P波からQRS波まで、ちょっと長すぎない?―読む順番で見抜くⅠ度房室ブロック
第110回医師国家試験 F問題 第7問
国試問題にチャレンジ
心電図を別に示す。 認められる所見はどれか。

- a.右軸偏位
- b.心房細動
- c.補充調律
- d.左脚ブロック
- e.Ⅰ度房室ブロック
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心電図は調律、心拍数、電気軸、PQ・QRS・QT間隔、波形の順に読むと見落としを防げます。本例は規則的なP波にQRS波が1対1で続く洞調律で、心房細動や補充調律は否定され、Ⅰ誘導陽性・Ⅱ/aVF陰性から右軸ではなく左軸偏位と判断します。PQ時間が約0.28秒と0.20秒を超えて延長し、QRS波の脱落がないことからⅠ度房室ブロックと診断でき、QRS波形はV1でrSr′型の右脚ブロック型で左脚ブロックの特徴は認めません。Ⅰ度房室ブロック単独は多くが経過観察ですが、左軸偏位と右脚ブロック型を併せ持つ場合は刺激伝導系の広範な障害を示唆し、失神などがあれば高度房室ブロックへの進展を考えて精査します。房室ブロックの分類と脚ブロックの鑑別を、読む順番とセットで身につけることが心電図判読の土台になります。
解答・解説
正解はeです
心電図は決まった順序で読むと見落としが減る。①調律(P波の有無、P波とQRS波の対応、RR間隔の規則性)、②心拍数、③電気軸、④PQ(PR)時間・QRS幅・QT時間、⑤各波形の形(P波、QRS波、ST部分、T波)の順に確認する。
調律と心拍数
どの誘導でもQRS波の前に一定の形のP波が規則正しく現れ、P波とQRS波は1対1で対応している。RR間隔は整で、心拍数はおよそ60~70/分である。したがって基本調律は洞調律であり、心房細動や補充調律は否定的である。
電気軸
Ⅰ誘導のQRS波は上向き優位、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導では下向き(S波)優位である。Ⅱ誘導が陰性であることから、電気軸は-30°より左に偏った左軸偏位と判断できる。
PQ時間
P波の始まりからQRS波の始まりまでが目立って長く、記録速度25 mm/秒(1 mm=0.04秒、太線の1目盛=0.2秒)で数えると約0.28秒に達する。正常上限の0.20秒を明らかに超えているが、P波の後のQRS波の脱落はない。これはⅠ度房室ブロックの所見である。
QRS波形
V1誘導でrSr′(R′)型を示し、右脚の伝導障害を示唆する右脚ブロック型の波形である。左脚ブロックに特徴的な、V5・V6やⅠ・aVLでの幅広い結節状のR波やQ波の消失、V1での深く幅広いQS/rS型は認めない。 以上から、選択肢の中で本心電図に当てはまるのはⅠ度房室ブロックである。なお、左軸偏位(左脚前枝ブロックを示唆)、右脚ブロック型、Ⅰ度房室ブロックが併存しており、刺激伝導系の広範な障害を示唆する組み合わせとして注意を要する心電図でもある。
選択肢考察
- ×a. 右軸偏位
Ⅰ誘導のQRS波は陽性、Ⅱ・Ⅲ・aVF誘導は陰性優位であり、電気軸は左に偏っている(左軸偏位)。右軸偏位であれば、Ⅰ誘導が陰性優位、Ⅲ・aVF誘導が陽性優位となるはずで、本例とは逆である。
- ×b. 心房細動
心房細動では明確なP波が消失して基線が細かく揺れる細動波(f波)がみられ、RR間隔は全く不規則(絶対性不整脈)となる。本例では各QRS波の前に明瞭なP波があり、RR間隔も整であるため、心房細動ではない。
- ×c. 補充調律
補充調律は、洞結節からの興奮が著しく遅れたり途絶えたりしたときに、房室接合部や心室などの下位中枢が自らの自動能で心臓を拍動させる状態である。接合部補充調律ではP波が消失またはQRS波の直前・直後に逆行性P波として現れ、心室補充調律では幅広いQRS波が遅い頻度で出現する。本例では規則的なP波に毎回QRS波が続く洞調律であり、補充調律ではない。
- ×d. 左脚ブロック
完全左脚ブロックでは、QRS幅が0.12秒以上に広がり、Ⅰ・aVL・V5・V6誘導で中隔性Q波が消失して幅広く結節状のR波となり、V1~V3誘導では深く幅広いQS型またはrS型を示す。さらにQRS波と逆向きの二次性ST-T変化を伴う。本例はこれらの特徴を欠き、むしろV1誘導でR′波を伴う右脚ブロック型の波形である。
- ○e. Ⅰ度房室ブロック
Ⅰ度房室ブロックは、心房から心室への興奮伝導が遅れるものの途絶はしない状態で、PQ時間が0.20秒を超えて延長し、すべてのP波にQRS波が続くことで診断する。本例ではPQ時間が約0.28秒と明らかに延長し、QRS波の脱落はないため、Ⅰ度房室ブロックに該当する。
心電図の基準値(25 mm/秒記録)
横軸1 mm(小目盛)=0.04秒、5 mm(太線の目盛)=0.20秒。 PQ時間:0.12~0.20秒 QRS幅:0.10秒未満(0.12秒以上で完全脚ブロックなどの心室内伝導障害) 心拍数の簡易計算:300 ÷ RR間隔の太線目盛数(例:太目盛5つなら約60/分)
電気軸の簡易判定
Ⅰ誘導とaVF誘導(またはⅡ誘導)のQRS波の向きで判断する。 Ⅰ陽性・aVF陽性:正常軸 Ⅰ陽性・aVF陰性:左軸方向(Ⅱ誘導も陰性なら-30°を超える左軸偏位) Ⅰ陰性・aVF陽性:右軸偏位
房室ブロックの分類
Ⅰ度:PQ時間の延長(>0.20秒)のみで、QRS波の脱落なし。多くは無症状で経過観察となる。 Ⅱ度 Wenckebach型(MobitzⅠ型):PQ時間が徐々に延長し、やがてQRS波が1拍脱落する。房室結節内の障害が多く、比較的予後良好。 Ⅱ度 MobitzⅡ型:PQ時間は一定のまま、突然QRS波が脱落する。His束以下の障害が多く、高度房室ブロックへ進展しやすいためペースメーカの適応となりうる。 Ⅲ度(完全房室ブロック):心房と心室が無関係に興奮する(房室解離)。補充調律で心室が拍動する。
脚ブロックの鑑別
右脚ブロック:V1でrsR′(M字型)、Ⅰ・V5・V6で幅広いS波。QRS幅0.12秒以上で完全、未満で不完全右脚ブロック。 左脚ブロック:V5・V6で幅広い結節状R波(中隔性q波消失)、V1で深いQS/rS型。新たに出現した左脚ブロックは急性心筋梗塞などの器質的疾患を疑う手がかりとなる。
2枝・3枝の伝導障害
右脚ブロックに左軸偏位(左脚前枝ブロック)を合併するものは2枝ブロックと呼ばれ、さらにⅠ度房室ブロックを伴う場合は残る伝導路にも障害がある可能性がある。失神などの症状があれば高度房室ブロックへの進展を念頭に精査する。
POINT
・心電図は「調律→心拍数→電気軸→各間隔→波形」の順に読む。 ・PQ時間>0.20秒でQRS波の脱落がなければⅠ度房室ブロック。 ・Ⅰ誘導陽性・Ⅱ/aVF誘導陰性は左軸偏位。 ・規則的なP波に1対1でQRS波が続けば洞調律であり、心房細動や補充調律ではない。 ・V1のR′は右脚ブロック型、V5・V6の幅広い結節状R波とV1の深いQS型は左脚ブロック。
