痛くなる前に飲み、突然の痛みには速く効く薬で―WHO除痛ラダーとレスキューの基本
第110回医師国家試験 G問題 第2問
国試問題にチャレンジ
WHO方式がん性疼痛治療法〈3段階除痛ラダー〉について正しいのはどれか。
- a.第1段階から医療用麻薬を使用する。
- b.第2段階から鎮痛補助薬を併用する。
- c.第2段階では第1段階薬剤を中止する。
- d.第2段階での経口薬は疼痛時に服用する。
- e.レスキューは短時間作用性の薬剤を用いる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
WHO方式の3段階除痛ラダーでは、第1段階でアセトアミノフェンやNSAIDsなどの非オピオイド鎮痛薬を使い、第2段階で弱オピオイド、第3段階で強オピオイドを用います。非オピオイド鎮痛薬は上の段階でも中止せずに併用し、鎮痛補助薬は痛みの性質に応じてどの段階でも加えられます。がん疼痛の多くは持続痛であるため、鎮痛薬は時間を決めて規則正しく投与するのが原則で、突出痛に対しては短時間作用性の速放性製剤をレスキューとして用います。2018年の改訂でラダーに沿った段階的使用は基本原則から外れましたが、薬の選び方と使い方の考え方を理解する枠組みとして重要です。便秘対策などの副作用管理も含めて理解しておくことが、患者の苦痛を和らげる緩和ケアの実践につながります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
WHO(世界保健機関)が示したがん疼痛治療法のうち、痛みの強さに応じて鎮痛薬を段階的に選ぶ「3段階除痛ラダー」の考え方と、鎮痛薬の使い方の原則を問う問題である。
3段階除痛ラダーの骨組み
・第1段階(軽度の痛み):非オピオイド鎮痛薬を使う。具体的にはアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である。 ・第2段階(軽度〜中等度の痛み):第1段階で痛みが取れない、あるいは強くなった場合に、軽度〜中等度の痛みに用いるオピオイドを加える。いわゆる弱オピオイドで、コデイン、トラマドールなどがある。 ・第3段階(中等度〜高度の痛み):中等度〜高度の痛みに用いるオピオイドに切り替える。いわゆる強オピオイドで、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンなどがある。 ・第2・第3段階でも非オピオイド鎮痛薬は原則として続け、オピオイドと併用する。作用する部位や機序が異なるので、併用すると鎮痛効果が高まる。 ・鎮痛補助薬は、どの段階でも必要に応じて併用する。鎮痛補助薬とは、本来は鎮痛薬ではないが特定の痛みに効く薬であり、神経障害性疼痛に用いる抗けいれん薬・抗うつ薬、骨転移や神経圧迫による痛みに用いるコルチコステロイドなどがある。
鎮痛薬の使い方
がんの痛みの多くは一日中続く持続痛である。そのため、痛くなってから飲むのではなく、時間を決めて定期的に投与し(by the clock)、血中濃度を一定に保つことが基本となる。定期投与をしていても一時的に強くなる痛み(突出痛)には、作用の発現が速く持続時間の短い速放性製剤を追加する。この追加投与をレスキュー(レスキュー・ドーズ)という。 以上を踏まえて各選択肢を判断する。
選択肢考察
- ×a. 第1段階から医療用麻薬を使用する。
誤り。第1段階で使うのは、アセトアミノフェンやNSAIDsといった非オピオイド鎮痛薬であり、必要に応じて鎮痛補助薬を併用する。オピオイドを使い始めるのは第2段階からである。なお、第2段階の薬のうちコデインは日本では医療用麻薬に分類されるが、トラマドールは麻薬に指定されていない。
- ×b. 第2段階から鎮痛補助薬を併用する。
誤り。鎮痛補助薬は特定の段階から使い始める薬ではない。痛みの性質に応じて、第1段階から第3段階までのどの段階でも併用できる。例えば、しびれ・電撃痛を伴う神経障害性疼痛には、第1段階であってもプレガバリンなどの抗けいれん薬や抗うつ薬を加えることがある。
- ×c. 第2段階では第1段階薬剤を中止する。
誤り。第2段階に進むときは、第1段階の非オピオイド鎮痛薬を続けたまま、弱オピオイドを「上乗せ」する。非オピオイド鎮痛薬は主に末梢で働き、炎症に伴う痛みにも効く。一方、オピオイドは中枢のオピオイド受容体を介して働く。作用機序が異なるため、併用すると相加的な鎮痛効果が得られる。第3段階でも、禁忌がなければ同じように併用を続ける。
- ×d. 第2段階での経口薬は疼痛時に服用する。
誤り。がん疼痛の多くは持続的な痛みである。痛いときだけ服用すると血中濃度が上下し、痛みのない時間を保てない。そのため、段階にかかわらず鎮痛薬は時間を決めて規則正しく投与する(by the clock)のが原則である。頓用で服用するのは、定期投与に加えて突出痛に使うレスキューの場合に限られる。
- ○e. レスキューは短時間作用性の薬剤を用いる。
正しい。レスキューは、定期投与中に一時的に強まる突出痛を速やかに抑えるための追加投与である。そのため、効き始めが速く作用時間の短い製剤を使う。経口モルヒネ・オキシコドンの速放性製剤(散剤・内用液など)、注射剤のボーラス投与、フェンタニルの口腔粘膜吸収製剤などが用いられる。一般には、定期投与しているオピオイドと同じ成分の速放性製剤を選ぶ。徐放性製剤は効果が出るまでに時間がかかるため、レスキューには向かない。
WHO方式がん疼痛治療法:鎮痛薬使用の基本原則
1986年に示された原則は、次の5つである。 ・経口的に(by mouth):可能なら簡便な経口投与を優先する。 ・時間を決めて規則正しく(by the clock):持続痛に対して定期的に投与する。 ・除痛ラダーに沿って効力の順に(by the ladder) ・患者ごとの個別的な量で(for the individual):オピオイドには有効限界(天井効果)が事実上なく、痛みが取れて副作用が許容できる量まで、患者ごとに増量して調整する。 ・そのうえで細かい配慮を(with attention to detail):副作用対策や患者への説明などを行う。 2018年のWHOガイドライン改訂で、「除痛ラダーに沿って効力の順に」は基本原則から外された。現在の原則は残りの4つである。痛みが強い場合は、第1段階から順を追わずに、最初から強オピオイドを使ってよいとされた。ラダー自体は、鎮痛薬選択の考え方を学ぶための枠組みとして引き続き用いられている。
オピオイドの主な副作用
・便秘:耐性がほとんどできないため、使用中は継続して下剤で対策する。 ・悪心・嘔吐:使い始めや増量時に多く、数日〜1、2週間で耐性ができることが多い。 ・眠気 ・呼吸抑制:痛みに見合った量であれば、起こることはまれである。
レスキュー量の目安
経口オピオイドでは、1日の定期投与量のおよそ1/6(10〜20%程度)を1回量とすることが多い。レスキューの使用回数が多ければ、定期投与量を増やすことを検討する。
POINT
・第1段階は非オピオイド鎮痛薬で、オピオイドは第2段階から使う。 ・非オピオイド鎮痛薬は、第2・第3段階でもオピオイドと併用して続ける。 ・鎮痛補助薬は全段階で、必要に応じて併用する。 ・定期鎮痛薬は時間を決めて規則正しく投与する(by the clock)。痛いときだけの頓用は不適切である。 ・突出痛にはレスキューとして速放性(短時間作用性)製剤を使う。 ・2018年の改訂で「ラダーに沿って」は基本原則から外れた。
