心臓の「裏口」から見る―疣贅を最も鋭くとらえる経食道心エコー
第109回医師国家試験 G問題 第24問
国試問題にチャレンジ
感染性心内膜炎の疣贅を検出する感度が最も高いのはどれか。
- a.PET/CT
- b.胸部単純CT
- c.心筋シンチグラフィ
- d.経胸壁心エコー検査
- e.経食道心エコー検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
感染性心内膜炎の疣贅は数mm〜数cmの可動性の塊で、検出には高い空間・時間分解能が必要なため、心エコーが画像診断の中心となります。なかでも経食道心エコーは、左房の背側に接する食道からプローブで観察するため肺や骨の影響を受けず、疣贅検出の感度は90%以上と最も高く、経胸壁心エコー(約50〜70%)を大きく上回ります。PET/CTは人工弁感染や全身の感染巣検索の補助、単純CTや心筋シンチグラフィは疣贅検出には用いません。臨床ではまず経胸壁心エコーを行い、陰性でも疑いが強い場合や人工弁・デバイスがある場合、合併症評価が必要な場合に経食道心エコーを追加します。血液培養と心エコーを二本柱とするDuke診断基準の考え方とあわせて、検査の特性と使い分けを理解しておくことが大切です。
解答・解説
正解はeです
感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)は、心臓の弁や心内膜に細菌などが付着・増殖し、疣贅(ゆうぜい:vegetation)と呼ばれる感染巣をつくる疾患である。疣贅は血小板・フィブリン・菌塊からなる数mm〜数cmの可動性の塊で、弁の上で心拍に合わせて揺れ動く。診断の柱は「血液培養による起炎菌の証明」と「画像による心内膜病変(疣贅・弁輪膿瘍・弁破壊など)の証明」の二つであり、後者には心エコー検査が第一の手段となる。 本問は「疣贅を検出する感度が最も高い検査」を問う。疣贅を描出するには、(1)数mm程度の小さな構造を見分けられる空間分解能、(2)激しく動く弁や疣贅をリアルタイムでとらえる時間分解能、(3)弁と疣贅を区別できる組織コントラスト、の三つが必要である。これらを満たすのは超音波検査であり、なかでも探触子(プローブ)を心臓の直後ろに置ける経食道心エコー検査が最も高感度である。 食道は左房の背側に密着して走行しているため、経食道アプローチでは肺や肋骨、胸壁の脂肪・筋肉といった超音波を減衰させる組織を介さずに心臓を観察できる。そのため高い周波数のプローブを使え、分解能が上がる。一般に疣贅検出の感度は、経胸壁心エコーで自然弁でもおよそ50〜70%程度にとどまるのに対し、経食道心エコーでは90%以上とされる。人工弁では人工物による音響陰影の影響で経胸壁法の感度がさらに落ち、経食道法の優位性が一層大きくなる。 臨床では、IEを疑えばまず非侵襲的な経胸壁心エコーを行い、所見が陰性でも臨床的疑いが強い場合、人工弁・心内デバイスがある場合、弁輪膿瘍などの合併症評価が必要な場合には経食道心エコーを追加する、という流れが基本である。
選択肢考察
- ×a. PET/CT
PET(陽電子放出断層撮影)は、ブドウ糖類似物質である18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)などの放射性薬剤の集積を画像化し、糖代謝が亢進した炎症巣や腫瘍を検出する検査である。疣贅そのものに特異的に集まる薬剤はなく、空間分解能も数mm〜1cm程度で、しかも心拍で動く小さな疣贅をとらえるのは困難である。そのため自然弁の疣贅検出の感度は低い。 ただし近年は、人工弁IEにおける弁周囲の炎症(弁輪部膿瘍など)の検出や、全身の塞栓・転移性感染巣の検索にFDG-PET/CTが有用とされ、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは人工弁IEの診断基準に組み込まれている。あくまで心エコーを補完する検査であり、疣贅検出の第一選択ではない。
- ×b. 胸部単純CT
単純CT(造影剤を使わないCT)では、血液・心筋・弁・疣贅がいずれも軟部組織として同程度のCT値を示すため、疣贅を周囲から区別することがほぼできない。また、心拍に伴って大きく動く弁や疣贅に対して、通常の胸部CTは時間分解能が不十分でぶれてしまう。したがって疣贅の検出には適さない。 なお、心電図同期の造影CTは、弁輪部膿瘍や仮性瘤など弁周囲の合併症の評価、および脳・脾・腎などの塞栓巣の検索に用いられることがあるが、これは本選択肢の「胸部単純CT」とは別物である。
- ×c. 心筋シンチグラフィ
心筋シンチグラフィは、201Tl(タリウム)や99mTc標識製剤など心筋に取り込まれる放射性薬剤を投与し、そこから出るγ線を撮像して心筋の血流や生存性(バイアビリティ)を評価する検査であり、主に虚血性心疾患の診断に用いる。弁や疣贅を描出する目的の検査ではなく、疣贅に集積する薬剤もない。さらに空間分解能が低く、小さな構造は評価できないため、疣贅の検出には用いられない。
- ×d. 経胸壁心エコー検査
胸壁にプローブを当てる経胸壁心エコー(transthoracic echocardiography:TTE)では、疣贅は弁に付着して弁と一緒に揺れ動く塊状のエコー像として観察できる。非侵襲的で繰り返し実施でき、IEを疑ったときに最初に行うべき検査である。かつては疣贅の評価はもっぱらこの方法で行われていた。 しかし、超音波が肋骨・肺・胸壁組織を通過する間に減衰・散乱するため、肥満、肺気腫、胸郭変形のある患者では画質が低下しやすい。特に5mm未満の小さな疣贅や、人工弁に付着した疣贅、弁輪膿瘍は見落としやすく、感度はおよそ50〜70%程度にとどまる。そのため「最も感度が高い」とはいえない。
- ○e. 経食道心エコー検査
経食道心エコー(transesophageal echocardiography:TEE)は、内視鏡のように口からプローブを食道内に挿入し、心臓の背側から観察する方法である。食道は左房の後壁に接しているため、プローブと心臓との間に肺や骨などの介在物がほとんどなく、高周波のプローブを使って高い分解能で僧帽弁・大動脈弁・左房(左心耳を含む)を描出できる。 このため小さな疣贅も検出でき、疣贅検出の感度は90%以上と画像検査の中で最も高い。さらに弁輪膿瘍、弁穿孔、人工弁周囲逆流といったIEの合併症の評価にも優れ、手術適応の判断に欠かせない。経胸壁心エコーで陰性でもIEの疑いが強い場合や、人工弁・ペースメーカなどの心内デバイスがある場合には実施が推奨される。咽頭麻酔や鎮静を要するやや侵襲的な検査である点が短所である。
感染性心内膜炎の概要
弁膜症、先天性心疾患、人工弁、IEの既往、静注薬物使用などが危険因子である。歯科処置などで一過性に菌血症が起こり、障害された心内膜に菌が定着して疣贅を形成する。起炎菌は緑色レンサ球菌(口腔内常在菌)、黄色ブドウ球菌、腸球菌などが多い。 症状は持続する発熱、新たな心雑音、塞栓症状(脳梗塞、脾梗塞、腎梗塞など)、免疫学的現象(Osler結節、Roth斑、糸球体腎炎)、Janeway病変、爪下線状出血などである。
診断:Duke診断基準(修正版)
大基準は、(1)血液培養でIEに典型的な菌が繰り返し検出されること、(2)心エコーなどの画像で心内膜病変(疣贅、膿瘍、人工弁の新たな部分的離開)や新たな弁逆流を認めること、である。小基準には素因、38℃以上の発熱、血管現象、免疫学的現象、大基準を満たさない微生物学的所見がある。大基準2つ、または大基準1つ+小基準3つ、または小基準5つで確定診断となる。近年の改訂(2023年 Duke-ISCVID基準)では、心臓CTやFDG-PET/CTの所見も画像の大基準に加えられた。
心エコー検査の進め方
1. IEを疑ったらまず経胸壁心エコーを行う。 2. 経胸壁で陰性でも臨床的疑いが強い場合、画質不良の場合、人工弁や心内デバイスがある場合、合併症(弁輪膿瘍など)の評価が必要な場合は経食道心エコーを行う。 3. 初回の検査が陰性でも疑いが続けば、数日〜1週間後に再検する。
各画像検査の役割の整理
・経食道心エコー:疣贅・弁周囲合併症の検出で最も高感度。 ・経胸壁心エコー:最初に行う非侵襲的検査。心機能・弁逆流の評価にも用いる。 ・心臓造影CT:弁周囲膿瘍・仮性瘤の評価、冠動脈評価(術前)。 ・FDG-PET/CT:人工弁・デバイス感染の補助診断、全身の塞栓・感染巣の検索。 ・頭部MRI:無症候性の脳塞栓の検出。
POINT
・疣贅検出の感度が最も高いのは経食道心エコーである(感度90%以上、経胸壁は約50〜70%)。 ・食道は左房の背側に接しており、介在組織が少ないため高分解能の画像が得られる。 ・IEを疑えばまず経胸壁心エコー、陰性でも疑いが強い場合や人工弁がある場合は経食道心エコーを追加する。 ・IEの診断は血液培養と心エコー所見を柱とするDuke診断基準で行う。 ・単純CTや心筋シンチグラフィは疣贅の検出には用いない。FDG-PET/CTは人工弁IEなどでの補助診断である。
