StudyMed医師国家試験

FLAIRで白く光る側頭葉内側―水平断MRIで扁桃体を見つけ出す

第110回医師国家試験 B問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第110回 B問題 第18問

頭部MRIのFLAIR像を別に示す。  高信号域に含まれるのはどれか。

第110回 B問題 第18問の問題画像
  1. a.赤核
  2. b.大脳脚
  3. c.淡蒼球
  4. d.乳頭体
  5. e.扁桃体

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭部MRIの水平断で高信号域の位置を解剖学的に特定する読影問題だ。考えるべきは3つ。画像の左右の向き、断面の高さ、そしてその高さに写っている構造のどこに異常があるか、だよ。
医学生医学生
まず左右ですが、画面の左が患者さんの右でしたよね。放射線科の実習で「足元から見上げている向き」と教わりました。
ドクタードクター
その通り。次に断面の高さだ。この画像では前方に前頭葉と眼窩の上部、中央に中脳、後方に小脳、両外側に側頭葉が写っている。どのレベルの断面だと思う?
医学生医学生
中脳が真ん中にあるので、中脳と側頭葉の内側を通る高さですね。
ドクタードクター
正解。そしてFLAIR像の意味も確認しておこう。FLAIRはT2強調像をベースに、髄液のような自由水の信号を抑えて黒くする撮像法だ。だから脳室や脳溝は黒く、浮腫や炎症で水分が増えた脳実質が白く浮かび上がる。
医学生医学生
T2強調像だと髄液も白いので、脳室のそばや脳表の病変が紛れてしまう。それを見やすくするのがFLAIRなんですね。
ドクタードクター
そういうこと。では高信号域はどこにある?
医学生医学生
画面の左、つまり患者さんの右側の側頭葉の内側が白くなっています。海馬あたりでしょうか。
ドクタードクター
いい読みだね。この高信号は側頭葉内側の鉤から扁桃体、さらに後方の海馬にかけて広がっている。扁桃体は鉤の深部、海馬のすぐ前方にあるアーモンド形の神経核の集まりだから、まさにこの範囲に含まれる。これが正解だ。
医学生医学生
選択肢に海馬はないので、扁桃体を選べばいいわけですね。ほかの構造も位置で確認したいです。赤核と大脳脚は中脳ですよね。
ドクタードクター
そう。赤核は中脳被蓋にあり、鉄を多く含むのでT2強調像ではむしろ低信号に見える構造だ。大脳脚は中脳の腹側にある下行線維の束で、中央部を錐体路が通る。この画像では中脳そのものに信号異常はなく、高信号域は大脳脚よりずっと外側の側頭葉にある。
医学生医学生
乳頭体は中脳の前にある小さな丸い構造でしたっけ。Wernicke脳症で障害されるところですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。乳頭体は視床下部の後端、脚間窩の前に左右一対ある。今回は正中の前方にも異常はないから含まれない。では淡蒼球はどうかな。
医学生医学生
淡蒼球は被殻の内側にあって、被殻と合わせてレンズ核ですよね。……あれ、この断面に写っていましたっけ。
ドクタードクター
いい疑問だ。淡蒼球は内包や第三脳室が見える、もっと上の基底核レベルの断面で描出される。中脳レベルのこの断面にはそもそも写っていないんだ。断面の高さを決めると、選択肢を一気に絞れるのが分かるね。
医学生医学生
解剖実習で脳の水平断を切ったときの並び方を思い出すと、イメージしやすいです。
ドクタードクター
それは大事な感覚だよ。臨床的な話もしておこう。側頭葉内側部が片側性にFLAIRで高信号を示したら、まず思い浮かべたいのは単純ヘルペス脳炎だ。発熱や意識障害、けいれんで発症し、側頭葉内側、島回、前頭葉眼窩面に病変が及びやすい。
医学生医学生
神経内科の実習で、髄液PCRの結果を待たずにアシクロビルを始めていた患者さんがいました。
ドクタードクター
それが正しい対応だ。治療開始の遅れが予後に直結するから、疑った時点で開始する。ほかに自己免疫性辺縁系脳炎、てんかん重積後の変化、神経膠腫なども鑑別に挙がる。辺縁系脳炎は両側性のことも多いね。
医学生医学生
扁桃体が両側で障害されるとKlüver-Bucy症候群になるんでしたよね。情動反応が乏しくなって、何でも口に入れようとする。
ドクタードクター
その通り。海馬は記憶、扁桃体は恐怖や不安といった情動を担う。画像で場所を特定できれば、症状との対応も見えてくるんだ。

まとめ

水平断MRIは画面の左が患者の右であり、周囲の構造から断面の高さを判断することが読影の第一歩です。FLAIR像は髄液の信号を抑えたT2強調像で、浮腫や炎症など水分の増えた病変が高信号として描出されます。中脳レベルの断面では、正中に中脳(大脳脚・赤核)、その前方に乳頭体、外側の側頭葉内側部に鉤・扁桃体・海馬が並び、淡蒼球はより上方の基底核レベルに位置します。扁桃体は鉤の深部で海馬の前方にあり、側頭葉内側部の高信号に含まれます。片側の側頭葉内側部の高信号では単純ヘルペス脳炎を想起し速やかにアシクロビルを開始するなど、正確な解剖学的読影は迅速な臨床判断の土台となります。

解答・解説

正解はeです

本問は、頭部MRIの水平断(軸位断)で異常信号の位置を解剖学的に特定できるかを問う読影問題である。

画像の向きと断面の高さ

MRIの水平断は、患者を足側から見上げた向きで表示するのが原則で、画面の左側が患者の右側にあたる。提示画像では、前方に前頭葉と眼窩上部、中央に中脳、その後方に小脳、両外側に側頭葉が写っており、中脳と側頭葉内側部を通る高さの断面である。

FLAIR像とは

FLAIR(fluid-attenuated inversion recovery)像は、T2強調像を基本としながら脳脊髄液など自由水の信号を抑えて黒く表示する撮像法である。脳室や脳溝の髄液が黒くなるため、浮腫・炎症・梗塞・脱髄などで水分が増えた脳実質の病変が白く(高信号に)浮かび上がり、脳表や脳室近傍の病変を見つけやすい。

異常信号の局在

画面左側、すなわち患者の右側の側頭葉内側部に、比較的境界明瞭な高信号域がある。この領域は側頭葉内側の鉤(uncus)から扁桃体、さらに後方の海馬にかけて広がっている。一方、正中の中脳(大脳脚・赤核を含む)や、中脳のすぐ前方にある乳頭体には明らかな信号異常はない。淡蒼球はこの断面より上方(基底核・内包の高さ)にあり、そもそもこの断面には写っていない。 したがって、高信号域に含まれる構造は扁桃体である。なお、側頭葉内側部(扁桃体・海馬・鉤)が片側性に高信号を示す代表的な病態としては単純ヘルペス脳炎が挙げられ、ほかに自己免疫性辺縁系脳炎、てんかん重積後の変化、腫瘍(神経膠腫など)なども鑑別となる。

選択肢考察

  1. ×a.  赤核

    赤核は中脳被蓋に左右一対ある神経核で、黒質の背内側に位置する。鉄を多く含み、肉眼で赤みを帯びることが名称の由来で、MRIのT2強調像では鉄沈着のためむしろ低信号に見える。小脳(歯状核)や大脳皮質運動野からの入力を受け、運動の協調に関わる。本画像では中脳内部に異常信号はなく、側頭葉内側部の高信号域には含まれない。

  2. ×b.  大脳脚

    大脳脚は中脳の腹側(前方)部分をなす白質の線維束で、中央約1/3を皮質脊髄路(錐体路)、内側部を前頭橋路、外側部を頭頂・側頭・後頭橋路が通る下行性線維の通り道である。内包や皮質の病変後に錐体路のWaller変性(軸索の順行性変性)が生じると、ここに信号変化をみることがある。本画像では中脳の左右に信号異常はなく、高信号域は大脳脚の外側に離れた側頭葉内側部にある。

  3. ×c.  淡蒼球

    淡蒼球は大脳基底核の一つで、被殻の内側に位置し、被殻とあわせてレンズ核を構成する。外節と内節に分かれ、内節は基底核の主要な出力核(直接路・間接路いずれの最終出力も担う)、外節は間接路の中継核として働く。淡蒼球は内包・第三脳室レベルの断面で描出されるもので、中脳と側頭葉内側部を通る本画像の高さには含まれず、高信号域にも当たらない。

  4. ×d.  乳頭体

    乳頭体は視床下部の後端、中脳の前方(脚間窩の前)に左右一対ある小さな丸い構造である。海馬から脳弓を通る入力を受け、乳頭体視床路で視床前核へ出力するPapez回路の一部であり、記憶に関わる。Wernicke脳症では乳頭体に病変(萎縮や信号変化)が生じる。本画像では中脳前方の正中部に異常信号はなく、高信号域は外側の側頭葉内側部にあるので含まれない。

  5. ○e.  扁桃体

    扁桃体は側頭葉内側部の前方、鉤の深部で海馬の前方に位置するアーモンド形の神経核の集まりで、恐怖・不安などの情動の処理や、情動を伴う記憶の形成に中心的な役割を果たす。本画像の高信号域は患者右側の側頭葉内側部に、鉤から扁桃体、海馬にかけて広がっており、扁桃体はこの範囲に含まれる。

水平断MRIの見方の基本

・画面の左が患者の右、画面の上が前(腹側)である。 ・中脳レベルの断面では、正中に中脳(前方に大脳脚、内部に黒質・赤核、後方に中脳蓋)、その前に乳頭体・視床下部・鞍上部、外側に側頭葉(内側に鉤・扁桃体・海馬)、後方に小脳虫部が並ぶ。 ・基底核レベルの断面では、尾状核頭部、被殻、淡蒼球、内包、視床が見える。

大脳辺縁系の主な構造

・海馬:エピソード記憶の形成。 ・扁桃体:情動(恐怖・不安)の処理、情動記憶。両側障害でKlüver-Bucy症候群(情動反応の低下、口唇傾向、性行動亢進など)を呈する。 ・乳頭体・視床前核・帯状回:Papez回路(海馬→脳弓→乳頭体→乳頭体視床路→視床前核→帯状回→海馬傍回→海馬)を構成する。

側頭葉内側部にFLAIR高信号を示す主な病態

・単純ヘルペス脳炎:多くは片側性で、側頭葉内側部・島回・前頭葉眼窩面に病変が及びやすい。発熱・意識障害・けいれんで発症し、髄液PCRでHSV-DNAを確認する。疑った時点でアシクロビルを速やかに開始する。 ・自己免疫性辺縁系脳炎(抗LGI1抗体、抗NMDA受容体抗体、傍腫瘍性など):両側性のことも多い。 ・てんかん重積後の一過性変化、内側側頭葉硬化(海馬硬化)、神経膠腫など。

POINT

・水平断MRIは画面左が患者の右。断面の高さを周囲の構造(中脳・小脳・側頭葉)から判断する。 ・FLAIR像は髄液信号を抑えたT2強調像で、浮腫・炎症などの病変が高信号になる。 ・扁桃体は側頭葉内側部前方、鉤の深部で海馬の前方にある。 ・側頭葉内側部の片側性高信号では、まず単純ヘルペス脳炎を想起する。 ・赤核・大脳脚は中脳、乳頭体は中脳前方の視床下部後端、淡蒼球はより上方の基底核レベルにある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。