StudyMed医師国家試験

煮沸してもしぶとい病原体―プリオンに勝つ滅菌法はSDS煮沸

第108回医師国家試験 D問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第108回 D問題 第8問

Creutzfeldt-Jakob病が疑われる患者の脳外科手術に用いた金属器具の滅菌法で最も適切なのはどれか。

  1. a.蟻酸浸漬
  2. b.ポビドンヨード液浸漬
  3. c.通常のオートクレーブ法
  4. d.グルタールアルデヒド浸漬
  5. e.ドデシル硫酸ナトリウム〈SDS〉煮沸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Creutzfeldt-Jakob病が疑われる患者の脳外科手術に使った金属器具を、どう処理するかという感染対策の問題だ。ポイントは、プリオンが細菌やウイルスとはまったく違う性質の病原体だということ。まずはプリオンの正体から確認しよう。
医学生医学生
異常プリオン蛋白ですよね。核酸を持たない蛋白質だけの病原体だと微生物学で習いました。
ドクタードクター
その通り。正常プリオン蛋白が立体構造を変えて、βシートに富む異常プリオン蛋白になる。これが凝集体をつくり、さらに正常型を異常型に変えていく。この凝集体は熱や紫外線、放射線、一般的な消毒薬に対して非常に強いんだ。
医学生医学生
でも手術器具なら、オートクレーブにかければ大丈夫だと思っていました。芽胞まで死ぬ一番強い滅菌法ですよね。
ドクタードクター
多くの人がそう考えるんだ。通常のオートクレーブは121℃前後で15〜20分ほど処理するけれど、これは細菌芽胞を想定した条件で、プリオンの感染性は完全には失われない。プリオン対策では134℃で18分以上など条件を強めたり、アルカリ洗浄剤による洗浄と組み合わせたりする必要がある。だから「通常の」オートクレーブでは不十分なんだ。
医学生医学生
では、グルタールアルデヒドはどうですか。内視鏡の消毒に使う高水準消毒薬なので強そうです。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だ。アルデヒド類は蛋白質を架橋して固める作用がある。病理実習で使うホルマリンと同じで、組織固定剤なんだ。プリオンに使うと、器具表面に付いた異常プリオン蛋白をかえって固着させ、その後の洗浄や処理を効きにくくしてしまう。だからプリオン汚染器具には使ってはいけない。
医学生医学生
固定してしまうと逆効果なんですね。ポビドンヨードは手術の皮膚消毒で使いますが、これも駄目ですか。
ドクタードクター
ポビドンヨードは中水準消毒薬で、細菌や多くのウイルスには効くけれど、プリオンは不活化できない。そもそも皮膚や粘膜の消毒薬で、器具の滅菌に使うものではないね。
医学生医学生
蟻酸はあまり聞き慣れないのですが、プリオンに効くんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。蟻酸はプリオンの感染性を下げる作用があって、ホルマリン固定したプリオン病の脳組織を病理標本にする際の不活化処理に使われる。ただ高濃度で長時間浸す必要があるうえ、金属を強く腐食させるので、再使用する手術器具の処理には向かないんだ。
医学生医学生
そうすると、残るのはSDS煮沸ですね。SDSは生化学実習の電気泳動で、蛋白質を変性させるのに使いました。
ドクタードクター
まさにその性質を利用しているんだ。SDSは強力な陰イオン性界面活性剤で、蛋白質の高次構造を壊して変性・可溶化させる。これを煮沸と組み合わせると、凝集した異常プリオン蛋白を効率よく変性させて感染性を失わせられる。十分に洗浄した金属器具を3%のSDS溶液で3〜5分煮沸する方法が推奨されていて、器具の傷みも比較的少ない。だから正解はSDS煮沸だ。
医学生医学生
蛋白質を「固める」のは駄目で、「壊す」処理が有効、と整理するとわかりやすいですね。
ドクタードクター
いいまとめ方だね。ほかにも、アルカリ洗浄後の134℃オートクレーブ、134℃で18分以上のオートクレーブ、アルカリ洗浄後の過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌などが推奨されている。水酸化ナトリウムや高濃度の次亜塩素酸ナトリウムも有効だけど、金属腐食が問題になる。処理が難しい物品は焼却処分が確実だ。
医学生医学生
脳外科の器具が特に問題になるのは、脳にプリオンが多いからですか。
ドクタードクター
そう。脳、脊髄、硬膜、網膜や視神経などの眼球組織は異常プリオン蛋白が高濃度に存在する高リスク組織だ。実際に、汚染された脳外科器具や深部脳波電極、ヒト乾燥硬膜の移植、ヒト下垂体由来の成長ホルモン製剤で医原性CJDが起きている。日本では乾燥硬膜移植による症例が多く報告されたんだ。
医学生医学生
神経内科の実習でCJD疑いの患者さんを担当したとき、普段のケアは標準予防策でいいと聞いて少し意外でした。
ドクタードクター
それも大事な知識だね。CJDは空気感染や通常の接触ではうつらないから、日常のケアに過剰な隔離は必要ない。注意すべきは高リスク組織や髄液に触れる手技で、可能ならディスポーザブル器具を使い、再使用する器具は今回のような特別な処理をする。必要以上に恐れず、要所を正しく押さえることが患者さんの尊厳を守ることにもつながるんだ。

まとめ

Creutzfeldt-Jakob病の病原体である異常プリオン蛋白は核酸をもたない凝集した蛋白質で、通常のオートクレーブやポビドンヨードなどの一般的な消毒・滅菌では不活化されません。グルタールアルデヒドやホルマリンなどのアルデヒド類は蛋白を固定し、かえって不活化を妨げるため禁忌であり、蟻酸は病理組織の処理に使われますが金属腐食のため器具には不向きです。プリオン汚染の金属器具は、十分な洗浄後に3% SDS溶液で煮沸する方法や、アルカリ洗浄と134℃の高温オートクレーブの組み合わせなどで処理します。脳・脊髄・硬膜・眼などの高リスク組織に触れた器具からは医原性CJDが生じうる一方、日常のケアは標準予防策でよいことも合わせて理解しておくと、臨床での適切な感染対策につながります。

解答・解説

正解はeです

本問は、Creutzfeldt-Jakob病(CJD)のようなプリオン病が疑われる患者の手術に使った器具を、どのように処理すれば再使用時の感染(医原性CJD)を防げるかを問うている。 プリオン病の病原体は、宿主の正常プリオン蛋白(PrPC)が立体構造を変えて生じた異常プリオン蛋白(PrPSc)である。PrPScは核酸をもたず、βシートに富む凝集体を作るため、熱・紫外線・放射線・通常の消毒薬・通常の滅菌法に対して非常に強い抵抗性を示す。細菌やウイルスを対象とした一般的な消毒・滅菌の考え方がそのまま通用しない点が本問の核心である。 さらに、脳・脊髄・硬膜・眼球(網膜・視神経)などはPrPScが高濃度に存在する高リスク組織であり、これらに触れた脳外科手術器具は最も厳重な処理を要する。過去には汚染された脳外科器具や深部脳波電極、ヒト乾燥硬膜の移植、ヒト下垂体由来成長ホルモン製剤によって医原性CJDが発生しており、日本でも乾燥硬膜移植による症例が多数報告された。 このため、わが国のプリオン病感染予防ガイドラインでは、金属製の手術器具について、十分な洗浄を前提としたうえで、プリオン不活化に有効性が確認された処理法(3% SDS溶液での煮沸、アルカリ洗浄剤による洗浄とオートクレーブの組み合わせ、長時間の高温オートクレーブなど)を行うよう推奨している。選択肢の中でこれに該当するのはSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)煮沸である。

選択肢考察

  1. ×a.  蟻酸浸漬

    蟻酸(ぎさん)はプリオンの感染性を低下させる作用をもち、ホルマリン固定後のプリオン病脳組織を病理標本にする際の不活化処理に用いられる。しかし十分な効果を得るには高濃度(おおむね60%以上)で長時間(1時間以上)浸す必要があり、強い金属腐食作用もあるため、再使用する金属製手術器具の処理法としては適さない。

  2. ×b.  ポビドンヨード液浸漬

    ポビドンヨードは皮膚・粘膜の消毒に広く用いられる中水準消毒薬で、細菌・真菌・多くのウイルスには有効だが、蛋白質性の病原体であるプリオンは不活化できない。また器具の滅菌を目的とした薬剤でもない。

  3. ×c.  通常のオートクレーブ法

    オートクレーブは高温高圧の飽和水蒸気で滅菌する方法で、通常は121℃・約2気圧(ゲージ圧約1気圧)で15~20分程度処理する。細菌芽胞まで死滅させる強力な滅菌法だが、この条件ではプリオンの感染性は完全には失われない。プリオン対策としては、134℃で18分以上など条件を強化したり、アルカリ洗浄剤による洗浄と組み合わせたりする必要がある。132℃で1時間処理しても感染価は約1/1,000に下がるにとどまるとされ、「通常の」オートクレーブでは不十分である。

  4. ×d.  グルタールアルデヒド浸漬

    グルタールアルデヒドは内視鏡などの消毒に使われる高水準消毒薬であり、組織固定剤でもある。アルデヒド類は蛋白質を架橋して固定するため、プリオンを不活化するどころか、器具表面に付着した異常プリオン蛋白を固着させ、その後の洗浄や処理を効きにくくしてしまう。したがってプリオン汚染器具には用いてはならない。ホルマリンも同様の理由で無効である。

  5. ○e.  ドデシル硫酸ナトリウム〈SDS〉煮沸

    SDSは強力な陰イオン性界面活性剤で、蛋白質の高次構造を壊して変性・可溶化させる。これを煮沸と組み合わせることで、凝集した異常プリオン蛋白を効率よく変性させ感染性を失わせることができる。十分に洗浄した金属器具を3% SDS溶液中で100℃、3~5分間煮沸する方法が推奨されており、金属器具への傷みも比較的少ない。選択肢の中ではプリオン汚染金属器具の処理法として最も適切である。

プリオン病の概要

プリオン病は異常プリオン蛋白が中枢神経系に蓄積し、神経細胞が脱落して脳が海綿状に変化する致死性の疾患群である。孤発性CJDが約8割を占め、ほかに遺伝性(家族性CJD、Gerstmann-Sträussler-Scheinker病、致死性家族性不眠症)、獲得性(医原性CJD、変異型CJD、クールー)がある。孤発性CJDは急速進行性の認知症、ミオクローヌス、脳波の周期性同期性放電(PSD)、MRI拡散強調像での大脳皮質・基底核の高信号、髄液14-3-3蛋白・総タウ蛋白の上昇、RT-QuIC法陽性などが特徴である。

医原性CJDの感染経路

・ヒト乾燥硬膜移植(日本で多い) ・ヒト下垂体由来成長ホルモン・ゴナドトロピン製剤 ・角膜移植 ・汚染された脳外科手術器具・深部脳波電極 変異型CJDでは輸血による感染も報告されている。

プリオンに無効な処理

通常のオートクレーブ(121℃ 20分程度)、乾熱滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、紫外線・放射線照射、アルコール、ポビドンヨード、クロルヘキシジン、ホルマリン・グルタールアルデヒドなどのアルデヒド類。アルデヒド類は蛋白を固定してかえって不活化を妨げる。

プリオン汚染器具に推奨される主な処理(金属器具)

・十分な洗浄の後、3% SDS溶液で3~5分間煮沸 ・アルカリ洗浄剤で洗浄後、134℃ 8~10分のオートクレーブ ・134℃ 18分以上のオートクレーブ ・アルカリ洗浄後の過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌 そのほか、1N水酸化ナトリウムや高濃度の次亜塩素酸ナトリウムへの浸漬も有効だが、金属腐食の問題がある。処理が困難な器具や高リスク組織に触れた使い捨て可能な物品は焼却処分が確実である。

日常診療での注意

CJD患者は空気感染や通常の接触で感染させることはなく、日常のケアは標準予防策でよい。一方、脳・脊髄・眼などの高リスク組織や髄液に触れる手技では、器具の管理(可能ならディスポーザブル製品の使用)に特に注意する。

POINT

・プリオン(異常プリオン蛋白)は通常のオートクレーブ、ポビドンヨード、アルデヒド類などの通常の消毒・滅菌では不活化されない。 ・グルタールアルデヒドやホルマリンは蛋白を固定し、むしろ不活化を妨げる。 ・プリオン汚染金属器具は洗浄後に3% SDS煮沸(100℃ 3~5分)や、アルカリ洗浄+高温オートクレーブ(134℃)で処理する。 ・医原性CJDの原因として乾燥硬膜移植、下垂体由来ホルモン製剤、角膜移植、汚染された脳外科器具がある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。