StudyMed医師国家試験

赤いだけでは測れない―粘膜のびらんが告げる重症薬疹のサイン

第109回医師国家試験 H問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第109回 H問題 第12問

中毒性表皮壊死症〈toxic epidermal necrolysis〉において重症薬疹を示唆する所見はどれか。

  1. a.白斑
  2. b.膨疹
  3. c.発赤
  4. d.苔癬化
  5. e.粘膜びらん

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、中毒性表皮壊死症、いわゆるTENで「重症薬疹を示唆する所見」を選ぶ問題だ。薬疹は日常診療でよく出会うけれど、ほとんどは薬をやめれば治る軽症例。その中から命や後遺症に関わる重症例を見抜くには、どの皮疹に注目すればいいか。皮疹の用語の意味を一つずつ確かめながら考えていこう。
医学生医学生
薬疹というと全身が赤くなるイメージがあるので、発赤が一番それっぽく感じます。
ドクタードクター
そう思うのは自然だね。でも発赤、つまり紅斑は真皮の血管が拡張して赤く見えている状態で、圧迫すると色が消える。一般的な軽い薬疹でもよくみられるから、それだけでは重症かどうか判断できないんだ。TENでも初期には紅斑が出るけれど、重症の目印はその先、紅斑の上に生じる水疱や表皮の剝離、そしてびらんだ。
医学生医学生
じゃあ粘膜びらんが正解ですか。でも、なぜ粘膜が特に大事なんでしょう。
ドクタードクター
そこが核心だ。SJSとTENは同じ病態の連続したスペクトラムで、原因薬剤に反応した細胞傷害性T細胞などが、Fasリガンドやグラニュライシンを介して表皮の角化細胞を細胞死に追い込む。結果として表皮が全層で壊死して剝がれる。びらんは表皮や粘膜上皮が失われた欠損だから、まさにこの「表皮壊死」という本態をそのまま映している所見なんだ。そして口唇、口腔、眼の結膜、外陰部といった粘膜病変は高頻度に出て、診断基準の主要所見にもなっている。
医学生医学生
病理の講義で、表皮の全層壊死の写真を見た記憶があります。皮膚がまるでやけどのように剝けてしまうんですよね。
ドクタードクター
その通り。だから全身管理も熱傷に準じて行う。ほかの選択肢も確認しよう。白斑はどうかな。
医学生医学生
白斑はメラニンが抜けて白くなる所見なので、尋常性白斑とかですよね。急性の薬疹とは関係なさそうです。
ドクタードクター
正解。メラノサイトの破壊や炎症後の色素脱失でみられるもので、TENの急性期を示す所見ではない。では膨疹は?
医学生医学生
膨疹は蕁麻疹の皮疹ですね。皮膚科の実習で、数時間で跡形もなく消えるのが特徴と教わりました。
ドクタードクター
よく覚えている。膨疹は肥満細胞から出るヒスタミンなどで血管透過性が上がり、真皮上層が一過性にむくんだもの。蕁麻疹型の薬疹もあるけれど、表皮の壊死は伴わないから重症度の指標にはならない。最後に苔癬化。
医学生医学生
アトピー性皮膚炎の患者さんで見た、皮膚が厚く硬くなってしわが目立つ状態ですよね。
ドクタードクター
そう。慢性的な掻破や摩擦で表皮が肥厚した慢性病変だから、急に発症するTENとは時間軸がまったく合わない。
医学生医学生
紅斑や膨疹は真皮の変化、白斑は色素の変化、苔癬化は慢性の肥厚。表皮そのものが壊れて剝がれる所見が、重症を示しているということですね。
ドクタードクター
見事な整理だ。重症を示唆する所見をまとめると、粘膜や皮膚粘膜移行部のびらん、口唇の出血性痂皮、広範な水疱や表皮剝離、一見正常な皮膚をこすると剝がれるニコルスキー現象、そして38℃以上の発熱。特に眼病変は、失明や重いドライアイを後遺症として残しうるから、早期に眼科と連携することが大切だ。
医学生医学生
SJSとTENはどう区別するんですか。CBTの勉強で面積の基準があった気がします。
ドクタードクター
表皮剝離の面積で分ける。日本の診断基準では体表面積の10%未満がSJS、10%以上がTEN。国際的には10〜30%をオーバーラップとする分類もある。TENは死亡率が高く、敗血症や多臓器不全が主な死因になる。
医学生医学生
原因になりやすい薬にはどんなものがありますか。
ドクタードクター
カルバマゼピンなどの抗てんかん薬、アロプリノール、サルファ剤、抗菌薬、NSAIDsなどが代表で、服用開始から数日〜数週間で発症することが多い。HLA型との関連も知られていて、日本人ではカルバマゼピンとHLA-A*31:01の関連が報告されている。治療で最も重要なのは被疑薬をただちに中止すること。そのうえでステロイド全身投与、効果が不十分ならIVIGや血漿交換を行う。
医学生医学生
「薬疹かな」と思ったら、口の中と目と陰部まで必ず見る、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。皮膚だけ見て「赤いだけ」と安心せず、粘膜を確認する習慣が重症薬疹の早期発見につながるんだ。

まとめ

Stevens-Johnson症候群と中毒性表皮壊死症は同一スペクトラムの重症薬疹で、細胞傷害性T細胞などにより表皮角化細胞が細胞死を起こし、表皮が全層性に壊死・剝離することが本態です。そのため口唇・口腔・眼結膜・外陰部などの粘膜びらんは病態を直接反映する所見で、診断基準の主要所見として重症薬疹を示唆します。一方、発赤(紅斑)や膨疹は真皮の変化、白斑は色素脱失、苔癬化は慢性の表皮肥厚であり、軽症薬疹や他の皮膚疾患でもみられるため重症の指標にはなりません。治療は被疑薬の即時中止を基本にステロイド全身投与やIVIG、血漿交換を行い、眼病変は失明などの後遺症を防ぐため早期に眼科と連携します。皮疹の用語を病態と結びつけて理解し、薬疹を疑ったら必ず粘膜まで診察する姿勢が、重症例を見逃さない臨床力につながります。

解答・解説

正解はeです

薬疹の診療で最も大切なのは、生命予後や後遺症に関わる重症薬疹を見逃さないことである。重症薬疹の代表が、Stevens-Johnson症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)であり、両者は同じ病態の連続したスペクトラムと考えられている。

病態

原因薬剤に反応した細胞傷害性T細胞などが、Fas/Fasリガンド、グラニュライシン、パーフォリン/グランザイムなどを介して表皮角化細胞のアポトーシス(細胞死)を引き起こす。その結果、表皮が全層にわたって壊死し、真皮から剝がれる。

重症を示唆する所見

・口唇、口腔、眼(結膜)、外陰部・肛囲など皮膚粘膜移行部や粘膜のびらん・出血性痂皮 ・広範囲の紅斑に続く水疱・表皮剝離・びらん ・ニコルスキー現象(一見正常な皮膚をこすると表皮が剝がれる)陽性 ・38℃以上の発熱、全身倦怠感 ・眼の充血や偽膜形成(失明やドライアイなどの後遺症につながる) 本問では、選択肢の皮疹のうち、表皮の壊死・剝離を反映し、SJS/TENの診断上も重要な所見を選べばよい。白斑・膨疹・発赤・苔癬化は、一般の皮膚疾患や軽症の薬疹にもみられ、重症薬疹に特徴的とはいえない。

選択肢考察

  1. ×a.  白斑

    白斑は、メラニン色素の減少・消失によって皮膚が白くみえる斑である。尋常性白斑(メラノサイトの自己免疫的破壊)、炎症後の色素脱失などでみられる。TENの急性期を示す所見ではなく、重症度の指標とならない。

  2. ×b.  膨疹

    膨疹は、真皮上層に一過性・限局性の浮腫が生じた、わずかに隆起する皮疹で、通常は数時間〜24時間以内に跡を残さず消える。肥満細胞から放出されるヒスタミンなどによる血管透過性亢進が原因で、蕁麻疹の基本的な皮疹である。蕁麻疹型の薬疹もあるが、表皮の壊死を伴うものではなく、TENの重症度を示す所見ではない。

  3. ×c.  発赤

    発赤(紅斑)は真皮の血管拡張・充血によって皮膚が赤くみえる変化で、圧迫すると色が消える。播種状紅斑丘疹型など一般的な軽症薬疹でもみられ、それだけでは重症薬疹を示唆しない。TENでも初期に紅斑は出るが、重症化の指標となるのは、その上に生じる水疱・表皮剝離・びらんや粘膜病変である。

  4. ×d.  苔癬化

    苔癬化は、慢性的な掻破や摩擦が繰り返された結果、表皮が肥厚して硬くなり、皮溝と皮丘が目立つようになった状態である。アトピー性皮膚炎や慢性湿疹、慢性単純性苔癬などでみられる慢性病変であり、急性に発症するTENの所見ではない。

  5. ○e.  粘膜びらん

    SJS/TENでは、口唇・口腔粘膜、眼結膜、外陰部などの粘膜に高頻度でびらんが生じ、口唇の出血性痂皮も特徴的である。びらんは表皮(粘膜上皮)が失われた欠損で、表皮細胞の壊死・剝離という重症薬疹の本態を反映している。粘膜病変は診断基準の主要所見の一つであり、通常の薬疹との鑑別点として重要である。特に眼病変は重症化すると失明や重度の視力障害、ドライアイなどの後遺症を残すため、早期に眼科と連携して評価する必要がある。

SJSとTENの区別

両者は表皮剝離(水疱・びらんを含む)の面積で分けられる。日本の診断基準では、体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENとする。国際的な分類では10%未満をSJS、10〜30%をSJS/TENオーバーラップ、30%を超えるものをTENとする。TENの死亡率は高く、敗血症や多臓器不全が主な死因となる。

主な原因薬剤

抗てんかん薬(カルバマゼピン、ラモトリギン、フェニトインなど)、アロプリノール、サルファ剤、抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)など。服用開始から数日〜数週間で発症することが多い。HLA型との関連が知られ、カルバマゼピンではHLA-B*15:02(漢民族など)やHLA-A*31:01(日本人)、アロプリノールではHLA-B*58:01が危険因子とされる。マイコプラズマなどの感染症が誘因となることもある。

治療

・被疑薬の直ちの中止(最も重要) ・全身管理: 熱傷に準じた皮膚管理、輸液・電解質管理、感染対策、栄養管理 ・副腎皮質ステロイド全身投与(ステロイドパルス療法を含む) ・効果不十分例では免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)、血漿交換療法 ・眼科による眼病変の管理

その他の重症薬疹

薬剤性過敏症症候群(DIHS/DRESS)は、抗てんかん薬などの開始後2〜6週程度で発症し、発熱、リンパ節腫脹、肝機能障害、好酸球増多、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の再活性化を伴う。急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)も重症薬疹に含められる。

皮疹の基本用語

・紅斑: 真皮の血管拡張による赤い斑(圧迫で消える) ・紫斑: 真皮内の出血(圧迫で消えない) ・白斑: メラニン色素の脱失による白い斑 ・膨疹: 真皮の一過性浮腫(蕁麻疹) ・水疱: 表皮内または表皮下に液体がたまった隆起 ・びらん: 表皮までの欠損。瘢痕を残さず治る ・潰瘍: 真皮以下に達する欠損。瘢痕を残す ・苔癬化: 慢性の掻破による皮膚の肥厚

POINT

・重症薬疹の代表はSJSとTEN(同一スペクトラム、表皮剝離面積で区別)。 ・重症を示唆する所見: 口唇・眼・外陰部など粘膜のびらん、広範な水疱・表皮剝離、ニコルスキー現象陽性、高熱。 ・眼病変は失明などの後遺症を残しうるため、早期に眼科と連携する。 ・治療の基本は被疑薬の中止で、ステロイド全身投与、IVIG、血漿交換を行う。 ・びらんは表皮までの欠損、潰瘍は真皮以下に達する欠損。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。