妊婦のCTは本当に危ないのか―被ばく線量を「桁」で比べる感覚を身につける
第110回医師国家試験 G問題 第3問
国試問題にチャレンジ
放射線被ばくについて誤っているのはどれか。
- a.冠動脈造影CTによる被ばく量は肺の高分解能CTより多い。
- b.我が国ではCTによる被ばく量が医療被ばくの50%以上を占める。
- c.我が国では自然放射線による平均被ばく量が世界の平均より少ない。
- d.妊婦の腹部CTの被ばく量は胎児に確定的影響を及ぼす線量より多い。
- e.5回の日米間往復フライトによる被ばく量は胸部エックス線撮影より多い。
対話形式の解説
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医学生まとめ
放射線被ばくの大きさは、胸部エックス線約0.02〜0.06 mSv、日米往復フライト約0.1〜0.2 mSv、自然放射線(年間)日本約2.1 mSv・世界平均約2.4 mSv、CT 1回数〜十数mSvという「桁」で整理すると比較しやすくなります。胎児の奇形や精神発達遅滞などの確定的影響には約100 mGyのしきい線量があり、妊婦の腹部CT 1回で胎児が受ける線量(おおむね10〜数十mGy)はこれを下回るため、確定的影響が出るとは考えにくいとされます。日本はCT検査が多く医療被ばくの半分以上をCTが占める一方、自然放射線はラドンが少ないため世界平均より低く、冠動脈CTは心電図同期撮影のためHRCTより線量が多い傾向があります。医療被ばくは線量限度ではなく正当化と最適化で管理されるため、必要な検査をためらわず、かつ代替手段を検討する姿勢が求められます。線量の目安を把握しておくことは、妊娠中の検査をめぐる患者の不安に根拠をもって応えるための基本となります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
医療被ばくと自然放射線被ばくの大きさについて、おおよその値を比べる問題である。「誤っているもの」を一つ選ぶ。
考え方
正確な数値を暗記していなくても、代表的な値の「桁」が頭に入っていれば判断できる。目安は次のとおりである。 ・胸部エックス線撮影(正面1枚):約0.02〜0.06 mSv ・日米間の航空機1往復:約0.1〜0.2 mSv(高い高度では宇宙線が増えるため) ・自然放射線(年間):日本 約2.1 mSv、世界平均 約2.4 mSv ・CT 1回:数mSv〜十数mSv程度(部位や撮影条件で大きく変わる) ・胎児の確定的影響(奇形・発達障害など)のしきい線量:約100 mGy(0.1 Gy) ポイントは、通常の診断用CTで胎児が受ける線量が、確定的影響のしきい線量に届かないことである。腹部・骨盤CT 1回で胎児が受ける線量は多くても数十mGy程度で、しきい値の100 mGyを下回る。したがって、「妊婦の腹部CTの被ばく量は胎児に確定的影響を及ぼす線量より多い」という記述が誤りである。 なお、mSv(シーベルト)は人体への影響を考慮した線量(実効線量・等価線量)の単位、mGy(グレイ)は組織が吸収したエネルギー量(吸収線量)の単位である。エックス線ではおおむね1 mGy ≒ 1 mSvとみなせる。
選択肢考察
- ×a. 冠動脈造影CTによる被ばく量は肺の高分解能CTより多い。
正しい記述。冠動脈造影CTは、心電図と同期させて心拍の特定の時相に合わせて撮影し、細い血管を描出するために線量を多めにする。このため実効線量が大きくなりやすい。撮影法によって差は大きいが、かつて一般的だった心周期全体を撮影する方法では十数mSvに達することもあった。これに対し、肺の高分解能CT(HRCT:薄いスライスで肺の細かな構造を描出するCT)は、数mSv程度以下に収まることが多い。冠動脈造影CTのほうが多いとする記述は正しい。
- ×b. 我が国ではCTによる被ばく量が医療被ばくの50%以上を占める。
正しい記述。日本は人口あたりのCT装置台数が世界でも最も多い国の一つで、CT検査の件数も多い。そのため、国民の医療被ばく線量のうちCTによるものが半分以上を占めると推計されている。日本人1人あたりの医療被ばく線量(年間)は、自然放射線による被ばく線量を上回る水準と見積もられており、世界平均より多い。
- ×c. 我が国では自然放射線による平均被ばく量が世界の平均より少ない。
正しい記述。自然放射線による年間の被ばく線量は、日本では約2.1 mSv、世界平均では約2.4 mSvで、日本のほうが少ない。日本では、屋内にたまりやすいラドンの吸入による被ばくが少ない。その一方で、魚介類に含まれるポロニウム210など、食物からの被ばくが比較的多い。この食物由来の分を見直す前は、日本の値は約1.5 mSvとされていた。
- ○d. 妊婦の腹部CTの被ばく量は胎児に確定的影響を及ぼす線量より多い。
誤った記述であり、これが正解である。胎児の確定的影響(奇形、小頭症、精神発達遅滞など)には、それ以下では起こらないしきい線量があり、およそ100 mGyとされる。妊婦の腹部・骨盤CT 1回で胎児が受ける線量は、撮影条件によるがおおむね10〜数十mGy程度で、しきい線量を下回る。したがって、通常の診断用CT 1回で胎児に確定的影響が出るとは考えにくい。必要な検査であれば妊娠中でも行ってよく、被ばくを理由とした人工妊娠中絶は正当化されない(目安として100 mGy未満では勧められない)。ただし、不要な被ばくを避ける原則は変わらず、超音波検査やMRIで代わりになるかを検討する。
- ×e. 5回の日米間往復フライトによる被ばく量は胸部エックス線撮影より多い。
正しい記述。航空機が飛ぶ高度では大気による遮蔽が少なく、宇宙線による被ばくが地上より多くなる。日米間を1往復すると約0.1〜0.2 mSv被ばくするため、5往復では約0.5〜1 mSvとなる。胸部エックス線正面撮影1回の約0.02〜0.06 mSvと比べて、十倍以上多い。
放射線の影響の分類
・確定的影響(組織反応):一定のしきい線量を超えると起こり、線量が増えるほど重症になる。例として、脱毛、皮膚障害、白内障、不妊、造血障害、胎児の奇形・発達障害などがある。 ・確率的影響:しきい線量はないと仮定され、線量が増えるほど発生する確率が上がる(重症度は線量によらない)。例として、発がんや遺伝的影響があり、胎児期の被ばくでは小児がんのリスクが問題となる。
胎児被ばくと時期
・受精から2週ころまで(着床前期):影響があれば流産になり、流産しなければ影響を残さず発育する(all or noneの法則)。しきい線量は約100 mGyである。 ・妊娠3〜8週ころ(器官形成期):奇形が生じうる。しきい線量は約100 mGyである。 ・妊娠8〜25週ころ:中枢神経系の発達が盛んな時期で、精神発達遅滞や小頭症のリスクがある。特に8〜15週で感受性が高い。 確定的影響は、いずれも100 mGy程度以上の被ばくで問題となる。
医療被ばくの考え方
医療被ばくには、患者個人の線量限度は設けられていない。検査や治療の利益がリスクを上回るかを判断する「正当化」と、必要な画質を保ちながら被ばくをできるだけ少なくする「最適化」によって管理する。最適化の目安として、診断参考レベル(DRL)が用いられる。
主な線量の目安
・胸部エックス線(正面):約0.02〜0.06 mSv ・日米往復フライト:約0.1〜0.2 mSv ・自然放射線(年間):日本 約2.1 mSv、世界 約2.4 mSv ・CT 1回:数〜十数mSv程度 ・公衆の線量限度(医療・自然放射線を除く):1 mSv/年
POINT
・胎児の確定的影響のしきい線量は約100 mGyである。通常の腹部CT 1回で胎児が受ける線量はこれを下回る。 ・自然放射線の年間被ばく量は、日本が約2.1 mSv、世界平均が約2.4 mSvで、日本のほうが少ない。 ・日本はCT検査が多く、医療被ばくの半分以上をCTが占める。 ・航空機に乗ると宇宙線で被ばくする。日米往復を5回すれば、胸部エックス線撮影1回よりかなり多くなる。 ・冠動脈造影CTは、HRCTより被ばく量が多い傾向がある。
