StudyMed医師国家試験

世界地図が語る生活習慣―米国で多く東アジアで少ない「あの状態」を読み解く

第110回医師国家試験 G問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第110回 G問題 第4問

WHOが作成したある疾病または状態についての男女別の国別割合を別に示す。  この疾病または状態はどれか。

第110回 G問題 第4問の問題画像
  1. a.喫煙
  2. b.肥満
  3. c.貧困
  4. d.コレラ
  5. e.マラリア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、WHOの世界地図から疾病や状態を当てる問題だ。カギは3つ。どの所得水準の国で高いか、気候帯と関係があるか、そして男女差の向き。この3点で地図を読んでいこう。
医学生医学生
まず目に入るのは、米国が男女とも一番濃い色になっていることです。逆に日本や中国、東南アジアはかなり薄いですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。米国で男女とも30%以上、欧州やロシア、オーストラリア、南米南部も20%台と高い。一方でアジアは10%未満。つまり高所得の欧米で多い、先進国型の分布ということになる。
医学生医学生
そうなると、熱帯の途上国に多い感染症は外れそうですね。コレラとマラリアは合わない気がします。
ドクタードクター
その通り。コレラは汚染された水や食物を介して広がる経口感染症で、上下水道が不十分なアフリカや南アジアで流行する。マラリアはハマダラカが媒介する原虫感染症で、サハラ以南のアフリカを中心とした熱帯・亜熱帯に多い。米国や欧州、ロシアで高い割合になることはないし、そもそも20〜30%以上という有病割合は感染症としてありえない数字だ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、感染症の地図はアフリカが真っ赤になるパターンが多いと習いました。今回は真逆ですね。
ドクタードクター
そう、熱帯に偏るなら感染症を疑う、という読み方が使える。では貧困はどうかな。
医学生医学生
貧困ならサハラ以南のアフリカや南アジアが高くなるはずなので、米国が一番高いのはおかしいです。
ドクタードクター
正解。分布が正反対だし、貧困が男女でこれほど大きく違うことも考えにくい。残るのは喫煙と肥満。どちらも生活習慣に関わるから、ここで男女差が決め手になる。
医学生医学生
喫煙なら男性のほうがずっと多いイメージがあります。日本も中国も男性の喫煙率は高いですよね。
ドクタードクター
そこがポイントだ。喫煙率は東アジアや東欧、中東などの男性で高く、多くの途上国で男性が女性を大きく上回る。ところがこの地図では、日本や中国の男性が10%未満の最も低い区分に入っている。さらに中東・北アフリカでは女性のほうが高い。米国の喫煙率は日本と同程度かそれ以下なのに最高区分というのも合わない。
医学生医学生
じゃあ肥満ですね。米国で多くて日本で少ないのはイメージ通りです。でも、中東で女性が多いのはなぜでしょうか。
ドクタードクター
中東・北アフリカでは、文化的に女性が屋外で体を動かす機会が少ないことや、食生活の変化が背景にあると考えられている。南アフリカなどでも女性の肥満が多い。こうした男女差まで含めて、肥満の世界分布とよく一致するんだ。
医学生医学生
肥満の基準って、BMI 25以上でしたっけ。内分泌・代謝の講義でそう習った気がします。
ドクタードクター
それは日本肥満学会の基準だね。WHOでは25以上30未満を過体重、30以上を肥満としている。この地図はWHOの基準、つまりBMI 30以上の割合を示していると考えられる。日本はBMI 30以上の割合が数%程度と、先進国の中でとりわけ低いんだ。
医学生医学生
日本の基準が低めなのは、アジア人は低いBMIでも合併症が出やすいからでしたよね。
ドクタードクター
その通り。アジア人は欧米人より低いBMIでも2型糖尿病などを起こしやすいから、基準を低めにしている。標準体重はBMI 22が目安だ。さらに、肥満に耐糖能障害、脂質異常症、高血圧などの健康障害を合併するか、内臓脂肪型肥満がある場合は「肥満症」として減量治療の対象になる。肥満と肥満症を区別しておこう。
医学生医学生
総合診療科の実習で、BMIはそれほど高くないのに糖尿病が悪化している患者さんがいて、内臓脂肪の話を聞きました。
ドクタードクター
日本人に典型的なパターンだね。最後に世界の動向も押さえておこう。肥満は先進国だけでなく、都市化や食生活の欧米化が進む中・低所得国でも増えている。同じ国の中に低栄養と肥満が同時に存在する「栄養不良の二重負荷」が、今の国際保健の大きな課題になっているんだ。
医学生医学生
地図を見るときは、所得水準、気候帯、男女差の順に確認すれば絞り込めるということですね。

まとめ

世界分布図の問題では、どの所得水準の国で高いか、熱帯など気候帯に偏るか、男女差がどちら向きか、の3点に注目すると絞り込みやすくなります。米国で男女とも際立って高く、欧州・ロシア・オーストラリアでも高い一方、日本・中国など東アジアで低く、中東・北アフリカで女性が男性より多いという分布は、WHO基準(BMI 30以上)の肥満の特徴と一致します。コレラ・マラリアは熱帯の途上国に、貧困は低所得国に偏り、喫煙は多くの国で男性が女性を大きく上回るため、いずれもこの分布とは合いません。日本ではアジア人が低いBMIでも合併症を起こしやすいことからBMI 25以上を肥満とし、健康障害を伴うものを肥満症として治療対象にしています。肥満は中・低所得国でも増え「栄養不良の二重負荷」が課題となっており、疾病の地理的分布を背景要因とともに理解することは公衆衛生的な視点を養ううえで重要です。

解答・解説

正解はbです

図から読み取れること

男女別に、ある疾病・状態の有病割合(prevalence)を国ごとに4段階(10%未満、10〜19.9%、20〜29.9%、30%以上)で色分けした世界地図である。 ・米国は男女とも最も高い区分(30%以上)であり、カナダ、欧州、ロシア、オーストラリア、南米南部なども20〜29.9%と高い。 ・日本、中国、韓国、東南アジア、インドなどのアジア諸国は男女とも10%未満と低い。 ・アフリカ中部(サハラ以南)は、特に男性で低い。 ・中東・北アフリカ・南アフリカなどでは、女性が30%以上と男性より明らかに高い国が多い。

推論のプロセス

高所得の欧米諸国、特に米国で男女とも際立って高いことから、先進国型の生活習慣(過剰なエネルギー摂取、身体活動の不足)と関係する状態であると推測できる。そう考えると、熱帯・亜熱帯の途上国に偏る感染症(コレラ・マラリア)や、低所得国に多いはずの貧困は合わない。 次に男女差をみる。喫煙であれば、アジア・中東・アフリカの多くの国で男性が女性を大きく上回るはずである。しかし図では、中東・北アフリカで女性のほうが高く、日本や中国では男性でも10%未満である。これは喫煙の分布と矛盾する。 これに対し、肥満の分布とはよく一致する。肥満は米国などで多く、日本を含む東アジアで少ない。中東・北アフリカでは、文化的に女性の屋外での身体活動が少ないことや食生活の変化などから、女性の肥満が多い。以上から、この図は肥満の有病割合を示すと判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  喫煙

    誤り。喫煙率は、東アジア(中国・韓国・日本など)、東欧、中東などの男性で高い。多くの途上国では、男性の喫煙率が女性を大きく上回る。図では、日本や中国の男性が10%未満と最も低い区分にあり、中東・北アフリカでは女性が男性より高い。これらは喫煙の分布とは合わない。また、米国の喫煙率は日本と同程度かそれ以下であり、米国が男女とも最も高い区分にあることとも合わない。

  2. ○b.  肥満

    正しい。WHOの基準では、BMI(体格指数:体重kg÷身長mの2乗)30以上を肥満とする。米国が男女とも30%以上と極めて高く、欧州・ロシア・オーストラリア・南米南部などの高・中所得国でも高い。一方、日本・中国などの東アジアは低い。さらに中東・北アフリカ・南アフリカでは、女性の割合が男性より高い。これらはいずれも、肥満の世界分布の特徴とよく一致する。日本はBMI30以上の割合が数%程度と、先進国の中でとりわけ低い。

  3. ×c.  貧困

    誤り。貧困の割合は、サハラ以南のアフリカや南アジアなどの低所得国で高く、北米や西欧の高所得国では低いはずである。図では、米国が最も高く、アフリカ中部(特に男性)が低い。これは貧困の分布とは正反対である。また、貧困が男女別にこれほど大きな差を示すことも考えにくい。

  4. ×d.  コレラ

    誤り。コレラはコレラ菌(Vibrio cholerae)に汚染された水や食物を介して広がる経口感染症である。上下水道の整備が不十分なアフリカ・南アジアなどの途上国で流行する。上下水道が整った米国や西欧で有病割合が高くなることはなく、20〜30%以上という数値もコレラの有病割合としてはありえない。

  5. ×e.  マラリア

    誤り。マラリアはハマダラカが媒介する原虫感染症である。流行地はサハラ以南のアフリカを中心に、南アジア・東南アジア・南米の熱帯・亜熱帯地域にある。米国、カナダ、欧州、ロシアなどの温帯・寒冷地では土着の流行はほとんどなく、図で高い割合を示す地域とは一致しない。

肥満の判定基準

・WHO:BMI 25以上30未満を過体重(pre-obese)、30以上を肥満(obese)とする。 ・日本(日本肥満学会):BMI 25以上を肥満とする。日本人を含むアジア人は、欧米人より低いBMIでも2型糖尿病などの合併症が起こりやすいため、基準を低めに設定している。BMI 22を標準体重の目安とする。 ・肥満症:肥満があり、そのうえで肥満に関連する健康障害(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧など)を合併するか、内臓脂肪型肥満がある状態をいう。治療(減量)が必要な疾患として扱う。

世界の肥満の動向

肥満は世界中で増え続けており、先進国だけでなく、都市化と食生活の欧米化が進んだ中・低所得国でも増加している。同じ国の中に、低栄養と肥満が同時に存在する「栄養不良の二重負荷」が問題となっている。中東・北アフリカ・太平洋の島しょ国では、特に女性の肥満が多い。

図表問題の読み方

世界分布を示す図では、次の3点に注目すると絞り込みやすい。 ・どの所得水準の国で高いか(先進国型か、途上国型か) ・気候帯との関係(熱帯に偏るなら感染症を疑う) ・男女差の方向(喫煙は多くの国で男性が多い、など)

POINT

・WHOの肥満基準はBMI 30以上、日本の基準はBMI 25以上である。 ・肥満は米国で特に多く、欧州・ロシア・オーストラリアなどでも多い。日本・中国などの東アジアでは少ない。 ・中東・北アフリカなどでは女性の肥満が男性より多い。 ・喫煙率は多くの国で男性が女性より高い。コレラ・マラリアは熱帯の途上国に、貧困は低所得国に多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。