StudyMed医師国家試験

「親友だから教えて」は通らない―院内職員でも越えられない患者情報の境界線

第109回医師国家試験 H問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第22問

26歳の女性。睡眠導入薬の過量服薬による意識障害で搬送され緊急入院となった。入院2時間後,別の病棟に勤務している看護師から担当医に「入院した患者は自分の親友で心配なので,現在の病状について教えてほしい」と電話があった。担当医は「この電話で患者の容態について教えることはできない」と看護師に伝えた。  理由として適切なのはどれか。

  1. a.診療での患者情報の利用目的から外れるため。
  2. b.情報提供には複数の医師の承認が必要であるため。
  3. c.精神疾患を持つ患者では情報提供が制限されるため。
  4. d.看護師は自分自身で患者情報を閲覧可能であるため。
  5. e.看護師が本当に患者の親友であるか確認する必要があるため。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、同じ病院の看護師から患者さんの病状を尋ねられ、担当医が断った理由を問う問題だ。テーマは個人情報保護と守秘義務。着眼点は「問い合わせてきたのが誰か」よりも「何のためにその情報を使うのか」だよ。
医学生医学生
同じ病院の看護師なら医療者同士なので、教えても問題ないように一瞬思いました。
ドクタードクター
多くの人がそう感じるところだね。でも、病院の職員かどうかは本質ではない。医療機関が患者さんから得た情報は、個人情報保護法のもとで、あらかじめ特定した利用目的、つまりその患者さんの診療やそれに付随する業務の範囲内でしか使えないんだ。
医学生医学生
診療に関わっていない看護師が「親友として心配だから」と聞くのは、診療目的ではないということですね。
ドクタードクター
その通り。だから正解は、診療での患者情報の利用目的から外れるため、だ。院内のチームでの情報共有や他科へのコンサルテーションは診療目的に含まれるので、個別の同意なしで行える。でも今回の問い合わせは私的な動機によるもので、この看護師は職員であっても「第三者」と同じ扱いになる。本人の同意がなければ伝えられない。
医学生医学生
しかも過量服薬だと、背景に自殺企図や精神的な問題があるかもしれないので、なおさら慎重にすべき情報ですよね。
ドクタードクター
いい視点だ。病歴は要配慮個人情報に位置づけられていて、とりわけ機微性が高い。では、他の選択肢がなぜ理由として不適切かを確認しよう。複数の医師の承認が必要、というのはどうかな。
医学生医学生
院内のルールでありそうな気もしますが……。
ドクタードクター
そういう規定はないんだ。診療目的外の第三者に情報を提供するときに原則として必要なのは、何人の医師が承認したかではなく、患者本人の同意だよ。次は、精神疾患を持つ患者では情報提供が制限される、という選択肢。
医学生医学生
精神科の実習で、病名の扱いにとても気を遣っていたのを覚えています。それで迷いました。
ドクタードクター
精神疾患の情報に特別な配慮が必要なのは確かだ。ただ、本人の同意なく目的外で第三者に伝えてはいけないという原則は、どんな疾患でも同じ。しかもこの時点では精神疾患の診断が確定しているわけでもない。疾患の種類が断った理由ではないんだ。
医学生医学生
看護師が自分でカルテを見られるから、というのはさすがに違いますよね。
ドクタードクター
そう、むしろ逆だね。電子カルテに技術的にアクセスできても、担当していない患者の記録を私的な目的で見るのは不正閲覧で、懲戒処分の対象にもなりうる。「自分で見られるでしょう」は理由として成り立たない。
医学生医学生
本当に親友かどうか確認が必要、というのはもっともらしく感じました。電話だと相手が誰か分かりませんし。
ドクタードクター
電話で本人確認が難しいのは事実で、それも慎重になる一因ではある。でも仮に本当に親友だと確認できたとしても、友人は第三者だから、本人の同意なしに病状を伝えてよいことにはならない。根本的な理由ではないんだ。
医学生医学生
つまり、相手の身元や職種ではなく、利用目的と本人の同意が判断の軸になるわけですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。発展として、本人の同意なく情報を使ったり提供したりできる例外も押さえておこう。院内での診療目的の利用、感染症法に基づく届出のような法令に基づく場合、そして人の生命・身体の保護に必要で本人の同意を得るのが難しい場合などだ。
医学生医学生
意識障害の患者さんの家族に病状を説明したり、家族から内服歴を聞いたりするのは、その最後の例外にあたるんですね。救急科の実習でよく見かけました。
ドクタードクター
その通り。今回も、治療のために家族と連絡をとることは許される。一方で友人からの問い合わせには、相手が誰であれ電話では病状を伝えない。そして意識が戻ったら、誰にどこまで伝えてよいかを本人に確認する、というのが実際の対応だ。医師には刑法の秘密漏示罪、看護師には保健師助産師看護師法による守秘義務がある。OSCEの医療面接で「ここで話した内容は守秘します」と伝える練習をしたと思うけれど、その約束を支えているのがこうした仕組みなんだよ。

まとめ

医療機関が取得した患者情報は、その患者の診療など、あらかじめ特定した利用目的の範囲内でのみ利用でき、院内の職員であっても診療に関わらない者は第三者として扱われます。担当外の看護師が親友として私的に病状を尋ねる場合は目的外利用・第三者提供にあたり、本人の同意なしには伝えられません。複数医師の承認という規定はなく、疾患の種類や相手の身元確認、カルテ閲覧権限の有無は判断の根拠にならず、担当外患者のカルテの私的閲覧はそれ自体が不正閲覧です。例外として、法令に基づく場合や、生命・身体の保護に必要で本人同意の取得が困難な場合(意識障害患者の家族への説明など)は同意なく提供できます。「誰が聞いているか」ではなく「何の目的で使うか」と「本人の同意」で判断する姿勢は、守秘義務を基盤とする患者との信頼関係を守るうえで欠かせません。

解答・解説

正解はaです

状況の整理

・26歳女性が睡眠導入薬の過量服薬による意識障害で緊急入院した。過量服薬の背景には自殺企図や精神疾患が存在する可能性があり、とりわけ慎重な取り扱いが求められる、機微性の高い情報である。 ・入院2時間後、同じ病院の別病棟に勤務する看護師が、患者の親友であると名乗り、病状を教えてほしいと担当医に電話してきた。 ・担当医はこれを断った。

本問で問われていること

医療機関内の職員であっても、患者の診療に関わっていない者に患者情報を伝えてよいか、そしてそれが許されない根拠は何か、という個人情報保護と守秘義務の基本が問われている。

考え方

医療機関が患者から得た情報は、個人情報保護法のもと、あらかじめ特定した利用目的(その患者の診療や、それに付随する業務など)の範囲内でのみ扱うことが許される。院内のチーム医療での共有や他科へのコンサルテーションは、診療という目的に含まれるため本人の同意を個別に得なくても行える。一方で、今回の看護師はこの患者の診療を担当しておらず、問い合わせの動機も「親友として心配だから」という私的なものである。これは診療目的での利用にあたらず、病院職員という立場であっても「第三者」への提供と同じに扱われる。したがって、患者本人の同意がない限り、病状を伝えることはできない。 さらに、電話では相手が誰であるかを確実に確かめることが難しく、医師には刑法上の守秘義務もあるため、本人の同意なく電話で病状を伝えることは避けるべきである。

選択肢考察

  1. ○a.  診療での患者情報の利用目的から外れるため。

    患者情報は、その患者の診療など、あらかじめ定めた目的の範囲内でのみ利用できる。診療チーム外の看護師が友人として私的に病状を知りたいという求めは、患者の利益のための診療目的に該当しない。職員であっても、本人の同意なしに伝えることは目的外利用・第三者提供にあたり許されない。これが担当医が断った理由として最も適切である。

  2. ×b.  情報提供には複数の医師の承認が必要であるため。

    患者情報を提供する際に複数の医師の承認を要するという規定はない。診療目的外の第三者に提供する際に原則として必要なのは、患者本人の同意である。

  3. ×c.  精神疾患を持つ患者では情報提供が制限されるため。

    精神疾患の情報は特に配慮を要する情報ではあるが、本人の同意なしに目的外で第三者に伝えてはならないという原則は、どの疾患であっても同じである。また、本例では精神疾患の診断も確定していない。疾患の種類が断った理由ではない。

  4. ×d.  看護師は自分自身で患者情報を閲覧可能であるため。

    院内の電子カルテに技術的にアクセスできる権限があったとしても、担当していない患者の記録を私的な目的で閲覧することは許されない。診療上の必要がない閲覧は不正閲覧であり、懲戒の対象にもなりうる。「自分で見られるから教えない」という理由づけは誤りである。

  5. ×e.  看護師が本当に患者の親友であるか確認する必要があるため。

    たとえ本当に親友であっても、友人は第三者であり、本人の同意なしに病状を伝えることはできない。電話での本人確認が難しいという問題はあるが、親友であることを確かめれば提供してよいわけではなく、根本的な理由にはならない。

医療における個人情報保護の枠組み

・医師の守秘義務:刑法第134条(秘密漏示罪)により、医師は正当な理由なく業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。看護師には保健師助産師看護師法で守秘義務が課されている。 ・個人情報保護法:取得した個人情報は、特定した利用目的の範囲でのみ扱う。本人の同意なく目的外利用や第三者提供をしてはならない。病歴は「要配慮個人情報」に位置づけられ、取得にも原則として本人の同意が必要である。

本人の同意なく情報を利用・提供できる主な場合

・院内での診療目的の利用(チーム内での共有、他科へのコンサルテーションなど) ・法令に基づく場合(感染症法に基づく届出、警察などからの法令に基づく照会など) ・人の生命・身体・財産の保護に必要で、本人の同意を得ることが困難な場合(意識障害の患者について、治療に必要な情報を家族から聴取・家族へ説明するなど) ・公衆衛生の向上や児童の健全な育成に特に必要で、本人の同意を得ることが困難な場合

実際の対応

・電話での問い合わせには、相手が誰であれ原則として病状を伝えない。 ・本人の意識が回復した後に、誰に、どこまで伝えてよいかを本人に確認する。 ・診療に関わらない職員が電子カルテを閲覧することも、目的外利用として禁止される。

POINT

・患者情報は診療など特定した利用目的の範囲内でのみ使える。 ・院内職員でも診療チーム外の者は「第三者」であり、私的な問い合わせに本人の同意なく病状を伝えてはならない。 ・親友・知人であることは情報提供の理由にならない。 ・カルテを閲覧できる立場でも、診療上の必要がない閲覧は不正閲覧である。 ・同意不要で提供できるのは、法令に基づく場合や生命保護に必要で同意取得困難な場合などに限られる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。