StudyMed医師国家試験

結核の医療費は誰が払う?―「規模感」と「根拠法」で解く社会保障制度

第109回医師国家試験 E問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第109回 E問題 第2問

社会保障制度について正しいのはどれか。

  1. a.国民医療費はこの10年間で3倍に増加した。
  2. b.診療録の保存義務期間は終診時から2年間である。
  3. c.国民健康保険組合の被保険者数は6千万人より多い。
  4. d.介護保険第1号被保険者数は第2号被保険者数より多い。
  5. e.結核患者の医療費の公費負担は感染症法に規定されている。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は社会保障制度の基本的な統計値と法規定を横断的に問う問題だ。数字の選択肢は細かい値を丸暗記していなくても、日本の人口構成や伸び率の「規模感」で判断できる。法規定の選択肢は、どの法律に何が書かれているかを押さえていれば迷わない。まずは数字の選択肢から考えてみよう。
医学生医学生
国民医療費が10年で3倍というのは、さすがに多すぎる気がします。高齢化で増えているのは公衆衛生の講義で習いましたが……。
ドクタードクター
その感覚は正しいよ。国民医療費は高齢化や医療の高度化で増え続けているけれど、伸びは年に数%程度。出題当時の数字でいえば、2002年度の約31兆円が2012年度に約39兆円と、10年で1.3倍ほどだ。近年は45兆円前後の規模になっているけれど、どの時期を切り取っても10年で3倍という急増ではない。
医学生医学生
年3%の伸びでも10年で1.3倍ちょっとですもんね。3倍なら年10%以上増え続けないといけない計算です。
ドクタードクター
そう、ざっくり計算するだけで否定できる。次は国民健康保険の加入者数だ。6千万人という数字をどう評価する?
医学生医学生
日本の人口が約1億2千万人なので、その半分ですね。国保って加入者が多いイメージがあったので、ありえそうにも思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。日本の医療保険の多数派は、会社員や公務員とその家族が入る被用者保険、つまり協会けんぽ・健康保険組合・共済組合なんだ。こちらで7千万人を超える。国民健康保険は自営業者や無職の人などが中心で、市町村国保と国保組合を合わせても出題当時で3,700万人台。さらに選択肢にある「国民健康保険組合」は医師や建設業など同業種の自営業者がつくる組合で、単独なら300万人程度にすぎない。どちらで解釈しても6千万人には届かないよ。
医学生医学生
75歳以上は後期高齢者医療制度に移るから、国保の加入者はむしろ減っているんでしたっけ。
ドクタードクター
よく知っているね。団塊の世代の移行もあって、国保の加入者は減少傾向だ。では介護保険の被保険者はどうだろう。
医学生医学生
第1号が65歳以上、第2号が40〜64歳ですよね。高齢化が進んでいるので、第1号の方が多いと思いました。
ドクタードクター
ここは誤解しやすいところだ。65歳以上はおよそ3,500万人台、一方40〜64歳はそれより多く4,000万人を超える。年齢の幅も第2号の方が25年分と広いからね。高齢化で第1号は増えてきたけれど、まだ第2号を下回っている。つまり「第1号の方が多い」は誤りだ。
医学生医学生
第2号の人は、どんな理由でも介護サービスを使えるわけではないんですよね。CBTの勉強で特定疾病という言葉を覚えました。
ドクタードクター
その通り。第2号被保険者が給付を受けられるのは、初老期の認知症、脳血管疾患、末期癌など、加齢に伴う16の特定疾病が原因で要介護・要支援になった場合に限られる。第1号は原因を問わない。ここもセットで覚えておこう。続いて診療録の保存期間だ。
医学生医学生
2年って聞いたことがある気がするんですが、カルテは5年でしたっけ。
ドクタードクター
5年が正解。医師法第24条で診療録は5年間の保存が義務付けられていて、保険診療では療養担当規則で「完結の日から5年間」とされている。2年というのは、医療法施行規則で定める病院の「診療に関する諸記録」、たとえば処方箋や手術記録、看護記録、エックス線写真などの保存期間なんだ。数字が混ざりやすいから、どの記録が何年かを区別しておきたい。
医学生医学生
ということは、残る結核の公費負担が感染症法に規定されている、というのが正しいんですね。結核予防法という名前も頭に残っていて一瞬迷いました。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。結核予防法は2007年に廃止されて、感染症法に統合された。現在の結核医療の公費負担は感染症法に根拠がある。入院勧告や入院措置を受けた患者の入院医療費の公費負担と、通院で抗結核薬治療を受ける一般患者の適正医療の公費負担の2本立てだ。後者は医療保険を優先して適用し、医療費の95%から保険給付分を差し引いた額を公費で負担するので、患者の自己負担は5%になる。
医学生医学生
臨床実習で呼吸器内科を回ったとき、結核の患者さんの届出や公費申請の書類を先生が書いていました。あれも感染症法に基づく手続きなんですね。
ドクタードクター
そう。結核は2類感染症で、診断したら直ちに保健所への届出が必要だ。保健所は接触者健診や服薬支援のDOTSも担っている。公費負担は経済的な理由で治療が中断し、耐性菌が生まれるのを防ぐという公衆衛生上の意味もあるんだ。臨床では、届出と公費負担の申請が治療の継続を支えている、という視点を持っておくといい。
医学生医学生
制度の問題も、数字は規模感で、法律は根拠法の変遷で整理すれば解けるとわかりました。
ドクタードクター
その2つの視点を持っておけば、統計値が更新されても対応できるよ。社会保障は社会保険、社会福祉、公的扶助、公衆衛生及び医療の4本柱で成り立っている。自分が将来働く医療がその中でどう支えられているかを意識しながら学ぶと、記憶にも残りやすいはずだ。

まとめ

社会保障制度の問題は、統計値を「規模感」で、法規定を「根拠法」で判断するのが基本です。国民医療費は年に数%ずつ増えており10年で3倍ではなく、医療保険の多数派は被用者保険なので国民健康保険の加入者は6千万人に届かず、介護保険では40〜64歳の第2号被保険者の方が65歳以上の第1号より多い状態が続いています。診療録の保存期間は医師法で5年と定められ、2年は病院の処方箋や手術記録などの諸記録の期間です。結核予防法は2007年に感染症法へ統合され、結核医療の公費負担(入院勧告患者の入院医療と、自己負担5%となる一般患者の適正医療)は感染症法に規定されています。制度の枠組みと法改正の流れを理解しておくことは、届出や公費申請など臨床現場の実務にも直結します。

解答・解説

正解はeです

問われていること

日本の社会保障制度に関する基本的な統計値と法規定を横断的に問う問題である。国民医療費の推移、診療録の保存期間、医療保険の加入者構成、介護保険の被保険者区分、結核医療の公費負担の根拠法と、いずれも頻出の知識が並んでいる。

考え方

数値の選択肢は細かい値を暗記していなくても、大まかな規模感で正誤を判断できる。 ・国民医療費は年に数%ずつ増える程度であり、10年で3倍といった急増はしていない。 ・日本の総人口は約1億2千万人で、そのうち会社員・公務員とその家族が加入する被用者保険の加入者が多数派である。したがって国民健康保険(自営業者・無職者・高齢者などが中心)の加入者が6千万人を超えることはない。 ・介護保険の第1号(65歳以上)と第2号(40〜64歳)は、それぞれの年齢層の人口に対応する。 法規定の選択肢は、診療録の保存期間(5年)と、結核予防法が2007年に感染症法へ統合されたことを知っていれば判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  国民医療費はこの10年間で3倍に増加した。

    国民医療費は高齢化や医療の高度化により増加を続けているが、その伸びは年率で数%程度である。本問出題時点の直近値で比べると、平成14年度(2002年度)の約30.9兆円に対し平成24年度(2012年度)は約39.2兆円で、10年間で約1.3倍にとどまる。平成13年度の約31.1兆円と平成23年度の約38.6兆円で比べても同程度である。その後も増加は続き、令和4年度(2022年度)には約46.7兆円となっているが、どの時期で見ても10年で3倍という増加ではない。

  2. ×b.  診療録の保存義務期間は終診時から2年間である。

    診療録(カルテ)の保存期間は医師法第24条で5年間と定められており、保険診療については保険医療機関及び保険医療養担当規則で「その完結の日から5年間」と規定されている。2年間という期間は、医療法施行規則に定める病院の「診療に関する諸記録」(処方箋、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真など)の保存期間であり、診療録本体の期間と混同しないよう注意する。

  3. ×c.  国民健康保険組合の被保険者数は6千万人より多い。

    国民健康保険の加入者は、市町村(現在は都道府県と市町村の共同運営)が保険者となる市町村国保と、医師・弁護士・建設業など同業種の自営業者で組織する国民健康保険組合(国保組合)を合わせても、出題当時で約3,700〜3,800万人であり、6千万人には届かない。このうち国保組合単独では約300万人程度にすぎない。日本の医療保険加入者の多数は、協会けんぽ・健康保険組合・共済組合などの被用者保険に属しており、その加入者は約7千万人を超える。さらに近年は団塊の世代の後期高齢者医療制度への移行などにより、国民健康保険の加入者数は減少傾向にある。

  4. ×d.  介護保険第1号被保険者数は第2号被保険者数より多い。

    第1号被保険者は65歳以上の者、第2号被保険者は40〜64歳の医療保険加入者である。出題当時(平成24年頃)は第1号が約3,000万人、第2号が約4,200〜4,300万人であり、第2号の方が多い。高齢化に伴い第1号被保険者は増えて近年は3,500万人台となっているが、なお第2号被保険者数を下回っている。なお、第2号被保険者が介護保険のサービスを受けられるのは、加齢に伴う特定疾病(初老期認知症、脳血管疾患、末期癌など16疾病)が原因で要介護・要支援状態となった場合に限られる。

  5. ○e.  結核患者の医療費の公費負担は感染症法に規定されている。

    結核対策はかつて結核予防法に基づいて行われていたが、2007年に同法は廃止され、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に統合された。現在、結核医療の公費負担は感染症法に規定されている。第37条は入院勧告・入院措置を受けた患者の入院医療費の公費負担(所得に応じた自己負担あり)を、第37条の2は一般の結核患者に対する適正な医療(主に通院による抗結核薬治療など)の公費負担を定めている。後者では、医療保険が優先して適用され、医療費の95%から保険給付分を差し引いた額が公費で負担されるため、患者の自己負担は5%となる。

日本の社会保障制度の4本柱

社会保険(医療保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険)、社会福祉、公的扶助(生活保護)、公衆衛生及び医療から構成される。

医療保険制度の構成

・被用者保険:協会けんぽ(主に中小企業の被用者)、組合管掌健康保険(主に大企業)、共済組合(公務員など)、船員保険 ・国民健康保険:市町村国保(自営業者・無職者・非正規雇用者など)、国民健康保険組合(同業種の自営業者) ・後期高齢者医療制度:75歳以上(一定の障害がある65歳以上を含む)

介護保険の被保険者

・第1号被保険者:65歳以上。原因を問わず要介護・要支援認定を受ければ給付を受けられる。保険料は原則として年金から天引き(特別徴収)。 ・第2号被保険者:40〜64歳の医療保険加入者。特定疾病による場合のみ給付対象。保険料は医療保険料と一括徴収。

記録の保存期間

・診療録:5年(医師法第24条) ・病院の診療に関する諸記録(処方箋、手術記録、看護記録、検査記録、エックス線写真など):2年(医療法施行規則) ・保険診療に関する帳簿・書類(診療録以外):3年(療養担当規則) ・調剤録:3年(薬剤師法)

感染症法による医療費公費負担

・1類・2類感染症、新型インフルエンザ等感染症などで入院勧告を受けた患者の入院医療費 ・結核:入院勧告患者(第37条)と一般患者の適正医療(第37条の2、自己負担5%)

POINT

・国民医療費は年々増加しているが、10年で3倍という急増ではない(近年は約45兆円規模) ・診療録の保存期間は5年(医師法)。2年は病院の諸記録 ・医療保険加入者は被用者保険が多数派で、国民健康保険は6千万人より少ない ・介護保険は第2号被保険者(40〜64歳)の方が第1号(65歳以上)より多い ・結核予防法は2007年に廃止され、結核の公費負担は感染症法(第37条、第37条の2)に規定されている

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。