口内炎はリウマチ熱のサインか?―Jones基準の大症状5つを確実に押さえる
第109回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
リウマチ熱の診断に有用でない所見はどれか。
- a.皮下結節
- b.舞踏運動
- c.輪状紅斑
- d.口腔内アフタ
- e.多発性関節炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
リウマチ熱はA群β溶血性レンサ球菌による咽頭炎の2〜4週後に、分子相同性を背景として心臓・関節・皮膚・中枢神経に炎症を起こす非化膿性疾患で、特異的な検査がないためJones基準で診断します。大症状は心炎、多関節炎(大関節・移動性・非破壊性)、Sydenham舞踏病、輪状紅斑、皮下結節の5つで、小症状は発熱、関節痛、赤沈亢進・CRP上昇、PR延長です。先行する溶連菌感染の証拠に加え、大症状2つまたは大症状1つ+小症状2つで診断し、口腔内アフタはBehçet病やSLEなどで重要な所見であってリウマチ熱の基準には含まれません。予後を左右するのは僧帽弁を中心とする心炎であり、ペニシリンによる咽頭炎の適切な治療と長期の再発予防が弁膜症を防ぐ鍵になります。大症状5つを所見のイメージとともに覚えておくことは、診断基準の問題だけでなく、小児の発熱・関節痛の鑑別にも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
リウマチ熱は、A群β溶血性レンサ球菌(溶連菌)による咽頭炎・扁桃炎のあと、通常2〜4週ほどの潜伏期を経て発症する非化膿性の自己免疫性炎症疾患である。菌体のM蛋白などと、心筋・心臓弁・関節・大脳基底核などの宿主組織との抗原の類似性(分子相同性)により、交差反応性の抗体やT細胞が組織を傷害すると考えられている。学童期(5〜15歳)に多く、衛生状態の改善と抗菌薬の普及により先進国では激減したが、発展途上国ではいまだ後天性心疾患の主要な原因である。 リウマチ熱には特異的な検査がないため、臨床症状と検査所見を組み合わせたJones(ジョーンズ)診断基準で診断する。大症状は「心炎・多関節炎・舞踏病・輪状紅斑・皮下結節」の5つであり、先行する溶連菌感染の証拠があるうえで、大症状2つ、または大症状1つ+小症状2つを満たせば診断される。 本問は「診断に有用でない」ものを選ぶ否定型の設問である。選択肢のうち4つはJones基準の大症状そのものであり、基準に含まれない口腔内アフタが正解となる。大症状5つを語呂や表で確実に覚えておけば容易に解ける。
選択肢考察
- ×a. 皮下結節
Jones基準の大症状の一つであり、診断に有用である。肘・膝・手関節などの伸側や骨突出部、後頭部、脊椎棘突起上などに生じる、直径数mm〜2cm程度の硬く可動性のある無痛性の結節である。出現頻度は低いが、多くは心炎を伴う例にみられ、心炎の存在を示唆する所見として重要である。
- ×b. 舞踏運動
Jones基準の大症状(Sydenham舞踏病)であり、診断に有用である。四肢や顔面の不規則で目的のない素早い不随意運動で、情緒不安定などの精神症状を伴うことがある。溶連菌抗原と交差反応する抗体が大脳基底核の神経細胞に作用することが原因と考えられ、画像検査では急性期に基底核の血流・代謝の増加が報告されている。溶連菌感染から数か月遅れて出現することがあり、他の症状がそろわず舞踏病単独で現れることもある(その場合は舞踏病のみでも診断が考慮される)。女児に多い。
- ×c. 輪状紅斑
Jones基準の大症状の一つであり、診断に有用である。体幹や四肢近位部に出現する、中心部が退色した輪状・環状のピンク色の紅斑で、かゆみや痛みはなく、数時間単位で形を変えたり消えたりする一過性の皮疹である。顔面には通常出現しない。真皮の血管周囲の炎症細胞浸潤による。頻度は低いが特異性が高い所見である。
- ○d. 口腔内アフタ
口腔内アフタ(有痛性の小さな浅い潰瘍)は、Jones基準の大症状にも小症状にも含まれず、リウマチ熱の診断に有用な所見ではない。口腔内アフタが診断上重要となるのは、Behçet病(主症状の一つで、ほぼ必発)や全身性エリテマトーデス(SLE、分類基準の口腔潰瘍)、クローン病、周期性発熱症候群(PFAPA症候群など)である。リウマチ熱の経過で出現することがあっても疾患特異性はない。
- ×e. 多発性関節炎
Jones基準の大症状の一つであり、診断に有用である。リウマチ熱で最も頻度の高い症状で、膝・足・肘・手関節などの大関節に、発赤・腫脹・強い疼痛を伴う関節炎が生じる。一つの関節の炎症が数日でおさまると次の関節へと移る「移動性」が特徴で、非対称性・非破壊性であり、後遺症を残さずに治癒する。アスピリンなど非ステロイド性抗炎症薬への反応が良い。
Jones診断基準(要点)
前提: 先行する溶連菌感染の証拠(咽頭培養陽性、迅速抗原検査陽性、ASO〔抗ストレプトリジンO〕・ASK〔抗ストレプトキナーゼ〕などの抗体価上昇) ・大症状: 心炎、多関節炎、舞踏病、輪状紅斑、皮下結節 ・小症状: 関節痛、発熱、赤沈亢進またはCRP上昇、心電図でのPR間隔延長 ・判定: 大症状2つ、または大症状1つ+小症状2つ 注意点: 多関節炎を大症状に数えた場合は関節痛を小症状に数えない。心炎を大症状に数えた場合はPR延長を小症状に数えない。 2015年の改訂(米国心臓協会)では、発生率の低い地域と中〜高リスク地域で基準を分け、心エコー検査でのみ確認される無症候性の心炎も心炎として扱うこととされた。中〜高リスク地域では単関節炎や多関節痛も大症状に含めうる。
心炎
リウマチ熱で最も重要な病変で、心内膜・心筋・心外膜のすべてが侵される汎心炎となる。弁膜炎は僧帽弁に最も多く、次いで大動脈弁である。急性期には僧帽弁逆流の心雑音が出現する。心筋にはAschoff(アショッフ)結節と呼ばれる特徴的な肉芽腫がみられる。長期的にはリウマチ性心臓病として僧帽弁狭窄症などの慢性弁膜症を残し、予後を左右する。
治療と予防
・溶連菌の除菌: ペニシリン系抗菌薬 ・関節炎: アスピリンなど ・重い心炎: 副腎皮質ステロイド ・舞踏病: 対症的に抗てんかん薬などを用いる ・再発予防: 再発のたびに弁膜障害が進むため、ベンザチンペニシリン筋注やペニシリン内服による長期の二次予防が重要である。 ・一次予防: 溶連菌性咽頭炎を適切にペニシリン系で治療すれば、リウマチ熱の発症を予防できる。一方、溶連菌感染後急性糸球体腎炎は抗菌薬治療で予防できるとは限らない点が対照的である。
口腔内アフタが重要な疾患
Behçet病(主症状)、SLE(口腔潰瘍)、クローン病、PFAPA症候群(周期性発熱・アフタ性口内炎・咽頭炎・頸部リンパ節炎)、ヘルペス性歯肉口内炎、手足口病、ヘルパンギーナなど。
POINT
・リウマチ熱はA群β溶連菌感染後の自己免疫性疾患で、Jones基準で診断する。 ・大症状は5つ: 心炎、多関節炎(移動性・大関節・非破壊性)、舞踏病(Sydenham)、輪状紅斑、皮下結節。 ・小症状: 関節痛、発熱、炎症反応(赤沈・CRP)上昇、PR延長。 ・判定は先行溶連菌感染+(大症状2つ or 大症状1つ+小症状2つ)。 ・口腔内アフタはBehçet病やSLEの所見であり、リウマチ熱の診断基準には含まれない。 ・予後を決めるのは心炎(僧帽弁が最多)で、ペニシリンによる長期の再発予防が重要である。
