StudyMed医師国家試験

菌は「入口」で決まる―乳頭の小さな傷から黄色ブドウ球菌が忍び込む産褥期乳腺炎

第109回医師国家試験 D問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第1問

褥婦にみられる感染症で,原因菌として黄色ブドウ球菌の頻度が高いのはどれか。

  1. a.腟炎
  2. b.乳腺炎
  3. c.卵管炎
  4. d.腎盂腎炎
  5. e.子宮内膜炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、産褥期に起こる感染症と、その原因菌の対応を問う問題だ。丸暗記に頼らず、「細菌がどこから入ってくるか」という侵入経路で考えると、すっきり整理できるよ。まず、産褥期とはいつからいつまでのことか覚えているかな。
医学生医学生
分娩が終わってから、母体が妊娠前の状態に戻るまでの6〜8週間くらいだったと思います。
ドクタードクター
その通り。この時期は、子宮の内側に胎盤がはがれた後の傷があったり、授乳が始まったりと、感染の入口がいくつもできる時期なんだ。では、黄色ブドウ球菌はふだんどこにいる菌だろう。
医学生医学生
微生物学の講義で、皮膚や鼻腔の常在菌と習いました。とびひや蜂窩織炎の原因菌ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。だから「皮膚から入る感染なら黄色ブドウ球菌」と考えるのが基本だ。一方、腟や会陰、腸管にいる常在菌が上がってくる感染なら、大腸菌などのグラム陰性桿菌、腸球菌、B群レンサ球菌、嫌気性菌が中心になり、混合感染が多い。この視点で選択肢を見てみよう。
医学生医学生
そうすると、皮膚から菌が入るのは乳腺炎だけですね。授乳で乳頭に傷ができるからでしょうか。
ドクタードクター
正解。授乳でできた乳頭の小さな亀裂から、母親の皮膚や赤ちゃんの口腔・鼻腔にいる菌が乳管や乳腺に入り込む。化膿性乳腺炎の原因菌は黄色ブドウ球菌が最も多く、近年はMRSAによる例も増えている。
医学生医学生
でも、乳腺炎って授乳中のおっぱいが張って痛くなるものだと思っていました。全部が感染なんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。乳腺炎には2つの型がある。乳汁が乳管にたまって起こるうっ滞性乳腺炎は産後2〜3日ごろに多く、全身症状は軽い。これに対して化膿性乳腺炎は産褥2〜3週ごろに多く、発赤や強い痛みに加えて悪寒を伴う高熱が出る。たまった乳汁は細菌が増える場になるから、うっ滞性から化膿性に移行することもあるんだ。
医学生医学生
では、子宮内膜炎はどうでしょう。産婦人科の講義で、産褥熱の一番の原因と聞きました。
ドクタードクター
その通りで、産褥期の性器感染症で最も多い。胎盤剥離面に腟や外陰の菌が上行して感染するから、大腸菌、腸球菌、B群レンサ球菌、嫌気性菌などの混合感染が主体だ。重症例ではA群レンサ球菌も問題になる。帝王切開、前期破水、分娩の長期化、胎盤や卵膜の遺残が危険因子だよ。
医学生医学生
卵管炎も同じ上行性感染だから、子宮内膜炎の延長と考えればいいですか。
ドクタードクター
そう考えていい。産褥期には子宮内膜炎から波及することが多く、やはり混合感染が中心になる。性感染症としてはクラミジアや淋菌が重要な原因菌で、骨盤内炎症性疾患の一つとして押さえておこう。
医学生医学生
腎盂腎炎は、尿路感染なので大腸菌が一番多いはずですね。
ドクタードクター
正解。産褥期は分娩で膀胱が圧迫されて一時的に機能が落ち、残尿が出やすい。導尿やカテーテル留置も誘因になるし、妊娠中に拡張した尿管や腎盂はすぐには戻らないので、上行性感染が腎盂まで及びやすいんだ。
医学生医学生
腟炎は、細菌性腟症やカンジダ、トリコモナスなど原因がいろいろあって、どれも黄色ブドウ球菌とは違いますね。
ドクタードクター
その通り。細菌性腟症は乳酸桿菌が減ってGardnerellaや嫌気性菌が増えた状態だし、カンジダは真菌、トリコモナスは原虫だ。産褥期なら悪露や会陰の傷に伴う腸内細菌の感染もある。
医学生医学生
皮膚や乳頭から入れば黄色ブドウ球菌、腟や腸管から上がってくればグラム陰性桿菌や嫌気性菌、レンサ球菌、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。この考え方は帝王切開や会陰切開の創部感染にも応用できて、そこでも黄色ブドウ球菌は重要な原因菌になる。最後に臨床での注意点だ。化膿性乳腺炎の治療は、黄色ブドウ球菌に効く抗菌薬と、授乳や搾乳による乳汁の排出が柱になる。膿瘍になれば切開排膿が必要だ。授乳は多くの場合続けてよいけれど、膿が混じる場合などは患側からの直接授乳を控えることもある。
医学生医学生
産婦人科の実習で、助産師さんが授乳の抱き方や乳頭への吸着を丁寧に指導していたのは、予防の意味もあったんですね。
ドクタードクター
その通り。正しいラッチオンで乳頭の傷を防ぎ、頻回授乳でうっ滞を防ぐことが一番の予防になる。あわせて、産褥熱の定義、つまり分娩後24時間以降、産褥10日以内に38℃以上の発熱が2日以上続くもの、も覚えておこう。産後の発熱を見たら、子宮、尿路、乳房、創部と、入口ごとに原因を探すのが基本だ。

まとめ

産褥期の感染症の原因菌は、細菌の侵入経路で整理すると理解しやすくなります。化膿性乳腺炎は授乳でできた乳頭の亀裂から皮膚や児の口腔の菌が侵入して起こり、皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌が最も多い原因菌で、MRSAにも注意が必要です。一方、子宮内膜炎や卵管炎などの性器感染症は腟・外陰の菌の上行性感染で、大腸菌、腸球菌、B群レンサ球菌、嫌気性菌などの混合感染が中心であり、腎盂腎炎は大腸菌が最多です。乳腺炎にはうっ滞性と化膿性があり、化膿性では抗菌薬と乳汁の排出が治療の柱で、膿瘍形成時は切開排膿を行います。産後の発熱に対して侵入経路ごとに原因を考える姿勢は、適切な抗菌薬選択と母子への的確なケアにつながります。

解答・解説

正解はbです

テーマ

産褥期(分娩が終わってから、母体が妊娠前の状態に戻るまでの約6〜8週間)に起こる感染症と、それぞれの主な原因菌を問う問題である。

考え方

原因菌は、細菌がどこから入ってくるかによって決まる。 ・腟・子宮・卵管などの性器感染症や尿路感染症は、腟・外陰・会陰・腸管にいる常在菌が上行して起こる。そのため、大腸菌などのグラム陰性桿菌、腸球菌、B群レンサ球菌(GBS)、嫌気性菌などが原因になり、複数の菌が混ざった感染(混合感染)が多い。 ・乳腺炎は、授乳のときに生じた乳頭の小さな傷(亀裂)から、母親の皮膚や児の口腔・鼻腔にいる菌が乳管や乳腺組織に入って起こる。皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌が最も多い原因菌となる。 したがって、黄色ブドウ球菌の頻度が高いのは乳腺炎である。帝王切開の創部感染でも黄色ブドウ球菌は重要な原因菌であり、「皮膚から入る感染 → 黄色ブドウ球菌」と整理しておくとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  腟炎

    腟炎(腟の炎症)は、腟内の細菌叢の乱れや上行する菌によって起こる。細菌性腟症は、腟の自浄作用を担う乳酸桿菌(デーデルライン桿菌)が減り、Gardnerella vaginalis、Bacteroides属やPrevotella属などの嫌気性菌、Mycoplasma hominisなどが増えた状態である。このほか、カンジダ(真菌)、トリコモナス(原虫)による腟炎や、産褥期の悪露や会陰の傷に伴う大腸菌などの腸内細菌による感染もある。いずれも黄色ブドウ球菌が主な原因菌ではない。

  2. ○b.  乳腺炎

    産褥期の乳腺炎には2つの型がある。乳汁が乳管内にたまって起こるうっ滞性(非感染性)乳腺炎と、細菌が感染して起こる化膿性(感染性)乳腺炎である。化膿性乳腺炎は、授乳でできた乳頭の亀裂から皮膚や児の口腔の菌が入って起こる。原因菌は黄色ブドウ球菌が最も多い。近年はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による例も増えている。そのほか、レンサ球菌や大腸菌が原因になることもある。乳汁のうっ滞は細菌が増える場になるため、うっ滞性乳腺炎が化膿性乳腺炎に移行することもある。症状が進むと乳腺膿瘍となり、切開排膿が必要になる。

  3. ×c.  卵管炎

    卵管炎は、腟・子宮頸管の菌が子宮内膜を経て上行して起こる、骨盤内炎症性疾患(PID)の一つである。産褥期には子宮内膜炎に続いて起こることが多く、大腸菌などの好気性菌、レンサ球菌、嫌気性菌による混合感染が中心となる。性感染症としては、クラミジア・トラコマティスや淋菌が重要な原因菌である。卵管留膿腫や卵管卵巣膿瘍を合併することがある。黄色ブドウ球菌は主な原因菌ではない。

  4. ×d.  腎盂腎炎

    産褥期には、分娩による膀胱・尿道の圧迫や神経の障害で膀胱の機能が一時的に落ち、尿意を感じにくくなって残尿が生じやすい。分娩時の導尿や尿道カテーテルの留置も、尿路感染の誘因になる。さらに、妊娠中に拡張した尿管や腎盂はすぐには元に戻らないため、上行性感染が腎盂にまで及びやすい。原因菌はグラム陰性桿菌が中心で、大腸菌が最も多い。黄色ブドウ球菌は主な原因菌ではない。

  5. ×e.  子宮内膜炎

    産褥子宮内膜炎は、産褥期の性器感染症のなかで最も多く、産褥熱の主な原因である。分娩後の子宮内腔には胎盤がはがれた後の傷(胎盤剥離面)があり、腟・外陰の菌が上行して感染する。原因菌は複数の菌による混合感染が多い。大腸菌、腸球菌、B群レンサ球菌、Peptostreptococcus属やBacteroides属などの嫌気性菌が主体である。重症例ではA群レンサ球菌が問題となる。帝王切開、前期破水、分娩の長期化、胎盤・卵膜の遺残などが危険因子である。黄色ブドウ球菌は主な原因菌ではない。

産褥期の主な感染症と原因菌

・子宮内膜炎(産褥熱の主な原因): 大腸菌、腸球菌、B群レンサ球菌、嫌気性菌などによる混合感染。 ・子宮付属器炎(卵管炎など)・骨盤腹膜炎: 子宮内膜炎からの波及。混合感染が多い。 ・尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎): 大腸菌をはじめとするグラム陰性桿菌。 ・乳腺炎(化膿性): 黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)。 ・創部感染(会陰切開創、帝王切開創): 黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、腸内細菌など。 ・その他: 骨盤内血栓性静脈炎も産褥期の発熱の原因として注意が必要である。

産褥熱の定義

分娩終了後24時間以降、産褥10日以内に、38.0℃以上の発熱が2日以上続くものをいう。主に子宮とその周囲の骨盤内の感染による発熱をさし、子宮内膜炎が最も多い原因である。

乳腺炎の整理

・うっ滞性乳腺炎: 産褥早期(産後2〜3日ごろ)に多い。乳汁のうっ滞による。乳房の腫れ・痛み・熱感があるが、全身症状は軽い。治療は、授乳や搾乳で乳汁の排出を促すことと、乳房の冷却である。 ・化膿性乳腺炎: 産褥2〜3週ごろに多い。乳頭の亀裂からの細菌感染による。発赤、腫れ、強い痛みに加え、悪寒を伴う高熱が出る。治療は抗菌薬(黄色ブドウ球菌に効く薬を選ぶ)と、搾乳などによる乳汁の排出である。膿瘍になれば切開排膿を行う。授乳は多くの場合続けてよいが、膿が乳汁に混じる場合や膿瘍の部位によっては、患側からの直接授乳を控えることがある。 ・予防: 正しい抱き方と乳頭への吸着(ラッチオン)で乳頭の傷を防ぐこと、頻回に授乳して乳汁のうっ滞を防ぐこと。

POINT

・産褥期の乳腺炎(化膿性)の原因菌は黄色ブドウ球菌が最多である(MRSAにも注意)。乳頭の亀裂から菌が入る。 ・子宮内膜炎・卵管炎などの産褥性器感染症は上行性感染で、大腸菌、腸球菌、B群レンサ球菌、嫌気性菌の混合感染が多い。 ・産褥期の腎盂腎炎の原因菌は大腸菌が最多である。 ・産褥熱: 分娩後24時間以降〜産褥10日以内に、38℃以上の発熱が2日以上続くもの。主な原因は子宮内膜炎である。 ・菌の侵入経路で考える: 皮膚・乳頭から → 黄色ブドウ球菌、腟・腸管から → グラム陰性桿菌・嫌気性菌・レンサ球菌。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。