1日180 Lをろ過して1.5 Lに―ネフロンの「分業」で読む正常な腎機能
第109回医師国家試験 E問題 第33問
国試問題にチャレンジ
正常な腎の機能について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.心拍出量の約5%の血液量が腎臓に供給される。
- b.1日に約14 Lの原尿が生成される。
- c.アミノ酸は近位尿細管で再吸収される。
- d.ブドウ糖はHenle係蹄で再吸収される。
- e.尿濃縮は主に髄質部集合管で行われる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腎臓は体重の0.5%ほどの臓器ですが、心拍出量の約20〜25%の血液を受け、GFR約100〜125 mL/分、1日約150〜180 Lの原尿をつくり、その99%前後を再吸収して1〜1.5 Lの尿にしています。ブドウ糖(SGLT2/SGLT1)とアミノ酸は近位尿細管でほぼ全量が再吸収され、Henle係蹄ではNKCC2によるNa⁺・K⁺・Cl⁻の再吸収と対向流増幅系による髄質の浸透圧勾配形成が行われます。最終的な尿濃縮は、バソプレシンがV2受容体を介してアクアポリン2を管腔側膜に挿入させることで、主に髄質部集合管で行われます。この部位ごとの分業は、Fanconi症候群や尿崩症の病態、SGLT2阻害薬やループ利尿薬の作用部位を理解する土台となります。数値のスケール感と各部位の役割をセットで押さえることが、腎生理から臨床へつなげる近道です。
解答・解説
正解はc, eです
腎臓の基本的な生理機能(血流量、糸球体濾過量、尿細管での物質の再吸収部位、尿濃縮のしくみ)に関する知識を問う問題である。
数値の把握
腎臓は左右合わせて約300 g程度と体重の0.5%ほどにすぎないが、心拍出量の約20〜25%(約1〜1.2 L/分)という非常に多くの血液を受け取っている。この豊富な血流の一部が糸球体で濾過され、原尿(糸球体濾液)となる。糸球体濾過量(GFR)は健常成人で約100〜125 mL/分であり、1日に換算すると約150〜180 Lに達する。実際に排泄される尿は1日1〜1.5 L程度なので、原尿の99%前後が尿細管で再吸収されていることになる。
部位ごとの役割
近位尿細管は「大量・等張性の再吸収」の場であり、濾過されたブドウ糖・アミノ酸はほぼ全量、Na⁺と水は約60〜70%、HCO₃⁻の大部分がここで回収される。Henle係蹄(ヘンレループ)は対向流増幅系により髄質の浸透圧勾配をつくり、遠位尿細管・集合管は ホルモン(アルドステロン、バソプレシン)による微調整を担う。最終的な尿の濃さは、バソプレシンの作用を受けた集合管、とくに高浸透圧の髄質間質を通る髄質部集合管での水の再吸収量によって決まる。 これらの数値と部位の役割を整理しておけば、各選択肢の正誤は容易に判断できる。
選択肢考察
- ×a. 心拍出量の約5%の血液量が腎臓に供給される。
誤り。腎血流量(RBF:renal blood flow)は心拍出量の約20〜25%(約1/4〜1/5)を占め、成人で約1〜1.2 L/分である。組織重量あたりでみると全身の臓器の中で最も血流が多い部類に入る。この大量の血流は、酸素需要のためというより、血漿を大量に濾過して老廃物を除去するために必要なものである。5%では腎臓の濾過機能を維持できない。
- ×b. 1日に約14 Lの原尿が生成される。
誤り。原尿の量はGFRから計算できる。GFRを約100〜125 mL/分とすると、100 mL/分 × 60分 × 24時間 = 144 L/日、125 mL/分なら180 L/日となり、1日の原尿量はおよそ150〜180 Lである。14 L/日はGFRに換算すると約10 mL/分に相当し、これは末期腎不全(透析導入を検討する水準)の値である。桁が一つ違うことに注意する。
- ○c. アミノ酸は近位尿細管で再吸収される。
正しい。糸球体で濾過されたアミノ酸は、近位尿細管の管腔側膜にあるNa⁺共輸送体などのトランスポーターによって、ほぼ100%再吸収される。近位尿細管はアミノ酸のほか、ブドウ糖、リン酸、HCO₃⁻、尿酸、低分子蛋白なども回収する部位である。近位尿細管の再吸収機能が全般的に障害されるFanconi症候群では、アミノ酸尿・腎性糖尿・リン酸尿・近位尿細管性アシドーシスなどがみられ、この部位の役割を裏付ける臨床例となる。
- ×d. ブドウ糖はHenle係蹄で再吸収される。
誤り。ブドウ糖も近位尿細管で再吸収される。主に近位尿細管前半(S1・S2セグメント)のSGLT2(Na⁺・グルコース共輸送体2)が約90%を、後半(S3セグメント)のSGLT1が残りを回収する。Henle係蹄、とくに太い上行脚ではNa⁺・K⁺・Cl⁻(Na⁺-K⁺-2Cl⁻共輸送体:NKCC2)、さらにCa²⁺・Mg²⁺が再吸収されるが、ブドウ糖の再吸収は行われない。なお、SGLT2阻害薬はこの近位尿細管でのブドウ糖再吸収を抑えて尿糖排泄を増やす糖尿病治療薬である。
- ○e. 尿濃縮は主に髄質部集合管で行われる。
正しい。Henle係蹄の対向流増幅系と尿素の再循環によって腎髄質の間質は高浸透圧(最大約1,200 mOsm/kg)に保たれている。下垂体後葉から分泌されたバソプレシン(抗利尿ホルモン:ADH)が集合管主細胞のV2受容体に結合すると、水チャネルのアクアポリン2(AQP2)が管腔側膜に移動・挿入され、水の透過性が上がる。すると集合管内の尿から高浸透圧の髄質間質へ水が移動し、尿が濃縮される。浸透圧勾配が最も大きいのは髄質であるため、最終的な尿濃縮は主に髄質部集合管で行われる。Henle係蹄は濃縮に必要な勾配をつくる役割を担い、実際に濃縮された尿をつくるのは集合管である。
腎臓に関する主な基準値(成人)
・腎血流量(RBF):約1〜1.2 L/分(心拍出量の約20〜25%) ・腎血漿流量(RPF):約600 mL/分 ・糸球体濾過量(GFR):約100〜125 mL/分(約150〜180 L/日) ・濾過率(FF=GFR/RPF):約20% ・1日尿量:約1〜1.5 L(原尿の約1%)
ネフロン各部位の主な働き
・近位尿細管:Na⁺・水の約60〜70%、ブドウ糖・アミノ酸のほぼ全量、HCO₃⁻の約80〜90%、リン酸などを再吸収する。等張性の再吸収である。障害されるとFanconi症候群となる。 ・Henle係蹄:下行脚は水を通しNaClを通しにくい。上行脚は水を通さず、太い上行脚ではNKCC2によりNa⁺・K⁺・2Cl⁻を再吸収し、Ca²⁺・Mg²⁺も傍細胞経路で再吸収される(ループ利尿薬の作用部位)。この性質の違いにより対向流増幅系が成立し、髄質の浸透圧勾配が形成される。 ・遠位曲尿細管:Na⁺-Cl⁻共輸送体(NCC)によるNaCl再吸収(サイアザイド系利尿薬の作用部位)。Ca²⁺再吸収にも関わる。 ・集合管:アルドステロンによるNa⁺再吸収とK⁺・H⁺分泌、バソプレシン(V2受容体→AQP2)による水再吸収と尿濃縮を担う。
水の再吸収の配分(おおよそ)
近位尿細管で約60〜70%、Henle係蹄(下行脚)で約15%前後、残りが遠位ネフロン・集合管で調節される。集合管での再吸収量はバソプレシンの量によって大きく変わり、これが尿量・尿浸透圧の調節の中心となる。
関連する病態
・中枢性尿崩症:バソプレシン分泌低下→集合管で水が再吸収されず低張多尿。 ・腎性尿崩症:V2受容体やAQP2の異常、高Ca血症、低K血症、リチウムなどでバソプレシンに反応しない。 ・Fanconi症候群:近位尿細管の全般的再吸収障害。
POINT
・腎血流量は心拍出量の約20〜25%(約1〜1.2 L/分)。 ・GFRは約100〜125 mL/分、原尿は1日約150〜180 L、尿量はその約1%。 ・ブドウ糖・アミノ酸は近位尿細管でほぼ全量再吸収される(ブドウ糖はSGLT2/SGLT1)。 ・Henle係蹄は髄質の浸透圧勾配をつくり、尿の最終的な濃縮はバソプレシン依存性に髄質部集合管で行われる(V2受容体→AQP2)。
