食後の血清はなぜ白く濁るのか―リポ蛋白の「出どころ」で読み解く脂質の変動
第110回医師国家試験 B問題 第16問
国試問題にチャレンジ
血液中の脂質変動について正しいのはどれか。
- a.食後はカイロミクロンが増加する。
- b.飢餓時はLDLコレステロールが上昇する。
- c.閉経後はHDLコレステロールが上昇する。
- d.LDLコレステロールの著増は乳び血清をきたす。
- e.動物性蛋白をとらないとLDLコレステロールが異常低値を示す。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血液中の脂質はリポ蛋白として運ばれ、小腸由来でTGに富むカイロミクロンは食後に増加し、空腹時にはほぼ消失するため、脂質評価は空腹時採血が基本です。血清の白濁(乳び血清)は、光を散乱させる大型のTG高含有粒子であるカイロミクロンやVLDLの増加で生じ、粒子の小さいLDLがいくら増えても血清は透明のままです。閉経後はエストロゲン低下によりLDLコレステロールが上昇しHDLコレステロールが低下し、飢餓ではLDLコレステロールも蛋白・アルブミンも低下します。また、コレステロールの大部分は内因性に合成されるため、食事内容だけで異常低値になることはありません。リポ蛋白の由来と組成から変動を理解しておくと、二次性脂質異常症の鑑別や検査結果の正しい解釈に役立ちます。
解答・解説
正解はaです
脂質は水に溶けにくいため、血液中ではアポ蛋白とリン脂質の殻で包まれた粒子、すなわちリポ蛋白の形で運ばれる。本問は、食事・飢餓・閉経・食事内容といった生理的条件で各リポ蛋白がどう増減するか、また血清が白濁する(乳び血清)のはどのリポ蛋白が増えたときかを問うている。 考え方の軸は次の二つである。 1) リポ蛋白ごとの「由来」と「中身」を押さえる。カイロミクロンは小腸で食事中の脂質(外因性脂質)から作られるトリグリセリド(TG)に富む最大の粒子である。VLDL(超低比重リポ蛋白)は肝臓で作られるTGに富む粒子で、TGを末梢に渡しながらIDL(中間比重リポ蛋白)を経てコレステロールに富むLDL(低比重リポ蛋白)へ変わる。HDL(高比重リポ蛋白)は末梢の余分なコレステロールを肝へ戻す(コレステロール逆転送)。 2) 生理的変化がどの段階に影響するかを考える。食後は小腸からの供給が増える。飢餓では材料(エネルギー・脂質)が不足する。閉経ではエストロゲンによる脂質代謝の調節が失われる。 この枠組みで考えると、食後に小腸由来のカイロミクロンが増えるという記述が正しいと判断できる。
選択肢考察
- ○a. 食後はカイロミクロンが増加する。
食事に含まれる脂肪(主にTG)は膵リパーゼで分解され、小腸上皮で再びTGに合成されたのち、アポB-48を含むカイロミクロンとしてリンパ管(胸管)経由で血中に入る。そのため食後数時間は血中カイロミクロンとTGが増加する。カイロミクロンはリポ蛋白リパーゼ(LPL)でTGを分解されて急速に小さくなり、残った粒子(カイロミクロンレムナント)は肝に取り込まれるので、健常者では空腹時(10時間以上の絶食後)の血中にはほとんど残らない。TGを空腹時に採血して評価するのはこのためである。
- ×b. 飢餓時はLDLコレステロールが上昇する。
飢餓ではエネルギー源と脂質の供給が乏しく、肝でのVLDL産生(LDLの前駆体)も落ちる。さらに末梢組織ではLDLの取り込みが進むため、一般に総コレステロール・LDLコレステロールは低下し、総蛋白やアルブミンも低下する。よって上昇するという記述は誤りである。なお、神経性やせ症では逆に高コレステロール血症がみられることがあるが、これは例外的な病態として理解しておけばよい。
- ×c. 閉経後はHDLコレステロールが上昇する。
エストロゲンは肝のLDL受容体を増やしてLDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを上げる方向に働く。閉経でエストロゲンが減ると、LDLコレステロールは上昇し、HDLコレステロールは低下傾向となる。閉経後の女性で脂質異常症や冠動脈疾患が増えるのはこのためである。上昇するという記述は誤りである。
- ×d. LDLコレステロールの著増は乳び血清をきたす。
血清が牛乳のように白く濁る乳び血清は、光を散乱させる大きなTG高含有リポ蛋白(カイロミクロンやVLDL)が著しく増えたときにみられる。食後の採血や、LPL欠損症などによる高カイロミクロン血症(Fredrickson分類I型・V型)が典型である。LDLは粒子が小さいため、家族性高コレステロール血症のようにLDLコレステロールが著増しても血清は透明のままである。
- ×e. 動物性蛋白をとらないとLDLコレステロールが異常低値を示す。
体内のコレステロールの多くは肝などで内因性に合成されており、食事からの摂取量が減っても合成が増えて補われる。したがって動物性蛋白をとらないだけでLDLコレステロールが異常低値になることはない。蛋白摂取不足で低下しやすいのは総蛋白やアルブミンである。LDLコレステロールに影響しやすいのはむしろ動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂取量で、これを控えるとLDLコレステロールは下がる方向に働くが、異常低値となるわけではない。
主なリポ蛋白の特徴
・カイロミクロン:小腸で合成。最も大きく比重が最も小さい。主成分はTG(食事由来)。主要アポ蛋白はB-48。食後に増加する。 ・VLDL:肝で合成。TGに富む。主要アポ蛋白はB-100。LPLでTGを失いIDLを経てLDLになる。 ・LDL:コレステロールに富む。LDL受容体を介して肝・末梢に取り込まれる。増加すると動脈硬化を促進する(いわゆる悪玉)。 ・HDL:肝・小腸で産生。主要アポ蛋白はA-I。末梢からコレステロールを引き抜き肝へ戻す(いわゆる善玉)。
血清の外観
空腹時の血清は通常透明である。TGが高度に上昇してカイロミクロンやVLDLが増えると白濁し、カイロミクロンが多い場合は冷蔵庫に一晩置くと上層にクリーム層が浮く。この所見はFredrickson分類のI型(カイロミクロン増加)、V型(カイロミクロン+VLDL増加)の推定に用いられる。
脂質値を変動させる生理的・病的要因
・LDLコレステロール上昇:閉経、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、閉塞性黄疸、飽和脂肪酸の過剰摂取など。 ・LDLコレステロール低下:飢餓・低栄養、甲状腺機能亢進症、肝硬変など肝合成能低下、無βリポ蛋白血症など。 ・HDLコレステロール低下:喫煙、肥満、運動不足、高TG血症、閉経。 ・HDLコレステロール上昇:エストロゲン、適度な飲酒、運動、CETP欠損症。
POINT
・食後に増えるのは小腸由来のカイロミクロン(TGに富む)。脂質評価は空腹時採血が基本。 ・乳び血清はTGに富む大型粒子(カイロミクロン・VLDL)の増加でみられ、LDL増加では生じない。 ・閉経後はエストロゲン低下によりLDLコレステロール上昇・HDLコレステロール低下。 ・飢餓・低栄養ではコレステロールも蛋白・アルブミンも低下する。 ・コレステロールは大部分が内因性に合成されるため、食事内容だけで異常低値にはならない。
