血便で気づく男の子の免疫不全―Wiskott-Aldrich症候群と「小さな血小板」
第108回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
Wiskott-Aldrich症候群でみられるのはどれか。
- a.血便
- b.口蓋裂
- c.小脳失調
- d.テタニー
- e.毛細血管拡張
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Wiskott-Aldrich症候群はWAS遺伝子異常によるX連鎖潜性遺伝の原発性免疫不全症で、血小板減少・湿疹・易感染性を三主徴とし、原則として男児に発症します。血小板が小さく(MPV低下)機能も低下しているため出血傾向が強く、乳児期早期の血便は代表的な初発症状です。検査ではIgM低値、IgA・IgE高値を示し、自己免疫疾患や悪性リンパ腫を合併しやすく、根治療法は造血幹細胞移植です。一方、口蓋裂・テタニーはDiGeorge症候群、小脳失調・毛細血管拡張は毛細血管拡張性運動失調症の特徴であり、疾患と症候をペアで整理しておくと原発性免疫不全症の問題を確実に解けるようになります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
代表的な原発性免疫不全症(先天性免疫異常症)の特徴的な症候を区別できるかを問う問題である。
Wiskott-Aldrich症候群の要点
Wiskott-Aldrich症候群(WAS)は、X染色体短腕(Xp11)にある WAS 遺伝子の異常によって起こるX連鎖潜性(伴性劣性)遺伝の疾患で、原則として男児に発症する。WAS 遺伝子がコードする WAS タンパク(WASP)は血球の細胞骨格(アクチン)の再構成に関わり、その異常によってリンパ球の機能障害と血小板の形成異常が生じる。 三主徴は次のとおりである。 1)血小板減少:血小板が小さい(平均血小板容積 MPV の低下)ことが他の血小板減少症との重要な鑑別点である。 2)湿疹:アトピー性皮膚炎に似た難治性の湿疹。 3)易感染性:細菌・ウイルス・真菌などによる反復感染。特に多糖体抗原(肺炎球菌の莢膜など)に対する抗体産生が不良で、T細胞数も年齢とともに減少していく。
正解を導く考え方
血小板減少による出血傾向は乳児期早期から出現し、初発症状として血便(消化管出血)、皮下出血・点状出血、臍出血などがみられるのが典型である。したがって「血便」がWASでみられる所見である。他の選択肢は、DiGeorge症候群(口蓋裂、テタニー)や毛細血管拡張性運動失調症(小脳失調、毛細血管拡張)の特徴であり、疾患ごとの特徴的症候を対にして覚えておくと解きやすい。
選択肢考察
- ○a. 血便
WASでは血小板数の減少に加え、血小板自体が小さく機能も低下しているため、出血傾向が強い。乳児期早期から血便などの消化管出血、皮下出血、点状出血、鼻出血がみられ、血便は初発症状として特に有名である。頭蓋内出血を起こすこともあり、出血は感染症と並ぶ主要な死因の一つとなる。WASでみられる所見として正しい。
- ×b. 口蓋裂
口蓋裂は、胎生期に左右から伸びる口蓋突起が正中で融合できなかったために生じる先天異常で、口唇裂を伴うことも多い。原発性免疫不全症の中では、22番染色体長腕の微細欠失(22q11.2欠失)によるDiGeorge症候群で、口蓋裂(粘膜下口蓋裂を含む)や鼻咽腔閉鎖不全がみられる。WASの症候ではない。
- ×c. 小脳失調
小脳失調は、毛細血管拡張性運動失調症(ataxia telangiectasia)の代表的な症候である。本症はATM遺伝子(DNA損傷修復に関わる)の異常による常染色体潜性遺伝の疾患で、幼児期の歩行開始後から進行性の小脳失調が現れ、眼球結膜などの毛細血管拡張、IgA・IgG2低下を主とする免疫不全、悪性腫瘍(特にリンパ系腫瘍)の合併、放射線感受性の亢進、血清αフェトプロテイン高値を伴う。WASの症候ではない。
- ×d. テタニー
テタニーは低カルシウム血症などで神経・筋の興奮性が高まり、手足の筋が有痛性にけいれんする状態である。DiGeorge症候群では第3・第4咽頭嚢の発生異常によって副甲状腺が低形成となり、副甲状腺機能低下症から新生児期に低カルシウム血症・テタニーを生じる。同時に胸腺低形成によるT細胞減少(細胞性免疫不全)、ファロー四徴症・大動脈弓離断などの心大血管奇形、特徴的顔貌を伴う。WASの症候ではない。
- ×e. 毛細血管拡張
毛細血管拡張は、選択肢cと同じく毛細血管拡張性運動失調症の特徴的所見で、眼球結膜、耳介、顔面などに小児期から出現する。小脳失調より遅れて目立ってくることが多い。WASでは点状出血や紫斑はみられるが、毛細血管拡張は特徴ではない。
Wiskott-Aldrich症候群の検査所見
・血小板減少と小型血小板(MPV低下)。 ・免疫グロブリン:IgM低値、IgA・IgE高値、IgGは正常のことが多い。同種血球凝集素(抗A・抗B抗体)が低値となる。 ・多糖体抗原に対する特異抗体産生が不良。 ・T細胞数は年齢とともに減少し、細胞性免疫も低下する。 ・確定診断はWAS遺伝子解析やWASP発現の評価による。
合併症
自己免疫疾患(自己免疫性溶血性貧血、血管炎、IgA腎症など)、悪性腫瘍(特にEBウイルス関連の悪性リンパ腫)を高率に合併する。
治療
根治療法は造血幹細胞移植である。対症的には、感染予防(ST合剤など)、免疫グロブリン補充、血小板輸血、湿疹の治療を行う。遺伝子治療の研究も進んでいる。摘脾で血小板数が増えることがあるが、重症感染症のリスクが高まるため慎重に判断される。
特徴的な症候をもつ主な原発性免疫不全症
・Wiskott-Aldrich症候群(X連鎖潜性):血小板減少(小型)、湿疹、易感染性、血便 ・DiGeorge症候群(22q11.2欠失):胸腺低形成、低カルシウム血症(テタニー)、心大血管奇形、口蓋裂、特徴的顔貌 ・毛細血管拡張性運動失調症(常染色体潜性、ATM遺伝子):小脳失調、毛細血管拡張、IgA低下、悪性腫瘍、放射線感受性亢進 ・X連鎖無ガンマグロブリン血症(Bruton型、BTK遺伝子):生後数か月以降の細菌感染反復、B細胞欠損、全免疫グロブリン低値 ・慢性肉芽腫症:好中球の殺菌能障害によるカタラーゼ陽性菌・真菌感染、肉芽腫形成 ・高IgE症候群:黄色ブドウ球菌による皮膚膿瘍・肺炎、湿疹、IgE高値
POINT
・Wiskott-Aldrich症候群はX連鎖潜性遺伝で男児に発症し、三主徴は血小板減少・湿疹・易感染性。 ・血小板が小さい(MPV低下)のが特徴で、乳児期から血便などの出血症状で気づかれる。 ・IgM低値、IgA・IgE高値。自己免疫疾患や悪性リンパ腫を合併しやすく、根治は造血幹細胞移植。 ・口蓋裂・テタニーはDiGeorge症候群、小脳失調・毛細血管拡張は毛細血管拡張性運動失調症と対応させて覚える。
