その管、本当に必要?―尿道カテーテル留置の「正しい理由」と「入れてはいけない理由」
第110回医師国家試験 H問題 第4問
国試問題にチャレンジ
尿道カテーテル留置の目的で最も適切なのはどれか。
- a.尿路感染の予防
- b.介護負担の軽減
- c.尿蛋白量の測定
- d.患者の長期安静保持
- e.水腎症を伴う慢性尿閉の治療
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
尿道カテーテル留置は確実な排尿路を確保できる一方、尿路感染症や尿道損傷、行動制限やせん妄の誘発などの合併症があるため、医学的適応がある場合に限って行い、不要になれば速やかに抜去するのが原則です。前立腺肥大症などによる慢性尿閉で水腎症をきたした場合は、膀胱を減圧して腎後性腎不全を防ぐことが留置の正当な目的となり、解除後は閉塞後利尿に注意します。一方、カテーテルは尿路感染の最大の危険因子であり感染予防にはならず、介護負担の軽減、尿蛋白測定、長期安静保持も留置の理由として不適切です。長期の排尿管理には清潔間欠自己導尿が優先され、溢流性尿失禁を見逃さないために残尿の評価も欠かせません。「この管はなぜ入っているのか」を常に問い直す姿勢は、医療関連感染の予防と患者のQOL維持に直結します。
解答・解説
正解はeです
尿道カテーテル留置は、尿道から膀胱へカテーテル(先端のバルーンを膨らませて抜けないようにしたFoleyカテーテルなど)を入れたままにして、尿を持続的に体外へ排出させる処置である。確実な排尿路を確保できる一方で、カテーテル関連尿路感染症、尿道損傷・尿道狭窄、膀胱結石、患者の不快感や行動制限、せん妄の誘発などの合併症があり、留置期間が長いほど危険が増す。そのため、医学的な適応がある場合に限って行い、不要になれば速やかに抜去することが原則である。 主な適応は、(1) 自力で排尿できない尿閉(特に水腎症や腎機能障害を伴うもの)の解除、(2) 重症患者や大手術の周術期など、尿量を正確かつ経時的に測定する必要がある場合、(3) 泌尿器科手術後の創部保護や血尿・凝血塊の排出、(4) 仙骨部・会陰部の褥瘡や創傷を尿汚染から守る必要がある場合、(5) 終末期で患者の苦痛緩和に役立つ場合、などである。 本問では、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞で慢性的に膀胱から尿を出し切れず、尿が上部尿路へうっ滞して水腎症を生じている状態に対し、膀胱の減圧と腎機能保護を目的とする留置が最も適切な目的である。逆に、感染予防、介護の手間の軽減、検査のための採尿、長期の安静保持は、留置の目的としてふさわしくない。
選択肢考察
- ×a. 尿路感染の予防
不適切。尿道カテーテルは、カテーテルの外表面や内腔を伝って細菌が膀胱内へ侵入する経路となるため、それ自体が尿路感染の最大の危険因子である。留置日数が増えるごとに細菌尿の頻度は上昇し、長期留置ではほぼ全例で細菌尿を認める。医療関連感染の中でもカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)は代表的なものであり、その予防策の第一は不要なカテーテルを入れないこと、早く抜くことである。なお、多量の残尿により尿路感染を繰り返す患者では、膀胱を空にするためにカテーテルによる導尿が行われることがあるが、その場合も可能であれば清潔間欠自己導尿が優先され、感染予防そのものを目的とした長期留置は推奨されない。
- ×b. 介護負担の軽減
不適切。尿失禁がある患者に留置するとおむつ交換の手間は減るかもしれないが、それは医学的な適応ではない。介護者の都合で留置すると、尿路感染、尿道損傷、膀胱萎縮、自己抜去による外傷、行動制限による日常生活動作(ADL)の低下などの不利益を患者に負わせることになり、医学的にも倫理的にも適切とはいえない。尿失禁にはまず原因の評価、排尿誘導、おむつや集尿器の工夫などで対応する。
- ×c. 尿蛋白量の測定
不適切。尿蛋白量は、自然排尿による24時間蓄尿で1日の蛋白排泄量を測定できるほか、随時尿(スポット尿)の尿蛋白/クレアチニン比(g/gCr)で1日尿蛋白量を推定できる。いずれも自然排尿で十分可能であり、蛋白量の測定のためだけに感染リスクのあるカテーテルを留置することはない。カテーテルが必要になるのは、重症管理などで時間ごとの尿量を厳密に把握しなければならない場合である。
- ×d. 患者の長期安静保持
不適切。全身麻酔や脊髄くも膜下麻酔(腰椎麻酔)の手術後など、短期間ベッド上安静が必要な時期に一時的に留置することはあるが、長期の安静保持を目的に留置することは通常ない。長期留置は感染などの合併症を増やすうえ、カテーテルの存在が離床を妨げ、廃用症候群やせん妄の原因にもなる。脊椎損傷で厳重な体位制限が必要な場合など特殊な状況を除けば、安静のための長期留置は正当化されない。
- ○e. 水腎症を伴う慢性尿閉の治療
最も適切。前立腺肥大症や神経因性膀胱などで膀胱から尿を十分に排出できない慢性尿閉の状態が続くと、膀胱内圧の上昇が尿管・腎盂に及んで両側の水腎症となり、放置すれば腎後性腎不全に至る。尿道カテーテルを留置して膀胱を持続的に減圧すると、上部尿路のうっ滞が解除されて腎機能の悪化を防ぎ、回復を図ることができる。患者への侵襲が少なく、まず行われる処置である。なお長期間の高度な尿閉を一気に解除すると、閉塞後利尿(大量の尿が排出される状態)による脱水や電解質異常を起こすことがあるため、解除後は尿量・電解質に注意する。その後は原因疾患の治療(前立腺肥大症の手術など)や清潔間欠自己導尿への移行を検討する。
尿道カテーテル留置の主な適応
・急性・慢性の尿閉や下部尿路閉塞(特に水腎症・腎機能障害を伴うもの) ・重症患者や大手術の周術期など、正確な尿量測定が必要な場合 ・泌尿器科・婦人科・消化器外科などの手術の周術期 ・仙骨部・会陰部の開放創や褥瘡を尿汚染から保護する必要がある場合 ・脊椎損傷などで長期の体位制限が必要な場合 ・終末期の苦痛緩和
不適切とされる留置の例
・尿失禁への対応や介護・看護の手間を減らす目的 ・検査のための採尿(自然排尿で採取可能な場合) ・適応がないまま漫然と続く長期留置
カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)
細菌はカテーテル外表面(尿道口側)と内腔(接続部や採尿バッグ側)から侵入する。予防策は、適応を厳選すること、必要最小限の期間で抜去すること、無菌的操作で挿入すること、閉鎖式導尿システムを用いること、採尿バッグを膀胱より低い位置に保ち床に付けないことなどである。無症候性の細菌尿は原則として抗菌薬治療の対象とならない。
慢性尿閉と水腎症
高齢男性では前立腺肥大症が代表的な原因で、ほかに神経因性膀胱(糖尿病性末梢神経障害、脊髄疾患など)や尿道狭窄、抗コリン薬などの薬剤も原因となる。多量の残尿が膀胱からあふれ出る溢流性尿失禁を伴うことがあり、尿失禁と誤認されやすい。下部尿路閉塞による水腎症は通常両側性で、腎後性腎不全をきたしうる。
清潔間欠自己導尿(CIC)
患者自身(または介助者)が1日数回カテーテルを挿入して導尿し、そのたびに抜去する方法。持続留置に比べ尿路感染症や尿道合併症が少なく、生活の自由度も高いため、長期の排尿管理が必要な場合にはまず検討される。
POINT
・尿道カテーテル留置は医学的適応がある場合に限り行い、不要になれば速やかに抜去する。 ・水腎症を伴う慢性尿閉では、膀胱減圧により腎後性腎不全を防ぐ目的で留置する。長期の高度尿閉を解除した後は閉塞後利尿に注意する。 ・留置カテーテルは尿路感染の最大の危険因子であり、感染予防の目的にはならない。 ・介護負担の軽減、尿蛋白測定、長期安静保持は留置の目的として不適切である。 ・長期の排尿管理には清潔間欠自己導尿が優先される。
