StudyMed医師国家試験

光るのは「細胞のすき間」か「境界線」か―蛍光抗体法で読み解く自己免疫性水疱症

第109回医師国家試験 D問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第4問

蛍光抗体法で病変皮膚の表皮細胞間にIgGの沈着を認める疾患はどれか。

  1. a.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
  2. b.後天性表皮水疱症
  3. c.水疱性類天疱瘡
  4. d.落葉状天疱瘡
  5. e.疱疹状皮膚炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、蛍光抗体法で「どこに」免疫グロブリンが沈着するかから疾患を選ぶ問題だ。自己免疫性水疱症は、自己抗体が皮膚のどの接着構造を攻撃するかで分類される。だから沈着部位を見れば、標的と病名がほぼ決まるんだ。まず、蛍光抗体法とはどんな検査か説明できるかな。
医学生医学生
病変部の皮膚を採って、蛍光色素をつけた抗IgG抗体などで染める検査ですよね。直接法と間接法があったと思います。
ドクタードクター
その通り。病変周囲の皮膚組織そのものを染めて沈着を見るのが直接法、患者血清を正常皮膚などの基質に反応させて血中の自己抗体を検出するのが間接法だ。沈着パターンは大きく3つに整理するといい。表皮細胞間が網目状に光るもの、表皮基底膜部に沿って線状に光るもの、真皮乳頭部に顆粒状に光るもの。
医学生医学生
表皮細胞間というと、角化細胞どうしをつないでいる部分ですね。組織学の講義でデスモソームを習いました。
ドクタードクター
そう。そのデスモソームの構成蛋白であるデスモグレインに対するIgG自己抗体ができるのが天疱瘡群だ。抗体が結合すると細胞どうしの接着が外れる棘融解が起こり、表皮内に水疱ができる。蛍光抗体直接法では、角化細胞の周りを縁取るように蜂巣状・網目状にIgGが沈着する。
医学生医学生
それなら選択肢の中で天疱瘡群は落葉状天疱瘡だけなので、これが正解ですね。
ドクタードクター
正解。落葉状天疱瘡はデスモグレイン1に対するIgG自己抗体による病気だ。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも確認しよう。水疱性類天疱瘡はどうかな。
医学生医学生
名前が似ていて紛らわしいですが、類天疱瘡は表皮下水疱だったと思います。
ドクタードクター
そこが大事なポイント。水疱性類天疱瘡は高齢者に多く、基底細胞と基底膜をつなぐヘミデスモソームのBP180やBP230が標的になる。だから沈着は基底膜部に線状のIgGとC3で、表皮細胞間ではない。臨床的には浮腫性紅斑の上に破れにくい緊満性水疱ができ、ニコルスキー現象は通常陰性だ。
医学生医学生
後天性表皮水疱症も基底膜部ですか。類天疱瘡とどう見分けるのか、いつも混乱します。
ドクタードクター
こちらは基底膜の真皮側で表皮と真皮をつなぎとめる係留線維、つまりVII型コラーゲンに対する自己抗体で起こる。直接法では類天疱瘡と同じく基底膜部の線状沈着になるから、見分けには食塩水剥離皮膚を使う。皮膚を1 mol/L食塩水で処理して表皮と真皮を人工的に剥がすと、類天疱瘡の抗体は表皮側、後天性表皮水疱症の抗体は真皮側に結合するんだ。
医学生医学生
標的が基底膜の上の方か下の方かが、そのまま結合する側に反映されるわけですね。SLEはループスバンドテストでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。SLEでは皮疹部だけでなく、日光に当たる部位の無疹部でも表皮真皮境界部にIgGやIgM、C3が顆粒状から帯状に沈着する。これもやはり基底膜部であって、細胞間ではない。最後に疱疹状皮膚炎はどうだろう。
医学生医学生
セリアック病と関係がある病気で、沈着するのはIgGではなくIgAだったと思います。
ドクタードクター
その通り。真皮乳頭部にIgAが顆粒状に沈着するのが特徴だ。肘や膝、臀部に強いかゆみを伴う小水疱が集まって出る。日本人ではまれだけれど、治療にジアフェニルスルホンやグルテン除去食を使う点も含めて試験ではよく問われる。
医学生医学生
整理すると、細胞間は天疱瘡、基底膜部は類天疱瘡・後天性表皮水疱症・SLE、真皮乳頭部はIgAの疱疹状皮膚炎、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。ここから少し発展させよう。同じ天疱瘡でも、尋常性天疱瘡は口腔粘膜のびらんが目立つのに、落葉状天疱瘡では粘膜病変がほとんどない。なぜだと思う?
医学生医学生
臨床実習で皮膚科を回ったとき、尋常性天疱瘡の患者さんが口内炎で食事がとれないと話していました。標的のデスモグレインが違うからでしょうか。
ドクタードクター
そう、それがデスモグレイン代償説だ。皮膚ではデスモグレイン1が上層に多く、デスモグレイン3は下層に多い。粘膜ではデスモグレイン3が主体だ。抗デスモグレイン1抗体だけなら、粘膜はデスモグレイン3で接着が保たれるので病変が出ず、皮膚ではデスモグレイン3の乏しい上層、つまり角層下から顆粒層で浅い水疱が生じる。だから落葉状天疱瘡はすぐ破れて鱗屑や痂皮を伴うびらんが主体になる。
医学生医学生
尋常性天疱瘡は抗デスモグレイン3抗体なので、基底層の直上で棘融解が起きて粘膜も侵される、という対比ですね。
ドクタードクター
その通り。実際の診療では、蛍光抗体直接法に加えて血清の抗デスモグレイン1・3抗体や抗BP180抗体をELISAやCLEIA法で測定し、診断と病勢評価に使う。それから、悪性リンパ腫などに合併する腫瘍随伴性天疱瘡は難治性の口内炎が特徴だから、天疱瘡を見たら背景の腫瘍にも気を配ってほしい。

まとめ

蛍光抗体法は自己抗体や補体が皮膚のどこに沈着しているかを可視化する検査で、自己免疫性水疱症の診断の要です。表皮細胞間へのIgG沈着はデスモグレインを標的とする天疱瘡群の所見であり、落葉状天疱瘡(抗デスモグレイン1抗体)や尋常性天疱瘡が該当します。基底膜部の線状沈着は水疱性類天疱瘡や後天性表皮水疱症(食塩水剥離皮膚で結合部位が異なる)、表皮真皮境界部の帯状沈着はSLEのループスバンド、真皮乳頭部の顆粒状IgA沈着は疱疹状皮膚炎です。さらにデスモグレイン代償説を理解すれば、落葉状天疱瘡で粘膜病変が乏しく、尋常性天疱瘡で口腔病変が目立つ理由も説明できます。「標的抗原→沈着部位→臨床像」を一続きで理解しておくことが、水疱症の鑑別を確実にする近道です。

解答・解説

正解はdです

蛍光抗体法は、患者の皮膚や血清中にある免疫グロブリン(IgG、IgAなど)や補体(C3)が「どこに」沈着・結合しているかを蛍光色素で可視化する検査である。病変部(通常は水疱周囲の皮膚)の組織を直接染める方法を蛍光抗体直接法(DIF)、患者血清を正常皮膚などの基質に反応させて自己抗体を検出する方法を蛍光抗体間接法(IIF)とよぶ。 自己免疫性水疱症や膠原病の皮膚病変では、この沈着パターンが診断の決め手になる。沈着部位は大きく次の3つに分けて覚えるとよい。 ・表皮細胞間(角化細胞どうしの間が網目状・蜂巣状に光る):天疱瘡群。自己抗体の標的は表皮細胞同士をつなぐ接着構造デスモソームの構成蛋白(デスモグレイン)である。 ・表皮基底膜部(表皮と真皮の境界に沿って線状に光る):水疱性類天疱瘡、後天性表皮水疱症、SLEの皮疹(顆粒状・帯状)など。 ・真皮乳頭部(乳頭の先端に顆粒状に光る):疱疹状皮膚炎(IgA)。 本問は「表皮細胞間にIgG」という典型的な天疱瘡パターンを問うており、選択肢の中で天疱瘡群に属する疾患を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  全身性エリテマトーデス〈SLE〉

    SLEでは皮疹部だけでなく、紫外線に当たる部位の無疹部皮膚でも、表皮真皮境界部(基底膜部)にIgG、IgM、C3などが顆粒状〜帯状に沈着する。これをループスバンドテスト陽性とよび、SLEの補助診断に用いられる。沈着部位は基底膜部であり、表皮細胞間ではない。

  2. ×b.  後天性表皮水疱症

    基底膜の真皮側で表皮と真皮をつなぎとめる係留線維の主成分であるⅦ型コラーゲンに対するIgG自己抗体によって生じる水疱症である。蛍光抗体直接法では基底膜部にIgGやC3が線状に沈着する。1 mol/L食塩水で皮膚を処理して表皮下で人工的に剥離させる食塩水剥離皮膚を用いると、抗体は真皮側(水疱底)に結合する点で、表皮側(水疱蓋)に結合する水疱性類天疱瘡と区別できる。

  3. ×c.  水疱性類天疱瘡

    高齢者に好発する表皮下水疱症で、基底細胞と基底膜を結ぶヘミデスモソームの構成蛋白であるBP180(ⅩⅦ型コラーゲン)やBP230に対するIgG自己抗体が原因となる。蛍光抗体直接法では基底膜部にIgGとC3が線状に沈着し、表皮細胞間ではない。緊満性水疱と浮腫性紅斑が特徴で、ニコルスキー現象は通常陰性である。

  4. ○d.  落葉状天疱瘡

    天疱瘡群の一型で、表皮細胞同士をつなぐデスモソームの構成蛋白であるデスモグレイン1(Dsg1)に対するIgG自己抗体が産生される。抗体がDsg1に結合すると角化細胞間の接着が失われ(棘融解)、表皮内に水疱が形成される。そのため蛍光抗体直接法では表皮細胞間にIgG(しばしばC3も)が網目状に沈着する。Dsg1は表皮の上層に多く発現し、粘膜ではDsg3が接着を代償するため、落葉状天疱瘡では表皮上層(角層下〜顆粒層)での浅い水疱・びらん・鱗屑痂皮が主体となり、粘膜病変はほとんどみられない。

  5. ×e.  疱疹状皮膚炎

    肘・膝・臀部などに強いかゆみを伴う小水疱が環状・集簇性に出現する疾患で、グルテン過敏性腸症(セリアック病)との関連が知られる。蛍光抗体直接法では真皮乳頭部にIgA(とC3)が顆粒状に沈着するのが特徴で、表皮細胞間へのIgG沈着はみられない。治療にはジアフェニルスルホン(DDS、ダプソン)やグルテン除去食が用いられる。日本人ではまれな疾患である。

自己免疫性水疱症の分類と標的抗原

表皮内水疱症(天疱瘡群):自己抗体の標的はデスモソーム構成蛋白。 ・尋常性天疱瘡:抗Dsg3抗体(粘膜優位型)、抗Dsg3抗体+抗Dsg1抗体(粘膜皮膚型)。基底層直上の棘融解による水疱で、口腔粘膜のびらんが高頻度。 ・落葉状天疱瘡:抗Dsg1抗体。表皮上層の水疱で、粘膜病変はほぼない。 ・腫瘍随伴性天疱瘡:悪性リンパ腫などに合併し、プラキン蛋白(エンボプラキン、ペリプラキンなど)やDsgに対する抗体を認める。難治性の口内炎が特徴。 いずれも蛍光抗体直接法で表皮細胞間にIgGが沈着し、ニコルスキー現象陽性となりやすい。 表皮下水疱症:自己抗体の標的は基底膜部の蛋白。 ・水疱性類天疱瘡:BP180、BP230(ヘミデスモソーム)→基底膜部にIgG・C3が線状沈着。 ・粘膜類天疱瘡:BP180、ラミニン332など→基底膜部に線状沈着。瘢痕を残す粘膜病変。 ・後天性表皮水疱症:Ⅶ型コラーゲン(係留線維)→基底膜部にIgG線状沈着。食塩水剥離皮膚では真皮側に結合。 ・線状IgA水疱性皮膚症:基底膜部にIgAが線状沈着。 ・疱疹状皮膚炎:表皮トランスグルタミナーゼなど→真皮乳頭部にIgA顆粒状沈着。

デスモグレイン代償説

皮膚ではDsg1が表皮全層(特に上層)、Dsg3が下層に発現し、粘膜ではDsg3が主体でDsg1は少ない。抗Dsg1抗体のみでは粘膜はDsg3で接着が保たれるため粘膜病変が生じず、皮膚では Dsg3の乏しい上層で水疱が生じる。この考え方で落葉状天疱瘡と尋常性天疱瘡の臨床像の違いが説明できる。

検査の補足

血清中の抗Dsg1抗体・抗Dsg3抗体、抗BP180抗体はELISA法(CLEIA法)で定量でき、診断と病勢の評価に用いられる。

POINT

・表皮細胞間にIgG沈着=天疱瘡群(尋常性・落葉状)。標的はデスモグレイン。 ・基底膜部に線状IgG(C3)沈着=水疱性類天疱瘡、後天性表皮水疱症。両者は食塩水剥離皮膚で結合部位(表皮側/真皮側)が異なる。 ・真皮乳頭部に顆粒状IgA沈着=疱疹状皮膚炎。 ・SLEは表皮真皮境界部に免疫グロブリン・補体が帯状沈着(ループスバンド)。 ・落葉状天疱瘡は抗Dsg1抗体、粘膜病変はほぼない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。