母子保健の主役は市町村―妊娠届から始まる「切れ目のない支援」を読み解く
第109回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
我が国の母子保健制度について正しいのはどれか。
- a.母子健康手帳は妊娠の届出の際に交付される。
- b.乳幼児の健康診査の根拠法は健康増進法である。
- c.母子保健法で定める事業の主体は都道府県である。
- d.妊産婦の健康診査の実施時期は法律で定められている。
- e.社会保険事務所は未熟児に対する養育医療の給付を行う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
我が国の母子保健制度は母子保健法を中心に組み立てられており、その事業の実施主体は原則として市町村です。妊娠した人が市町村に妊娠を届け出ると母子健康手帳が交付され、これが妊婦健診、新生児訪問、乳幼児健診へと続く公的支援の入口になります。1歳6か月児健診と3歳児健診は母子保健法で市町村に義務付けられており、健康増進法は主に成人の健康づくりの根拠法です。妊婦健診の時期・回数は法律ではなく告示の基準で示され、未熟児養育医療(出生体重2,000g以下など)も市町村が給付します。「誰が担い、何を根拠とするか」を押さえておくことは、未受診妊婦や産後うつ、虐待の兆候に気づいたとき、地域の保健師と速やかに連携する力につながります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
我が国の母子保健制度の中心となる法律(母子保健法)の内容と、事業を実施する主体を問う問題である。
考え方
母子保健法に基づく事業は、住民に最も身近な自治体である市町村が一元的に実施するのが原則である。1994年の母子保健法改正(1997年施行)により、それまで都道府県(保健所)が担っていた3歳児健診や妊産婦・乳幼児の訪問指導などの基本的な母子保健サービスが市町村へ移され、さらに2013年度からは未熟児の訪問指導や養育医療の給付、低体重児の届出の受理も市町村に移譲された。したがって「主体は市町村」を軸に各選択肢を見ていけば、実施主体の誤り(都道府県、社会保険事務所)や根拠法の誤り(健康増進法)を見抜ける。 また、妊娠届から母子健康手帳の交付、妊婦健康診査、出産後の新生児訪問、乳幼児健康診査へと続く流れを時系列で押さえておくとよい。
選択肢考察
- ○a. 母子健康手帳は妊娠の届出の際に交付される。
母子保健法第15条により、妊娠した者は速やかに市町村長に妊娠の届出をしなければならず、第16条により、市町村は届出をした者に母子健康手帳を交付しなければならないと定められている。母子健康手帳には妊娠経過、分娩の状況、新生児期以降の発育・健診結果・予防接種歴などが一貫して記録され、母子の健康管理の基礎資料となる。多くの市町村では交付時に妊婦健康診査の受診票(公費補助券)も配布されるため、妊娠の届出は、妊婦を公的な母子保健サービスにつなぐ入口の役割を持つ。
- ×b. 乳幼児の健康診査の根拠法は健康増進法である。
乳幼児の健康診査の根拠法は母子保健法である。第12条で、市町村は1歳6か月を超え2歳に満たない幼児(1歳6か月児健診)と、満3歳を超え満4歳に満たない幼児(3歳児健診)に健康診査を行わなければならないと義務付けられている。これ以外の乳児健診(3〜4か月児健診など)は、第13条に基づき市町村が必要に応じて実施する。健康増進法は、国民の健康増進の総合的な推進を目的とする法律で、健康診査に関しては主に成人を対象とした健康増進事業(歯周疾患検診、骨粗鬆症検診、がん検診など)の根拠となる。
- ×c. 母子保健法で定める事業の主体は都道府県である。
母子保健法に基づく事業の実施主体は原則として市町村である。妊娠届の受理と母子健康手帳の交付、妊産婦・乳幼児の健康診査、保健指導、新生児・未熟児の訪問指導、低体重児の届出の受理、養育医療の給付などは、いずれも市町村が行う。都道府県(保健所)は、市町村間の連絡調整や技術的援助、専門的な母子保健サービスの提供などの支援的役割を担う。
- ×d. 妊産婦の健康診査の実施時期は法律で定められている。
母子保健法第13条は、市町村が必要に応じて妊産婦に健康診査を行うこと(または受けることを勧奨すること)を定めるが、法律そのものは健診の回数や時期を規定していない。具体的な時期は、厚生労働大臣が定める「妊婦に対する健康診査についての望ましい基準」(告示)などで示されており、標準的には妊娠初期〜23週は4週間に1回、24〜35週は2週間に1回、36週以降分娩までは1週間に1回とされ、合計14回程度の受診が目安となる。いずれも法律の条文ではなく、告示・通知による基準である。
- ×e. 社会保険事務所は未熟児に対する養育医療の給付を行う。
未熟児養育医療の給付は母子保健法第20条に基づき、市町村が行う(2013年度に都道府県から市町村へ権限が移譲された)。対象は、出生時体重2,000g以下の児、または生活力が特に薄弱で一定の症状(けいれん・運動異常、体温34℃以下、強い呼吸器・循環器異常、強い黄疸など)を示す児で、医師が入院養育を必要と認めた場合に、指定養育医療機関での入院医療費が給付される。社会保険事務所は、かつて政府管掌健康保険や厚生年金の事務を担当した社会保険庁の出先機関であり、2010年の社会保険庁廃止に伴って日本年金機構の年金事務所となった。母子保健法の給付とは関係しない。
母子保健法に基づく主な事業(実施主体は原則として市町村)
・妊娠の届出(第15条)と母子健康手帳の交付(第16条) ・保健指導(第10条) ・新生児の訪問指導(第11条) ・1歳6か月児健診・3歳児健診(第12条、義務) ・その他の妊産婦・乳幼児の健康診査(第13条、必要に応じて実施) ・低体重児の届出(第18条):出生時体重2,500g未満の児は保護者が市町村に届け出る ・未熟児の訪問指導(第19条) ・養育医療の給付(第20条):出生時体重2,000g以下など ・母子健康包括支援センター(第22条、現在は児童福祉法上の「こども家庭センター」へ再編):妊娠期から子育て期まで切れ目のない支援を行う
母子保健に関わる主な法律
・母子保健法:妊娠・出産・乳幼児期の保健 ・児童福祉法:小児慢性特定疾病の医療費助成、療育、児童虐待対応など ・母体保護法:不妊手術、人工妊娠中絶 ・健康増進法:主に成人期の健康づくり、受動喫煙対策など
経済的支援との区別
出産育児一時金や出産手当金は健康保険法・国民健康保険法など医療保険各法による給付であり、母子保健法の事業ではない。出産育児一時金は2023年4月から原則50万円に引き上げられた。
POINT
・母子保健法の事業の実施主体は原則として市町村 ・妊娠届(第15条)→母子健康手帳の交付(第16条)は市町村 ・1歳6か月児健診・3歳児健診は母子保健法第12条で市町村に義務付けられている ・妊婦健診の時期・回数は法律ではなく告示・通知の基準(初期〜23週:4週毎、24〜35週:2週毎、36週〜:毎週) ・未熟児養育医療(出生体重2,000g以下など)は母子保健法第20条、給付主体は市町村
