のどの痛みに喘鳴が加わったら―診断より先に「気道」を守る救急の鉄則
第109回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
咽頭痛,喘鳴および呼吸困難を訴える成人が救急外来を受診した際に,バイタルサインを確認しながらまず準備するのはどれか。
- a.気管挿管
- b.抗菌薬投与
- c.動脈血採血
- d.鎮痛薬投与
- e.胸部エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
救急診療ではABCDEの順に評価・介入し、なかでも気道の異常は数分で心停止に至りうるため最優先となります。咽頭痛に喘鳴と呼吸困難を伴う場合は、急性喉頭蓋炎、深頸部膿瘍、アナフィラキシーによる喉頭浮腫などの上気道狭窄を疑い、バイタルサインの確認と並行してまず気管挿管の準備を整えます。上気道が腫脹していると挿管が困難なことが多く、ビデオ喉頭鏡やファイバースコープ、輪状甲状靱帯切開などの外科的気道確保の器具まで備えておくことが重要です。抗菌薬などの原因治療や血液ガス・画像検査は、気道確保の体制を整えたうえで進めます。ありふれた主訴の中に潜む致死的な病態を見逃さず、診断より先に命を守る行動を取るという救急医療の基本姿勢を身につけることが、この問題の学びです。
解答・解説
正解はaです
救急診療の大原則は、診断を確定させる前に生命を脅かす異常を見つけて対処することであり、その評価と介入はABCDE(A:airway 気道、B:breathing 呼吸、C:circulation 循環、D:dysfunction of CNS 意識、E:exposure 体温・外表)の順に進める。なかでも気道(A)の異常は数分で低酸素による心停止に至りうるため、最優先で対応する。 本問の成人は咽頭痛に加えて喘鳴と呼吸困難を訴えている。咽頭痛を伴う喘鳴は、咽頭~喉頭といった上気道の狭窄を示唆する所見であり、急性喉頭蓋炎、深頸部膿瘍(扁桃周囲膿瘍・咽後膿瘍など)、アナフィラキシーによる喉頭浮腫などが代表的な原因として考えられる。これらは短時間で完全な気道閉塞へ進行する危険があり、とくに急性喉頭蓋炎は成人でも窒息死の原因となる。 したがって、バイタルサイン(呼吸数、SpO2、脈拍、血圧、意識)の確認と並行して、まずいつでも気道確保ができる態勢、すなわち気管挿管の準備を整える必要がある。上気道の腫脹がある場合は挿管自体が難しいことが多いため、細いチューブ、ビデオ喉頭鏡や気管支ファイバースコープ、さらに挿管不能時に備えた輪状甲状靱帯切開(穿刺)や気管切開の器具まで用意し、熟練した医師を呼ぶのが望ましい。原因検索のための検査や原因疾患に対する治療は、その準備を整えたうえで進める。
選択肢考察
- ○a. 気管挿管
喘鳴と呼吸困難は気道が狭くなっていることを示し、いつ完全閉塞に陥ってもおかしくない状態である。気道閉塞が進むと低酸素血症・高二酸化炭素血症をきたし、数分で心停止に至る。救急ではA(気道)の確保が何よりも優先されるため、診察や検査を進める前に、直ちに気管挿管を行える準備(挿管器具、吸引、酸素、困難気道に備えた外科的気道確保の器具)を整えておく。
- ×b. 抗菌薬投与
急性喉頭蓋炎や深頸部膿瘍のような感染症が原因であれば、いずれ抗菌薬の静脈投与が必要になる。しかし抗菌薬は効果が出るまでに時間がかかり、目前の気道閉塞は解除できない。また原因疾患を見極めてから適切な薬剤を選ぶべきもので、気道確保の準備より優先されることはない。
- ×c. 動脈血採血
動脈血ガス分析は低酸素血症や高二酸化炭素血症、酸塩基平衡を評価するのに有用である。しかし酸素化の評価はまずパルスオキシメーターやチアノーゼの観察で迅速に行える。結果を待つ間にも気道閉塞は進みうるため、気道確保の準備を後回しにしてまず行う手技ではない。
- ×d. 鎮痛薬投与
咽頭痛を和らげるだけの対症療法であり、生命にかかわる気道狭窄を改善しない。鎮静作用のある薬剤では呼吸抑制や上気道の筋緊張低下により閉塞を悪化させるおそれもあり、初期対応として優先すべきではない。
- ×e. 胸部エックス線撮影
胸部エックス線は簡便で、肺炎・気胸・異物などの評価に役立つが、上気道狭窄そのものの評価には頸部軟線撮影やファイバースコープが適する。いずれの検査も、撮影のための移動や体位変換中に急変する危険があるため、気道確保の準備を整え、急変に対応できる体制のもとで行う。
喘鳴の種類と部位
・吸気性喘鳴(stridor):胸郭外の上気道(咽頭・喉頭・声門下・頸部気管)の狭窄で生じる。急性喉頭蓋炎、クループ、喉頭浮腫、異物などで聞かれる。 ・呼気性喘鳴(wheeze):胸郭内の下気道の狭窄で生じる。気管支喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などで聞かれる。
上気道閉塞の危険徴候
含み声(こもった声)、流涎や嚥下困難、前かがみで顎を突き出す姿勢(スニッフィングポジション)、陥没呼吸、SpO2低下、意識レベルの低下、チアノーゼなどは、完全閉塞が迫っていることを示す。
急性喉頭蓋炎の初期対応
・主にインフルエンザ菌b型などの細菌感染で喉頭蓋が急速に腫脹する。強い咽頭痛のわりに口腔内所見が乏しいのが特徴である。 ・患者を無理に仰臥位にしたり、舌圧子で咽頭を強く刺激したりすると完全閉塞を誘発することがあるため避ける。 ・頸部側面の軟線撮影で腫大した喉頭蓋(thumb sign)、喉頭ファイバースコープで喉頭蓋の発赤腫脹を確認する。 ・気道確保の準備をしたうえで、酸素投与、抗菌薬(第三世代セフェムなど)と副腎皮質ステロイドの静脈投与を行い、呼吸状態が悪ければ気管挿管や気管切開を行う。
気道確保の手段
用手的気道確保(頭部後屈あご先挙上・下顎挙上)→器具(エアウェイ、バッグバルブマスク)→気管挿管→挿管不能・換気不能(CICV)の場合は輪状甲状靱帯切開・穿刺、という順に段階的に備える。
POINT
・救急ではABCDEの順に評価・介入し、A(気道)が最優先 ・咽頭痛+喘鳴+呼吸困難は上気道狭窄(急性喉頭蓋炎、深頸部膿瘍、喉頭浮腫など)を疑う ・バイタルサインの確認と同時に気管挿管の準備、困難気道に備えて外科的気道確保の準備も ・検査(血液ガス、画像)や原因治療(抗菌薬など)は気道確保の準備を整えてから
