「育て方」ではなく「生まれつき」―感覚過敏から捉え直す自閉症の本質
第109回医師国家試験 D問題 第3問
国試問題にチャレンジ
自閉症について正しいのはどれか。
- a.感覚過敏を伴うことが特徴である。
- b.適切な育児によって愛着は形成される。
- c.1歳前後で人見知りや後追いが激しい。
- d.知的発達の遅れを伴うものは約30%である。
- e.言葉が現れればコミュニケーションが成立するようになる。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
自閉症(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害と、限定された反復的な行動・興味を中核とする生来の神経発達症であり、感覚の過敏・鈍麻はDSM-5の診断基準にも含まれる特徴的な症状です。養育が原因ではないため「育児次第で愛着が形成される」という発想は誤りで、これは不適切な養育による反応性アタッチメント障害の考え方にあたります。乳児期には人見知りや後追い、視線、指さしが乏しく、言葉が出ても反響言語などのためにやりとりは成立しにくく、古典的自閉症では7〜8割に知的発達の遅れを伴います。てんかんやADHDなどの合併にも注意しつつ、療育を中心に支援します。特性を正しく理解することは、早期発見や診察時の配慮、保護者への説明に直結する臨床の基本です。
解答・解説
正解はaです
本問は、自閉症(現在の診断体系では自閉スペクトラム症 autism spectrum disorder:ASD に含まれる)の臨床像を問う一般問題である。
自閉症の中核症状
米国精神医学会の診断基準 DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、ASD は次の2領域の特徴が発達早期から存在し、生活に支障をきたすものと定義される。 (1) 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な障害(視線が合いにくい、共同注意が乏しい、相手の気持ちや場の雰囲気を読み取りにくい、会話のやりとりが続かない など) (2) 限定された反復的な行動・興味・活動(常同運動、同一性へのこだわり、特定の対象への強い興味、そして感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ)
解き方の考え方
選択肢を読む際は、次の3点を押さえると判断しやすい。 ・感覚の過敏・鈍麻は DSM-5 で診断基準の一項目として明記された、ASD に特徴的な症状である。 ・自閉症は生まれつきの脳機能の発達の偏り(神経発達症)であり、育て方が原因ではない。したがって「育児しだいで対人関係の発達が通常どおりになる」という発想は誤りである。 ・乳幼児期には、人見知りや後追いといった愛着行動が目立たない、言葉の遅れがある、言葉が出てもやりとりとして機能しにくい(反響言語など)といった特徴がみられる。 知的発達の遅れの頻度については、古典的な自閉症(カナー型)では多数(おおむね7〜8割)に知的障害を伴うとされ、「約30%」という記述は少なすぎる。
選択肢考察
- ○a. 感覚過敏を伴うことが特徴である。
自閉症では、ふつうは意識にのぼらない程度の感覚刺激を強く不快に感じる感覚過敏がしばしばみられる。例えば、掃除機やドライヤー、人ごみのざわめきなどの日常音を嫌って耳をふさぐ(聴覚過敏)、特定の食感や味を受けつけず極端な偏食になる(味覚・触覚過敏)、軽く触れられたり抱かれたり、服のタグや特定の素材が肌に当たったりすることを痛みのように嫌がる(触覚過敏)、蛍光灯のちらつきをまぶしがる(視覚過敏)などである。逆に痛みや温度に鈍感(感覚鈍麻)な場合もある。DSM-5 では「感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、環境の感覚的側面に対する並外れた興味」が、限定された反復的な行動様式の一項目として診断基準に含まれている。よって正しい。
- ×b. 適切な育児によって愛着は形成される。
自閉症は先天的な脳機能の発達の偏りによる神経発達症であり、親の養育態度や愛情不足によって生じるものではない(かつては「冷たい母親」が原因とする説があったが、現在は否定されている)。対人的相互反応の障害そのものが生来的に存在するため、どれほど適切に育児をしても、定型発達児と同じような形・時期で愛着行動が現れるわけではない。育児の工夫で愛着が形成されるという記述は、養育環境が原因で愛着形成が障害される反応性アタッチメント障害(愛着障害)の考え方であり、自閉症には当てはまらない。よって誤り。
- ×c. 1歳前後で人見知りや後追いが激しい。
定型発達児では生後6〜8か月ごろから人見知りが始まり、1歳前後には養育者の後を追う(後追い)行動がみられる。これらは特定の養育者との愛着が形成され、見知った人とそうでない人を区別できるようになった表れである。自閉症児ではこうした行動が乏しく、誰に抱かれても平気で人見知りをしない、母親がいなくなっても後を追わない、呼んでも振り向かない、視線が合いにくいといった特徴がみられる。「人見知りや後追いが激しい」のは逆であり、誤り。
- ×d. 知的発達の遅れを伴うものは約30%である。
古典的な自閉症(カナーが報告した典型的な自閉症)では、多く(約7〜8割)に知的発達の遅れを伴うとされ、平均以上の知的能力をもつ例は2割程度にとどまる。したがって「約30%」は少なすぎ、誤りである。なお、知的障害を伴わない高機能自閉症やアスペルガー症候群まで含めた広い自閉スペクトラム症全体でみると、知的障害の合併率はより低く見積もられる(3〜4割程度とする報告が多い)ことも知っておくとよい。
- ×e. 言葉が現れればコミュニケーションが成立するようになる。
自閉症の本質は言葉の有無ではなく、対人的な相互作用としてのコミュニケーションの障害にある。言葉の発達が遅れることが多いが、言葉が出てきても、相手の言ったことをそのまま繰り返す反響言語(エコラリア、おうむ返し)、コマーシャルなどの決まり文句の独り言、代名詞の逆転(「あなた」と「わたし」の取り違え)、抑揚の乏しい話し方、字義どおりの解釈で冗談や比喩が通じないといった特徴がみられ、会話のやりとりは成立しにくい。身ぶりや表情、視線といった非言語的コミュニケーションの障害も伴う。よって誤り。
自閉スペクトラム症(ASD)の概要
・かつては広汎性発達障害の下位分類として、自閉症(自閉性障害)、アスペルガー症候群(言語や知的発達の遅れを伴わない)、特定不能の広汎性発達障害などに分けられていた。DSM-5(2013年)ではこれらが連続体(スペクトラム)として「自閉スペクトラム症」に統合された。 ・有病率は約1〜2%とされ、男児に多い(男女比はおおむね4:1)。 ・原因は遺伝的要因の関与が大きい神経発達の偏りであり、養育の問題ではない。
乳幼児期にみられやすい徴候
・視線が合いにくい、あやしても笑わない ・人見知りや後追いが乏しい ・指さしが少ない、共同注意(相手と同じものに注意を向け合うこと)が乏しい ・言葉の遅れ、反響言語 ・呼名に反応しない ・ミニカーを一列に並べる、同じ道順にこだわるなどの常同行動・こだわり ・感覚過敏(耳ふさぎ、偏食、触られることを嫌がる)や感覚鈍麻
合併しやすいもの
・知的能力障害(古典的自閉症では多数) ・てんかん(思春期ごろに発症することもある) ・注意欠如・多動症(ADHD) ・睡眠障害、不安症など
対応
根本治療はなく、療育(TEACCH などの構造化された環境調整、行動療法的アプローチ、言語療法など)が中心である。易刺激性(かんしゃく、自傷など)に対してはリスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。
反応性アタッチメント障害との違い
反応性アタッチメント障害は、虐待やネグレクトなど著しく不適切な養育によって愛着形成が障害されるものであり、養育環境が改善されると愛着行動が改善しうる。自閉症は生来的な障害であり、この点が大きく異なる。
POINT
・自閉症(ASD)の二大特徴は「社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害」と「限定された反復的な行動・興味(こだわり)」である。 ・感覚過敏・鈍麻は DSM-5 の診断基準に含まれる特徴的症状である。 ・原因は生来の脳機能の偏りであり、育て方の問題ではない。 ・乳児期には人見知り・後追いが乏しく、視線が合いにくい。 ・言葉が出ても反響言語などがみられ、コミュニケーションは成立しにくい。 ・古典的自閉症では多く(約7〜8割)に知的発達の遅れを伴う。
