骨髄液が引けないとき―dry tapの先にある骨髄線維症と骨髄生検
第110回医師国家試験 G問題 第55問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。腹部膨満感と倦怠感とを主訴に来院した。3か月前から腹部膨満感と倦怠感とを自覚するようになり徐々に増強してきたため受診した。眼瞼結膜は貧血様である。右季肋下に肝を3 cm,左季肋下に脾を10 cm触知する。血液所見:赤血球340万,Hb 10.2 g/dL,Ht 33%,白血球8,700(骨髄球3%,後骨髄球5%,好中球59%,好酸球4%,好塩基球2%,単球8%,リンパ球19%,赤芽球3個/100白血球),血小板35万。血液生化学所見:総蛋白6.8 g/dL,アルブミン3.8 g/dL,総ビリルビン1.2 mg/dL,AST 36 IU/L,ALT 24 IU/L,LD 587 IU/L(基準176~353),尿素窒素22 mg/dL,クレアチニン1.1 mg/dL。骨髄穿刺ではdry tapで骨髄液を採取できなかった。 診断のために次に行うべき検査はどれか。
- a.骨髄生検
- b.骨髄MRI
- c.腹部超音波検査
- d.JAK2遺伝子検査
- e.骨シンチグラフィ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
巨脾、末梢血の白赤芽球症、骨髄穿刺でのdry tapがそろえば、まず原発性骨髄線維症を疑います。確定には骨髄に線維化が起きていることを組織で示す必要があり、骨髄液が得られない以上、次に行うべきは骨髄生検で、銀染色による細網線維の増加や巨核球の異型を確認し、がんの骨髄転移など他のdry tapの原因とも鑑別します。JAK2 V617F変異は約半数で陽性ですが真性赤血球増加症や本態性血小板血症でもみられ、CALRやMPL変異例もあるため補助診断の位置づけです。骨髄MRIや骨シンチグラフィ、腹部超音波は病態把握の参考にはなっても確定診断には至りません。「骨髄液が引けなければ組織を採る」という原則は、血液疾患の診断の流れを理解するうえで欠かせない考え方です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・65歳男性で、3か月かけて腹部膨満感と倦怠感が徐々に強くなっている。 ・眼瞼結膜は貧血様で、Hb 10.2 g/dLの貧血がある。MCV(平均赤血球容積)=Ht/赤血球数×10=33/340×1000≒97 fLで、正球性貧血である。 ・肝を3 cm、脾を10 cm触知し、特に脾腫が著明(巨脾)である。 ・白血球数8,700/μLは基準範囲内だが、本来は末梢血に出てこない骨髄球・後骨髄球(幼若な顆粒球)と赤芽球が出ている。これを白赤芽球症(leukoerythroblastosis)とよぶ。芽球は出ていない。 ・LDは587 IU/Lと上昇しており、造血細胞の回転が盛んであること(無効造血など)を反映している。肝機能・腎機能は大きな異常はない。 ・骨髄穿刺は dry tap(骨髄液が吸引できない)であった。
診断へのプロセス
・巨脾をきたす血液疾患としては、骨髄増殖性腫瘍(慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症)や慢性リンパ性白血病などがある。 ・白赤芽球症は、骨髄の外で造血が行われている(髄外造血)か、腫瘍の骨髄浸潤で骨髄の構造が壊れている場合に出現する。代表的な原因は骨髄線維症と、がんの骨髄転移である。 ・dry tap は、骨髄が線維で置き換わっている場合(骨髄線維症など)や、腫瘍細胞が骨髄にぎっしり詰まっている場合(急性白血病、慢性骨髄性白血病の急性転化、有毛細胞白血病、がんの骨髄転移など)にみられる。本例は末梢血に芽球がなく、白血球数も増えていないため、急性白血病や急性転化は考えにくい。 ・以上の「巨脾+白赤芽球症+dry tap」の組み合わせから、原発性骨髄線維症が最も疑われる。
次に行う検査
骨髄線維症の診断で最も重要なのは、骨髄に線維化が起きていることを組織で証明することである。骨髄穿刺で骨髄液が得られなかったため、骨の組織ごと採取する骨髄生検を行い、銀染色(鍍銀染色)で細網線維の増加、トリクローム染色で膠原線維の増加、さらに巨核球の異型などを確認する。骨髄生検は、がんの骨髄転移など dry tap をきたす他疾患との鑑別にも役立つ。
選択肢考察
- ○a. 骨髄生検
骨髄穿刺で dry tap となったときは、生検針で骨髄を組織片として採取する骨髄生検が必要である。骨髄生検では、細網線維や膠原線維の増加(線維化の程度)、骨硬化、巨核球の増生と形態異常を直接観察でき、骨髄線維症の診断に欠かせない。さらに、がん細胞の骨髄転移や白血病細胞の浸潤など、dry tap をきたす他の疾患との鑑別にもなる。また、WHO分類でも骨髄の組織所見は原発性骨髄線維症の大基準とされている。したがって次に行うべき検査である。
- ×b. 骨髄MRI
骨髄線維症では、脂肪髄・造血髄が線維に置き換わるため、骨髄はT1強調像・T2強調像ともに低信号となることがある。こうした所見は骨髄の状態を大まかにつかむのに参考にはなるが、線維化を組織学的に証明することはできず、他疾患との区別もつかないため、確定診断には使えない。
- ×c. 腹部超音波検査
肝脾腫の大きさや門脈系の状態を評価するのには役立つが、肝脾腫の原因を特定することはできない。骨髄線維症の診断に必要な骨髄の線維化は、腹部超音波では評価できない。
- ×d. JAK2遺伝子検査
JAK2 V617F変異は原発性骨髄線維症の約半数(50〜60%程度)にみられ、変異があれば、反応性の線維化ではなくクローン性の骨髄増殖性腫瘍であることを支持する重要な所見となる。しかし、真性赤血球増加症(約95%)や本態性血小板血症(約50〜60%)でも陽性になり、骨髄線維症に特異的ではない。また、陰性でもCALRやMPLの変異をもつ骨髄線維症があるため、陰性でも否定できない。診断の補助として行う検査であり、まず優先すべきなのは線維化を直接確認する骨髄生検である。
- ×e. 骨シンチグラフィ
骨髄線維症では骨硬化を伴うと集積が全身でびまん性に増えることがあり、がんの骨転移の検索にも使われる。しかし、骨髄の線維化そのものを示すことはできず、確定診断には結びつかない。
原発性骨髄線維症の概要
・造血幹細胞のクローン性の異常により、巨核球などの異常な増殖が起こる骨髄増殖性腫瘍の一つである。異常な巨核球などから放出されるサイトカイン(TGF-βやPDGFなど)が線維芽細胞を刺激し、骨髄に反応性の線維化が起こる。 ・骨髄で造血ができなくなるため、脾臓や肝臓で髄外造血が起こり、肝脾腫(特に巨脾)となる。 ・中高年に多い。
主な所見
・末梢血:貧血、白赤芽球症、涙滴赤血球(dacrocyte) ・白血球数・血小板数は、早い時期には増えていることもあり、進行すると減少する。 ・LD上昇 ・骨髄穿刺は dry tap になりやすく、骨髄生検で線維化と巨核球の異型を確認する。 ・ドライバー遺伝子変異:JAK2 V617F(約50〜60%)、CALR(約25%)、MPL(5〜10%程度)。いずれも認めないもの(トリプルネガティブ)もある。
dry tap をきたす主な疾患
骨髄線維症(原発性・二次性)、急性白血病、慢性骨髄性白血病の急性転化、有毛細胞白血病、がんの骨髄転移など。
白赤芽球症をきたす主な病態
骨髄線維症、がんの骨髄転移、造血器腫瘍の骨髄浸潤、重い感染症や大量出血後の強い造血刺激など。
治療
・同種造血幹細胞移植が唯一の根治的治療であるが、適応は年齢や全身状態から限られる。 ・脾腫や全身症状にはJAK阻害薬(ルキソリチニブなど)が使われる。 ・貧血に対しては輸血などの支持療法を行う。 ・一部は急性骨髄性白血病に移行する。
POINT
・巨脾+白赤芽球症+dry tap → 原発性骨髄線維症を考える ・末梢血には涙滴赤血球もみられる ・dry tap のときは骨髄生検で線維化を組織学的に証明する(銀染色で細網線維の増加) ・JAK2 V617Fは約半数で陽性だが、真性赤血球増加症や本態性血小板血症でもみられ、特異的ではない(補助診断)
