StudyMed医師国家試験

妊婦のCTは本当に危ないのか―被ばく線量を「桁」で比べる感覚を身につける

第110回医師国家試験 G問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第3問

放射線被ばくについて誤っているのはどれか。

  1. a.冠動脈造影CTによる被ばく量は肺の高分解能CTより多い。
  2. b.我が国ではCTによる被ばく量が医療被ばくの50%以上を占める。
  3. c.我が国では自然放射線による平均被ばく量が世界の平均より少ない。
  4. d.妊婦の腹部CTの被ばく量は胎児に確定的影響を及ぼす線量より多い。
  5. e.5回の日米間往復フライトによる被ばく量は胸部エックス線撮影より多い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は放射線被ばくの大きさを比べる問題だ。正確な数値を丸暗記していなくても、代表的な線量の「桁」が頭に入っていれば解ける。胸部エックス線、航空機、自然放射線、CT、そして胎児のしきい線量。この5つの目安を並べて考えていこう。
医学生医学生
正直、数字がバラバラに頭に入っていて、どれが大きいのかすぐに比べられません。放射線医学の講義でも単位が出てきた時点で混乱しました。
ドクタードクター
まず単位を整理しよう。Gy(グレイ)は組織が吸収したエネルギー量、つまり吸収線量。Sv(シーベルト)は人体への影響を考慮した線量で、実効線量や等価線量に使う。エックス線ならおおむね1 mGyは1 mSvと考えてよいから、診断領域ではほぼ同じ物差しで比べられるんだ。
医学生医学生
それなら少し安心です。小さい順に並べると、胸部エックス線が一番小さいですよね。
ドクタードクター
そう。胸部正面1枚で約0.02〜0.06 mSv。日米間の航空機1往復は、上空で大気の遮蔽が少なく宇宙線が増えるので約0.1〜0.2 mSvになる。5往復なら0.5〜1 mSvくらいだ。
医学生医学生
じゃあフライト5往復のほうが胸部写真よりずっと多いんですね。10倍以上になります。
ドクタードクター
その通り。次に自然放射線。年間で日本は約2.1 mSv、世界平均は約2.4 mSvで、日本のほうが少ない。日本は屋内にたまるラドンの吸入が少ないのが主な理由だ。一方で、魚介類に含まれるポロニウム210など食物由来の被ばくは比較的多いという特徴もある。
医学生医学生
日本は医療被ばくが多いと聞いたことがあるので、自然放射線も多いのかと思っていました。
ドクタードクター
そこは分けて考えよう。医療被ばくについては、日本は人口あたりのCT台数が世界でもトップクラスで検査件数も多い。だから医療被ばくの半分以上をCTが占めると推計されていて、1人あたりの医療被ばくは自然放射線を上回る水準と見積もられている。
医学生医学生
CTの中でも、冠動脈CTと肺の高分解能CTではどちらが多いんでしょうか。循環器内科の実習で冠動脈CTの画像を見ましたが、線量までは意識していませんでした。
ドクタードクター
冠動脈CTは心電図同期で細い血管を描出するため線量が多くなりやすく、撮影法によっては十数mSvに達することもあった。肺のHRCTは数mSv程度以下に収まることが多いから、冠動脈CTのほうが多いという記述は正しい。
医学生医学生
そうなると残るのは妊婦の腹部CTですね。CTは線量が多いので、胎児に影響が出てしまうイメージがあります。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心で、誤っている記述だ。胎児の確定的影響、つまり奇形や小頭症、精神発達遅滞などには「これ以下では起こらない」しきい線量があり、約100 mGyとされている。妊婦の腹部・骨盤CT 1回で胎児が受ける線量は条件にもよるが、おおむね10〜数十mGy程度で、しきい線量には届かない。
医学生医学生
確定的影響はしきい線量がある、確率的影響はしきい線量がないと仮定する、というのはCBTでも出ました。胎児の奇形は確定的影響のほうなんですね。
ドクタードクター
そう。そして時期も大事だ。受精から2週ころまではall or noneの法則で、影響があれば流産、なければ影響を残さず育つ。3〜8週ころの器官形成期は奇形、8〜25週ころ、特に8〜15週は中枢神経への影響が問題になる。いずれも確定的影響は100 mGy程度以上で問題になると覚えておこう。
医学生医学生
では、妊娠に気づかずにCTを受けた患者さんが不安で相談に来たら、どう説明すればいいでしょうか。
ドクタードクター
通常の診断用CT 1回で確定的影響が出るとは考えにくいこと、100 mGy未満の被ばくを理由とした人工妊娠中絶は勧められないことを丁寧に伝える。ただし、確率的影響として小児がんのリスクがわずかに上がる可能性はゼロとは言えないから、「まったく問題ない」と断定しすぎないことも大切だ。
医学生医学生
必要な検査なら妊娠中でもためらわずに行い、でも超音波やMRIで代用できないかは常に考える、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれが「正当化」と「最適化」の考え方だ。医療被ばくには患者個人の線量限度はなく、利益がリスクを上回るかを判断する正当化と、画質を保ちつつ線量をできるだけ減らす最適化で管理する。最適化の目安には診断参考レベル(DRL)が使われる。ちなみに公衆の線量限度は年1 mSvだけど、これは医療被ばくと自然放射線を除いた値だよ。
医学生医学生
数字を桁で並べておけば、患者さんへの説明にもそのまま使えそうです。

まとめ

放射線被ばくの大きさは、胸部エックス線約0.02〜0.06 mSv、日米往復フライト約0.1〜0.2 mSv、自然放射線(年間)日本約2.1 mSv・世界平均約2.4 mSv、CT 1回数〜十数mSvという「桁」で整理すると比較しやすくなります。胎児の奇形や精神発達遅滞などの確定的影響には約100 mGyのしきい線量があり、妊婦の腹部CT 1回で胎児が受ける線量(おおむね10〜数十mGy)はこれを下回るため、確定的影響が出るとは考えにくいとされます。日本はCT検査が多く医療被ばくの半分以上をCTが占める一方、自然放射線はラドンが少ないため世界平均より低く、冠動脈CTは心電図同期撮影のためHRCTより線量が多い傾向があります。医療被ばくは線量限度ではなく正当化と最適化で管理されるため、必要な検査をためらわず、かつ代替手段を検討する姿勢が求められます。線量の目安を把握しておくことは、妊娠中の検査をめぐる患者の不安に根拠をもって応えるための基本となります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

医療被ばくと自然放射線被ばくの大きさについて、おおよその値を比べる問題である。「誤っているもの」を一つ選ぶ。

考え方

正確な数値を暗記していなくても、代表的な値の「桁」が頭に入っていれば判断できる。目安は次のとおりである。 ・胸部エックス線撮影(正面1枚):約0.02〜0.06 mSv ・日米間の航空機1往復:約0.1〜0.2 mSv(高い高度では宇宙線が増えるため) ・自然放射線(年間):日本 約2.1 mSv、世界平均 約2.4 mSv ・CT 1回:数mSv〜十数mSv程度(部位や撮影条件で大きく変わる) ・胎児の確定的影響(奇形・発達障害など)のしきい線量:約100 mGy(0.1 Gy) ポイントは、通常の診断用CTで胎児が受ける線量が、確定的影響のしきい線量に届かないことである。腹部・骨盤CT 1回で胎児が受ける線量は多くても数十mGy程度で、しきい値の100 mGyを下回る。したがって、「妊婦の腹部CTの被ばく量は胎児に確定的影響を及ぼす線量より多い」という記述が誤りである。 なお、mSv(シーベルト)は人体への影響を考慮した線量(実効線量・等価線量)の単位、mGy(グレイ)は組織が吸収したエネルギー量(吸収線量)の単位である。エックス線ではおおむね1 mGy ≒ 1 mSvとみなせる。

選択肢考察

  1. ×a.  冠動脈造影CTによる被ばく量は肺の高分解能CTより多い。

    正しい記述。冠動脈造影CTは、心電図と同期させて心拍の特定の時相に合わせて撮影し、細い血管を描出するために線量を多めにする。このため実効線量が大きくなりやすい。撮影法によって差は大きいが、かつて一般的だった心周期全体を撮影する方法では十数mSvに達することもあった。これに対し、肺の高分解能CT(HRCT:薄いスライスで肺の細かな構造を描出するCT)は、数mSv程度以下に収まることが多い。冠動脈造影CTのほうが多いとする記述は正しい。

  2. ×b.  我が国ではCTによる被ばく量が医療被ばくの50%以上を占める。

    正しい記述。日本は人口あたりのCT装置台数が世界でも最も多い国の一つで、CT検査の件数も多い。そのため、国民の医療被ばく線量のうちCTによるものが半分以上を占めると推計されている。日本人1人あたりの医療被ばく線量(年間)は、自然放射線による被ばく線量を上回る水準と見積もられており、世界平均より多い。

  3. ×c.  我が国では自然放射線による平均被ばく量が世界の平均より少ない。

    正しい記述。自然放射線による年間の被ばく線量は、日本では約2.1 mSv、世界平均では約2.4 mSvで、日本のほうが少ない。日本では、屋内にたまりやすいラドンの吸入による被ばくが少ない。その一方で、魚介類に含まれるポロニウム210など、食物からの被ばくが比較的多い。この食物由来の分を見直す前は、日本の値は約1.5 mSvとされていた。

  4. ○d.  妊婦の腹部CTの被ばく量は胎児に確定的影響を及ぼす線量より多い。

    誤った記述であり、これが正解である。胎児の確定的影響(奇形、小頭症、精神発達遅滞など)には、それ以下では起こらないしきい線量があり、およそ100 mGyとされる。妊婦の腹部・骨盤CT 1回で胎児が受ける線量は、撮影条件によるがおおむね10〜数十mGy程度で、しきい線量を下回る。したがって、通常の診断用CT 1回で胎児に確定的影響が出るとは考えにくい。必要な検査であれば妊娠中でも行ってよく、被ばくを理由とした人工妊娠中絶は正当化されない(目安として100 mGy未満では勧められない)。ただし、不要な被ばくを避ける原則は変わらず、超音波検査やMRIで代わりになるかを検討する。

  5. ×e.  5回の日米間往復フライトによる被ばく量は胸部エックス線撮影より多い。

    正しい記述。航空機が飛ぶ高度では大気による遮蔽が少なく、宇宙線による被ばくが地上より多くなる。日米間を1往復すると約0.1〜0.2 mSv被ばくするため、5往復では約0.5〜1 mSvとなる。胸部エックス線正面撮影1回の約0.02〜0.06 mSvと比べて、十倍以上多い。

放射線の影響の分類

・確定的影響(組織反応):一定のしきい線量を超えると起こり、線量が増えるほど重症になる。例として、脱毛、皮膚障害、白内障、不妊、造血障害、胎児の奇形・発達障害などがある。 ・確率的影響:しきい線量はないと仮定され、線量が増えるほど発生する確率が上がる(重症度は線量によらない)。例として、発がんや遺伝的影響があり、胎児期の被ばくでは小児がんのリスクが問題となる。

胎児被ばくと時期

・受精から2週ころまで(着床前期):影響があれば流産になり、流産しなければ影響を残さず発育する(all or noneの法則)。しきい線量は約100 mGyである。 ・妊娠3〜8週ころ(器官形成期):奇形が生じうる。しきい線量は約100 mGyである。 ・妊娠8〜25週ころ:中枢神経系の発達が盛んな時期で、精神発達遅滞や小頭症のリスクがある。特に8〜15週で感受性が高い。 確定的影響は、いずれも100 mGy程度以上の被ばくで問題となる。

医療被ばくの考え方

医療被ばくには、患者個人の線量限度は設けられていない。検査や治療の利益がリスクを上回るかを判断する「正当化」と、必要な画質を保ちながら被ばくをできるだけ少なくする「最適化」によって管理する。最適化の目安として、診断参考レベル(DRL)が用いられる。

主な線量の目安

・胸部エックス線(正面):約0.02〜0.06 mSv ・日米往復フライト:約0.1〜0.2 mSv ・自然放射線(年間):日本 約2.1 mSv、世界 約2.4 mSv ・CT 1回:数〜十数mSv程度 ・公衆の線量限度(医療・自然放射線を除く):1 mSv/年

POINT

・胎児の確定的影響のしきい線量は約100 mGyである。通常の腹部CT 1回で胎児が受ける線量はこれを下回る。 ・自然放射線の年間被ばく量は、日本が約2.1 mSv、世界平均が約2.4 mSvで、日本のほうが少ない。 ・日本はCT検査が多く、医療被ばくの半分以上をCTが占める。 ・航空機に乗ると宇宙線で被ばくする。日米往復を5回すれば、胸部エックス線撮影1回よりかなり多くなる。 ・冠動脈造影CTは、HRCTより被ばく量が多い傾向がある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。