム血症、新生児テタニー)、円錐動脈幹異常を中心とする先天性心疾患(Fallot四徴症、総動脈幹症、大動脈弓離断など)、特徴的顔貌を示す。多くの例では胸腺が部分的に残る部分型で、T細胞減少は軽度〜中等度にとどまり、重い日和見感染は多くない。胸腺がほぼ欠損する完全型ではウイルスなどによる重症感染を起こすが、好中球機能は保たれており、アスペルギルス症が最も典型的な感染症というわけではない。

  5. ○e.  慢性肉芽腫症

    食細胞(好中球、単球・マクロファージ)のNADPHオキシダーゼの構成分子の異常により、貪食した微生物を殺すための活性酸素(スーパーオキシドや過酸化水素など)をつくれない疾患である。約2/3を占める病型はgp91phox(CYBB遺伝子)の異常によるX連鎖性で、男児に多い。貪食はできても殺菌できないため、黄色ブドウ球菌、セラチア、Burkholderia cepacia、ノカルジアなどの細菌やアスペルギルス、カンジダなどの真菌による肺炎、リンパ節炎、肝膿瘍、骨髄炎を繰り返し、病巣には肉芽腫が形成される。なかでもアスペルギルス症は本症で最も頻度の高い真菌感染症であり、主要な死因の一つである。

慢性肉芽腫症(CGD)の要点

・病態:NADPHオキシダーゼ(gp91phox、p22phox、p47phox、p67phox、p40phoxなどからなる酵素)の欠損により、食細胞の活性酸素産生が障害される。 ・遺伝形式:gp91phox欠損はX連鎖性(最多)、その他は常染色体劣性。 ・起炎菌:カタラーゼ陽性菌(黄色ブドウ球菌、セラチア、Burkholderia cepacia、ノカルジアなど)と真菌(アスペルギルス、カンジダ)。古典的には「カタラーゼ陰性菌(レンサ球菌など)は自ら産生する過酸化水素を食細胞が殺菌に利用できるが、カタラーゼ陽性菌は自らの過酸化水素を分解してしまうため殺菌されない」と説明される。現在ではこれだけで病原体の偏りを完全には説明できないとされるが、覚え方としては有用である。 ・症状:乳幼児期からの肺炎、化膿性リンパ節炎、皮膚膿瘍、肝膿瘍、骨髄炎。過剰な炎症による肉芽腫が消化管や尿路を閉塞させることもあり、炎症性腸疾患に似た腸炎を合併することもある。 ・診断:好中球の活性酸素産生能の測定(ジヒドロローダミン〈DHR〉試験によるフローサイトメトリー、古典的にはニトロブルーテトラゾリウム〈NBT〉還元試験)、遺伝子検査。 ・治療:ST合剤による抗菌薬予防、イトラコナゾールなどによる抗真菌薬予防、インターフェロンγ投与。根治療法は造血幹細胞移植。

免疫不全の型と起こりやすい感染症の整理

・抗体産生不全(X連鎖無ガンマグロブリン血症など):莢膜をもつ細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌)、エンテロウイルス。 ・T細胞不全(DiGeorge症候群の完全型、重症複合免疫不全症など):ウイルス、ニューモシスチス、カンジダ、抗酸菌。 ・食細胞機能異常(慢性肉芽腫症など):黄色ブドウ球菌などカタラーゼ陽性菌、アスペルギルス。 ・好中球減少(化学療法後など):グラム陰性桿菌、アスペルギルス、カンジダ。 ・補体欠損:後期成分(C5〜C9)欠損ではナイセリア(髄膜炎菌、淋菌)。

POINT

・アスペルギルス症は好中球の減少や機能異常で起こりやすい。 ・慢性肉芽腫症はNADPHオキシダーゼ欠損で活性酸素をつくれず、カタラーゼ陽性菌(黄色ブドウ球菌など)と真菌(アスペルギルス)に繰り返し感染する。 ・慢性肉芽腫症は約2/3がX連鎖性(gp91phox異常)で男児に多い。診断はDHR試験・NBT試験。 ・無ガンマグロブリン血症=莢膜をもつ細菌、DiGeorge症候群=T細胞減少・低Ca血症・心奇形、Wiskott-Aldrich症候群=湿疹・小型血小板の減少・易感染性、毛細血管拡張性失調症=運動失調・毛細血管拡張・AFP高値。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。