「ストレスで落ち込んだ」はすべて適応障害?―分類の箱で見分けるストレス関連障害
第108回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
適応障害に含まれるのはどれか。
- a.気分変調症
- b.短期抑うつ反応
- c.うつ病エピソード
- d.急性ストレス障害
- e.外傷後ストレス障害
対話形式の解説
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ドクターまとめ
適応障害は、日常生活の範囲で起こりうる特定のストレス因に反応して抑うつ・不安・行動の問題などが生じ、他の精神疾患の診断基準を満たさない状態です。ICD-10では急性ストレス反応、外傷後ストレス障害と並んで「重度ストレスへの反応および適応障害」に分類され、適応障害の中には短期抑うつ反応、遷延性抑うつ反応、混合性不安抑うつ反応などの下位分類があります。急性ストレス障害やPTSDは破局的な外傷体験後に生じる別の診断であり、気分変調症やうつ病エピソードは気分障害に属し、うつ病の基準を満たせばストレス因があってもうつ病と診断します。治療の基本は環境調整と精神療法で、薬物は補助的です。分類上の「兄弟」と「中身」を区別して整理することが、ストレス関連障害を正しく理解し、診断を見直す臨床姿勢につながります。
解答・解説
正解はbです
本問は、国際的な診断分類のなかで適応障害がどう位置づけられ、どのような下位分類をもつかを問う知識問題である。 適応障害とは、はっきりと特定できる心理社会的ストレス因(転居、転職・異動、失恋、離婚、病気の診断、家族との死別など)に反応して、抑うつ気分・不安・怒り・行動の問題などが生じ、日常生活や社会的機能に支障をきたす状態をいう。ストレス因は日常生活の範囲内で起こりうるものであり、生命を脅かすような破局的体験である必要はない。また、症状はストレス因がなければ生じなかったと考えられること、うつ病など他の精神疾患の診断基準を満たさないことが前提となる。 WHOの国際疾病分類第10版(ICD-10)では、F4「神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」の中にF43「重度ストレスへの反応および適応障害」が置かれ、その中に急性ストレス反応(F43.0)、外傷後ストレス障害(F43.1)、適応障害(F43.2)が並列に分類されている。適応障害はさらに、優勢な症状と持続期間によって、短期抑うつ反応、遷延性抑うつ反応、混合性不安抑うつ反応などの病型に細分される。 したがって、選択肢のうち「適応障害の中に含まれる」のは短期抑うつ反応であり、急性ストレス障害や外傷後ストレス障害は適応障害と同じストレス関連障害の仲間ではあるが、適応障害とは別の独立した診断カテゴリーである点を区別する必要がある。気分変調症やうつ病エピソードは気分(感情)障害に属する。
選択肢考察
- ×a. 気分変調症
気分変調症は、うつ病の診断基準を満たすほど重くはない慢性的な抑うつ状態が、少なくとも2年以上(小児・青年では1年以上)続く疾患である。ICD-10では気分(感情)障害(F3)のうち持続性気分(感情)障害に、DSM-5では抑うつ障害群の持続性抑うつ障害に分類される。特定のストレス因への反応として一定期間内に生じる適応障害とは別の疾患である。
- ○b. 短期抑うつ反応
ICD-10の適応障害(F43.2)の下位分類の一つ(F43.20)である。ストレス因に反応して生じる一過性の軽い抑うつ状態で、持続は1か月以内のものを指す。同じ適応障害の下位分類には、2年以内の長引く抑うつ状態である遷延性抑うつ反応(F43.21)や、混合性不安抑うつ反応(F43.22)などがある。
- ×c. うつ病エピソード
うつ病エピソードは、抑うつ気分、興味・喜びの喪失、易疲労性などが2週間以上続く状態で、ICD-10では気分(感情)障害(F32)に分類される。ストレス因がきっかけで発症することもあるが、うつ病エピソードの基準を満たす場合は適応障害ではなくうつ病と診断する。適応障害は他の精神疾患の基準を満たさないことが前提である。
- ×d. 急性ストレス障害
急性ストレス障害(ICD-10では急性ストレス反応)は、生命を脅かすような事故・災害・暴力などの強烈な出来事の直後に、侵入症状(フラッシュバック)、解離、回避、過覚醒などが生じる状態である。DSM-5では外傷体験後3日~1か月の間に症状が続くものと定義される。ICD-10では適応障害と同じF43群に含まれるが、適応障害とは別の診断カテゴリーであり、適応障害の下位分類ではない。
- ×e. 外傷後ストレス障害
外傷後ストレス障害(PTSD:posttraumatic stress disorder)は、死や重傷、性暴力などの心的外傷体験の後に、再体験(フラッシュバック・悪夢)、回避、認知と気分の否定的変化、過覚醒などが1か月以上持続するものである。適応障害と同じくストレス関連障害に属するが、独立した診断カテゴリーであり、適応障害には含まれない。
ICD-10におけるF43「重度ストレスへの反応および適応障害」
・F43.0 急性ストレス反応 ・F43.1 外傷後ストレス障害 ・F43.2 適応障害 F43.20 短期抑うつ反応(1か月以内) F43.21 遷延性抑うつ反応(2年以内) F43.22 混合性不安抑うつ反応 F43.23 主として他の情緒の障害を伴うもの F43.24 主として行為の障害を伴うもの F43.25 情緒および行為の混合性の障害を伴うもの F43.28 他の特定の症状が優勢なもの
適応障害の時間的基準
ICD-10では、ストレス因の発生から通常1か月以内に発症し、症状は原則として6か月を超えない(遷延性抑うつ反応を除く)。DSM-5では、ストレス因の始まりから3か月以内に発症し、ストレス因やその結果が終結してから6か月以上は持続しないとされる。
DSM-5での位置づけ
DSM-5では「心的外傷およびストレス因関連障害群」の中に、心的外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、適応障害、反応性アタッチメント障害などがまとめられている。適応障害は抑うつ気分を伴うもの、不安を伴うもの、不安と抑うつ気分の混合を伴うもの、素行の障害を伴うもの、などの特定用語で分類される。
ストレス関連障害の比較
・適応障害:日常的な範囲のストレス因でも生じる。他の精神疾患の診断基準を満たさない。 ・急性ストレス障害:破局的な外傷体験の直後に生じ、1か月以内に収まる。 ・PTSD:破局的な外傷体験の後、症状が1か月以上持続する。
治療
適応障害の治療の基本は、ストレス因の除去・軽減や環境調整と、支持的精神療法・認知行動療法などである。薬物療法は不眠や不安などの症状に対して補助的に用いる。ストレス因が取り除かれると改善することが多い。
POINT
・適応障害は、特定できるストレス因に反応して生じ、他の精神疾患の診断基準を満たさない情緒・行動の障害である。 ・ICD-10の適応障害の下位分類に、短期抑うつ反応、遷延性抑うつ反応、混合性不安抑うつ反応などがある。 ・急性ストレス障害(反応)とPTSDは同じストレス関連障害の群に属するが、適応障害とは別の診断である。 ・気分変調症、うつ病エピソードは気分(感情)障害に分類される。 ・うつ病の基準を満たせば、ストレス因があってもうつ病と診断する。
