StudyMed医師国家試験

「5番の長腕が欠けている」が治療を決める―低リスク5q欠失MDSとレナリドミド

第109回医師国家試験 D問題 第36問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第36問

72歳の男性。易疲労感を主訴に来院した。3か月前から動悸,息切れ及び易疲労感が出現し次第に増悪したため受診した。意識は清明。体温36.6℃。脈拍96/分,整。血圧128/72 mmHg。眼瞼結膜は貧血様である。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球202万,Hb 6.2 g/dL,Ht 24%,白血球2,500(桿状核好中球10%,分葉核好中球48%,好酸球2%,単球8%,リンパ球32%),血小板9.8万。血液生化学所見:総蛋白6.8 g/dL,アルブミン4.8 g/dL,AST 28 IU/L,ALT 35 IU/L,LD 482 IU/L(基準176~353),クレアチニン0.9 mg/dL,Fe 120 μg/dL。CRP 0.3 mg/dL。骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。骨髄染色体検査では5番染色体長腕欠失を認めた。  現時点での治療として最も適切なのはどれか。

第109回 D問題 第36問の問題画像
  1. a.血小板輸血
  2. b.経口鉄剤投与
  3. c.レナリドミド投与
  4. d.同種造血幹細胞移植
  5. e.多剤併用抗癌化学療法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の貧血の原因を突き止めたうえで、「今この患者さんに何をするか」を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、貧血の性質、ほかの血球の状態、そして最後に書かれている染色体異常の3つ。まずは貧血のタイプから考えてみよう。赤血球数とHtから何がわかるかな。
医学生医学生
MCVを計算すると、24÷202×1000で約119 fLです。大球性貧血ですね。
ドクタードクター
その通り。しかも白血球と血小板も少し減っていて、汎血球減少になっている。高齢者の大球性貧血と汎血球減少を見たら、まず何を鑑別に挙げる?
医学生医学生
ビタミンB12や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血でしょうか。LDが高いのも、血液内科の講義で無効造血のサインと習いました。
ドクタードクター
いい線だね。巨赤芽球性貧血は無効造血でLDが上がるし、末梢血だけでは区別が難しい。そこでもう一つの大きな候補が骨髄異形成症候群、MDSだ。両者を分ける決め手は何だと思う?
医学生医学生
骨髄の形態と……染色体でしょうか。巨赤芽球性貧血はビタミン不足なので、染色体異常は起きないはずです。
ドクタードクター
まさにそこ。MDSは造血幹細胞の異常クローンが増える腫瘍性疾患で、血球の形態異常、つまり異形成と、クローン性の染色体異常を伴うことが多い。骨髄塗抹では赤芽球の核が多核化するなどの異形成がみられ、芽球の目立った増加はない。そして5番染色体長腕欠失、いわゆるdel(5q)がある。これで5q欠失を伴うMDSと診断できる。
医学生医学生
血清鉄も正常なので、鉄欠乏は否定的ですね。でも治療となると、MDSは白血病になる病気なので強い治療が必要な気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。MDSの治療方針は、IPSS-Rという予後スコアでリスクを分けて決める。芽球比率、染色体異常、Hb、好中球数、血小板数を点数化するんだ。この患者さんは芽球が増えておらず、del(5q)単独は予後良好な染色体異常。好中球は約1,450/μL、血小板は約10万で、Hbは低いけれど全体としては低リスク群に相当する。
医学生医学生
低リスクなら、白血病化を防ぐより、貧血をどう改善するかが目標になるということですか。
ドクタードクター
その通り。低リスクMDSの目標は血球減少の改善と生活の質の維持だ。そして高度の症候性貧血を伴う低リスクのdel(5q) MDSでは、レナリドミドが第一選択になる。
医学生医学生
レナリドミドは多発性骨髄腫の薬として習いました。なぜ5q欠失に効くんですか。
ドクタードクター
レナリドミドはサリドマイド由来の免疫調節薬で、セレブロンという蛋白質に結合して特定の蛋白質の分解を促す。5q欠失をもつクローンは5q上の遺伝子が片方しかない、ハプロ不全の状態にあるから、この作用に特に弱く、異常クローンが選択的に減っていく。その結果、多くの患者さんで輸血が不要になり、染色体異常が消える例もあるんだ。
医学生医学生
では他の選択肢も確認させてください。血小板輸血は、血小板が10万近くあって出血もないので不要ですよね。
ドクタードクター
そうだね。予防的な血小板輸血を考えるのは、慢性の造血不全ではおおむね1万/μLを下回るような場合だ。この患者さんで問題なのは貧血だから、輸血をするとしても対症的な赤血球輸血になる。経口鉄剤はどうかな。
医学生医学生
血清鉄が正常で大球性なので、鉄剤を使う理由がありません。
ドクタードクター
それに加えて、MDSは無効造血と繰り返す輸血でむしろ鉄過剰になりやすい。進行すると鉄キレート薬で除鉄することもあるくらいだから、鉄剤はかえって有害になりうる。では同種造血幹細胞移植は?
医学生医学生
MDSを治せる唯一の治療と聞いたので、魅力的に見えました。
ドクタードクター
確かに根治を目指せる唯一の治療だけど、移植片対宿主病や感染症など移植関連死亡のリスクが高い。対象は主に高リスクで、比較的若く全身状態の良い患者さんだ。72歳で低リスクのこの方には、リスクが利益を上回る。多剤併用化学療法も同じ理屈で、芽球が増えた高リスクMDSや白血病へ移行した例で、移植を見据えた若年者に行うことがあるものだ。
医学生医学生
高齢の高リスクMDSだったら、アザシチジンでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。移植できない高リスク例ではアザシチジンなどの低メチル化薬が中心になる。低リスクなら支持療法、エリスロポエチン製剤、del(5q)にはレナリドミド、というように、リスクと染色体で治療が分かれるんだ。
医学生医学生
レナリドミドを使うときに注意することはありますか。
ドクタードクター
大事な点だ。副作用として好中球減少や血小板減少、深部静脈血栓症などの血栓塞栓症がある。そしてサリドマイド系だから催奇形性があり、避妊指導などを含む厳格な適正管理手順のもとで使う。開始後しばらくは血球数をこまめに追う必要があるよ。
医学生医学生
5q−症候群は高齢女性に多くて、血小板はむしろ保たれやすいと教科書にありましたが、この方は男性で血小板も少し低めですね。
ドクタードクター
鋭いね。典型像は高齢女性の大球性貧血で、血小板は正常から増加、骨髄では分葉の乏しい小型巨核球が特徴とされる。ただ典型像から外れる例もあるから、最終的には染色体検査で確認し、リスク評価を組み合わせて治療を決めることが大切なんだ。

まとめ

高齢者の大球性貧血を伴う汎血球減少では、巨赤芽球性貧血と骨髄異形成症候群(MDS)を鑑別し、骨髄の異形成とクローン性染色体異常の有無が決め手になります。本例は芽球増加がなく5番染色体長腕欠失を単独でもつMDSで、IPSS-Rでは低リスク群に相当し、治療目標は白血病化の抑制より貧血の改善と生活の質の維持です。症候性貧血を伴う低リスクのdel(5q) MDSには、ハプロ不全の異常クローンを選択的に減らすレナリドミドが第一選択で、血球減少・血栓症・催奇形性に注意して使います。血小板輸血や鉄剤は適応がなく(鉄剤はむしろ鉄過剰を助長)、同種移植や多剤併用化学療法は若年の高リスク例が対象です。MDSはリスク分類と染色体で治療が大きく変わる疾患であり、この考え方を押さえることが血液疾患の治療選択の基礎になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・72歳男性。3か月前からの動悸・息切れ・易疲労感が徐々に悪化している。いずれも貧血による症状と考えられる。発熱はなく、肝脾腫もない。 ・末梢血:赤血球202万、Hb 6.2 g/dL、Ht 24%の高度貧血。平均赤血球容積(MCV)を計算すると、Ht 24 ÷ 赤血球202万 × 1000 ≒ 119 fLで、大球性貧血である。白血球2,500(好中球は桿状核10%+分葉核48%=58%で、好中球数は約1,450/μL)、血小板9.8万と軽度減少しており、汎血球減少の状態である。白血球分画に芽球は記載されていない。 ・生化学:LD 482 IU/Lと上昇。骨髄内で作られた血球が成熟前に壊れる無効造血を反映すると考えられる。血清鉄は120 μg/dLで正常範囲であり、鉄欠乏はない。CRPはほぼ正常で、炎症に伴う貧血も考えにくい。 ・骨髄血塗抹標本では赤芽球系を中心に核の形態異常(多核化など)を伴う細胞がみられ、芽球の目立った増加はない。 ・骨髄染色体検査で5番染色体長腕欠失〔del(5q)〕を認める。

診断へのプロセス

高齢者の大球性貧血を伴う汎血球減少では、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)と骨髄異形成症候群(MDS)が主な鑑別となる。いずれも無効造血によりLDが上昇し、末梢血所見だけでは区別が難しい。決め手となるのは骨髄所見と染色体検査である。巨赤芽球性貧血では巨赤芽球はみられるが、クローン性の染色体異常は生じない。一方、MDSは造血幹細胞の異常クローンが増える腫瘍性疾患で、血球の形態異常(異形成)と染色体異常を伴うことが多い。本例では5q欠失というMDSに特徴的な染色体異常があり、「5q欠失を伴うMDS」(5q−症候群、WHO分類2022ではMDS with low blasts and isolated 5q deletion)と診断される。

設問の考え方

MDSの治療方針は、予後予測スコア(IPSS-R:改訂国際予後スコアリングシステム)によるリスク分類と年齢・全身状態で決まる。IPSS-Rは骨髄芽球比率、染色体異常、Hb、好中球数、血小板数から点数化する。本例は芽球の増加がなく、del(5q)単独は予後良好群の染色体異常であり、Hb 6.2 g/dL(8 g/dL未満)、血小板9.8万(5万以上10万未満)、好中球約1,450/μL(800/μL以上)を合わせると低リスク群に相当する。低リスクMDSの治療目標は、白血病化の抑制よりも血球減少(特に貧血)の改善と生活の質の維持である。高度の症候性貧血をもつ低リスクのdel(5q) MDSでは、レナリドミドが第一選択となる。

選択肢考察

  1. ×a.  血小板輸血

    血小板数は9.8万/μLであり、出血症状もない。血小板輸血は一般に、出血がある場合や血小板数が極めて少ない場合(造血不全の慢性期の予防投与ではおおむね1万/μL未満など)に考慮するもので、本例では適応がない。本例で問題となっているのは高度の貧血であり、輸血をするとしても対症的な赤血球輸血である。

  2. ×b.  経口鉄剤投与

    経口鉄剤は鉄欠乏性貧血の治療薬である。本例は血清鉄が正常で、貧血は小球性ではなく大球性であり、鉄欠乏はない。MDSでは無効造血と繰り返す赤血球輸血によって鉄はむしろ過剰になりやすく、進行すると鉄キレート薬(デフェラシロクスなど)で除鉄を行うことがある。鉄剤を投与すると鉄過剰を助長するため不適切である。

  3. ○c.  レナリドミド投与

    レナリドミドはサリドマイドから誘導された免疫調節薬で、細胞内の蛋白質セレブロンに結合して特定の蛋白質の分解を促す。5q欠失をもつ異常クローンは、5q上の遺伝子が片方しかないため(ハプロ不全)、この作用に対して特に脆弱であり、異常クローンが選択的に減少する。その結果、低リスクのdel(5q) MDSでは多くの患者で赤血球輸血が不要になり、染色体異常が消失する(細胞遺伝学的寛解)例もある。本例は芽球の増加がない低リスクのdel(5q) MDSで、高度の症候性貧血を伴っており、レナリドミドが最も適切である。副作用として好中球減少・血小板減少、深部静脈血栓症などの血栓塞栓症があり、催奇形性があるため厳格な管理下(避妊指導などを含む適正管理手順)で使用する。

  4. ×d.  同種造血幹細胞移植

    同種造血幹細胞移植はMDSを治癒させうる唯一の治療であるが、移植関連合併症(移植片対宿主病、感染症、臓器障害など)による死亡のリスクが高い。主に高リスクMDSで、年齢が比較的若く(おおむね70歳前後まで)、全身状態が良好な患者が対象となる。本例は72歳の高齢で、しかも低リスク群であり、移植のリスクが利益を上回るため適応とならない。

  5. ×e.  多剤併用抗癌化学療法

    急性骨髄性白血病に準じた多剤併用の寛解導入療法は、芽球が増加した高リスクMDSや、白血病へ移行した場合に、移植を見据えて若年者に行うことがある。高齢者の高リスクMDSでは、アザシチジンなどの低メチル化薬が主に用いられる。本例は芽球の増加がない低リスクMDSであり、強い骨髄抑制を伴う多剤併用化学療法は利益がなく、適応とならない。

骨髄異形成症候群(MDS)の概要

・造血幹細胞に遺伝子異常が生じてできたクローンが増え、無効造血による血球減少、血球の形態異常(異形成)を起こす疾患群である。高齢者に多く、一部は急性骨髄性白血病へ移行する(前白血病状態)。 ・検査:末梢血で1系統以上の血球減少(大球性貧血が多い)。骨髄は正〜過形成のことが多い(無効造血)。異形成の例として、赤芽球の多核・核の断片化・環状鉄芽球、好中球の偽Pelger核異常・脱顆粒、微小巨核球などがある。LDは無効造血により上昇しうる。 ・染色体異常:5q欠失、7番染色体の欠失(−7/7q−)、+8、20q欠失、複雑核型など。−7や複雑核型は予後不良、5q欠失単独や20q欠失は予後良好とされる。

5q欠失を伴うMDS(5q−症候群)

・高齢女性に多いとされ、大球性貧血が主体で、血小板数は正常ないし増加することが多い。骨髄では核の分葉が乏しい小型の巨核球が特徴的である。芽球は増加せず、白血病への移行は比較的少ない。 ・レナリドミドがよく効くことが知られ、低リスク例で輸血依存性の貧血がある場合の第一選択薬である。

MDSの治療(リスク別)

・低リスク:血球減少の改善が目標。経過観察、赤血球輸血・血小板輸血などの支持療法、鉄キレート療法、赤血球造血刺激因子製剤(エリスロポエチン製剤:血清エリスロポエチン値が低い例で有効性が高い)、del(5q)にはレナリドミド。近年は環状鉄芽球を伴う例などでルスパテルセプトも用いられる。 ・高リスク:白血病化の抑制と生存期間の延長が目標。適応があれば同種造血幹細胞移植(唯一の根治的治療)、移植できない場合はアザシチジンなどの低メチル化薬。

大球性貧血の鑑別

巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸欠乏)、MDS、肝疾患、アルコール多飲、甲状腺機能低下症、網赤血球増加(溶血・出血後)、薬剤(メトトレキサート、ヒドロキシカルバミドなど)。

POINT

・高齢者の大球性貧血+汎血球減少では、巨赤芽球性貧血とMDSを鑑別する。決め手は骨髄の異形成と染色体異常。 ・5q欠失単独のMDSは芽球増加がなく低リスクのことが多く、大球性貧血が主体。 ・低リスクで症候性貧血を伴うdel(5q) MDSにはレナリドミドが第一選択。副作用(血球減少・血栓症・催奇形性)も押さえる。 ・MDSのリスク評価はIPSS-R(芽球、染色体、Hb、好中球、血小板)。低リスクは支持療法中心、高リスクは移植または低メチル化薬(アザシチジン)。 ・MDSは輸血により鉄過剰となりやすく、鉄剤は不要どころか有害である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。