StudyMed医師国家試験

「人生最悪の頭痛」で最初にすべきこと―くも膜下出血の再破裂を防ぐ一手

第109回医師国家試験 H問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第25問

46歳の女性。頭痛を主訴に来院した。本日午前6時に起床しトイレに行ったところ,突然の激しい頭痛が生じ悪心と嘔吐とがあった。臥床して様子をみたが頭痛が改善しないため午後2時に歩いて受診した。意識は清明。体温37.2℃。脈拍84/分,整。血圧198/102 mmHg。項部硬直を認める。  まず行うべき処置はどれか。

  1. a.解熱
  2. b.降圧
  3. c.制吐
  4. d.鎮静
  5. e.鎮痛

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、突然の激しい頭痛で来院した患者さんに、まず何をすべきかを問う問題だ。注目したいのは「突然」という発症様式、項部硬直、そして血圧の高さ。この3つから病態を推測し、いちばん怖いことを防ぐ処置を選ぼう。まず、どんな疾患を思い浮かべるかな。
医学生医学生
起床してトイレに行ったときに急に、というのが気になります。発症時刻が言えるほどの突然の頭痛なので、くも膜下出血でしょうか。
ドクタードクター
その通り。「いつ始まったか言えるほど突然の、これまでで最悪の頭痛」はくも膜下出血を第一に考える典型的な病歴だ。排便・排尿やいきみ、起床など血圧が一時的に上がる場面での発症もよくみられる。悪心・嘔吐は急な頭蓋内圧上昇、項部硬直や微熱は、くも膜下腔に流れ出た血液が髄膜を刺激する化学的髄膜炎として説明できる。
医学生医学生
でも熱と項部硬直があるなら、細菌性髄膜炎も鑑別に入りませんか。
ドクタードクター
良い疑問だね。髄膜炎も項部硬直と発熱をきたすけれど、頭痛は数時間から数日かけて悪くなるのが普通で、「突然」は起こらない。発症様式が鑑別の決め手なんだ。さて、くも膜下出血の原因で最も多いのは何だったかな。
医学生医学生
脳動脈瘤の破裂です。神経内科の講義で、8割以上と習いました。
ドクタードクター
そう。ここが今回の問題の核心だ。破裂した動脈瘤は、血栓で一時的にふさがっているだけで、まだ非常に不安定な状態にある。発症後早期、特に24時間以内は再破裂の危険が最も高く、再破裂すると死亡や重い後遺症の割合が大きく跳ね上がる。だから初期対応の最大の目標は「再破裂を防いで、根治治療までつなぐこと」なんだ。
医学生医学生
動脈瘤には動脈圧がそのままかかるから、血圧が高いままだと再び破れやすい、ということですね。だから降圧ですか。
ドクタードクター
正解。著明な高血圧は痛みや頭蓋内圧上昇による交感神経の緊張で生じた反応性のものと考えられるけれど、放置すれば再破裂の直接の危険因子になる。ニカルジピンなどのCa拮抗薬を静脈内投与して速やかに下げる。目安は収縮期160 mmHg未満程度で、下げすぎて脳虚血を招かないよう注意も必要だ。
医学生医学生
鎮痛と鎮静もかなり大事だと思っていました。救急科の実習で、くも膜下出血疑いの患者さんにすぐ鎮痛薬を入れているのを見ました。
ドクタードクター
実際の現場では、降圧・鎮痛・鎮静は並行して行う「三本柱」だよ。痛みや不安は血圧を押し上げるから、それを除くのはとても大切。ただ、鎮痛や鎮静による血圧低下はあくまで間接的な効果で、それだけでは確実には下がらない。今回の患者さんは意識清明で不穏もないから、「まず」と問われれば再破裂に直結する高血圧そのものを是正する降圧が優先になる。
医学生医学生
制吐はどうでしょう。嘔吐でいきむと血圧が上がりそうですし、誤嚥も心配です。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。だから必要に応じて制吐薬を使うこともある。でも、それは症状を和らげる対症療法で、再破裂予防の本筋ではない。解熱も同じで、微熱は化学的髄膜炎や吸収熱によるもので、急いで下げる必要がある病態ではないんだ。
医学生医学生
患者さんが歩いて来院していて意識もはっきりしているので、つい軽く見てしまいそうです。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だ。意識清明で局所神経症候がなく、WFNS分類ではgrade I、激しい頭痛と項部硬直からHunt and Kosnik分類ではgrade II程度の比較的軽症例。こういう歩いてくる患者さんほど見逃されやすく、見逃した後に再破裂すれば一気に重症化する。軽症だからこそ、確実に再破裂を防げば良好な経過が期待できるんだ。
医学生医学生
診断はまず頭部CTですよね。CTで分からない場合はどうするんでしたっけ。
ドクタードクター
頭部単純CTで脳底槽やシルビウス裂の高吸収域を確認するのが第一歩。発症から時間が経つと検出率が下がるから、はっきりしない場合はMRIのFLAIR画像や腰椎穿刺で血性髄液やキサントクロミーを確認する。ただし腰椎穿刺は頭蓋内圧が高いと危険なので慎重に判断する。出血源は3D-CTAやMRA、脳血管撮影で調べ、開頭クリッピング術かコイル塞栓術で根治を目指す。
医学生医学生
治療が終わっても、脳血管攣縮が心配だと脳神経外科の実習で聞きました。
ドクタードクター
そう、発症後4〜14日頃に起こりやすい脳血管攣縮は遅発性脳虚血の原因になる。ほかにも急性期・慢性期の水頭症、低Na血症、たこつぼ型心筋症などの合併症がある。再出血は超急性期、攣縮は1〜2週、水頭症は急性期と慢性期、という時間軸で整理しておくと臨床でも国試でも役に立つよ。

まとめ

突然発症の激しい頭痛に悪心・嘔吐や項部硬直を伴う場合は、まずくも膜下出血を疑います。原因の大部分は脳動脈瘤破裂で、破裂部は血栓で一時的にふさがっているだけのため、発症早期、特に24時間以内は再破裂の危険が最も高く、初期対応の最大の目的は再破裂の予防です。安静のもとで降圧・鎮痛・鎮静を並行して行いますが、再破裂に直結する著明な高血圧の是正(Ca拮抗薬静注などによる降圧)が最優先となり、解熱や制吐は対症療法にとどまります。根治治療は開頭クリッピング術またはコイル塞栓術で、その後は脳血管攣縮(4〜14日頃)や水頭症などの合併症に注意します。歩いて来院する軽症例ほど見逃されやすいことを意識し、病態から「最も防ぐべきこと」を考えて処置の優先順位を決める姿勢が、救急初期対応の基本になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・46歳女性。起床直後、トイレに行った際に「突然」生じた「激しい」頭痛(発症時刻を特定できる突発性の頭痛) ・悪心・嘔吐を伴う ・発症から約8時間経過しても改善せず、歩いて来院できている。意識は清明 ・体温37.2℃の微熱、血圧198/102 mmHgの著明な高血圧 ・項部硬直(髄膜刺激徴候)あり

診断へのプロセス

「いつ始まったかを言えるほど突然に起こった、これまでで最悪の頭痛」は、くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)を第一に考えるべき典型的な病歴である。排便・排尿や起床、いきみなど血圧が一時的に上がる場面での発症もSAHによくみられる。悪心・嘔吐は急激な頭蓋内圧上昇を示唆し、項部硬直と微熱は、くも膜下腔に流れ出た血液が髄膜を刺激する化学的髄膜炎によるものと解釈できる。著明な高血圧は、頭痛や頭蓋内圧上昇に伴う交感神経の緊張による反応性の上昇と考えられる。 鑑別としては細菌性髄膜炎(発熱・項部硬直を伴うが頭痛は通常数時間〜数日かけて増悪し突発性ではない)、高血圧性脳内出血(局所神経症候を伴うことが多い)、片頭痛などの一次性頭痛(突発・最悪の頭痛は通常とらない)などがあるが、突発発症という経過からSAHが最も疑わしい。重症度は、意識清明(GCS 15)で局所神経症候がないことからWFNS分類ではgrade Iに相当する。一方、Hunt and Kosnik分類では、頭痛が激しく項部硬直を伴う(脳神経麻痺以外の神経脱落症状はない)ためgrade II程度となる(grade Iは無症状または軽度の頭痛・軽度の項部硬直にとどまるもの)。いずれにせよ意識が保たれた比較的軽症の段階であり、歩いて来院できるような例ほど見逃されやすい点に注意が必要である。

設問の考え方

SAHの大部分(約80〜85%)は脳動脈瘤の破裂による。破裂した動脈瘤は一時的に血栓で止血されているだけであり、発症後早期、特に24時間以内(とりわけ最初の数時間)は再破裂(再出血)の危険が最も高い。再破裂を起こすと死亡率・重篤な後遺症の割合が大きく上昇するため、初期対応の最大の目的は「再破裂を防ぎ、根治的治療(開頭クリッピング術または血管内コイル塞栓術)までつなぐこと」である。 動脈瘤には動脈圧がそのままかかるため、血圧198/102 mmHgという著明な高血圧は再破裂の直接の危険因子となる。したがって、選択肢の中で最初に行うべき処置は降圧である。実臨床では、鎮痛・鎮静も血圧上昇の誘因を取り除く目的で降圧と並行して行われるが、「まず」行うべき、再破裂予防に直結する処置としては降圧が最も優先される。

選択肢考察

  1. ×a.  解熱

    誤り。37.2℃の微熱は、くも膜下腔に漏れた血液による化学的髄膜炎や吸収熱で説明でき、それ自体が緊急に対処すべき病態ではない。解熱を行っても再破裂の予防という初期治療の本質的な目的には寄与しないため、最優先の処置ではない。

  2. ○b.  降圧

    正しい。くも膜下出血の多くは脳動脈瘤破裂によるもので、破裂部位は血栓によって一時的に閉じているにすぎない。動脈瘤には動脈圧が直接かかるため、198/102 mmHgという高血圧を放置すると再破裂の危険が高まる。再破裂は発症後早期に起こりやすく、起これば予後を大きく悪化させるため、ニカルジピンやジルチアゼムなどのCa拮抗薬の静脈内投与で速やかに降圧することが初期対応の最優先事項である。目標としては収縮期血圧160 mmHg未満程度が目安とされ、過度の降圧による脳虚血にも注意する。

  3. ×c.  制吐

    誤り。悪心・嘔吐は頭蓋内圧上昇や髄膜刺激による症状である。嘔吐は誤嚥の原因になり、嘔吐時のいきみは血圧を上げるため、必要に応じて制吐薬を使うことはあるが、あくまで対症療法であり、再破裂の直接の危険因子である高血圧への対処より優先されるものではない。

  4. ×d.  鎮静

    誤り。不安・興奮・体動は血圧上昇の誘因となるため、実臨床では降圧・鎮痛と並行して軽い鎮静を行うことが多い。また検査(CTなど)や搬送中の安静保持にも役立つ。しかし本症例は意識清明で不穏もなく、鎮静は血圧上昇の要因を間接的に減らす補助的な処置にとどまる。「まず行うべき」処置としては、再破裂に直結する高血圧そのものを是正する降圧が優先される。

  5. ×e.  鎮痛

    誤り。くも膜下出血の激しい頭痛は交感神経を緊張させて血圧を上げるため、実臨床では鎮痛も降圧・鎮静と同時に行われる重要な処置である。しかし鎮痛による血圧低下は間接的な効果にとどまり、単独では確実な降圧は得られない。再破裂予防に直結する処置としては降圧が最優先となる。

くも膜下出血(SAH)の概要

・原因:脳動脈瘤破裂が約80〜85%を占める。ほかに脳動静脈奇形、もやもや病、脳動脈解離など。 ・好発部位(動脈瘤):前交通動脈、内頸動脈−後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部など、Willis動脈輪の前半部に多い。 ・症状:突発する激しい頭痛(「バットで殴られたような」と表現される)、悪心・嘔吐、意識障害。項部硬直・Kernig徴候などの髄膜刺激徴候は発症直後には目立たないことがあり、数時間後に明らかになることも多い。

診断の流れ

・まず頭部単純CTでくも膜下腔(脳底槽・シルビウス裂など)の高吸収域を確認する。発症早期ほど検出率が高い。 ・CTで所見がはっきりしないがSAHが強く疑われる場合は、MRIのFLAIR画像や腰椎穿刺(血性髄液、時間が経てばキサントクロミー〈黄色調の髄液〉)で確認する。ただし腰椎穿刺は頭蓋内圧が高い場合には脳ヘルニアの危険があるため慎重に判断する。 ・出血源の検索として3D-CTA(CT血管撮影)、MRA、脳血管撮影(DSA)を行う。

初期対応と治療

・再破裂予防:安静、降圧、鎮痛、鎮静。検査・処置による刺激を最小限にする。 ・根治的治療:開頭による脳動脈瘤頸部クリッピング術、または血管内治療によるコイル塞栓術。できるだけ早期(発症72時間以内が目安)に行う。

主な合併症と時期

・再出血:発症後24時間以内、特に早期に多い。 ・脳血管攣縮:発症後4〜14日頃に起こりやすく、遅発性の脳虚血を引き起こす。 ・水頭症:急性期(血腫による髄液路閉塞)と慢性期(くも膜顆粒での吸収障害による正常圧水頭症)がある。 ・その他:低Na血症(中枢性塩類喪失症候群やSIADH)、たこつぼ型心筋症・不整脈、神経原性肺水腫など。

重症度分類

Hunt and Kosnik分類(意識レベル・頭痛の程度・項部硬直・神経脱落症状で評価)やWFNS分類(Glasgow Coma Scale〈GCS〉と局所神経症候の有無で評価)が用いられる。 ・Hunt and Kosnik分類:grade Iは無症状か軽度の頭痛・軽度の項部硬直、grade IIは中等度〜強い頭痛と項部硬直があるが脳神経麻痺以外の神経脱落症状はないもの、grade III以降は傾眠・錯乱、昏迷、深昏睡と意識障害が進むにつれて重症となる。 ・WFNS分類:grade IはGCS 15で局所神経症候なし、grade IIはGCS 14〜13で局所神経症候なし、以降GCSの低下と局所神経症候の有無でgrade Vまで分ける。 本症例は意識清明で局所神経症候がないためWFNS grade I、頭痛が激しく項部硬直があるためHunt and Kosnik grade II程度と評価される。重症度は予後や治療方針の判断に用いられる。

POINT

・突然発症の激しい頭痛+悪心・嘔吐+項部硬直 → まずくも膜下出血を疑う。 ・初期対応の最大の目標は脳動脈瘤の再破裂予防。再出血は発症後24時間以内、特に早期に多い。 ・初期対応の三本柱は「降圧・鎮痛・鎮静」と安静。このうち再破裂に直結する高血圧の是正(降圧)が最優先。 ・根治的治療は開頭クリッピング術またはコイル塞栓術。 ・遅れて起こる合併症として脳血管攣縮(4〜14日頃)と水頭症を押さえる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。