胎嚢が見えない腹痛―若い女性の診療は「妊娠反応」から始まる
第109回医師国家試験 H問題 第26問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。0回経妊0回経産婦。腹痛を主訴に来院した。1週前から悪心を自覚していた。昨日の夜から右下腹部に痛みが出現し,一度嘔吐した。朝まで痛みが持続するため受診した。月経周期は30~60日型,不整。持続は6日間。最終月経は50日前で,5日前から少量の性器出血が持続している。体温37.2℃。脈拍96/分,整。血圧100/68 mmHg。内診で子宮は前傾前屈,やや腫大。右付属器領域に軽度の圧痛を認める。経腟超音波検査で子宮内膜の肥厚を認めるが,子宮内腔に胎嚢を認めない。両側付属器に異常を認めない。 次に行う検査はどれか。
- a.妊娠反応
- b.腹部MRI
- c.腹腔鏡検査
- d.血液生化学検査
- e.腹部エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
生殖年齢の女性が腹痛や不正性器出血を訴えた場合、まず妊娠反応(尿中hCG定性)で妊娠の有無を確認するのが鉄則です。月経の遅れ、悪心、子宮腫大、内膜肥厚がありながら子宮内に胎嚢を認めない場合は、異所性妊娠を最も警戒しつつ、流産やごく初期の正常妊娠も鑑別し、血中hCG定量と経腟超音波(discriminatory zone)、その経時的変化で判断を進めます。腹部エックス線やMRIは妊娠の有無を確認してから適応を考える検査であり、腹腔鏡は侵襲的なため異所性妊娠の可能性が高まった段階で行います。異所性妊娠の大部分は卵管妊娠で、破裂すると腹腔内出血からショックに陥りうるため、頻脈や血圧低下にも注意が必要です。「まず妊娠を否定する」という習慣は、診断の見落としを防ぎ、被曝や侵襲的検査から胎児と母体を守る基本姿勢として、あらゆる診療科で役立ちます。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・23歳、妊娠・分娩歴のない女性(0経妊0経産) ・最終月経は50日前。月経周期は30〜60日型で不整 ・1週前からの悪心(つわりの可能性) ・5日前から少量の性器出血が持続 ・昨夜からの右下腹部痛、嘔吐1回 ・体温37.2℃、脈拍96/分とやや頻脈、血圧100/68 mmHgとやや低め ・内診:子宮はやや腫大、右付属器領域に軽度圧痛 ・経腟超音波:子宮内膜は肥厚しているが子宮内に胎嚢(gestational sac:GS)なし、両側付属器に明らかな異常なし
診断へのプロセス
生殖年齢の女性が腹痛や性器出血を訴えた場合、どれほど本人が否定しても、まず「妊娠しているかどうか」を確かめるのが鉄則である。本症例は月経の遅れ、悪心、子宮の腫大、内膜の肥厚など、妊娠をうかがわせる所見がそろっている。そのうえで下腹部痛と不正性器出血があり、子宮内に胎嚢が見えないことから、異所性妊娠(子宮外妊娠)を最も警戒すべき状況である。ほかに、ごく初期の正常妊娠(月経周期が不整なので排卵が遅れ、実際の妊娠週数が最終月経からの計算より短い可能性がある)、流産(完全流産後など)も鑑別となる。妊娠していなければ、急性虫垂炎、卵巣嚢腫茎捻転、黄体出血、骨盤内炎症性疾患なども考える。 さらに、頻脈とやや低めの血圧は、腹腔内出血によるショックの前段階である可能性も否定できず、迅速な評価が必要である。
設問の考え方
これらの鑑別を進めるうえで、最初の分岐点は「妊娠しているか否か」である。尿の妊娠反応(hCG定性検査)は数分で結果が得られ、簡便かつ非侵襲的で、その後の検査方針を大きく左右する。陽性であれば、超音波所見と合わせて異所性妊娠・流産・ごく初期の正常妊娠を鑑別し、血中hCG定量や経時的な超音波検査へ進む。また、妊娠の可能性がある女性に放射線被曝を伴う検査や侵襲的な検査を行う前にも、妊娠の有無を確認しておく必要がある。したがって次に行う検査は妊娠反応である。
選択肢考察
- ○a. 妊娠反応
正しい。妊娠反応は尿中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を検出する検査で、短時間・低コスト・非侵襲的に妊娠の有無がわかる。本症例では月経の遅れ、悪心、子宮腫大、内膜肥厚など妊娠を示唆する所見があり、子宮内に胎嚢がないことから異所性妊娠が疑われる。異所性妊娠の診断も、まず妊娠していることの確認から始まるため、最初に行うべき検査である。陽性なら血中hCG定量と経腟超音波を組み合わせて評価を進める。
- ×b. 腹部MRI
誤り。MRIは放射線被曝がなく、超音波で着床部位がわからない異所性妊娠(間質部妊娠や頸管妊娠、帝王切開瘢痕部妊娠など)の評価に用いられることがある。しかし、妊娠初期のMRIは必要性が高い場合に限って行うのが原則であり(特にガドリニウム造影剤は避ける)、検査に時間もかかる。妊娠の有無すら確認していない段階で行う検査ではない。
- ×c. 腹腔鏡検査
誤り。腹腔鏡は異所性妊娠の確定診断と治療(卵管切除術・卵管線状切開術など)を同時に行える有用な手段だが、全身麻酔を要する侵襲的な処置である。妊娠の有無や血中hCG値、超音波所見を確認し、異所性妊娠の可能性が高いと判断してから行う。また、ごく初期の異所性妊娠では病変が小さく、腹腔鏡でも見落とすことがある。現時点で最初に行う検査ではない。
- ×d. 血液生化学検査
誤り。血液生化学検査は、腹痛をきたす他疾患(虫垂炎などの炎症、肝胆膵疾患)の鑑別や、手術に備えた全身状態の把握として行われることはある。しかし本症例で診療方針を決める最も重要な情報は妊娠の有無であり、それを確認しないまま行っても診断には直結しない。なお、腹腔内出血が疑われれば血算(貧血の評価)なども必要になるが、それは妊娠反応による方向付けと並行・あるいはその後に行う。
- ×e. 腹部エックス線撮影
誤り。腹部エックス線撮影は腸閉塞や消化管穿孔の評価には有用だが、異所性妊娠などの婦人科疾患の診断にはほとんど役立たない。さらに妊娠の可能性がある女性では胎児への放射線被曝を考慮する必要があり、少なくとも妊娠の有無を確認する前に安易に行うべきではない。
異所性妊娠とは
受精卵が子宮体部の内膜以外の場所に着床した状態である。全妊娠の約1〜2%にみられ、その大部分(約95%)は卵管妊娠で、なかでも卵管膨大部が最も多い。ほかに卵管峡部・間質部、卵巣、腹腔、子宮頸管、帝王切開瘢痕部などに起こる。
危険因子
骨盤内炎症性疾患(特にクラミジア感染)、異所性妊娠の既往、卵管手術の既往、生殖補助医療(体外受精など)、子宮内避妊具(IUD)使用中の妊娠、喫煙など。
症状
無月経(月経の遅れ)、少量の不正性器出血、下腹部痛が三徴とされる。破裂すると急激な腹痛と腹腔内出血によるショック(頻脈・血圧低下・顔面蒼白)をきたし、肩に放散する痛み(横隔膜刺激)を伴うこともある。
診断の進め方
1. 妊娠反応(尿中hCG定性)で妊娠を確認する。 2. 経腟超音波で子宮内の胎嚢の有無、付属器の腫瘤、Douglas窩の液体貯留(腹腔内出血)を確認する。 3. 血中hCG定量:経腟超音波で正常妊娠の胎嚢が確認できると期待されるhCG値(discriminatory zone、おおむね1,500〜3,500 mIU/mL程度)を超えているのに子宮内に胎嚢がなければ異所性妊娠を強く疑う。値が低い場合は数日おきにhCGの推移と超音波を再検する(正常妊娠では48時間で大きく上昇する)。 4. Douglas窩穿刺で血液が引ければ腹腔内出血を示唆する(現在は超音波で代替されることが多い)。 5. 確定診断が難しい場合や治療を兼ねる場合は腹腔鏡を行う。
治療
・破裂例やショック例:緊急手術(腹腔鏡下または開腹での卵管切除術)。 ・未破裂でバイタルが安定している例:腹腔鏡下手術(卵管切除術、将来の妊娠を希望する場合の卵管線状切開術)、メトトレキサート(MTX)による薬物療法、条件を満たせば自然消退を待つ待機療法も選択肢となる。 近年は高感度のhCG測定と経腟超音波の普及により、未破裂の段階で診断されることが多くなり、卵管を温存する治療も選択しやすくなっている。
POINT
・生殖年齢女性の腹痛・性器出血では、まず妊娠反応で妊娠の有無を確認する。 ・妊娠反応陽性で子宮内に胎嚢を認めない → 異所性妊娠、流産、ごく初期の正常妊娠を鑑別する。 ・血中hCG定量と経腟超音波の組み合わせ(discriminatory zone)、経時的変化で判断する。 ・異所性妊娠の大部分は卵管妊娠(膨大部が最多)。破裂すると腹腔内出血でショックになり得る。 ・妊娠の可能性がある女性では、放射線検査や侵襲的検査の前に妊娠の有無を確認する。
