StudyMed医師国家試験

P波からQRS波まで、ちょっと長すぎない?―読む順番で見抜くⅠ度房室ブロック

第110回医師国家試験 F問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第110回 F問題 第7問

心電図を別に示す。  認められる所見はどれか。

第110回 F問題 第7問の問題画像
  1. a.右軸偏位
  2. b.心房細動
  3. c.補充調律
  4. d.左脚ブロック
  5. e.Ⅰ度房室ブロック

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は12誘導心電図から所見を選ぶ問題だ。心電図は「調律、心拍数、電気軸、各間隔、波形」の順に読むと見落としが減る。選択肢には調律の異常、軸の異常、伝導障害が混ざっているから、この順番で一つずつ確かめていこう。まず調律はどうかな。
医学生医学生
どの誘導でもQRS波の前に同じ形のP波があって、RR間隔もそろっています。洞調律だと思います。
ドクタードクター
その通り。P波とQRS波が1対1で対応し、リズムも整で心拍数は60~70/分くらい。これで心房細動は否定できるね。心房細動ならどうなっているはずだった?
医学生医学生
P波が消えて基線が細かく揺れるf波になって、RR間隔がバラバラの絶対性不整脈になります。循環器の講義で「irregularly irregular」と覚えました。
ドクタードクター
いい覚え方だ。同じ理由で補充調律も否定できる。補充調律は洞結節からの興奮が途絶えたり著しく遅れたりしたときに、房室接合部や心室といった下位の中枢が自分の自動能で拍動を引き受ける状態だ。接合部ならP波が消えたり逆行性P波になったり、心室なら幅広いQRS波がゆっくり出る。毎回きちんとP波が先行する今回とは違うね。
医学生医学生
次は電気軸ですね。Ⅰ誘導は上向きですが、Ⅱ、Ⅲ、aVFが下向きなので……右軸偏位でしょうか。
ドクタードクター
そこはよくある取り違えだよ。Ⅰ誘導が陽性でaVFが陰性なら軸は左方向に向かう。さらにⅡ誘導まで陰性なら-30°を超えた左軸偏位だ。右軸偏位はその逆で、Ⅰ誘導が陰性、Ⅲ誘導やaVFが陽性になる。
医学生医学生
Ⅰ誘導とaVFの向きで象限を決めるんでしたね。CBTの勉強で覚えたはずなのに、逆にしてしまいました。
ドクタードクター
焦ると間違えやすいところだから、毎回図を思い浮かべて確かめるといい。さて、ここからが本題だ。P波の始まりからQRS波の始まりまで、目盛りを数えてみよう。
医学生医学生
太い目盛りが1つで0.2秒なので……1つ半近くありますね。0.28秒くらいでしょうか。
ドクタードクター
そう、PQ時間が約0.28秒で、正常上限の0.20秒を明らかに超えている。しかもP波のあとにQRS波が抜けることはない。心房から心室への伝導が遅れてはいるけれど、途絶はしていない。これがⅠ度房室ブロックで、今回の正解だ。
医学生医学生
もう一つの選択肢の左脚ブロックはどうですか。QRS波の形が少し変わっている気がしたんですが。
ドクタードクター
鋭いね。でも左脚ブロックなら、V5・V6やⅠ・aVLで中隔性q波が消えて幅広く結節状のR波になり、V1~V3では深く幅広いQSやrS型、さらにQRS波と逆向きのST-T変化が見られるはずだ。今回はそうではなく、むしろV1でrSr′型、つまり右脚ブロック型の波形になっているんだ。
医学生医学生
V1でウサギの耳みたいなM字型が右脚、V6で幅広いR波が左脚、と実習で教わりました。
ドクタードクター
その対比を覚えておけば十分だ。房室ブロック全体も整理しておこう。Ⅰ度はPQ延長のみ。Ⅱ度のWenckebach型はPQ時間が徐々に延びて1拍脱落、MobitzⅡ型はPQ一定のまま突然脱落する。Ⅲ度は心房と心室がばらばらに動く房室解離で、補充調律が心室を動かすことになる。
医学生医学生
MobitzⅡ型のほうがHis束より下の障害が多くて危ないんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。高度房室ブロックへ進みやすく、ペースメーカの適応になりうる。一方、Ⅰ度房室ブロック単独なら多くは無症状で経過観察だ。ただ、この心電図にはもう一つ注意点がある。左軸偏位は左脚前枝ブロックを示唆し、右脚ブロック型の波形と合わせるといわゆる2枝ブロックの形になる。そこにPQ延長まで加わっていると、残りの伝導路にも障害が及んでいる可能性があるんだ。
医学生医学生
一つひとつは軽い所見でも、組み合わさると刺激伝導系の広い障害を疑うということですね。失神の既往があれば要注意でしょうか。
ドクタードクター
まさにそう。失神やめまいがあれば、高度房室ブロックへの進展を念頭にHolter心電図などで精査する。心電図は一つの所見を見つけて終わりにせず、順番どおり最後まで読み切ることが大切だよ。

まとめ

心電図は調律、心拍数、電気軸、PQ・QRS・QT間隔、波形の順に読むと見落としを防げます。本例は規則的なP波にQRS波が1対1で続く洞調律で、心房細動や補充調律は否定され、Ⅰ誘導陽性・Ⅱ/aVF陰性から右軸ではなく左軸偏位と判断します。PQ時間が約0.28秒と0.20秒を超えて延長し、QRS波の脱落がないことからⅠ度房室ブロックと診断でき、QRS波形はV1でrSr′型の右脚ブロック型で左脚ブロックの特徴は認めません。Ⅰ度房室ブロック単独は多くが経過観察ですが、左軸偏位と右脚ブロック型を併せ持つ場合は刺激伝導系の広範な障害を示唆し、失神などがあれば高度房室ブロックへの進展を考えて精査します。房室ブロックの分類と脚ブロックの鑑別を、読む順番とセットで身につけることが心電図判読の土台になります。

解答・解説

正解はeです

心電図は決まった順序で読むと見落としが減る。①調律(P波の有無、P波とQRS波の対応、RR間隔の規則性)、②心拍数、③電気軸、④PQ(PR)時間・QRS幅・QT時間、⑤各波形の形(P波、QRS波、ST部分、T波)の順に確認する。

調律と心拍数

どの誘導でもQRS波の前に一定の形のP波が規則正しく現れ、P波とQRS波は1対1で対応している。RR間隔は整で、心拍数はおよそ60~70/分である。したがって基本調律は洞調律であり、心房細動や補充調律は否定的である。

電気軸

Ⅰ誘導のQRS波は上向き優位、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導では下向き(S波)優位である。Ⅱ誘導が陰性であることから、電気軸は-30°より左に偏った左軸偏位と判断できる。

PQ時間

P波の始まりからQRS波の始まりまでが目立って長く、記録速度25 mm/秒(1 mm=0.04秒、太線の1目盛=0.2秒)で数えると約0.28秒に達する。正常上限の0.20秒を明らかに超えているが、P波の後のQRS波の脱落はない。これはⅠ度房室ブロックの所見である。

QRS波形

V1誘導でrSr′(R′)型を示し、右脚の伝導障害を示唆する右脚ブロック型の波形である。左脚ブロックに特徴的な、V5・V6やⅠ・aVLでの幅広い結節状のR波やQ波の消失、V1での深く幅広いQS/rS型は認めない。 以上から、選択肢の中で本心電図に当てはまるのはⅠ度房室ブロックである。なお、左軸偏位(左脚前枝ブロックを示唆)、右脚ブロック型、Ⅰ度房室ブロックが併存しており、刺激伝導系の広範な障害を示唆する組み合わせとして注意を要する心電図でもある。

選択肢考察

  1. ×a.  右軸偏位

    Ⅰ誘導のQRS波は陽性、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導は陰性優位であり、電気軸は左に偏っている(左軸偏位)。右軸偏位であれば、Ⅰ誘導が陰性優位、Ⅲ・aVF誘導が陽性優位となるはずで、本例とは逆である。

  2. ×b.  心房細動

    心房細動では明確なP波が消失して基線が細かく揺れる細動波(f波)がみられ、RR間隔は全く不規則(絶対性不整脈)となる。本例では各QRS波の前に明瞭なP波があり、RR間隔も整であるため、心房細動ではない。

  3. ×c.  補充調律

    補充調律は、洞結節からの興奮が著しく遅れたり途絶えたりしたときに、房室接合部や心室などの下位中枢が自らの自動能で心臓を拍動させる状態である。接合部補充調律ではP波が消失またはQRS波の直前・直後に逆行性P波として現れ、心室補充調律では幅広いQRS波が遅い頻度で出現する。本例では規則的なP波に毎回QRS波が続く洞調律であり、補充調律ではない。

  4. ×d.  左脚ブロック

    完全左脚ブロックでは、QRS幅が0.12秒以上に広がり、Ⅰ・aVL・V5・V6誘導で中隔性Q波が消失して幅広く結節状のR波となり、V1~V3誘導では深く幅広いQS型またはrS型を示す。さらにQRS波と逆向きの二次性ST-T変化を伴う。本例はこれらの特徴を欠き、むしろV1誘導でR′波を伴う右脚ブロック型の波形である。

  5. ○e.  Ⅰ度房室ブロック

    Ⅰ度房室ブロックは、心房から心室への興奮伝導が遅れるものの途絶はしない状態で、PQ時間が0.20秒を超えて延長し、すべてのP波にQRS波が続くことで診断する。本例ではPQ時間が約0.28秒と明らかに延長し、QRS波の脱落はないため、Ⅰ度房室ブロックに該当する。

心電図の基準値(25 mm/秒記録)

横軸1 mm(小目盛)=0.04秒、5 mm(太線の目盛)=0.20秒。 PQ時間:0.12~0.20秒 QRS幅:0.10秒未満(0.12秒以上で完全脚ブロックなどの心室内伝導障害) 心拍数の簡易計算:300 ÷ RR間隔の太線目盛数(例:太目盛5つなら約60/分)

電気軸の簡易判定

Ⅰ誘導とaVF誘導(またはⅡ誘導)のQRS波の向きで判断する。 Ⅰ陽性・aVF陽性:正常軸 Ⅰ陽性・aVF陰性:左軸方向(Ⅱ誘導も陰性なら-30°を超える左軸偏位) Ⅰ陰性・aVF陽性:右軸偏位

房室ブロックの分類

Ⅰ度:PQ時間の延長(>0.20秒)のみで、QRS波の脱落なし。多くは無症状で経過観察となる。 Ⅱ度 Wenckebach型(MobitzⅠ型):PQ時間が徐々に延長し、やがてQRS波が1拍脱落する。房室結節内の障害が多く、比較的予後良好。 Ⅱ度 MobitzⅡ型:PQ時間は一定のまま、突然QRS波が脱落する。His束以下の障害が多く、高度房室ブロックへ進展しやすいためペースメーカの適応となりうる。 Ⅲ度(完全房室ブロック):心房と心室が無関係に興奮する(房室解離)。補充調律で心室が拍動する。

脚ブロックの鑑別

右脚ブロック:V1でrsR′(M字型)、Ⅰ・V5・V6で幅広いS波。QRS幅0.12秒以上で完全、未満で不完全右脚ブロック。 左脚ブロック:V5・V6で幅広い結節状R波(中隔性q波消失)、V1で深いQS/rS型。新たに出現した左脚ブロックは急性心筋梗塞などの器質的疾患を疑う手がかりとなる。

2枝・3枝の伝導障害

右脚ブロックに左軸偏位(左脚前枝ブロック)を合併するものは2枝ブロックと呼ばれ、さらにⅠ度房室ブロックを伴う場合は残る伝導路にも障害がある可能性がある。失神などの症状があれば高度房室ブロックへの進展を念頭に精査する。

POINT

・心電図は「調律→心拍数→電気軸→各間隔→波形」の順に読む。 ・PQ時間>0.20秒でQRS波の脱落がなければⅠ度房室ブロック。 ・Ⅰ誘導陽性・Ⅱ/aVF誘導陰性は左軸偏位。 ・規則的なP波に1対1でQRS波が続けば洞調律であり、心房細動や補充調律ではない。 ・V1のR′は右脚ブロック型、V5・V6の幅広い結節状R波とV1の深いQS型は左脚ブロック。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。