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「カルシウム」違いにご用心―高カリウム血症治療の3本柱を整理する

第109回医師国家試験 D問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第109回 D問題 第12問

高カリウム血症の治療に用いられるのはどれか。

  1. a.カルシウム拮抗薬
  2. b.グルカゴン
  3. c.抗アルドステロン薬
  4. d.硝酸薬
  5. e.ブドウ糖液とインスリン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高カリウム血症の治療薬を選ぶ問題だ。一見シンプルだけど、名前の似た薬や、むしろカリウムを上げてしまう薬が紛れ込んでいる。治療を「何を目的にしているか」で整理できるかがポイントだよ。まず、高カリウム血症がなぜ怖いのか、説明できるかな。
医学生医学生
心臓に影響が出るからですよね。心電図でテント状T波が出ると習いました。
ドクタードクター
その通り。カリウムが上がると心筋の静止膜電位が変化して、興奮や伝導がおかしくなる。テント状T波から始まって、PR延長やP波の消失、QRS幅の拡大、さらにサインカーブ様の波形を経て、心室細動や心停止に至りうる。だから心電図変化がある場合や、血清Kがおおむね6.5mEq/L以上の場合は緊急で治療するんだ。
医学生医学生
循環器内科の実習で、透析患者さんの心電図を見せてもらったときにT波がとがっていて驚きました。
ドクタードクター
透析患者さんは典型的なハイリスク群だね。では治療だ。私は3つの段階で整理している。1つ目は心筋膜の安定化、2つ目はカリウムを細胞内へ移すこと、3つ目はカリウムを体外へ出すこと。
医学生医学生
選択肢にカルシウム拮抗薬があります。カルシウムを使うと聞いたことがあるので、これも正しいのかなと迷いました。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴だ。高カリウム血症で使うのはグルコン酸カルシウムのような「カルシウム製剤」。細胞外のカルシウム濃度を高めて心筋の興奮性を正常に近づけ、致死性不整脈を防ぐ。一方、カルシウム拮抗薬はL型カルシウムチャネルを遮断する薬で、高血圧や狭心症に使うもの。カリウムを下げる作用はないから、治療薬にはならない。
医学生医学生
補うのと遮断するのとでは、まるで逆ですね。名前に引っ張られないようにします。
ドクタードクター
そう。ちなみにカルシウム製剤は数分で効くけれど、カリウムの値そのものは下げない点も覚えておこう。次に正解のブドウ糖液とインスリンだ。インスリンがどうしてカリウムを下げるかわかる?
医学生医学生
生理学で、インスリンがNa+/K+-ATPaseを活性化すると習った気がします。それでカリウムが細胞に入るんですね。
ドクタードクター
正解。骨格筋や肝臓のナトリウムポンプを活性化して、細胞外のカリウムを細胞内へ取り込ませる。ブドウ糖を一緒に入れるのは、インスリンによる低血糖を防ぐためだよ。効果は十数分から30分程度で現れて、数時間続く。
医学生医学生
でもカリウムを細胞内に移しているだけなら、体の中の総量は変わらないですよね。
ドクタードクター
鋭いね。まさにそこが限界で、効果は一時的なんだ。だから並行して、陽イオン交換樹脂などのカリウム吸着薬、ループ利尿薬、重症例や腎不全なら血液透析でカリウムを体外へ除去する必要がある。細胞内移動にはほかにβ2刺激薬の吸入や、アシドーシスがあれば炭酸水素ナトリウムも使う。
医学生医学生
グルカゴンはインスリンと対になるホルモンなので、なんとなく関係がありそうに思えました。
ドクタードクター
グルカゴンは膵α細胞から出て、肝臓でのグリコーゲン分解や糖新生を促して血糖を上げるホルモンだ。重症低血糖や消化管検査の蠕動抑制、β遮断薬中毒などに使うけれど、カリウムを細胞内へ移す作用はない。昔、劇症肝炎にグルカゴン・インスリン療法が行われたことがあって、名前が紛らわしいかもしれないね。
医学生医学生
抗アルドステロン薬は利尿薬だから、カリウムも尿に出してくれそうな気がしますが……。
ドクタードクター
ここは要注意。アルドステロンは集合管でナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促すホルモンだ。それを遮断するスピロノラクトンやエプレレノンは、カリウム保持性利尿薬。つまりカリウムを上げてしまう、高カリウム血症の原因薬なんだ。高カリウム血症の患者さんでは避けるべき薬だよ。
医学生医学生
利尿薬でもループ利尿薬とは逆なんですね。硝酸薬は狭心症の薬なので、カリウムとは関係なさそうです。
ドクタードクター
その通り。硝酸薬はNOを放出して主に静脈を拡張し、前負荷を減らしたり冠動脈を広げたりする。狭心症や急性心不全で使うけれど、カリウム代謝には作用しない。
医学生医学生
整理すると、まずカルシウム製剤で心臓を守って、インスリンとブドウ糖で一時的に下げて、吸着薬や利尿薬、透析で体外に出す、という流れですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点も足しておこう。治療の前には採血時の溶血などによる偽性高カリウム血症を除外すること。そして原因探しが大切で、腎不全のほか、ACE阻害薬やARB、抗アルドステロン薬、NSAIDsなどの薬剤、代謝性アシドーシスや横紋筋融解症、腫瘍崩壊症候群などを確認する。GI療法の後は血糖の推移もしっかり追ってほしい。
医学生医学生
心不全の患者さんはACE阻害薬とスピロノラクトンを一緒に飲んでいることも多いので、定期的なカリウムのチェックが大事ですね。
ドクタードクター
まさに実臨床でよく出会うパターンだね。原因薬の見直しまでできて、はじめて高カリウム血症の治療が完結すると覚えておこう。

まとめ

高カリウム血症は心筋の興奮・伝導異常を起こし、テント状T波からQRS幅拡大を経て心室細動や心停止に至りうる危険な電解質異常です。治療は「カルシウム製剤による心筋膜の安定化」「グルコース・インスリン療法やβ2刺激薬などによるカリウムの細胞内移動」「カリウム吸着薬・ループ利尿薬・透析による体外排泄」の3本柱で整理します。インスリンはNa+/K+-ATPaseを活性化してカリウムを細胞内へ移し、ブドウ糖は低血糖予防のために併用しますが、効果は一時的なので体外排泄を並行して行う必要があります。カルシウム「製剤」とカルシウム「拮抗薬」の混同や、抗アルドステロン薬・ACE阻害薬・ARBがむしろカリウムを上げる点は頻出のひっかけです。治療の目的を作用機序ごとに理解しておくことは、救急外来や病棟で迅速かつ安全に対応するための土台になります。

解答・解説

正解はeです

本問は、高カリウム血症に対する治療薬を選ぶ一般問題である。 高カリウム血症(一般に血清K 5.5mEq/L以上、施設によっては5.0mEq/L超)は、心筋の静止膜電位を変化させて興奮・伝導の異常を起こし、テント状T波、PR延長・P波消失、QRS幅の拡大を経て、心室細動や心停止に至りうる危険な電解質異常である。特に心電図変化を伴う場合や血清Kが6.5mEq/L以上の場合は緊急治療の対象となる。 治療は作用機序によって次の3段階に整理すると理解しやすい。 (1) 心筋膜の安定化:カルシウム製剤(グルコン酸カルシウムなど)の静注。数分で効くが、Kそのものは下げない。 (2) Kの細胞内への移動(一時的に血清Kを下げる):グルコース・インスリン療法、β2刺激薬、炭酸水素ナトリウム(代謝性アシドーシスを伴う場合)。 (3) Kの体外への排泄(体内総K量を減らす):陽イオン交換樹脂などのK吸着薬、ループ利尿薬、血液透析。 選択肢のうち、この治療体系に含まれるのは「ブドウ糖液とインスリン」のみである。名称の似た「カルシウム拮抗薬」をカルシウム製剤と取り違えないこと、また抗アルドステロン薬のようにKを上げる薬剤を見抜くことが問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  カルシウム拮抗薬

    誤り。カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)は血管平滑筋や心筋のL型カルシウムチャネルを遮断する薬で、高血圧や狭心症、一部は不整脈(頻拍性の心房細動のレートコントロールなど)の治療に用いられる。血清Kを下げる作用はなく、高カリウム血症の治療薬ではない。高カリウム血症で用いるのは「カルシウム製剤」(グルコン酸カルシウム、塩化カルシウム)であり、これは細胞外Ca濃度を高めて心筋の興奮性を正常に近づけ、致死性不整脈を防ぐためのものである。名称が紛らわしいので注意する。

  2. ×b.  グルカゴン

    誤り。グルカゴンは膵ランゲルハンス島α細胞から分泌されるホルモンで、肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生を促して血糖を上げる。臨床では主に重症低血糖の治療や、消化管検査時の蠕動抑制、β遮断薬中毒などに用いられる。かつては劇症肝炎に対する肝再生促進を狙ってインスリンと併用するグルカゴン・インスリン療法が行われたこともあるが、これは高カリウム血症の治療ではない。グルカゴンにKを細胞内へ移動させて血清Kを下げる作用はなく、高カリウム血症の治療には用いない。

  3. ×c.  抗アルドステロン薬

    誤り。アルドステロンは腎の集合管に作用してNaの再吸収とKの尿中排泄を促すホルモンである。抗アルドステロン薬(スピロノラクトン、エプレレノンなどのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)はこの作用を遮断するため、K排泄が減って血清Kが上昇する(K保持性利尿薬)。つまり高カリウム血症の原因となる薬剤であり、高カリウム血症の患者では投与を避ける(禁忌)べきである。高カリウム血症を見たら、本剤やACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などの服用がないか確認する。

  4. ×d.  硝酸薬

    誤り。硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなど)は体内で一酸化窒素(NO)を放出して血管平滑筋を弛緩させ、主に静脈を拡張して前負荷を減らし、冠動脈も拡張する。狭心症発作の治療・予防や急性心不全に用いられるが、カリウム代謝への作用はなく、高カリウム血症の治療には用いない。

  5. ○e.  ブドウ糖液とインスリン

    正しい。インスリンは骨格筋や肝などの細胞膜にあるNa+/K+-ATPase(ナトリウムポンプ)を活性化し、細胞外のKを細胞内へ取り込ませることで血清Kを低下させる(グルコース・インスリン療法、GI療法)。ブドウ糖を同時に投与するのは、インスリンによる低血糖を防ぐためである。一般的には速効型インスリン10単位程度をブドウ糖25〜50gとともに静注・点滴し、効果は十数分〜30分程度で現れて数時間持続する。ただしKを細胞内へ移すだけで体内のK総量は減らないため、効果は一時的であり、並行して陽イオン交換樹脂や利尿薬、透析などでKを体外に除去する必要がある。治療中・治療後は血糖値の推移に注意する。

高カリウム血症の原因

・腎からの排泄低下:腎不全(急性・慢性)、低アルドステロン状態(副腎不全、低レニン性低アルドステロン症)、薬剤(K保持性利尿薬、ACE阻害薬、ARB、NSAIDs、ST合剤、カルシニューリン阻害薬など) ・細胞内から細胞外への移動:代謝性アシドーシス、インスリン欠乏、横紋筋融解症、腫瘍崩壊症候群、溶血、β遮断薬、ジギタリス中毒、高浸透圧状態 ・過剰摂取・投与:K製剤、大量輸血など(腎機能低下時に問題となりやすい) ・偽性高カリウム血症:採血時の溶血、著明な白血球増多・血小板増多など。治療前に除外する。

心電図変化(Kの上昇に伴っておおむね次の順に出現)

テント状T波(尖鋭化した高いT波)→ PR延長・P波の平低化〜消失 → QRS幅の拡大 → サインカーブ様波形 → 心室細動・心停止

治療のまとめ

1.心筋膜の安定化:グルコン酸カルシウム静注(効果発現は数分、持続は30〜60分程度)。ジギタリス服用中は慎重に用いる。 2.細胞内への移動:グルコース・インスリン療法、β2刺激薬(サルブタモール吸入など)、炭酸水素ナトリウム(アシドーシス合併時) 3.体外への排泄:陽イオン交換樹脂(ポリスチレンスルホン酸カルシウム/ナトリウム)の経口・注腸、ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム(非ポリマー型のK吸着薬)、ループ利尿薬(フロセミド)、血液透析(重症・腎不全例で最も確実) 4.原因の除去:K含有輸液・K上昇薬剤の中止、食事中のK制限

POINT

・高カリウム血症の緊急治療は「膜の安定化(カルシウム製剤)」「細胞内移動(グルコース・インスリン、β2刺激薬、重炭酸)」「体外排泄(K吸着薬、ループ利尿薬、透析)」の3本柱。 ・グルコース・インスリン療法はNa+/K+-ATPaseを活性化してKを細胞内に移す。ブドウ糖は低血糖予防のため併用する。効果は一時的。 ・カルシウム「製剤」とカルシウム「拮抗薬」を混同しない。 ・抗アルドステロン薬、ACE阻害薬、ARBは高カリウム血症の原因薬である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。