StudyMed医師国家試験

時間との闘い「72時間の壁」―大地震直後、医療は何を最優先するか

第109回医師国家試験 G問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第109回 G問題 第4問

大規模地震発生後48時間以内の対応として優先度が高いのはどれか。

  1. a.予防接種
  2. b.メンタルケア
  3. c.不明者の捜索と救助
  4. d.仮設住宅建設地の確保
  5. e.避難所の一般廃棄物調査

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は災害医療の優先順位を問う問題だ。カギは「発災から48時間以内」という時間の指定。災害では時期によって必要な活動が大きく変わるから、選択肢がそれぞれどの時期の課題かを考えてみよう。
医学生医学生
どれも被災地で必要なことばかりに見えて、優先順位をつけるのが難しいです。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だよ。判断の物差しをひとつ渡そう。「その対応が遅れると、直ちに人が亡くなるか」。この基準で比べると答えが見えてくる。
医学生医学生
それなら、瓦礫の下に閉じ込められた人を助け出す、捜索と救助でしょうか。
ドクタードクター
正解。地震では倒壊家屋や家具の下敷きになる人が多数出る。閉じ込められた人は外傷、脱水、低体温などで、時間が経つほど生存の可能性が急速に下がっていく。救命の可能性が大きく残る目安が発災後72時間とされ、これがいわゆる「72時間の壁」だ。48時間以内はまさに捜索・救助と救命医療に全力を注ぐ時期なんだ。
医学生医学生
救急医学の講義で、阪神・淡路大震災の救出後の生存率のデータを見た気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。救出された人の生存率は当日はおよそ8割だったのに、2日目には3割前後、3日目には2割程度まで落ちたと報告されている。1日の遅れがこれだけ命を左右するということだ。では、ほかの選択肢がいつの課題か見ていこう。予防接種はどうかな。
医学生医学生
避難所で感染症が流行するのを防ぐためですよね。でも、それは人が避難所に集まって生活が続いてからの話だと思います。
ドクタードクター
その通り。インフルエンザや麻疹などの流行が問題になるのは、避難生活が長引く亜急性期以降だ。ただ、瓦礫で汚染した傷を負った人への破傷風予防は外傷診療の一部として早期にも行われうる。これは集団への予防接種とは別物として区別しておこう。
医学生医学生
メンタルケアも大事だと思いますが、48時間以内だと優先度は下がりますか。
ドクタードクター
下がるね。急性ストレス反応やPTSD、抑うつ、飲酒の問題などへの支援は非常に重要だけど、本格化するのは数日以降で、その後は数か月から数年単位の長い支援になる。まず命を救い、その次に心を支える、という順番だ。
医学生医学生
仮設住宅や避難所のごみの調査は、明らかにもっと後の段階ですね。
ドクタードクター
そうだね。仮設住宅は避難所から恒久的な住まいへのつなぎで、入居は発災から1か月以上かかることが多い復旧・復興期の課題だ。避難所の廃棄物は、溜まると悪臭や害虫、感染症につながるから公衆衛生上は大切だけど、問題になるのは避難所生活が始まって数日経ってからになる。
医学生医学生
時期で並べると、救助が最初、その後に避難所の衛生や感染対策、心のケア、最後に住まいの再建という流れになるんですね。
ドクタードクター
それが災害サイクルの考え方だ。発災から72時間程度の超急性期は捜索・救助、トリアージ、救命処置、重症者の後方搬送が中心で、DMATが主に活動する。急性期は避難所運営や慢性疾患の薬の確保、亜急性期は衛生管理、感染症対策、深部静脈血栓症の予防、心のケア。慢性期・復興期は仮設住宅や地域医療の再建、孤立の防止へと移っていく。
医学生医学生
救出された人の医療で、特に気をつけることはありますか。
ドクタードクター
大事なのがクラッシュ症候群だ。四肢が長時間圧迫されると筋肉が壊死し、救出で圧迫が解除された瞬間にカリウムやミオグロビンが全身に流れ込む。高カリウム血症による致死的不整脈や急性腎障害を起こすことがあるから、救出前からの大量輸液や透析可能な施設への搬送が重要になる。救出直後は元気そうに見えて急変することがあるのが怖いところだ。
医学生医学生
助け出せたから安心、ではないんですね。BLSの実習とは違う、災害ならではの視点だと感じました。
ドクタードクター
そうだね。もうひとつ覚えておきたいのは、阪神・淡路大震災では生き埋めになった人の多くが、公的な救助隊ではなく近隣住民に助け出されたとされることだ。公的支援が届く前の自助・共助が初期の救命を大きく支えた。医師としても、地域の防災訓練や病院の災害計画に関心を持っておくと、いざというときに力を発揮できるよ。

まとめ

大規模地震の発生直後、特に48〜72時間以内の超急性期には、捜索・救助と救命医療が最優先となります。倒壊家屋などに閉じ込められた人の生存率は救出までの時間とともに急激に下がり、阪神・淡路大震災では当日約8割だった救出後の生存率が3日目には約2割まで低下したと報告されています。予防接種や避難所の衛生管理、メンタルケア、仮設住宅の整備はいずれも重要ですが、亜急性期から復興期にかけて比重が増す課題です。救出後にはクラッシュ症候群による高カリウム血症や急性腎障害に備えた輸液・搬送も欠かせません。「遅れると直ちに命に関わるか」という基準と災害サイクルの時間軸をあわせて理解しておくことが、災害時に適切な判断を下すための土台になります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

災害医療では、発災からの時間経過(災害サイクル)によって必要とされる医療・保健活動が変わっていく。本問は、大規模地震の発生から48時間以内という「超急性期」に、何を最優先すべきかを問うている。

考え方

発災直後に最も重要なのは「救える命を救う」ことである。地震では倒壊した建物や家具の下敷きになった人、生き埋めになった人が多数発生する。こうした人々は、圧迫による外傷、クラッシュ症候群(長時間圧迫された筋肉が壊死し、救出・圧迫解除後に高カリウム血症や急性腎障害などを来す病態)、脱水、低体温などによって、時間が経つほど生存の可能性が急速に下がる。一般に、救命できる可能性が大きく残っている目安は発災後72時間以内とされ(いわゆる「72時間の壁」)、48時間以内はまさに捜索・救助と救命医療に全力を注ぐ時期である。 これに対し、感染症対策(予防接種など)、心のケア、避難所の衛生管理、住まいの再建といった活動は、いずれも被災者支援として不可欠ではあるが、生命の危機が差し迫った人の救出に比べれば時間的猶予がある。したがって、優先順位を判断する際は「その対応が遅れると直ちに死亡につながるか」という観点で選択肢を比べるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  予防接種

    避難所での集団生活が長引くと、インフルエンザ、麻疹、破傷風などの感染症の流行やリスクが問題となり、予防接種が検討される。ただしこれは避難生活が続く亜急性期から慢性期(おおむね発災数週以降)の課題であり、発災48時間以内に優先される対応ではない。なお、瓦礫による汚染創を負った人への破傷風トキソイドや抗破傷風人免疫グロブリンの投与は外傷診療の一環として早期にも行われうるが、集団への予防接種事業とは位置づけが異なる。

  2. ×b.  メンタルケア

    被災者は急性ストレス反応や、その後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)、抑うつ、アルコール関連問題などを生じやすく、心のケアは重要である。しかし本格的な支援が必要となるのは発災から数日以降であり、その後数か月から数年にわたって継続的な対応が求められる。救出・救命が最優先となる48時間以内の対応としては優先度が低い。

  3. ○c.  不明者の捜索と救助

    倒壊家屋などに閉じ込められた人の生存率は、救出までの時間が延びるにつれ急激に低下する。阪神・淡路大震災では、救出された人の生存率が当日は約80%であったのに対し、2日目には約30%、3日目には約20%まで低下したと報告されている。救命の可能性が高い時間帯に一人でも多くを救い出すことが何より重要であり、発災後48時間以内の対応として最も優先度が高い。

  4. ×d.  仮設住宅建設地の確保

    応急仮設住宅は、避難所生活から恒久的な住まいへ移行するまでの住環境を確保するもので、用地の選定・建設は復旧・復興期の課題である。実際の入居は発災から1か月以上たってからとなることが多く、48時間以内に優先される対応ではない。

  5. ×e.  避難所の一般廃棄物調査

    避難所ではごみの滞留が衛生環境の悪化、悪臭、害虫・ネズミの発生、感染症の流行につながるため、廃棄物の実態把握と処理は公衆衛生上重要である。ただし問題になってくるのは避難所が開設され生活が始まって数日以降であり、救命が最優先の48時間以内に行うべき対応ではない。

災害サイクルと主な活動

時期の区分や呼び方は資料によって多少異なるが、おおむね次のように整理される。 ・超急性期(発災から72時間程度まで): 捜索・救助、トリアージ、救命処置、重症者の後方搬送。DMAT(災害派遣医療チーム)が主に活動する時期である。 ・急性期(〜1週間程度): 避難所の開設と運営、慢性疾患患者の治療継続(薬の確保など)、医療救護班の巡回診療。 ・亜急性期(〜1か月程度): 避難所の衛生管理、感染症対策、深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)の予防、心のケアの本格化。 ・慢性期・復興期(1か月以降): 仮設住宅への移行、地域医療の再建、長期的なメンタルヘルス支援、孤立化の防止。

救出と生存率

阪神・淡路大震災(1995年)では、倒壊家屋の下敷きになった人の多くが、消防や自衛隊ではなく近隣住民によって救出され、その生存率は高かったとされる。公的な救助が届く前の「自助・共助」が初期の救命に大きく寄与したことを示しており、地域防災の重要性を裏づける事例である。東日本大震災(2011年)では津波による犠牲が中心であったが、発災直後に不明者の捜索・救助を最優先とする原則は変わらない。

クラッシュ症候群

倒壊物などで四肢が長時間圧迫されると筋肉が壊死する。救出によって圧迫が解除されると、カリウム、ミオグロビン、乳酸などが一気に全身へ流れ込み、高カリウム血症による致死的不整脈、ミオグロビン尿による急性腎障害、循環血液量減少性ショックを起こしうる。救出前からの大量輸液や、透析が可能な施設への搬送が重要である。

POINT

・発災後48〜72時間以内の超急性期は、捜索・救助と救命医療が最優先である。 ・救出までの時間が長くなるほど生存率は急速に低下する(いわゆる72時間の壁)。 ・予防接種、メンタルケア、避難所の衛生管理、仮設住宅の整備は、時期が下るにつれて重要になる課題である。 ・「その対応が遅れると直ちに死亡につながるか」を基準に優先順位を判断する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。