血尿よりも蛋白尿を見よ―糸球体腎炎の「腎予後」を左右する3つのサイン
第109回医師国家試験 D問題 第59問
国試問題にチャレンジ
38歳の男性。健康診断で尿蛋白と尿潜血とを指摘されて来院した。身長174 cm,体重72 kg。体温36.4℃。脈拍72/分,整。血圧146/88 mmHg。尿所見:蛋白2+,潜血3+。血液生化学所見:総蛋白6.4 g/dL,アルブミン3.8 g/dL,IgA 330 mg/dL(基準110~410),尿素窒素22 mg/dL,クレアチニン1.2 mg/dL,尿酸7.6 mg/dL。免疫血清学所見:CRP 0.1 mg/dL,ASO 180単位(基準250以下),MPO-ANCA 20 EU/mL未満(基準20未満),抗核抗体陰性,CH50 25 U/mL(基準30~40)。同意が得られず腎生検は施行していない。 腎機能低下のリスクファクターとなるのはどれか。3つ選べ。
- a.血清IgA
- b.血清クレアチニン
- c.収縮期血圧
- d.尿潜血
- e.尿蛋白
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
血尿と蛋白尿を伴う成人の慢性糸球体腎炎では、頻度からまずIgA腎症を考えますが、確定診断には腎生検が必要です。病型が確定していなくても、慢性糸球体腎炎やCKD全般に共通する腎機能低下の臨床的リスクファクターとして、診断時の腎機能低下(血清クレアチニン高値・eGFR低値)、高血圧、蛋白尿の多さの3つが確立しています。一方、血清IgA値は診断の参考にはなっても予後とは相関せず、血尿の程度も確立した予後因子ではありません。治療ではACE阻害薬やARBによる降圧と蛋白尿の減少が腎保護の柱となり、CKD重症度分類でもGFR区分と蛋白尿区分を組み合わせて予後を評価します。どの指標が予後を左右するかを理解することは、健診での尿異常を適切に精査・管理するための基盤となります。
解答・解説
正解はb, c, eです
所見の整理
・38歳男性。健康診断で蛋白尿と血尿(尿潜血)を同時に指摘された。 ・血圧146/88 mmHgと軽度の高血圧がある(診察室血圧140/90 mmHg以上で高血圧)。 ・尿蛋白2+、尿潜血3+。 ・総蛋白6.4 g/dL、アルブミン3.8 g/dLで低アルブミン血症はなく(ネフローゼ症候群の基準は血清アルブミン3.0 g/dL以下)、浮腫の記載もないためネフローゼ症候群ではない。 ・クレアチニン1.2 mg/dL、尿素窒素22 mg/dL、尿酸7.6 mg/dL。日本人のeGFR推算式(194×Cr^−1.094×年齢^−0.287、男性)で計算するとeGFRは約56 mL/分/1.73 m²で、CKD(慢性腎臓病)重症度分類のG3a(45〜59)に相当する軽度〜中等度の腎機能低下がある。 ・IgAは基準範囲内、ASOは上昇せず、MPO-ANCA陰性、抗核抗体陰性。CH50(血清補体価)は軽度低下している。 ・腎生検は行われていない。
鑑別のプロセス
蛋白尿と血尿が併存していることから、糸球体に病変のある慢性糸球体腎炎が考えられる。ASO上昇がなく先行感染の記載もないため溶連菌感染後急性糸球体腎炎は考えにくく、MPO-ANCA陰性でANCA関連血管炎、抗核抗体陰性でループス腎炎の可能性も低い。若年〜中年の成人で健診を契機に見つかる血尿・蛋白尿としては、わが国で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎であるIgA腎症がまず考えられる(血清IgAが正常でもIgA腎症は否定できない)。ただし補体低下を伴う点からは膜性増殖性糸球体腎炎なども鑑別に残り、確定診断には腎生検が必要である。
設問の考え方
本問は病理診断が確定していない状況で、「どの臨床指標が将来の腎機能低下(末期腎不全への進行)を予測するか」を問うている。IgA腎症を含む慢性糸球体腎炎、さらにCKD全般において、腎予後不良の臨床的因子として確立しているのは、(1) 診断時点ですでに腎機能が低下していること(血清クレアチニン高値・eGFR低値)、(2) 高血圧、(3) 蛋白尿が多いこと、の3つである。一方、血清IgA値や血尿の程度は腎予後の予測因子としては確立していない。
選択肢考察
- ×a. 血清IgA
IgA腎症では約半数で血清IgAが315 mg/dL以上に上昇し、診断の参考所見となる。しかしIgA値の高さは糸球体障害の程度や腎機能低下の速さとは相関せず、腎予後の予測因子にはならない。本例でもIgAは330 mg/dLで基準範囲内であり、正常値だからといってIgA腎症を否定することもできない。
- ○b. 血清クレアチニン
血清クレアチニンは糸球体濾過量(GFR)が低下すると上昇する。診断時にすでにGFRが低下していることは、すでに多くのネフロンが失われていることを意味し、残ったネフロンに過剰な負荷(糸球体過剰濾過)がかかってさらに障害が進む悪循環に陥りやすい。そのためIgA腎症でもCKD全般でも、診断時の腎機能低下は将来の末期腎不全への進行を予測する重要な因子である。本例はeGFR約56 mL/分/1.73 m²とすでに低下している。
- ○c. 収縮期血圧
高血圧は糸球体内圧を上昇させ、糸球体硬化と間質線維化を促進するため、腎機能低下の主要な危険因子である。腎障害自体が高血圧を悪化させる(腎実質性高血圧)ため、悪循環を形成する。IgA腎症の予後分類でも高血圧は予後不良因子とされ、CKDでは降圧目標(蛋白尿を伴う場合130/80 mmHg未満)を設定し、蛋白尿があればACE阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を用いて腎保護を図る。
- ×d. 尿潜血
尿潜血(血尿)は糸球体に炎症があることを示し、IgA腎症の診断のきっかけや疾患活動性の目安にはなるが、血尿の程度そのものは腎機能低下の確立した予測因子とはされていない。血尿のみで蛋白尿を伴わない場合は、一般に腎予後は良好である。腎予後の評価では蛋白尿の量のほうがはるかに重要である。
- ○e. 尿蛋白
蛋白尿は糸球体障害の程度を反映するだけでなく、尿細管で再吸収される過剰な蛋白が尿細管間質の炎症・線維化を引き起こし、腎障害を進行させる。蛋白尿が多いほど腎機能の低下速度は速く、IgA腎症では1日0.5 g以上(特に1 g以上)の蛋白尿が持続する例で予後不良とされる。CKD重症度分類でも、GFR区分(G)に加えて蛋白尿区分(A)で予後を評価する。蛋白尿を減らすことは治療目標の一つである。
IgA腎症の概要
・糸球体のメサンギウム領域にIgA(主にIgA1)が沈着する慢性糸球体腎炎で、わが国の原発性糸球体腎炎のなかで最も多い。 ・健診での血尿・蛋白尿で見つかることが多く、上気道感染の直後(1〜3日以内)に肉眼的血尿を来すのが特徴である(溶連菌感染後急性糸球体腎炎は感染後1〜2週の潜伏期を経て発症する点で異なる)。 ・血清補体は通常正常である。確定診断は腎生検(蛍光抗体法でメサンギウムへのIgA沈着)による。 ・無治療では診断後20年で約40%が末期腎不全に至るとされ、決して予後良好な疾患ではない。 ・治療:レニン・アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬・ARB)による降圧・抗蛋白尿、副腎皮質ステロイド、扁桃摘出術+ステロイドパルス療法など。
慢性糸球体腎炎・CKDの腎予後不良因子
・臨床的因子:診断時の腎機能低下(eGFR低値)、高血圧、多量の蛋白尿、肥満、喫煙、高尿酸血症など。 ・病理的因子:糸球体硬化、半月体形成、尿細管萎縮・間質線維化の程度。 ・予後因子にならないもの:血清IgA値、血尿の程度(単独)。
CKD重症度分類
原因(Cause)、GFR区分(G1:90以上、G2:60〜89、G3a:45〜59、G3b:30〜44、G4:15〜29、G5:15未満、単位はmL/分/1.73 m²)、蛋白尿区分(A1〜A3)を組み合わせたCGA分類で評価する。GFRが低いほど、蛋白尿が多いほど、末期腎不全と心血管疾患のリスクが高い。
POINT
・蛋白尿と血尿を伴う若年〜中年成人の慢性糸球体腎炎では、頻度的にまずIgA腎症を考える。確定には腎生検が必要。 ・腎機能低下の臨床的リスクファクター:診断時の腎機能低下(血清クレアチニン高値)、高血圧、蛋白尿の多さ。 ・血清IgA値や血尿の程度は腎予後の予測因子ではない。 ・IgA腎症では持続する蛋白尿(0.5 g/日以上、特に1 g/日以上)が予後不良のサイン。
