StudyMed医師国家試験

痛くなる前に飲み、突然の痛みには速く効く薬で―WHO除痛ラダーとレスキューの基本

第110回医師国家試験 G問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第2問

WHO方式がん性疼痛治療法〈3段階除痛ラダー〉について正しいのはどれか。

  1. a.第1段階から医療用麻薬を使用する。
  2. b.第2段階から鎮痛補助薬を併用する。
  3. c.第2段階では第1段階薬剤を中止する。
  4. d.第2段階での経口薬は疼痛時に服用する。
  5. e.レスキューは短時間作用性の薬剤を用いる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、WHO方式がん疼痛治療法の3段階除痛ラダーについて問う問題だ。ポイントは2つ。各段階でどんな薬を使い、前の段階の薬をどう扱うか。そして、鎮痛薬を「いつ」「どのように」使うか。まずはラダーの骨組みを確認しよう。第1段階では何を使うかな。
医学生医学生
CBTの勉強では、第1段階はアセトアミノフェンやNSAIDsだったと覚えています。
ドクタードクター
その通り。第1段階は軽度の痛みに対する非オピオイド鎮痛薬だ。オピオイド、つまり麻薬系の薬を使い始めるのは第2段階からになる。第2段階ではコデインやトラマドールといった、軽度〜中等度の痛みに用いるオピオイド、いわゆる弱オピオイドを使う。
医学生医学生
では第1段階から医療用麻薬を使う、というのは誤りですね。ちなみにトラマドールも麻薬なんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。トラマドールはオピオイドだけれど、日本では麻薬に指定されていない。一方、コデインは医療用麻薬に分類される。オピオイドと医療用麻薬は完全には一致しない、という点は覚えておくといい。第3段階では、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンといった強オピオイドに切り替える。
医学生医学生
第2段階に進んだら、第1段階のNSAIDsはやめてオピオイドに置き換えるんでしょうか。
ドクタードクター
そこが引っかかりやすいところだ。答えは、続けたまま上乗せする。非オピオイド鎮痛薬は主に末梢で働き、炎症に伴う痛みにも効く。オピオイドは中枢のオピオイド受容体を介して働く。作用の場所と仕組みが違うから、併用すると鎮痛効果が高まるんだ。第3段階でも禁忌がなければ併用を続ける。
医学生医学生
薬理学で習った作用機序の違いが、ここで生きてくるんですね。鎮痛補助薬は第2段階から加えるものですか。
ドクタードクター
いや、鎮痛補助薬は特定の段階から使い始めるものではない。本来は鎮痛薬ではないけれど特定の痛みに効く薬で、神経障害性疼痛に対する抗けいれん薬や抗うつ薬、骨転移や神経圧迫の痛みに対するコルチコステロイドなどがある。しびれや電撃痛があれば、第1段階でもプレガバリンなどを加えることがあるよ。
医学生医学生
痛みの性質に合わせて、どの段階でも使えるということですね。では飲むタイミングはどうでしょう。痛いときに飲むのが自然な気がしますが。
ドクタードクター
そう感じる人は多い。でも、がんの痛みの多くは一日中続く持続痛だ。痛いときだけ飲むと血中濃度が上下して、痛みのない時間を保てない。だから段階にかかわらず、時間を決めて規則正しく投与する、つまりby the clockが原則なんだ。第2段階の経口薬を疼痛時に服用する、というのは誤りになる。
医学生医学生
緩和ケア科を回ったとき、定時の内服とは別に「レスキュー」という指示が出ていました。あれは頓用ですよね。
ドクタードクター
まさにそれが正解のポイントだ。定期投与をしていても一時的に強まる痛みを突出痛といい、これに対する追加投与をレスキューという。突出痛を速やかに抑えたいから、効き始めが速く作用時間の短い速放性製剤を使う。経口のモルヒネやオキシコドンの散剤・内用液、注射剤のボーラス投与、フェンタニルの口腔粘膜吸収製剤などがある。
医学生医学生
徐放性製剤だと効くまでに時間がかかるので、レスキューには向かないわけですね。
ドクタードクター
その通り。一般的には、定期投与しているオピオイドと同じ成分の速放性製剤を選ぶ。経口なら1回量は1日の定期投与量のおよそ1/6が目安とされることが多い。レスキューを使う回数が多ければ、定期投与量を増やすことを検討するサインになる。
医学生医学生
オピオイドを始めるときに気をつけることはありますか。
ドクタードクター
副作用対策が大切だ。便秘はほとんど耐性ができないから、使っている間はずっと下剤で対策する。悪心・嘔吐は使い始めや増量時に多いけれど、数日から1、2週間で耐性ができることが多い。眠気にも注意する。呼吸抑制を心配する声は多いが、痛みに見合った量であれば起こることはまれだ。オピオイドには事実上の天井効果がないので、痛みが取れて副作用が許容できる量まで患者ごとに調整していく。
医学生医学生
ラダーは今でも必ず順番どおりに上がるものなんでしょうか。
ドクタードクター
いい視点だね。2018年のWHOガイドライン改訂で、「除痛ラダーに沿って効力の順に」は基本原則から外された。痛みが強ければ、最初から強オピオイドを使ってもよいとされている。ただ、ラダーは鎮痛薬選択の考え方を学ぶ枠組みとして今も使われているから、構造はしっかり押さえておこう。

まとめ

WHO方式の3段階除痛ラダーでは、第1段階でアセトアミノフェンやNSAIDsなどの非オピオイド鎮痛薬を使い、第2段階で弱オピオイド、第3段階で強オピオイドを用います。非オピオイド鎮痛薬は上の段階でも中止せずに併用し、鎮痛補助薬は痛みの性質に応じてどの段階でも加えられます。がん疼痛の多くは持続痛であるため、鎮痛薬は時間を決めて規則正しく投与するのが原則で、突出痛に対しては短時間作用性の速放性製剤をレスキューとして用います。2018年の改訂でラダーに沿った段階的使用は基本原則から外れましたが、薬の選び方と使い方の考え方を理解する枠組みとして重要です。便秘対策などの副作用管理も含めて理解しておくことが、患者の苦痛を和らげる緩和ケアの実践につながります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

WHO(世界保健機関)が示したがん疼痛治療法のうち、痛みの強さに応じて鎮痛薬を段階的に選ぶ「3段階除痛ラダー」の考え方と、鎮痛薬の使い方の原則を問う問題である。

3段階除痛ラダーの骨組み

・第1段階(軽度の痛み):非オピオイド鎮痛薬を使う。具体的にはアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である。 ・第2段階(軽度〜中等度の痛み):第1段階で痛みが取れない、あるいは強くなった場合に、軽度〜中等度の痛みに用いるオピオイドを加える。いわゆる弱オピオイドで、コデイン、トラマドールなどがある。 ・第3段階(中等度〜高度の痛み):中等度〜高度の痛みに用いるオピオイドに切り替える。いわゆる強オピオイドで、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンなどがある。 ・第2・第3段階でも非オピオイド鎮痛薬は原則として続け、オピオイドと併用する。作用する部位や機序が異なるので、併用すると鎮痛効果が高まる。 ・鎮痛補助薬は、どの段階でも必要に応じて併用する。鎮痛補助薬とは、本来は鎮痛薬ではないが特定の痛みに効く薬であり、神経障害性疼痛に用いる抗けいれん薬・抗うつ薬、骨転移や神経圧迫による痛みに用いるコルチコステロイドなどがある。

鎮痛薬の使い方

がんの痛みの多くは一日中続く持続痛である。そのため、痛くなってから飲むのではなく、時間を決めて定期的に投与し(by the clock)、血中濃度を一定に保つことが基本となる。定期投与をしていても一時的に強くなる痛み(突出痛)には、作用の発現が速く持続時間の短い速放性製剤を追加する。この追加投与をレスキュー(レスキュー・ドーズ)という。 以上を踏まえて各選択肢を判断する。

選択肢考察

  1. ×a.  第1段階から医療用麻薬を使用する。

    誤り。第1段階で使うのは、アセトアミノフェンやNSAIDsといった非オピオイド鎮痛薬であり、必要に応じて鎮痛補助薬を併用する。オピオイドを使い始めるのは第2段階からである。なお、第2段階の薬のうちコデインは日本では医療用麻薬に分類されるが、トラマドールは麻薬に指定されていない。

  2. ×b.  第2段階から鎮痛補助薬を併用する。

    誤り。鎮痛補助薬は特定の段階から使い始める薬ではない。痛みの性質に応じて、第1段階から第3段階までのどの段階でも併用できる。例えば、しびれ・電撃痛を伴う神経障害性疼痛には、第1段階であってもプレガバリンなどの抗けいれん薬や抗うつ薬を加えることがある。

  3. ×c.  第2段階では第1段階薬剤を中止する。

    誤り。第2段階に進むときは、第1段階の非オピオイド鎮痛薬を続けたまま、弱オピオイドを「上乗せ」する。非オピオイド鎮痛薬は主に末梢で働き、炎症に伴う痛みにも効く。一方、オピオイドは中枢のオピオイド受容体を介して働く。作用機序が異なるため、併用すると相加的な鎮痛効果が得られる。第3段階でも、禁忌がなければ同じように併用を続ける。

  4. ×d.  第2段階での経口薬は疼痛時に服用する。

    誤り。がん疼痛の多くは持続的な痛みである。痛いときだけ服用すると血中濃度が上下し、痛みのない時間を保てない。そのため、段階にかかわらず鎮痛薬は時間を決めて規則正しく投与する(by the clock)のが原則である。頓用で服用するのは、定期投与に加えて突出痛に使うレスキューの場合に限られる。

  5. ○e.  レスキューは短時間作用性の薬剤を用いる。

    正しい。レスキューは、定期投与中に一時的に強まる突出痛を速やかに抑えるための追加投与である。そのため、効き始めが速く作用時間の短い製剤を使う。経口モルヒネ・オキシコドンの速放性製剤(散剤・内用液など)、注射剤のボーラス投与、フェンタニルの口腔粘膜吸収製剤などが用いられる。一般には、定期投与しているオピオイドと同じ成分の速放性製剤を選ぶ。徐放性製剤は効果が出るまでに時間がかかるため、レスキューには向かない。

WHO方式がん疼痛治療法:鎮痛薬使用の基本原則

1986年に示された原則は、次の5つである。 ・経口的に(by mouth):可能なら簡便な経口投与を優先する。 ・時間を決めて規則正しく(by the clock):持続痛に対して定期的に投与する。 ・除痛ラダーに沿って効力の順に(by the ladder) ・患者ごとの個別的な量で(for the individual):オピオイドには有効限界(天井効果)が事実上なく、痛みが取れて副作用が許容できる量まで、患者ごとに増量して調整する。 ・そのうえで細かい配慮を(with attention to detail):副作用対策や患者への説明などを行う。 2018年のWHOガイドライン改訂で、「除痛ラダーに沿って効力の順に」は基本原則から外された。現在の原則は残りの4つである。痛みが強い場合は、第1段階から順を追わずに、最初から強オピオイドを使ってよいとされた。ラダー自体は、鎮痛薬選択の考え方を学ぶための枠組みとして引き続き用いられている。

オピオイドの主な副作用

・便秘:耐性がほとんどできないため、使用中は継続して下剤で対策する。 ・悪心・嘔吐:使い始めや増量時に多く、数日〜1、2週間で耐性ができることが多い。 ・眠気 ・呼吸抑制:痛みに見合った量であれば、起こることはまれである。

レスキュー量の目安

経口オピオイドでは、1日の定期投与量のおよそ1/6(10〜20%程度)を1回量とすることが多い。レスキューの使用回数が多ければ、定期投与量を増やすことを検討する。

POINT

・第1段階は非オピオイド鎮痛薬で、オピオイドは第2段階から使う。 ・非オピオイド鎮痛薬は、第2・第3段階でもオピオイドと併用して続ける。 ・鎮痛補助薬は全段階で、必要に応じて併用する。 ・定期鎮痛薬は時間を決めて規則正しく投与する(by the clock)。痛いときだけの頓用は不適切である。 ・突出痛にはレスキューとして速放性(短時間作用性)製剤を使う。 ・2018年の改訂で「ラダーに沿って」は基本原則から外れた。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。