「女児が生まれたら」の一言が答えを変える―血友病Aの保因者確率を条件付きで読み解く
第110回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
血友病Aに罹患した父親をもつ女性が,健常な夫との間の挙児希望のため遺伝カウンセリング外来を受診した。女性に血友病Aの発症はない。 女児が生まれた場合,血友病Aの保因者となる確率はどれか。
- a.0%
- b.25%
- c.50%
- d.75%
- e.100%
対話形式の解説
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医学生まとめ
血友病AはX連鎖潜性遺伝であり、罹患男性の娘は父から必ず病的なX染色体を受け継ぐため、発症していなければ確定保因者となります。保因者女性と健常男性の子では、男児の50%が発症し、女児の50%が保因者となります。「女児が生まれた場合」は女児であることを前提とした条件付き確率なので50%であり、性別を問わず「保因者の女児が生まれる確率」なら25%になる点を読み分けることが重要です。保因者でもライオニゼーションの偏りで出血傾向を示しうること、血友病の約1/3は新規突然変異であることも押さえておきましょう。家系から遺伝子型を確定し、問いの前提を正確に読む力は、遺伝カウンセリングの実践にも直結します。
解答・解説
正解はcです
血友病Aは、凝固第VIII因子の遺伝子(F8、X染色体長腕に存在)の病的バリアントによって起こるX連鎖潜性(劣性)遺伝疾患である。男性はX染色体を1本しか持たないため、病的なXを受け継げば発症する。女性は2本のXを持つので、片方が病的でももう片方の正常なXが働き、通常は発症しない保因者となる。
ステップ1:相談者(女性)の遺伝子型を決める
父親は血友病Aの男性なので、遺伝子型はXhY(Xh:病的バリアントをもつX)である。娘は父親から必ずX染色体を受け継ぐため、相談者は必ずXhを持つ。本人は発症していないので、相談者の遺伝子型はXHXh(確定保因者)である。
ステップ2:健常な夫との子の組み合わせを考える
夫は健常男性なのでXHYである。 ・母(XHXh)からはXHまたはXhが1/2ずつ伝わる。 ・父(XHY)からは、娘にはXH、息子にはYが伝わる。 したがって、 ・女児:XHXH(非保因者)1/2、XHXh(保因者)1/2 ・男児:XHY(健常)1/2、XhY(血友病A)1/2
ステップ3:問いに答える
問われているのは「女児が生まれた場合」に保因者となる確率、つまり女児であることを前提とした条件付き確率である。女児の半数が母親のXhを受け継ぐため、答えは50%である。 なお、性別を問わず「子どもが保因者の女児である確率」と問われれば、女児である確率1/2 × 保因者である確率1/2 = 25%となる。設問の前提条件を正確に読むことが重要である。
選択肢考察
- ×a. 0%
相談者は血友病Aの父親から病的なX染色体を必ず受け継いだ確定保因者である。母親が保因者である以上、娘がその病的Xを受け継ぐ可能性は存在するので0%にはならない。0%となるのは、例えば血友病の男性の息子(父からはYしか受け継がない)が保因者・患者になる確率を問われた場合である。
- ×b. 25%
25%は、生まれる子ども全体(性別未定)のうち「保因者の女児」となる確率(1/2×1/2)であり、同様に子ども全体のうち「血友病Aの男児」となる確率も25%である。本問は「女児が生まれた場合」と性別が確定した条件での確率を問うているため、25%は誤りである。
- ○c. 50%
保因者の母(XHXh)は娘にXHかXhのどちらかを等しい確率で伝え、健常な父(XHY)は娘に必ず正常なXHを伝える。そのため女児は1/2の確率でXHXh(保因者)、1/2の確率でXHXH(非保因者)となる。女児が生まれた場合に保因者となる確率は50%で、これが正解である。
- ×d. 75%
75%という値は、この家系の組み合わせからは生じない。常染色体潜性遺伝で両親がともに保因者の場合に「子が発症しない確率」が75%となるなど、別の遺伝形式の数値と混同しないよう注意する。
- ×e. 100%
100%となるのは、血友病Aの父親(XhY)から生まれた女児の場合である。父親は娘に必ずXhを渡すため、娘は全員保因者となる(相談者本人がこれにあたる)。本問では父親(夫)は健常であり、病的Xは保因者の母親から1/2の確率でしか伝わらないので100%にはならない。
血友病の概要
・血友病A:第VIII因子の欠乏・機能異常。血友病B:第IX因子の欠乏・機能異常。いずれもX連鎖潜性遺伝で、血友病Aが約8割を占める。 ・約1/3は家族歴のない新規突然変異によって生じる。 ・症状は関節内出血・筋肉内出血など深部出血が特徴で、反復する関節内出血は血友病性関節症を招く。 ・検査では内因系凝固を反映するAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が延長し、PT(プロトロンビン時間)、血小板数、出血時間は正常である。 ・治療は欠乏因子の補充療法が基本で、第VIII因子に対するインヒビター(抗体)が生じた場合はバイパス製剤を用いる。近年は第VIII因子の機能を代替する二重特異性抗体(エミシズマブ)による定期的な出血予防も行われる。
X連鎖潜性遺伝の伝わり方の整理
・罹患男性 × 健常女性:息子は全員健常、娘は全員保因者。 ・保因者女性 × 健常男性:息子の1/2が罹患、娘の1/2が保因者。 ・罹患男性 × 保因者女性:息子の1/2が罹患、娘の1/2が罹患(ホモ接合)、1/2が保因者。 ・父から息子へは伝わらない(父は息子にYを渡すため)。
保因者女性について
保因者でもX染色体の不活化(ライオニゼーション)の偏りにより因子活性が低下し、出血傾向を示すことがある。遺伝カウンセリングでは、保因者診断や出生前診断の選択肢について、本人の意思を尊重して十分な情報提供を行う。
POINT
・血友病A・BはX連鎖潜性遺伝。罹患男性の娘は必ず保因者となる。 ・保因者女性と健常男性の子:男児の50%が発症、女児の50%が保因者。 ・「女児が生まれた場合」は条件付き確率(50%)、「子が保因者の女児である確率」なら25%。問いの前提を読み分ける。 ・父から息子への伝達はない。
