呼べば開くが言葉はない―片麻痺と失語が潜む意識障害をJCSとGCSで正しく測る
第110回医師国家試験 F問題 第8問
国試問題にチャレンジ
閉眼しているが名前を呼ぶと容易に開眼し,眼球は左方に偏位し,発語は一切無く,左上下肢には合目的な運動があり,左手は離握手に応じるが右半身は完全麻痺であった。 この患者のJapan Coma Scale〈JCS〉とGlasgow Coma Scale〈GCS〉の組合せで正しいのはどれか。
- a.JCSⅡ-30 ―― GCS 5(E3V1M1)
- b.JCSⅡ-20 ―― GCS 5(E3V1M1)
- c.JCSⅡ-20 ―― GCS 11(E4V1M6)
- d.JCSⅡ-10 ―― GCS 10(E3V1M6)
- e.JCSⅡ-10 ―― GCS 11(E4V1M6)
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
JCSのⅡ桁は開眼に必要な刺激の強さで区分され、普通の呼びかけで容易に開眼すればⅡ-10、大声や揺さぶりで開眼すればⅡ-20、痛み刺激と呼びかけの反復でかろうじて開眼すればⅡ-30です。GCSでは呼びかけで開眼するのはE3(自発開眼がE4)、発語なしはV1、命令に従えばM6で、運動反応は左右差があれば良い側の最良反応で評価するため、片麻痺があっても健側が離握手に応じればM6となり、本例はJCSⅡ-10、GCS 10(E3V1M6)です。左共同偏視・右片麻痺・発語なしは左大脳半球病変を示唆し、優位半球障害による失語はGCSのVを意識レベル以上に低く見せる点に注意が必要です。挿管や眼瞼腫脹、麻痺などもスコアを修飾するため、合計点だけでなく内訳と修飾因子を記録することが大切です。両スケールを正確に運用できることは、救急・脳卒中診療で重症度を共有し経時変化を捉えるための基本技能です。
解答・解説
正解はdです
意識障害の評価には、日本で広く使われるJapan Coma Scale(JCS)と、国際的に標準的なGlasgow Coma Scale(GCS)がある。本問は、症例の所見を両スケールに一つずつ当てはめて点数化できるかを問うている。
所見の整理
・普段は閉眼しているが、名前を呼ぶと容易に開眼する ・眼球は左方へ偏位している ・発語はまったくない ・左上下肢は目的にかなった動きをし、左手は離握手(「手を握って」「離して」)の指示に従える ・右半身は完全麻痺
JCSの判定
刺激がないと開眼しないので、覚醒している状態(Ⅰ桁)ではなく、刺激で覚醒する状態(Ⅱ桁)に入る。Ⅱ桁の中では、「普通の呼びかけで容易に開眼する」がⅡ-10、「大きな声または体を揺さぶることで開眼する」がⅡ-20、「痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する」がⅡ-30である。名前を呼ぶだけで容易に開眼するので、JCSⅡ-10となる。
GCSの判定
E(開眼):自発的には開眼していないが、呼びかけで開眼する → E3 V(言語):発語がまったくない → V1 M(運動):命令に従って離握手ができる → M6 GCSの運動反応は、左右で反応が異なる場合は良い側(最良反応)で評価する。右半身が完全麻痺でも、左手が指示に応じていればM6である。 合計はE3+V1+M6=10点となる。 以上から、JCSⅡ-10、GCS 10(E3V1M6)の組合せが正しい。
病態の推定
眼球が左へ偏位し、右片麻痺と発語の消失を伴うことから、左大脳半球(優位半球)の広範な病変(脳梗塞や脳出血など)が考えられる。大脳半球病変では、眼球は病変側(麻痺の反対側)を向く共同偏視を示す。発語がないのは意識障害だけでなく、優位半球障害による失語の影響も考えられ、このようにGCSの言語反応(V)は失語があると低く評価されうる点に注意が必要である。
選択肢考察
- ×a. JCSⅡ-30 ―― GCS 5(E3V1M1)
JCSⅡ-30は痛み刺激と呼びかけの繰り返しでかろうじて開眼する状態であり、名前を呼ぶだけで容易に開眼する本例より重い。またM1は痛み刺激にもまったく体動がない状態を指すが、本例は左手で離握手に応じており、運動反応の最良値はM6である。JCS、GCSともに誤り。
- ×b. JCSⅡ-20 ―― GCS 5(E3V1M1)
JCSⅡ-20は大きな声や体を揺さぶることで開眼する状態であり、普通の呼びかけで容易に開眼する本例はⅡ-10に当たる。GCSのM1も、指示に従って離握手できる左上肢の反応を評価しておらず誤りである(運動は最良反応で評価し、M6)。
- ×c. JCSⅡ-20 ―― GCS 11(E4V1M6)
JCSは前述のとおりⅡ-10であり、Ⅱ-20ではない。またE4は自発的に開眼している状態を指す。本例は普段閉眼していて呼びかけで初めて開眼するのでE3であり、E4ではない。
- ○d. JCSⅡ-10 ―― GCS 10(E3V1M6)
普通の呼びかけで容易に開眼するのでJCSⅡ-10である。GCSは、呼びかけで開眼するのでE3、発語がまったくないのでV1、麻痺のない左手で離握手の指示に従えるのでM6(運動は最良の反応で評価する)となり、合計10点である。両スケールとも所見と一致する。
- ×e. JCSⅡ-10 ―― GCS 11(E4V1M6)
JCSⅡ-10は正しいが、GCSの開眼をE4(自発開眼)としている点が誤りである。本例は閉眼しており、呼びかけによって開眼するのでE3であり、合計は10点となる。
Japan Coma Scale(JCS、3-3-9度方式)
Ⅰ 刺激しないでも覚醒している状態(1桁) 1:だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない 2:見当識障害がある 3:自分の名前、生年月日が言えない Ⅱ 刺激すると覚醒する状態(2桁) 10:普通の呼びかけで容易に開眼する 20:大きな声または体を揺さぶることにより開眼する 30:痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する Ⅲ 刺激しても覚醒しない状態(3桁) 100:痛み刺激に対し、払いのけるような動作をする 200:痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる 300:痛み刺激に反応しない 付記:R(不穏)、I(糞便失禁)、A(自発性喪失)を数字の後に付けることがある(例:Ⅱ-20-R)。 開眼できない状態でも、指示に応じて手を握るなどの反応があればⅡ-10相当とみなす扱いもある。
Glasgow Coma Scale(GCS)
E 開眼(eye opening) 4:自発的に開眼 3:呼びかけにより開眼 2:痛み刺激により開眼 1:開眼しない V 最良言語反応(verbal response) 5:見当識あり 4:混乱した会話 3:不適当な発語(会話が成り立たない) 2:理解不能の音声(うめき声など) 1:発語なし (気管挿管中などで評価できない場合はVTと記載する) M 最良運動反応(motor response) 6:命令に従う 5:疼痛部位を認識する(払いのけ) 4:痛み刺激から逃避する(四肢屈曲・逃避) 3:異常屈曲(除皮質硬直) 2:伸展反応(除脳硬直) 1:まったく動かない 合計3~15点で評価し、点数が低いほど重症である。頭部外傷では一般に13~15点を軽症、9~12点を中等症、8点以下を重症とする。GCS 8点以下は気道確保(気管挿管)を考慮する目安としても用いられる。
両スケールの特徴
JCSは簡便で迅速に評価でき、日本の救急現場で広く用いられるが、運動反応の評価が細かくない。GCSは開眼・言語・運動の3要素を独立に評価でき、頭部外傷の予後との相関が示され国際比較にも適している。一方で失語症、気管挿管、顔面・眼瞼の腫脹、四肢麻痺などがあると、各要素が意識レベル以外の理由で低く評価される点に注意が必要である。
共同偏視の向き
大脳半球の破壊性病変(脳梗塞、被殻出血など)では眼球は病変側を向く(麻痺側と反対を向く)。視床出血では内下方(鼻先を見つめるよう)に偏位し、橋出血では両眼が正中で固定され縮瞳(pinpoint pupils)を示すことが多い。てんかん発作時の刺激性病変では病変と反対側を向く。
POINT
・JCS:普通の呼びかけで容易に開眼=Ⅱ-10、大声・揺さぶりで開眼=Ⅱ-20、痛み刺激+呼びかけでかろうじて開眼=Ⅱ-30。 ・GCS:呼びかけで開眼はE3(自発開眼がE4)。発語なしはV1。命令に従えばM6。 ・GCSの運動は左右で差があれば最良反応で評価する(片麻痺があっても健側が指示に従えばM6)。 ・失語があるとGCSのVは意識レベル以上に低く出ることがある。 ・左共同偏視+右片麻痺+発語なし→左大脳半球病変を想定する。
