「なぜ今?」がわからない発作―パニック障害を見抜くカギは“誘因のなさ”
第109回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
パニック障害におけるパニック発作の特徴はどれか。
- a.予期しない状況で起こる。
- b.特定の社会的状況で起こる。
- c.客観的に危険な状況で起こる。
- d.ストレス刺激に反応して起こる。
- e.身近な家族から離れていると起こる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
パニック発作は、動悸・息苦しさ・死の恐怖などが突然出現し数分以内にピークに達する発作で、社交不安症や恐怖症、PTSDなど多くの疾患で起こりえます。パニック障害を特徴づけるのは、明らかな誘因のない状況で予期しない発作が反復することであり、そこから予期不安や広場恐怖が二次的に生じます。誘因が明確な発作は、社会的場面なら社交不安症、特定の対象なら限局性恐怖症、外傷の想起ならPTSD、愛着対象からの分離なら分離不安症と整理でき、客観的な危険への恐怖は正常反応です。診断の前には心疾患や甲状腺機能亢進症、低血糖、薬物関連などの身体疾患を除外し、治療はSSRIと認知行動療法が中心となります。「症状」ではなく「起こり方」で不安症群を整理する視点は、精神科診療の基本として役立ちます。
解答・解説
正解はaです
パニック発作とは、強い恐怖や不快感が突然高まり、数分以内に頂点に達する発作である。動悸、発汗、ふるえ、息切れ・息苦しさ、窒息感、胸痛、嘔気、めまい、現実感消失、「死ぬのではないか」「気が狂うのではないか」という恐怖などの身体症状・精神症状を伴う。パニック発作そのものは、恐怖症、社交不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、他の不安症や精神疾患でも起こりうる症状である。 これらとパニック障害(DSM-5ではパニック症)を分けるのは、発作の起こり方である。他の疾患では、特定の対象・状況・記憶など、発作を引き起こす「きっかけ」がはっきりしている。これに対しパニック障害では、明らかな誘因のない状況、例えばくつろいでいるときや睡眠中にも、予期しない発作が繰り返し起こる。DSM-5の診断基準でも「繰り返される予期しないパニック発作」が中核であり、そのうえで、さらに発作が起こるのではないかという持続的な心配(予期不安)や、発作を避けるための行動の変化が1か月以上続くことが求められる。 したがって本問では、発作が特定の誘因に結びついていないことを表す選択肢を選べばよい。
選択肢考察
- ○a. 予期しない状況で起こる。
パニック障害の発作は、はっきりした原因や状況と関係なく突然起こるのが特徴であり、DSM-5でも「予期しないパニック発作の反復」が診断の中心に置かれている。いつ起こるかわからないため、「また発作が起きたらどうしよう」という予期不安や、発作時に逃げられない・助けが得られない場所(電車、人混み、エレベーターなど)を避ける広場恐怖が二次的に生じやすい。
- ×b. 特定の社会的状況で起こる。
人前での発表や会食など、他者から注目・評価される特定の社会的場面で強い不安が生じるのは社交不安症(社交不安障害、いわゆる対人恐怖)の特徴である。この場合もパニック発作を伴うことはあるが、それは状況によって予期される発作であり、パニック障害の予期しない発作とは区別される。高所や閉所など特定の対象・状況で起こるものは限局性恐怖症である。
- ×c. 客観的に危険な状況で起こる。
火災や事故など客観的に生命の危険がある状況で強い恐怖や動悸が生じるのは、誰にでも起こる正常な恐怖反応である。パニック障害の発作は、実際には危険のない状況で起こる点が病的とされるゆえんである。
- ×d. ストレス刺激に反応して起こる。
外傷的な出来事を思い出させる刺激(トリガー)に反応して強い不安やフラッシュバックが起こるのは、PTSDや急性ストレス障害でみられる。このように明確なストレス刺激が引き金となる発作は、予期しない発作を特徴とするパニック障害の発作とは性質が異なる。
- ×e. 身近な家族から離れていると起こる。
愛着をもつ人(親や家族など)から離れることに対して発達段階にそぐわない過剰な不安を示すのは分離不安症(分離不安障害)の特徴である。パニック障害の発作は状況と無関係に起こるため、家族が近くにいても生じうる。
パニック発作の症状(DSM-5)
以下の13症状のうち4つ以上が突然出現し、数分以内にピークに達する。 動悸・心拍数増加、発汗、身震い、息切れ感・息苦しさ、窒息感、胸痛・胸部不快感、嘔気・腹部不快感、めまい感・ふらつき、寒気または熱感、異常感覚(しびれ・うずき)、現実感消失・離人感、抑制力を失うことへの恐怖(気が狂う恐怖)、死ぬことへの恐怖。
パニック障害(パニック症)の特徴
・予期しないパニック発作が繰り返し起こり、予期不安や回避行動が1か月以上続く。 ・発作は通常数分~30分程度で自然に治まり、身体的な異常は見つからない。 ・広場恐怖症を合併しやすい(DSM-5では別の診断として併記する)。 ・青年期~成人早期の発症が多く、女性に多い。うつ病の合併もしばしばみられる。
鑑別すべき身体疾患
狭心症・不整脈、甲状腺機能亢進症、低血糖、褐色細胞腫、気管支喘息、薬物(カフェイン、覚醒剤など)の使用やアルコール・ベンゾジアゼピン系薬の離脱などは、パニック発作に似た症状を起こすため除外が必要である。
治療
・薬物療法:選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が第一選択。即効性を期待してベンゾジアゼピン系抗不安薬を短期間併用することがあるが、依存に注意する。 ・精神療法:認知行動療法(発作に対する破局的な解釈の修正、段階的な曝露など)が有効である。
発作の誘因による整理
・誘因なく突然:パニック障害 ・社会的場面(注目・評価される場面):社交不安症 ・特定の対象や状況(高所、閉所、動物など):限局性恐怖症 ・外傷体験を想起させる刺激:PTSD・急性ストレス障害 ・愛着対象からの分離:分離不安症
POINT
・パニック障害の発作は「予期しない(誘因のない)」発作が反復するのが特徴 ・二次的に予期不安と広場恐怖を生じやすい ・誘因が明らかな発作は他疾患を考える(社会的場面→社交不安症、特定の対象→限局性恐怖症、外傷想起→PTSD、分離→分離不安症) ・治療はSSRIと認知行動療法が中心
