StudyMed医師国家試験

「育て方」ではなく「生まれつき」―感覚過敏から捉え直す自閉症の本質

第109回医師国家試験 D問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第3問

自閉症について正しいのはどれか。

  1. a.感覚過敏を伴うことが特徴である。
  2. b.適切な育児によって愛着は形成される。
  3. c.1歳前後で人見知りや後追いが激しい。
  4. d.知的発達の遅れを伴うものは約30%である。
  5. e.言葉が現れればコミュニケーションが成立するようになる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は自閉症の臨床像を問う知識問題だ。いまのDSM-5では自閉スペクトラム症にまとめられているね。着眼点は、自閉症が「生まれつきの脳機能の発達の偏り」だという前提を押さえているかどうか。この前提に立つと、誤りの選択肢が自然に見えてくるよ。まず、自閉スペクトラム症の中核症状を2つ挙げられるかな。
医学生医学生
社会的コミュニケーションと対人的相互反応の障害、それから限定された反復的な行動や興味、つまりこだわりです。
ドクタードクター
完璧だ。そして2つ目の領域の中に、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さが診断基準の一項目として明記されている。だから感覚過敏を伴うことが特徴、というのが正解になる。
医学生医学生
小児科の実習で、診察室の換気扇の音を嫌がって耳をふさいでいたお子さんがいました。あれも聴覚過敏ですか。
ドクタードクター
まさにそうだね。掃除機やドライヤー、人ごみのざわめきを嫌がる聴覚過敏、特定の食感を受けつけず極端な偏食になる味覚・触覚過敏、服のタグや軽く触れられることを痛みのように嫌がる触覚過敏、蛍光灯のちらつきをまぶしがる視覚過敏などがある。逆に痛みや温度に鈍い感覚鈍麻の子もいるよ。
医学生医学生
偏食がわがままと誤解されると、家族もつらそうですね。では、適切な育児で愛着が形成されるという選択肢は、優しい記述なので正しく見えてしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけだ。自閉症は先天的な神経発達症で、親の養育態度が原因ではない。かつては冷たい母親が原因という説もあったけれど、現在は否定されている。対人的相互反応の障害が生来的にあるから、どんなに適切に育てても定型発達と同じ形や時期で愛着行動が現れるわけではないんだ。
医学生医学生
育児次第で愛着が形成される、というのはむしろ反応性アタッチメント障害の考え方ですね。
ドクタードクター
その通り。反応性アタッチメント障害は虐待やネグレクトなど著しく不適切な養育が原因で、養育環境が改善すれば愛着行動も改善しうる。ただし自閉症の子でも養育者への愛着がまったく育たないわけではない、という点は誤解しないでほしい。次は1歳前後の人見知りや後追いについてだ。
医学生医学生
人見知りは生後6〜8か月ごろから始まると習いました。自閉症だと、むしろ目立たないのではないでしょうか。
ドクタードクター
正解。人見知りや後追いは、特定の養育者との愛着ができて、知っている人とそうでない人を区別できるようになった表れだ。自閉症児ではこれが乏しく、誰に抱かれても平気、母親がいなくなっても後を追わない、呼んでも振り向かない、視線が合いにくいといった特徴がみられる。「激しい」は逆だね。
医学生医学生
乳幼児健診で指さしや呼名反応を確認するのも、早期発見のためなんですね。
ドクタードクター
そう。共同注意、つまり相手と同じものに注意を向け合う力が乏しいことは、早期の重要なサインだ。次に知的発達の遅れの割合はどうかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、自閉スペクトラム症全体なら知的障害の合併は3〜4割くらいと聞いた気がします。30%は近い数字では?
ドクタードクター
よく勉強しているね。ただ、この問題が想定しているのは古典的な自閉症、いわゆるカナー型だ。そこでは7〜8割と多くに知的発達の遅れを伴うとされるから、約30%は少なすぎる。一方で、高機能自閉症やアスペルガー症候群まで含めたスペクトラム全体では合併率が低く見積もられる。どの集団を指しているかで数字が変わる点を意識しておこう。
医学生医学生
最後の、言葉が出ればコミュニケーションが成立する、というのも違いますよね。
ドクタードクター
そう。自閉症の本質は言葉の有無ではなく、相互的なやりとりの障害だ。言葉が出ても、相手の言葉をそのまま繰り返す反響言語、代名詞の逆転、抑揚の乏しい話し方、冗談や比喩を字義どおりに受け取るといった特徴があり、会話のキャッチボールは成立しにくい。視線や表情、身ぶりといった非言語的コミュニケーションの障害も伴うよ。
医学生医学生
言葉の遅れが目立たない子でも、やりとりの質に注目しないといけないんですね。
ドクタードクター
その視点が大切だ。発展知識として、有病率は約1〜2%で男児に多く、てんかん、注意欠如・多動症、睡眠障害、不安症を合併しやすい。てんかんは思春期ごろに発症することもあるから、長期フォローでは要注意だ。根本治療はなく、TEACCHのような構造化された環境調整や行動療法的アプローチ、言語療法などの療育が中心になる。かんしゃくや自傷などの易刺激性にはリスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。
医学生医学生
感覚過敏があると分かっていれば、診察室を静かにしたり、聴診の前に声をかけたりする工夫もできそうです。
ドクタードクター
その配慮はとても大事だ。そして何より、保護者に「育て方のせいではない」と伝えることが、支援の第一歩になるよ。

まとめ

自閉症(自閉スペクトラム症)は、社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害と、限定された反復的な行動・興味を中核とする生来の神経発達症であり、感覚の過敏・鈍麻はDSM-5の診断基準にも含まれる特徴的な症状です。養育が原因ではないため「育児次第で愛着が形成される」という発想は誤りで、これは不適切な養育による反応性アタッチメント障害の考え方にあたります。乳児期には人見知りや後追い、視線、指さしが乏しく、言葉が出ても反響言語などのためにやりとりは成立しにくく、古典的自閉症では7〜8割に知的発達の遅れを伴います。てんかんやADHDなどの合併にも注意しつつ、療育を中心に支援します。特性を正しく理解することは、早期発見や診察時の配慮、保護者への説明に直結する臨床の基本です。

解答・解説

正解はaです

本問は、自閉症(現在の診断体系では自閉スペクトラム症 autism spectrum disorder:ASD に含まれる)の臨床像を問う一般問題である。

自閉症の中核症状

米国精神医学会の診断基準 DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、ASD は次の2領域の特徴が発達早期から存在し、生活に支障をきたすものと定義される。 (1) 社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な障害(視線が合いにくい、共同注意が乏しい、相手の気持ちや場の雰囲気を読み取りにくい、会話のやりとりが続かない など) (2) 限定された反復的な行動・興味・活動(常同運動、同一性へのこだわり、特定の対象への強い興味、そして感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ)

解き方の考え方

選択肢を読む際は、次の3点を押さえると判断しやすい。 ・感覚の過敏・鈍麻は DSM-5 で診断基準の一項目として明記された、ASD に特徴的な症状である。 ・自閉症は生まれつきの脳機能の発達の偏り(神経発達症)であり、育て方が原因ではない。したがって「育児しだいで対人関係の発達が通常どおりになる」という発想は誤りである。 ・乳幼児期には、人見知りや後追いといった愛着行動が目立たない、言葉の遅れがある、言葉が出てもやりとりとして機能しにくい(反響言語など)といった特徴がみられる。 知的発達の遅れの頻度については、古典的な自閉症(カナー型)では多数(おおむね7〜8割)に知的障害を伴うとされ、「約30%」という記述は少なすぎる。

選択肢考察

  1. ○a.  感覚過敏を伴うことが特徴である。

    自閉症では、ふつうは意識にのぼらない程度の感覚刺激を強く不快に感じる感覚過敏がしばしばみられる。例えば、掃除機やドライヤー、人ごみのざわめきなどの日常音を嫌って耳をふさぐ(聴覚過敏)、特定の食感や味を受けつけず極端な偏食になる(味覚・触覚過敏)、軽く触れられたり抱かれたり、服のタグや特定の素材が肌に当たったりすることを痛みのように嫌がる(触覚過敏)、蛍光灯のちらつきをまぶしがる(視覚過敏)などである。逆に痛みや温度に鈍感(感覚鈍麻)な場合もある。DSM-5 では「感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、環境の感覚的側面に対する並外れた興味」が、限定された反復的な行動様式の一項目として診断基準に含まれている。よって正しい。

  2. ×b.  適切な育児によって愛着は形成される。

    自閉症は先天的な脳機能の発達の偏りによる神経発達症であり、親の養育態度や愛情不足によって生じるものではない(かつては「冷たい母親」が原因とする説があったが、現在は否定されている)。対人的相互反応の障害そのものが生来的に存在するため、どれほど適切に育児をしても、定型発達児と同じような形・時期で愛着行動が現れるわけではない。育児の工夫で愛着が形成されるという記述は、養育環境が原因で愛着形成が障害される反応性アタッチメント障害(愛着障害)の考え方であり、自閉症には当てはまらない。よって誤り。

  3. ×c.  1歳前後で人見知りや後追いが激しい。

    定型発達児では生後6〜8か月ごろから人見知りが始まり、1歳前後には養育者の後を追う(後追い)行動がみられる。これらは特定の養育者との愛着が形成され、見知った人とそうでない人を区別できるようになった表れである。自閉症児ではこうした行動が乏しく、誰に抱かれても平気で人見知りをしない、母親がいなくなっても後を追わない、呼んでも振り向かない、視線が合いにくいといった特徴がみられる。「人見知りや後追いが激しい」のは逆であり、誤り。

  4. ×d.  知的発達の遅れを伴うものは約30%である。

    古典的な自閉症(カナーが報告した典型的な自閉症)では、多く(約7〜8割)に知的発達の遅れを伴うとされ、平均以上の知的能力をもつ例は2割程度にとどまる。したがって「約30%」は少なすぎ、誤りである。なお、知的障害を伴わない高機能自閉症やアスペルガー症候群まで含めた広い自閉スペクトラム症全体でみると、知的障害の合併率はより低く見積もられる(3〜4割程度とする報告が多い)ことも知っておくとよい。

  5. ×e.  言葉が現れればコミュニケーションが成立するようになる。

    自閉症の本質は言葉の有無ではなく、対人的な相互作用としてのコミュニケーションの障害にある。言葉の発達が遅れることが多いが、言葉が出てきても、相手の言ったことをそのまま繰り返す反響言語(エコラリア、おうむ返し)、コマーシャルなどの決まり文句の独り言、代名詞の逆転(「あなた」と「わたし」の取り違え)、抑揚の乏しい話し方、字義どおりの解釈で冗談や比喩が通じないといった特徴がみられ、会話のやりとりは成立しにくい。身ぶりや表情、視線といった非言語的コミュニケーションの障害も伴う。よって誤り。

自閉スペクトラム症(ASD)の概要

・かつては広汎性発達障害の下位分類として、自閉症(自閉性障害)、アスペルガー症候群(言語や知的発達の遅れを伴わない)、特定不能の広汎性発達障害などに分けられていた。DSM-5(2013年)ではこれらが連続体(スペクトラム)として「自閉スペクトラム症」に統合された。 ・有病率は約1〜2%とされ、男児に多い(男女比はおおむね4:1)。 ・原因は遺伝的要因の関与が大きい神経発達の偏りであり、養育の問題ではない。

乳幼児期にみられやすい徴候

・視線が合いにくい、あやしても笑わない ・人見知りや後追いが乏しい ・指さしが少ない、共同注意(相手と同じものに注意を向け合うこと)が乏しい ・言葉の遅れ、反響言語 ・呼名に反応しない ・ミニカーを一列に並べる、同じ道順にこだわるなどの常同行動・こだわり ・感覚過敏(耳ふさぎ、偏食、触られることを嫌がる)や感覚鈍麻

合併しやすいもの

・知的能力障害(古典的自閉症では多数) ・てんかん(思春期ごろに発症することもある) ・注意欠如・多動症(ADHD) ・睡眠障害、不安症など

対応

根本治療はなく、療育(TEACCH などの構造化された環境調整、行動療法的アプローチ、言語療法など)が中心である。易刺激性(かんしゃく、自傷など)に対してはリスペリドンやアリピプラゾールが用いられることがある。

反応性アタッチメント障害との違い

反応性アタッチメント障害は、虐待やネグレクトなど著しく不適切な養育によって愛着形成が障害されるものであり、養育環境が改善されると愛着行動が改善しうる。自閉症は生来的な障害であり、この点が大きく異なる。

POINT

・自閉症(ASD)の二大特徴は「社会的コミュニケーション・対人的相互反応の障害」と「限定された反復的な行動・興味(こだわり)」である。 ・感覚過敏・鈍麻は DSM-5 の診断基準に含まれる特徴的症状である。 ・原因は生来の脳機能の偏りであり、育て方の問題ではない。 ・乳児期には人見知り・後追いが乏しく、視線が合いにくい。 ・言葉が出ても反響言語などがみられ、コミュニケーションは成立しにくい。 ・古典的自閉症では多く(約7〜8割)に知的発達の遅れを伴う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。