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楔前部が語る記憶の病―脳血流SPECTで読み解くAlzheimer型認知症

第109回医師国家試験 D問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第2問

脳血流SPECT(A)(B)を別に示す。  最も当てはまるのはどれか。

第109回 D問題 第2問の問題画像
  1. a.脳血管性認知症
  2. b.前頭側頭型認知症
  3. c.Lewy小体型認知症
  4. d.Alzheimer型認知症
  5. e.Creutzfeldt-Jakob病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は脳血流SPECTの画像から認知症の病型を見分ける問題だ。ポイントは「脳のどこの血流が落ちていて、どこが保たれているか」というパターン認識。特に統計画像では、外側面と内側面の両方を見るのがコツだよ。まず、脳血流SPECTが何を見ている検査か説明できるかな。
医学生医学生
放射性医薬品を静注して、脳の局所血流を画像化する検査ですよね。でも認知症は神経細胞の病気なのに、なぜ血流で分かるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。脳の血流は神経活動と連動していて、働きが落ちた部位では血流も下がる。だから病型ごとに異なる「機能低下の地図」が血流の分布として浮かび上がるんだ。もう一つの画像は統計画像で、健常者のデータベースと比べて有意に血流が低い部位を色で示している。eZISや3D-SSPといった解析法が代表的だよ。
医学生医学生
生の画像だけだと軽い低下は見落としやすいから、統計処理で強調するということですね。
ドクタードクター
その通り。では本例の統計画像を言葉にしてみよう。外側面では左右の頭頂葉から側頭葉にかけての連合野、内側面では楔前部から後部帯状回にかけて、左右対称に血流が落ちている。一方、後頭葉、特に内側の一次視覚野は保たれていて、前頭葉の低下も目立たない。
医学生医学生
頭頂側頭葉と後部帯状回……神経内科の講義で聞いたAlzheimer型認知症のパターンだと思います。
ドクタードクター
正解。頭頂側頭連合野と楔前部・後部帯状回の血流低下は、Alzheimer型認知症の典型像だ。特に楔前部・後部帯状回の低下は発症早期から現れ、統計画像で見つけやすい。進行すると前頭葉連合野にも広がるけれど、一次感覚運動野、一次視覚野、基底核、小脳は比較的遅くまで保たれる。
医学生医学生
Lewy小体型認知症とはどう区別するんですか。頭頂側頭葉が落ちることもあると聞いて、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭いね。Lewy小体型認知症でも頭頂側頭葉が低下しうるけれど、決め手は一次視覚野を含む後頭葉の血流低下だ。ありありとした幻視が多いこととの関連も考えられている。さらにFDG-PETでは後部帯状回の代謝が比較的保たれるcingulate island signが知られている。本例は後頭葉が保たれ、後部帯状回が落ちているから、むしろ逆のパターンだね。
医学生医学生
後部帯状回が落ちていればAlzheimer、保たれていればLewy小体寄り、という対比で覚えればいいですね。
ドクタードクター
いい整理だ。補助検査として、Lewy小体型ではドパミントランスポーターSPECTで線条体の集積低下、MIBG心筋シンチグラフィで集積低下がみられることも押さえておこう。では前頭側頭型認知症はどうかな。
医学生医学生
名前の通り前頭葉と側頭葉前部が落ちるはずなので、前頭葉が保たれている本例とは違いますね。精神科の実習で、万引きを繰り返して受診した方がいたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさに脱抑制の例だね。前頭側頭型認知症は脱抑制、常同行動、自発性低下、食行動の変化といった人格・行動の変化が前面に出て、初期の記憶障害は軽いことが多い。頭頂葉・後頭葉は比較的保たれる。次に脳血管性認知症は?
医学生医学生
梗塞の場所次第なので、血流低下はまだらになりそうです。
ドクタードクター
その通り。多発梗塞では斑状・多巣性で左右非対称のことも多く、小血管病では前頭葉優位の低下が目立つことがある。診断にはMRIやCTで血管病変を確かめることが欠かせない。最後にCreutzfeldt-Jakob病だ。
医学生医学生
急速進行性の認知症とミオクローヌス、脳波の周期性同期性放電ですよね。SPECTの特徴はあまり覚えていません。
ドクタードクター
SPECTでは大脳皮質に斑状・多巣性の低下がみられ、急速に広く高度になっていく。ただ画像診断で重視されるのはMRI拡散強調画像で、皮質に沿ったリボン状の高信号や線条体の高信号が特徴的だ。本例のような頭頂側頭葉と後部帯状回に限局した左右対称のパターンとは違うね。
医学生医学生
血流の分布を、前頭葉優位、後頭葉優位、まだら、と比べて当てはめていく流れがよく分かりました。
ドクタードクター
最後に発展知識を。Alzheimer型認知症ではMRIで海馬・海馬傍回の萎縮がみられ、VSRADで数値化できる。FDG-PETでもSPECTと同じような分布の糖代謝低下が出る。さらに、抗アミロイドβ抗体薬のレカネマブやドナネマブを使うかどうか判断するには、アミロイドPETか脳脊髄液検査でアミロイド病理を確認する必要がある。それから特発性正常圧水頭症では、高位円蓋部が見かけ上血流増加して見えるCAPPAHサインがあるから、統計画像の「赤」を誤読しないよう注意しよう。
医学生医学生
画像検査が治療方針にも直結する時代なんですね。外来で物忘れの方を診るときに意識します。

まとめ

脳血流SPECTは神経活動と連動する局所血流を画像化し、統計画像では健常者と比べて有意に低下した部位を示すため、認知症の病型鑑別に役立ちます。Alzheimer型認知症では頭頂側頭連合野と楔前部・後部帯状回に左右対称の血流低下がみられ、後部帯状回の低下は早期から現れる一方、一次視覚野や一次感覚運動野、小脳は比較的保たれます。Lewy小体型認知症は後頭葉の低下とcingulate island sign、前頭側頭型認知症は前頭葉・側頭葉前部の低下、脳血管性認知症は斑状・多巣性の低下、Creutzfeldt-Jakob病はMRI拡散強調画像での皮質高信号が手がかりです。抗アミロイドβ抗体薬の登場でアミロイド病理の確認が求められるようになり、画像所見を病型ごとのパターンとして読み解く力は、診断から治療選択までを支える基礎となります。

解答・解説

正解はdです

画像の読み方

脳血流SPECT(single photon emission computed tomography: 単一光子放射断層撮影)は、放射性医薬品を静脈に注射し、脳の局所の血流分布を画像にする検査である。脳の血流は神経活動と連動している。神経細胞の働きが落ちた部位では血流も下がるため、認知症の病型によって異なる「血流低下のパターン」を見分けるのに使われる。 ・画像A(脳血流画像): 左右の外側面と内側面について、血流の多い部位を赤、少ない部位を青で示している。 ・画像B(統計画像): 健常者のデータベースと比べて、血流が統計的に有意に低い部位を色で示した画像である。eZIS(easy Z-score imaging system)や3D-SSP(three-dimensional stereotactic surface projection)などの解析法で作られる。色が赤に近いほど低下の程度が大きい。

本問の所見

画像Bでは、外側面で頭頂葉から側頭葉にかけての皮質(頭頂側頭連合野)に、左右とも血流低下がみられる。内側面では、頭頂葉内側の楔前部から後部帯状回にかけて血流低下がみられる。一方、後頭葉(特に内側の一次視覚野)の血流は比較的保たれており、画像Aでも後頭極は赤く、血流が多い。前頭葉の低下も目立たない。

考え方

頭頂側頭連合野と、楔前部・後部帯状回の血流低下は、Alzheimer型認知症に典型的なパターンである。特に、楔前部・後部帯状回の血流低下は発症早期から現れ、統計画像で見つけやすい。病気が進むと、前頭葉の連合野にも低下が広がる。一次感覚運動野、一次視覚野、基底核、小脳は、比較的遅くまで保たれる。この分布を、前頭葉優位(前頭側頭型認知症)、後頭葉優位(Lewy小体型認知症)、斑状・多巣性(脳血管性認知症)といったほかの病型のパターンと見比べて診断する。

選択肢考察

  1. ×a.  脳血管性認知症

    脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって起こる認知症の総称である。血流低下の分布は、障害された血管の支配域や病変の種類で決まる。多発性の梗塞では斑状・多巣性の血流低下、小血管病(ラクナ梗塞や大脳白質病変が多発するもの)では前頭葉優位の血流低下がみられることが多い。左右非対称のことも多く、本例のような左右対称の頭頂側頭葉と後部帯状回の血流低下パターンは典型的ではない。診断にはMRIやCTで脳血管病変を確認することが重要である。

  2. ×b.  前頭側頭型認知症

    前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia: FTD)では、前頭葉(特に前頭葉内側面・眼窩面)と側頭葉前部に血流低下がみられる。頭頂葉と後頭葉の血流は比較的保たれる。臨床的には、脱抑制、常同行動、自発性の低下、食行動の変化などの人格・行動の変化が目立ち、記憶障害は初期には軽いことが多い。本例は前頭葉の低下が目立たず、頭頂側頭葉と後部帯状回が主に低下しているので当てはまらない。

  3. ×c.  Lewy小体型認知症

    Lewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies: DLB)でも、Alzheimer型認知症と同じように頭頂側頭葉の血流が低下することがある。しかし特徴的なのは、一次視覚野を含む後頭葉(特に内側面)の血流低下である。幻視(ありありとした人や小動物の幻視)が多いこととも関係すると考えられている。また、FDG-PETでは後部帯状回の代謝が比較的保たれる「cingulate island sign」が知られている。本例は後頭葉の血流が保たれ、後部帯状回が低下しており、合わない。DLBの診断には、ドパミントランスポーターSPECT(DaTscan)での線条体の集積低下や、MIBG心筋シンチグラフィでの集積低下も参考になる。

  4. ○d.  Alzheimer型認知症

    Alzheimer型認知症の脳血流SPECTでは、外側面で頭頂側頭連合野、内側面で楔前部から後部帯状回にかけて、左右対称性の血流低下がみられるのが典型である。楔前部・後部帯状回の低下は初期から現れ、早期診断に役立つ。進行すると前頭葉連合野にも広がるが、一次感覚運動野、後頭葉の一次視覚野、小脳は比較的保たれる。本例の画像B(統計画像)では、左右の頭頂側頭葉と、内側面の楔前部・後部帯状回に血流低下がみられ、後頭葉は保たれている。これはAlzheimer型認知症のパターンに一致する。

  5. ×e.  Creutzfeldt-Jakob病

    Creutzfeldt-Jakob病(CJD)は、異常プリオン蛋白によって起こる神経変性疾患である。急速に進む認知症、ミオクローヌス、脳波の周期性同期性放電(PSD)、無動性無言が特徴である。脳血流SPECTでは、大脳皮質に斑状・多巣性の血流低下がみられ、病気の進行とともに急速に広く高度になる。特定の部位に限らない分布を示すことが多い。画像診断では、MRI拡散強調画像で大脳皮質に沿った高信号(cortical ribboning)や、線条体の高信号がより特徴的である。本例の頭頂側頭葉と後部帯状回に限った左右対称のパターンとは異なる。

主な認知症と脳血流SPECT(脳機能画像)の特徴

・Alzheimer型認知症: 頭頂側頭連合野と、楔前部・後部帯状回の血流低下。早期には海馬・海馬傍回の低下もみられる。進行すると前頭葉にも広がる。一次感覚運動野・一次視覚野・小脳は保たれる。 ・Lewy小体型認知症: 頭頂側頭葉に加え、後頭葉(一次視覚野を含む)の血流低下。FDG-PETでは後部帯状回の代謝が比較的保たれる(cingulate island sign)。 ・前頭側頭型認知症: 前頭葉と側頭葉前部の血流低下。 ・脳血管性認知症: 病変に応じた斑状・多巣性の血流低下。左右非対称のことも多い。 ・Creutzfeldt-Jakob病: 大脳皮質の斑状の血流低下が急速に進む。MRI拡散強調画像での皮質・線条体の高信号が重要である。 ・特発性正常圧水頭症(iNPH): 脳室の拡大に伴い、シルビウス裂周囲や脳梁周囲の血流が相対的に低下する。また、高位円蓋部・正中部の皮質が密に集まるため、見かけ上の相対的な血流増加(CAPPAHサイン: convexity APPArent Hyperperfusion)がみられる。

統計画像解析

脳血流SPECTの画像をそのまま見るだけでは、軽い低下は分かりにくい。そこで、患者の画像を標準の脳の形に合わせて変形し、健常者データベースと比べて、血流低下の程度をZスコアとして表示する。これが統計画像で、eZISや3D-SSPなどが代表的な方法である。Alzheimer型認知症の早期に起こる楔前部・後部帯状回の血流低下を見つけるのに特に役立つ。

Alzheimer型認知症のその他の画像所見

・MRI: 海馬・海馬傍回(内側側頭葉)の萎縮。VSRAD(voxel-based specific regional analysis system for Alzheimer's disease)で萎縮の程度を数値化できる。 ・FDG-PET: 頭頂側頭葉と後部帯状回の糖代謝低下。脳血流SPECTと同じような分布を示す。 ・アミロイドPET: 大脳皮質へのアミロイドβの沈着を画像で示す。抗アミロイドβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)を使うかどうかの判断では、アミロイドPETまたは脳脊髄液検査でアミロイドの病理を確認する。

POINT

・Alzheimer型認知症の脳血流SPECT: 頭頂側頭連合野と、楔前部・後部帯状回の血流低下が特徴である。後部帯状回の低下は早期から現れる。 ・Lewy小体型認知症: 後頭葉(一次視覚野)の血流低下。cingulate island sign。 ・前頭側頭型認知症: 前頭葉・側頭葉前部の血流低下。 ・脳血管性認知症: 斑状・多巣性の血流低下。 ・Creutzfeldt-Jakob病: 大脳皮質の斑状の血流低下が急速に進む。MRI拡散強調画像での皮質の高信号が重要である。 ・特発性正常圧水頭症: 高位円蓋部の相対的な血流増加(CAPPAHサイン)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。