標的は髄鞘ではなくアストロサイト―抗アクアポリン4抗体が変えた視神経脊髄炎の常識
第109回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
視神経脊髄炎で高率にみられるのはどれか。
- a.血清IgE高値
- b.髄液単核球増加
- c.血清抗アクアポリン4抗体陽性
- d.髄液ミエリン塩基性蛋白抗原高値
- e.血清抗ガングリオシドGQ1b抗体陽性
対話形式の解説
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ドクターまとめ
視神経脊髄炎は、重い視神経炎と長い範囲の横断性脊髄炎を繰り返す中枢神経の自己免疫疾患で、血清抗アクアポリン4抗体が高率かつ特異的に陽性となり、診断基準の中核をなします。この抗体はアストロサイト足突起の水チャネルを標的として補体介在性にアストロサイトを傷害するため、髄鞘が一次的に壊れる多発性硬化症とは病態が異なり、急性期にはGFAPの上昇がみられます。女性に多い、重症・両側性の視神経炎、3椎体以上の長い脊髄病変、最後野症候群、オリゴクローナルバンド陰性が多いといった点が鑑別の手がかりです。IgE高値はアトピー性脊髄炎、抗GQ1b抗体はFisher症候群と、自己抗体や検査所見を疾患と対応させて覚えることが重要です。多発性硬化症の再発予防薬が視神経脊髄炎を悪化させうるため、正確な診断は治療選択に直結します。
解答・解説
正解はcです
視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)は、重い視神経炎と長い範囲に及ぶ横断性脊髄炎を繰り返す中枢神経の自己免疫疾患である。かつては多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)の一病型(視神経脊髄型MS)と考えられていたが、2004年に血清中の疾患特異的な自己抗体(NMO-IgG)が見つかり、その標的がアストロサイト(星状膠細胞)の足突起に豊富に発現する水チャネル、アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)であることが明らかになった。これにより、NMOは「髄鞘が一次的に壊れる脱髄疾患」であるMSとは異なり、「抗AQP4抗体がアストロサイトを攻撃する疾患(アストロサイトパチー)」として独立した疾患と位置づけられるようになった。 現在は、視神経炎や脊髄炎の一方のみの例、脳幹・間脳の病変を伴う例なども含めて視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMO spectrum disorder:NMOSD)と総称される。国際診断基準(2015年)では、抗AQP4抗体陽性であれば主要臨床症候(視神経炎、急性脊髄炎、最後野症候群〔難治性のしゃっくり・悪心・嘔吐〕など)が1つあれば診断できる。典型的NMOでは抗AQP4抗体の陽性率は7〜9割程度と高い。 本問は「NMOで高率にみられる検査所見」を問うている。NMOを特徴づけ、診断基準の中核をなす所見は何か、そして他の選択肢がどの疾患に特徴的な所見かを対応させて考えれば、血清抗AQP4抗体陽性が選べる。
選択肢考察
- ×a. 血清IgE高値
血清IgE高値を伴う脊髄炎として知られるのはアトピー性脊髄炎である。アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアトピー素因をもつ人に生じる脊髄炎で、総IgEの上昇に加え、ヤケヒョウヒダニ・コナヒョウヒダニに対する特異的IgE抗体が陽性となることが多い。頸髄後索を中心とした病変による四肢の異常感覚が主体で、視神経障害は通常みられない。NMOでIgE高値が高率にみられるわけではない。
- ×b. 髄液単核球増加
髄液の単核球(リンパ球)の軽度増加は、MSの活動期などにみられる所見である。NMOでも急性期に髄液細胞数が増えることはあるが、全例ではなく、増加する場合はMSより目立つことがあり、好中球や好酸球が混じるのが特徴とされる。したがって「単核球増加」をNMOで高率にみられる所見とはいえない。なお、MSで高頻度にみられる髄液オリゴクローナルバンドは、NMOでは陽性率が低い点も両者の鑑別に役立つ。
- ○c. 血清抗アクアポリン4抗体陽性
AQP4は中枢神経のアストロサイト足突起に多く発現する水チャネルで、視神経・脊髄・第三脳室や第四脳室の周囲(最後野など)に特に豊富である。NMOでは血清中の抗AQP4抗体(IgG1が主体)がAQP4に結合し、補体を活性化してアストロサイトを傷害する。その結果、二次的に脱髄や神経細胞の障害が生じる。典型的NMOでは本抗体の陽性率は高く、特異度も非常に高いため、診断基準の中心に位置づけられている。よってNMOで高率にみられる所見である。
- ×d. 髄液ミエリン塩基性蛋白抗原高値
ミエリン塩基性蛋白(myelin basic protein:MBP)は髄鞘を構成する蛋白の一つで、髄鞘が壊れると髄液中に遊離して増える。主にMSの活動性の指標として測定されるが、脳梗塞、脳炎、急性散在性脳脊髄炎など髄鞘を傷つける病態で広く上昇し、疾患特異性は低い。NMOでも急性期に上昇することはあるが一定せず、NMOを特徴づける所見とはいえない。NMOはアストロサイトが一次的に障害される疾患であるため、急性期にはむしろアストロサイト由来の蛋白であるグリア線維性酸性蛋白(GFAP)の髄液中濃度が著明に上がることが知られている。
- ×e. 血清抗ガングリオシドGQ1b抗体陽性
ガングリオシドはシアル酸を含むスフィンゴ糖脂質で、神経細胞膜に豊富に存在する。GQ1bは動眼・滑車・外転神経などの外眼筋支配神経に多く発現しており、抗GQ1b抗体はFisher症候群(外眼筋麻痺・運動失調・腱反射消失の3徴)で高率に陽性となる。Bickerstaff型脳幹脳炎や眼球運動障害を伴うGuillain-Barré症候群でも陽性となる。末梢神経を主に侵す疾患の抗体であり、NMOとは関係しない。
NMO(NMOSD)とMSの比較
・病態: NMOは抗AQP4抗体によるアストロサイト障害(液性免疫・補体が主体)、MSは主にT細胞が関与する髄鞘の一次的な脱髄。 ・疫学: NMOは女性に圧倒的に多く(男女比はおよそ1:9)、発症年齢はMSよりやや高く30〜40歳代が中心。 ・視神経炎: NMOは重症で両側性のことが多く、失明に至ることもある。MSは片側性が多く、回復が比較的良い。 ・脊髄病変: NMOはMRIで3椎体以上に及ぶ長い病変(longitudinally extensive transverse myelitis:LETM)で、脊髄の中心灰白質を横断性に侵す。MSは1〜2椎体以下の短い病変で、脊髄の辺縁(白質)に偏在しやすい。 ・脳病変: MSは脳室周囲の卵円形病変(Dawson's fingers)が典型的。NMOは第三・第四脳室周囲や最後野など、AQP4が豊富な部位に病変が出やすい。最後野病変による難治性のしゃっくり・悪心・嘔吐はNMOに特徴的である。 ・髄液: MSはオリゴクローナルバンド陽性率が高い。NMOはオリゴクローナルバンドの陽性率が低く、急性期に細胞数増加(好中球・好酸球を含むことがある)や蛋白増加、GFAP上昇をみることがある。 ・合併症: NMOはSjögren症候群、全身性エリテマトーデス、橋本病などの自己免疫疾患や、抗核抗体・抗SS-A抗体陽性を合併しやすい。
治療の違い
・急性期はいずれもステロイドパルス療法が基本であり、NMOで効果不十分な場合は早期に血漿交換を行う。 ・再発予防: NMOでは少量の経口ステロイドや免疫抑制薬(アザチオプリンなど)に加え、補体C5阻害薬(エクリズマブ等)、抗IL-6受容体抗体(サトラリズマブ)、抗CD19抗体(イネビリズマブ)、抗CD20抗体(リツキシマブ)などが用いられる。一方、MSの再発予防に使われるインターフェロンβ、フィンゴリモド、ナタリズマブなどはNMOを悪化させることがあるため、両者を正しく区別することが治療上きわめて重要である。
関連する自己抗体の整理
・抗AQP4抗体: NMO(NMOSD) ・抗MOG抗体: 抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)。抗AQP4抗体陰性のNMOSD様病態の一部で陽性 ・抗GQ1b抗体: Fisher症候群、Bickerstaff型脳幹脳炎 ・抗GM1抗体: 軸索型Guillain-Barré症候群、多巣性運動ニューロパチー ・抗アセチルコリン受容体抗体: 重症筋無力症
POINT
・NMOの疾患特異的マーカーは血清抗アクアポリン4(AQP4)抗体で、診断基準の中核である。 ・NMOはアストロサイトを標的とする自己免疫疾患で、MSとは病態も治療も異なる。 ・NMOの特徴: 女性に多い、重症・両側性の視神経炎、3椎体以上の長い脊髄病変、最後野症候群(難治性しゃっくり・嘔吐)、オリゴクローナルバンド陰性が多い。 ・MSの再発予防薬(インターフェロンβなど)はNMOを悪化させうる。 ・抗GQ1b抗体はFisher症候群、IgE高値の脊髄炎はアトピー性脊髄炎。
