食べても殺せない好中球―アスペルギルスが狙う慢性肉芽腫症
第110回医師国家試験 I問題 第1問
国試問題にチャレンジ
アスペルギルス症が最も合併しやすいのはどれか。
- a.無ガンマグロブリン血症
- b.Wiskott-Aldrich症候群
- c.毛細血管拡張性失調症
- d.DiGeorge症候群
- e.慢性肉芽腫症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
アスペルギルスに対する主な防御は肺胞マクロファージと好中球による自然免疫であり、アスペルギルス症は好中球の減少や機能障害で起こりやすくなります。慢性肉芽腫症はNADPHオキシダーゼの異常で食細胞が活性酸素をつくれず、黄色ブドウ球菌などの細菌やアスペルギルスなどの真菌による感染と肉芽腫形成を繰り返す疾患で、アスペルギルス症は最も多い真菌感染症です。無ガンマグロブリン血症は莢膜をもつ細菌、Wiskott-Aldrich症候群は湿疹・小型血小板の減少・易感染性、毛細血管拡張性失調症は運動失調とAFP高値、DiGeorge症候群は胸腺低形成と低Ca血症・心奇形が特徴です。慢性肉芽腫症は多くがX連鎖性で男児に多く、DHR試験などで診断し、抗菌薬・抗真菌薬予防やインターフェロンγ、造血幹細胞移植で治療します。「どの免疫が壊れるとどの病原体に弱くなるか」という対応表は、先天性免疫不全だけでなく、化学療法中や免疫抑制療法中の感染症診療にもそのまま生きる考え方です。
解答・解説
正解はeです
問われているテーマ
原発性(先天性)免疫不全症では、障害される免疫の部分によってかかりやすい病原体が異なる。本問は、アスペルギルス症(Aspergillus属の糸状菌による感染症)がどの免疫異常で起こりやすいかを問うている。
考え方
免疫不全と易感染性の対応は、おおまかに次のように整理できる。 ・抗体(液性免疫、B細胞)の異常:肺炎球菌やインフルエンザ菌など莢膜をもつ細菌による中耳炎・副鼻腔炎・肺炎を繰り返す。 ・T細胞(細胞性免疫)の異常:ウイルス、ニューモシスチス、皮膚粘膜カンジダ症、抗酸菌などの細胞内寄生体による感染。 ・好中球など食細胞の異常:黄色ブドウ球菌などの細菌や、アスペルギルスなどの糸状菌による深部感染・膿瘍。 アスペルギルスは環境中に広く存在し、吸い込んだ胞子は主に肺胞マクロファージが、発芽した菌糸は主に好中球が処理する。したがってアスペルギルス症は、好中球の数が減る状態(抗がん薬治療後の好中球減少など)や、好中球の殺菌機能が障害される病態で起こりやすい。選択肢の中で食細胞の殺菌機能そのものが障害される疾患は慢性肉芽腫症であり、これが正解となる。
選択肢考察
- ×a. 無ガンマグロブリン血症
代表的なX連鎖無ガンマグロブリン血症(Bruton型)は、BTK(Bruton型チロシンキナーゼ)遺伝子の異常によりB細胞が成熟できず、すべてのクラスの免疫グロブリンが著しく低下する疾患である。母体由来IgGが減る生後6か月以降に、肺炎球菌・インフルエンザ菌など莢膜をもつ細菌による反復性気道感染を起こすのが典型である。エンテロウイルス感染が重症化しやすいことも知られる。T細胞と好中球の機能は保たれるため、アスペルギルス症を起こしやすい疾患ではない。
- ×b. Wiskott-Aldrich症候群
X染色体上のWAS遺伝子(WASPをコードする)の異常による男児の疾患で、湿疹、血小板減少(血小板が小さいのが特徴)、易感染性の三徴を示す。T細胞・B細胞の両方に機能異常がみられる複合免疫不全で、莢膜をもつ細菌による感染が多く、ヘルペスウイルスやニューモシスチスなどの感染も起こりうる。血清IgMの低下とIgA・IgEの上昇、自己免疫疾患や悪性リンパ腫の合併も特徴である。重症度には幅があるが、アスペルギルス症が最も特徴的な疾患ではない。
- ×c. 毛細血管拡張性失調症
ATM遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患で、DNA損傷修復の障害を基盤とする。幼児期からの小脳性運動失調、眼球結膜などの毛細血管拡張、免疫不全を示す。免疫面ではIgAやIgG2の低下、T細胞の減少がみられ、副鼻腔炎・肺炎など細菌による気道感染を繰り返しやすいが、いわゆる日和見感染は多くない。血清AFP高値、放射線への高感受性、悪性腫瘍(とくにリンパ腫・白血病)の合併が重要な特徴である。アスペルギルス症を最も起こしやすい疾患ではない。
- ×d. DiGeorge症候群
多くは染色体22q11.2の欠失による疾患で、第3・第4咽頭嚢の発生異常から胸腺低形成(T細胞減少)、副甲状腺低形成(低カルシウム血症、新生児テタニー)、円錐動脈幹異常を中心とする先天性心疾患(Fallot四徴症、総動脈幹症、大動脈弓離断など)、特徴的顔貌を示す。多くの例では胸腺が部分的に残る部分型で、T細胞減少は軽度〜中等度にとどまり、重い日和見感染は多くない。胸腺がほぼ欠損する完全型ではウイルスなどによる重症感染を起こすが、好中球機能は保たれており、アスペルギルス症が最も典型的な感染症というわけではない。
- ○e. 慢性肉芽腫症
食細胞(好中球、単球・マクロファージ)のNADPHオキシダーゼの構成分子の異常により、貪食した微生物を殺すための活性酸素(スーパーオキシドや過酸化水素など)をつくれない疾患である。約2/3を占める病型はgp91phox(CYBB遺伝子)の異常によるX連鎖性で、男児に多い。貪食はできても殺菌できないため、黄色ブドウ球菌、セラチア、Burkholderia cepacia、ノカルジアなどの細菌やアスペルギルス、カンジダなどの真菌による肺炎、リンパ節炎、肝膿瘍、骨髄炎を繰り返し、病巣には肉芽腫が形成される。なかでもアスペルギルス症は本症で最も頻度の高い真菌感染症であり、主要な死因の一つである。
慢性肉芽腫症(CGD)の要点
・病態:NADPHオキシダーゼ(gp91phox、p22phox、p47phox、p67phox、p40phoxなどからなる酵素)の欠損により、食細胞の活性酸素産生が障害される。 ・遺伝形式:gp91phox欠損はX連鎖性(最多)、その他は常染色体劣性。 ・起炎菌:カタラーゼ陽性菌(黄色ブドウ球菌、セラチア、Burkholderia cepacia、ノカルジアなど)と真菌(アスペルギルス、カンジダ)。古典的には「カタラーゼ陰性菌(レンサ球菌など)は自ら産生する過酸化水素を食細胞が殺菌に利用できるが、カタラーゼ陽性菌は自らの過酸化水素を分解してしまうため殺菌されない」と説明される。現在ではこれだけで病原体の偏りを完全には説明できないとされるが、覚え方としては有用である。 ・症状:乳幼児期からの肺炎、化膿性リンパ節炎、皮膚膿瘍、肝膿瘍、骨髄炎。過剰な炎症による肉芽腫が消化管や尿路を閉塞させることもあり、炎症性腸疾患に似た腸炎を合併することもある。 ・診断:好中球の活性酸素産生能の測定(ジヒドロローダミン〈DHR〉試験によるフローサイトメトリー、古典的にはニトロブルーテトラゾリウム〈NBT〉還元試験)、遺伝子検査。 ・治療:ST合剤による抗菌薬予防、イトラコナゾールなどによる抗真菌薬予防、インターフェロンγ投与。根治療法は造血幹細胞移植。
免疫不全の型と起こりやすい感染症の整理
・抗体産生不全(X連鎖無ガンマグロブリン血症など):莢膜をもつ細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌)、エンテロウイルス。 ・T細胞不全(DiGeorge症候群の完全型、重症複合免疫不全症など):ウイルス、ニューモシスチス、カンジダ、抗酸菌。 ・食細胞機能異常(慢性肉芽腫症など):黄色ブドウ球菌などカタラーゼ陽性菌、アスペルギルス。 ・好中球減少(化学療法後など):グラム陰性桿菌、アスペルギルス、カンジダ。 ・補体欠損:後期成分(C5〜C9)欠損ではナイセリア(髄膜炎菌、淋菌)。
POINT
・アスペルギルス症は好中球の減少や機能異常で起こりやすい。 ・慢性肉芽腫症はNADPHオキシダーゼ欠損で活性酸素をつくれず、カタラーゼ陽性菌(黄色ブドウ球菌など)と真菌(アスペルギルス)に繰り返し感染する。 ・慢性肉芽腫症は約2/3がX連鎖性(gp91phox異常)で男児に多い。診断はDHR試験・NBT試験。 ・無ガンマグロブリン血症=莢膜をもつ細菌、DiGeorge症候群=T細胞減少・低Ca血症・心奇形、Wiskott-Aldrich症候群=湿疹・小型血小板の減少・易感染性、毛細血管拡張性失調症=運動失調・毛細血管拡張・AFP高値。
