「行かなきゃ、でも行けない」―不登校の子にまず差し出すべきもの
第110回医師国家試験 G問題 第54問
国試問題にチャレンジ
12歳の男児。学校に行けないことを主訴に両親とともに来院した。4月に中学校に入学したが,5月初めから朝,頭痛や腹痛を訴えて学校を休み始め,7月からは全く登校できなくなった。夜寝る前には「明日は学校に行く」と言って準備をする。両親が登校を促し付き添うと,校門までは行くものの校内に入ることはできない。外出はしないが家では趣味などをして過ごしている。近くの診療所を受診し身体的な検査を受けたが異常は認められず,診療所からの紹介もあって受診した。受診時,礼節は保たれ,応答も適切である。本人は「学校に行かなくてはいけないと思うが,行けない」と述べる。 現時点での対応として適切なのはどれか。
- a.転校を勧める。
- b.入院を勧める。
- c.抗不安薬を処方する。
- d.催眠療法を導入する。
- e.無理に登校させないよう親を指導する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
不登校は医学的な診断名ではなく状態を表す言葉であり、登校の意思があるのに不安や緊張から行けないという葛藤状態の子どもに登校を強要すると、身体症状の悪化や抑うつ、ひきこもりの長期化を招きやすくなります。そのため初期対応では、無理に登校させないよう親に助言し、家庭を安心して休める場にすることが最も重要です。そのうえで、分離不安症・社交不安症・うつ病・神経発達症・起立性調節障害・いじめなどの背景を継続的に評価し、学校やスクールカウンセラーと連携しながら段階的な社会参加を支えます。原因が不明な段階での転校、入院、抗不安薬、催眠療法は適切ではありません。子どもの心の状態を読み取り、本人と家族を支える姿勢は、思春期の精神保健に関わるすべての医師に求められる基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・12歳の男児で、中学校に入学した直後の5月初めから、朝に頭痛や腹痛を訴えて休み始め、7月からは全く登校できなくなった。小学校から中学校への移行期は、学習内容、人間関係、部活動など環境が大きく変わり、不登校が増えやすい時期である(いわゆる「中1ギャップ」)。 ・身体症状は登校前の朝に集中しており、診療所での身体的検査でも異常はない。器質的疾患は否定的で、心理的な負担が身体症状として表れていると考えやすい。 ・前夜には「明日は学校に行く」と準備をし、親が付き添えば校門までは行ける。本人も「行かなくてはいけないと思うが、行けない」と話す。登校する意思はあるのに、不安や緊張のため校内に入れないという葛藤の状態である。 ・家では趣味をして過ごせており、礼節も応答も保たれている。抑うつ気分や興味・喜びの喪失、幻覚・妄想など、重い精神疾患をうかがわせる所見は記載されていない。
診断・評価
身体疾患や重い精神疾患を背景としない、心理的要因による不登校と考えられる。なお不登校は医学的な診断名ではなく状態を表す言葉であり、背景には不安症(分離不安症、社交不安症など)、うつ病、神経発達症(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症)、起立性調節障害、いじめなどの学校環境の問題が隠れていることがある。これらは継続的な診察と情報収集のなかで評価していく。
対応の考え方
本人は「行かなければ」という気持ちと「行けない」という現実の間ですでに強く葛藤している。ここで登校を強いると不安や自責感が強まり、身体症状の悪化、抑うつ、家庭内での対立、ひきこもりの長期化につながりやすい。現時点で優先すべきことは、登校を強制せず、家庭を安心して休める場所にすることである。そのうえで、本人・家族・学校の情報を丁寧に集め、背景にある要因を評価し、カウンセリングや学校との連携を通じて段階的に社会参加を目指す。したがって、無理に登校させないよう親に助言することが最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 転校を勧める。
現時点では、不登校の原因が今の学校にあるのか(いじめ、教師や友人との関係など)、本人側の要因(不安の強さ、発達特性など)にあるのかがまだわかっていない。原因を評価しないまま環境だけを変えても、問題が解決するとは限らず、新しい環境への適応という別の負担を増やすおそれもある。転校は、学校環境に明らかな問題があるとわかった場合などに検討する選択肢である。
- ×b. 入院を勧める。
身体的検査で異常はなく、礼節・応答も保たれている。自傷・自殺の危険、重い抑うつ、精神病症状、極度の栄養障害など、入院を必要とする状態はみられない。不必要な入院は家族や日常生活から本人を切り離し、かえって社会復帰を難しくするおそれがあるため、外来での対応が基本である。
- ×c. 抗不安薬を処方する。
不登校そのものは薬物療法の対象ではない。薬物治療を考えるのは、評価の結果、薬が効く精神疾患(不安症やうつ病など)が明らかになり、心理社会的な支援だけでは不十分な場合である。特にベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、小児・思春期では依存や脱抑制(かえって興奮しやすくなる反応)などの問題があり、背景を評価する前に初期対応として処方するのは適切ではない。
- ×d. 催眠療法を導入する。
催眠療法は、催眠によって意識の状態を変化させて暗示を与えたり、意識の奥にある心理的葛藤に働きかけたりする治療法であるが、小児の不登校に対して標準的に行われる方法ではない。初期対応としてまず必要なのは、家庭や学校での状況を丁寧に聞き取って背景要因を評価し、本人と家族が安心できる関係を作ることである。
- ○e. 無理に登校させないよう親を指導する。
本人は登校しなければならないと分かっていながら行けない状態にあり、すでに強い葛藤と不安を抱えている。登校を強いるとその負担がさらに増え、症状の悪化や親子関係の悪化、ひきこもりの長期化を招きやすい。まず登校を強要せず、家庭を安心して過ごせる場にするよう親に助言し、休息を保障することが初期対応として適切である。そのうえで背景要因の評価、カウンセリング、学校やスクールカウンセラーとの連携などを進め、本人のペースで段階的な社会参加を支えていく。
不登校の定義
文部科学省は不登校児童生徒を「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しないあるいはしたくともできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」と定義している。医学的な診断名ではなく、状態を表す行政上の用語である。中学生で特に多く、小学校から中学校に上がる時期に急に増える。
背景として評価すべき要因
・身体疾患:まず器質的な疾患がないことを確認する。 ・機能性身体疾患:起立性調節障害(朝起きられない、立ちくらみ、午前中の不調)、過敏性腸症候群(登校前の腹痛・下痢)など。 ・精神疾患:分離不安症、社交不安症、うつ病、適応障害など。 ・神経発達症:自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症など。学習や対人関係でのつまずきが背景にあることがある。 ・環境要因:いじめ、友人・教師との関係、家庭内の問題など。
基本的な対応
・登校を強要せず、本人の気持ちを受け止めて休息を保障する。 ・本人、保護者、学校から情報を集め、背景を評価する。 ・必要に応じてカウンセリング、家族への支援、学校(担任、養護教諭、スクールカウンセラー)との連携を行う。 ・教育支援センター(適応指導教室)、保健室登校や別室登校、フリースクールなど、学校以外の居場所や段階的な登校の方法も活用する。 ・薬物療法は、治療が必要な精神疾患が明らかになった場合に限って考える。
POINT
・不登校は診断名ではなく状態であり、身体疾患・精神疾患・神経発達症・環境要因を評価する ・登校意思はあるのに行けない葛藤状態では、登校を強要しない ・初期対応は、休息の保障、背景の評価、家族・学校との連携 ・原因が不明な段階での転校・入院・薬物療法は行わない
