ピチャピチャ鳴るお腹―ニボーが教える腸閉塞の身体所見
第109回医師国家試験 H問題 第13問
国試問題にチャレンジ
腹部エックス線写真を別に示す。 診察所見として最も予想されるのはどれか。

- a.拍動
- b.波動
- c.叩打痛
- d.振水音
- e.血管雑音
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
立位腹部エックス線でKerckring皺襞を伴う小腸の拡張と階段状に多発する鏡面像(ニボー)を認めれば、腸閉塞を考えます。腸閉塞では閉塞部より口側の腸管にガスと液体が停滞するため、腹部を揺すると液体が揺れる振水音が聴かれ、これは画像のニボーを身体診察で捉えた所見といえます。拍動性腫瘤は腹部大動脈瘤、波動は腹水、叩打痛は腎尿路や肝胆道の炎症、血管雑音は動脈狭窄と、それぞれ別の病態に対応します。聴診では単純性の機械的閉塞で蠕動音亢進・金属音、麻痺性や絞扼の進行で減弱・消失がみられ、腹膜刺激症状や頻脈などがあれば絞扼性を疑って緊急手術を検討します。画像所見と診察所見を同じ病態の表れとして結びつける姿勢は、急性腹症を的確に評価する基本になります。
解答・解説
正解はdです
画像の読み取り
立位の腹部エックス線写真で、腹部中央から左上腹部にかけてガスで拡張した腸管が多数みられる。拡張腸管には腸管の全幅を横切る細いひだ状の線(Kerckring皺襞、小腸の輪状ひだ)が認められ、拡張しているのは小腸と判断できる。さらに、腸管内のガスと液体の境界が水平な線として映る鏡面像(ニボー、air-fluid level)が複数、階段状に並んでいる。
診断
小腸ガスの増加・拡張と多発する鏡面像は、腸管内容が先へ進まずに停滞していることを示す所見であり、腸閉塞(イレウス)、特に小腸の閉塞が考えられる。正常の成人では小腸内にガスはほとんど目立たず、立位で鏡面像が多数出ることもない。
設問の考え方
腸閉塞では閉塞部より口側の腸管にガスと消化液がたまる。ガスと液体が同じ管腔内に共存しているため、腹部を揺らしたり手で軽く押したりすると「ピチャピチャ」という液体の揺れる音が聞こえる。これが振水音であり、画像で見えている「ガスと液体が混在した拡張腸管」をそのまま身体診察で捉えた所見といえる。他の選択肢は、それぞれ大動脈瘤、腹水、腎尿路疾患、動脈狭窄など別の病態を示唆する所見である。
選択肢考察
- ×a. 拍動
腹部で触れる拍動性の腫瘤は腹部大動脈瘤を示唆する所見である。瘦せた人では正常の大動脈拍動を心窩部に触れることもあるが、いずれにせよ腸管内のガスと液体の貯留を反映する所見ではなく、本画像の病態とは結びつかない。
- ×b. 波動
波動(fluid wave)は、片側の側腹部を指で弾くと反対側に置いた手に液体の波が伝わる所見で、腹腔内に大量の腹水が貯留しているときにみられる。腹水の診察ではほかに濁音界の移動(shifting dullness)も用いられる。本問の画像は腸管内腔のガス・液体貯留を示しており、腹腔内の遊離液体を示すものではない。
- ×c. 叩打痛
叩打痛は、拳などで軽く叩いたときに誘発される痛みである。肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛は腎盂腎炎や尿管結石の発作時など腎尿路疾患で、右季肋部の叩打痛は急性肝炎や胆嚢炎など肝胆道系の炎症でみられる。腸閉塞を特徴づける所見ではない。
- ○d. 振水音
振水音(succussion splash)は、ガスと液体が同時に貯留した管腔臓器を揺すったときに生じる液体の揺れる音である。画像では小腸が拡張し、多数の鏡面像(ガスと液体の境界)がみられ、腸管内にガスと消化液が停滞している腸閉塞の状態にある。したがって腹部を揺らす・圧迫するなどの振動を加えると振水音が聴取されると予想される。なお、振水音は幽門狭窄などで胃内容が停滞した場合にもみられる。
- ×e. 血管雑音
腹部の血管雑音(bruit)は、動脈の狭窄部を血液が乱流となって通過するときに聴取される音で、腎動脈狭窄(腎血管性高血圧)や腹部大動脈の狭窄・動脈瘤などで聴かれる。腸閉塞で聴診上問題となるのは血管雑音ではなく腸蠕動音の変化である。
腸閉塞(イレウス)の分類
・機械的腸閉塞:腸管が物理的に閉塞するもの。血流障害のない単純性(閉塞性)腸閉塞(術後癒着、腫瘍、宿便など)と、血流障害を伴う複雑性(絞扼性)腸閉塞(索状物による絞扼、ヘルニア嵌頓、腸重積、腸軸捻転など)に分ける。 ・機能的イレウス:器質的閉塞はなく腸管運動が障害されるもの。腹膜炎や開腹術後などによる麻痺性イレウスと、まれな痙攣性イレウスがある。 ※2015年の急性腹症診療ガイドライン以降、日本では機械的閉塞を「腸閉塞」、腸管麻痺による通過障害を「イレウス」と呼び分けることが推奨されている。
腹部エックス線所見
・小腸の拡張:腸管全幅を横切るKerckring皺襞がみられる(大腸のハウストラは全幅を横切らない)。 ・立位で多発する鏡面像(ニボー):階段状に並ぶことが多い。 ・閉塞部より肛門側の腸管ガスは減少・消失する。 ・臥位では鏡面像は写らないため、立位(困難なら左側臥位デクビタス)で撮影する。
腸閉塞の身体所見
・視診:腹部膨隆、蠕動不穏(腸管の動きが腹壁越しに見える) ・聴診:単純性の機械的閉塞では腸蠕動音が亢進し、金属音(metallic sound)が聴かれる。麻痺性イレウスや絞扼が進行した場合には蠕動音は減弱・消失する。 ・触診・振盪:振水音 ・打診:腸管ガスによる鼓音 ・絞扼性を疑う所見:持続的な強い腹痛、腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛)、発熱、頻脈、ショックなど。これらがあれば緊急手術を考慮する。
その他の腹部所見と代表的な病態
・拍動性腫瘤:腹部大動脈瘤 ・波動、濁音界の移動:腹水 ・CVA叩打痛:腎盂腎炎、尿管結石 ・血管雑音:腎動脈狭窄、大動脈の狭窄
POINT
・立位腹部エックス線で小腸拡張(Kerckring皺襞)と多発する鏡面像(ニボー)→腸閉塞 ・腸閉塞では腸管内にガスと液体が停滞するため振水音が聴かれる ・機械的閉塞では蠕動音亢進・金属音、麻痺性では蠕動音減弱・消失 ・拍動=大動脈瘤、波動=腹水、CVA叩打痛=腎尿路疾患、血管雑音=動脈狭窄と対応づけて覚える
