その痰、本当に肺から来た?―好中球と扁平上皮細胞で見抜く「良い喀痰」
第110回医師国家試験 H問題 第5問
国試問題にチャレンジ
微生物検査で塗抹鏡検に適した品質の良い喀痰の好中球の数と扁平上皮細胞の数との組合せで正しいのはどれか。 ただし,数値は倍率100倍で鏡検時の1視野あたりの細胞数を表す。

- a.0 ―― 0
- b.5 ―― 5
- c.5 ―― 30
- d.30 ―― 5
- e.30 ―― 30
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
喀痰は口腔・咽頭を通って喀出されるため唾液や常在菌が混入しやすく、塗抹鏡検の前に下気道由来の良質な検体かを評価する必要があります。好中球は下気道の炎症を、扁平上皮細胞は口腔粘膜由来で唾液の混入を反映するため、「好中球が多く、扁平上皮細胞が少ない」検体ほど良質です。Geckler分類では100倍1視野で好中球25個超かつ扁平上皮細胞25個未満(第4・5群)が良質とされ、肉眼的にはMiller & Jones分類のP2・P3が細菌検査に適します。採取前の水うがいや起床時の喀痰、速やかな提出といった工夫も検査精度を左右します。検体の質を見極める視点は、起炎菌を正しく推定し適切な抗菌薬選択につなげるための基本です。
解答・解説
正解はdです
喀痰の塗抹鏡検(Gram染色など)は、下気道感染症の起炎菌を推定するための迅速で安価な検査である。ただし、喀痰は口腔・咽頭を通って喀出されるため、唾液や口腔内常在菌が混入しやすい。検体の大部分が唾液であれば、そこに見える細菌は口腔内の常在菌にすぎず、肺炎の原因菌を反映しない。したがって、鏡検の前に「その検体が本当に下気道由来か」を評価する必要がある。 評価の目印になるのが2種類の細胞である。 ・好中球:下気道に炎症(感染)があると気道内に多数浸潤する。多いほど炎症部位からの分泌物であることを示し、好中球に貪食された細菌が見えれば起炎菌である可能性が高い。 ・扁平上皮細胞:口腔粘膜や咽頭を覆う重層扁平上皮から剥がれ落ちた細胞である。下気道(気管・気管支)の上皮は線毛円柱上皮であるため、扁平上皮細胞が多いことは唾液の混入が多いことを意味する。 この考え方を数値化したのがGeckler(ゲックラー)分類で、低倍率(100倍)1視野あたりの好中球数と扁平上皮細胞数で検体を6群に分ける。良質とされるのは好中球が25個を超え、扁平上皮細胞が25個未満(10〜25個または10個未満)の検体である。 選択肢のうち「好中球が多く、扁平上皮細胞が少ない」条件を満たすのは、好中球30・扁平上皮細胞5の組合せのみである。
選択肢考察
- ×a. 0 ―― 0
好中球も扁平上皮細胞も見られない検体である。唾液の混入は少ないかもしれないが、炎症細胞がないため感染巣由来の分泌物とはいえず、起炎菌推定に用いる喀痰としては不適である。なおGeckler分類では好中球・扁平上皮細胞ともに25個未満の検体は第6群とされ、経気管吸引など特殊な採取法で得た検体を除き、通常の喀痰としての評価には適さない。
- ×b. 5 ―― 5
扁平上皮細胞は少ないが、好中球も1視野5個と少ない。下気道の炎症を反映した膿性成分が乏しく、塗抹で見える細菌が起炎菌である根拠に欠ける。好中球が十分(25個超)に含まれていないため良質とはいえない。
- ×c. 5 ―― 30
好中球が少なく扁平上皮細胞が多い、最も唾液成分に近い検体である(Geckler分類の第1群に相当)。見える細菌の多くは口腔内常在菌であり、鏡検や培養に用いると誤った起炎菌推定につながる。再採取すべき検体である。
- ○d. 30 ―― 5
好中球が25個を超えて多く、扁平上皮細胞が10個未満と少ない。下気道の炎症部位から喀出された膿性成分を多く含み、唾液の混入が少ないことを示す(Geckler分類の第5群に相当)。好中球による細菌の貪食像も観察しやすく、起炎菌推定に最も適した品質の良い喀痰である。
- ×e. 30 ―― 30
好中球は多いものの、扁平上皮細胞も25個を超えており唾液の混入が多い(Geckler分類の第3群に相当)。下気道由来の成分と口腔内常在菌が混ざっているため、見える細菌が起炎菌か常在菌かを区別しにくく、良質とはいえない。
Geckler分類(100倍1視野あたりの細胞数)
・第1群:好中球 <10、扁平上皮細胞 >25 ・第2群:好中球 10〜25、扁平上皮細胞 >25 ・第3群:好中球 >25、扁平上皮細胞 >25 ・第4群:好中球 >25、扁平上皮細胞 10〜25 ・第5群:好中球 >25、扁平上皮細胞 <10 ・第6群:好中球 <25、扁平上皮細胞 <25 第4・5群が良質な喀痰とされ、第1・2群は唾液成分が主体で検査に不適である。第6群は経気管吸引痰など、口腔を経由しない検体の評価で問題となる。
肉眼的評価:Miller & Jones分類
喀痰を肉眼で観察し、膿性部分の割合で分類する。 ・M1:唾液、完全な粘液性 ・M2:粘液性だが少量の膿性成分を含む ・P1:膿性部分が1/3以下 ・P2:膿性部分が1/3〜2/3 ・P3:膿性部分が2/3以上 P2・P3など膿性部分の多い検体が細菌検査に適する。
良質な喀痰を得る工夫
・採取前に水でうがいをして口腔内の常在菌を減らす(歯磨き粉や消毒薬入りうがい液は避ける)。 ・起床直後の喀痰が適する。 ・深呼吸の後に強く咳をして、唾液ではなく痰を出させる。 ・自力喀出が難しい場合は高張食塩水吸入による誘発喀痰を用いる。 ・採取後は速やかに検査室へ提出する(室温で放置すると常在菌が増殖し、肺炎球菌など死滅しやすい菌が検出されにくくなる)。
POINT
・喀痰の品質評価は「好中球が多く、扁平上皮細胞が少ない」ほど良質である。 ・好中球は下気道の炎症を、扁平上皮細胞は口腔・咽頭(唾液)由来の混入を反映する。 ・Geckler分類:100倍1視野で好中球 >25 かつ扁平上皮細胞 <25(第4・5群)が良質。 ・肉眼的評価はMiller & Jones分類(P2・P3が良質)。
