「もう一度MRIを」と言われたら―最初のひと言が信頼を決める
第109回医師国家試験 C問題 第18問
国試問題にチャレンジ
35歳の女性。3か月以上続く頭重感を主訴に総合内科を受診した。症状は午後から夜に増悪するが日常生活に支障はない。これまで複数の病院を受診して頭部CTと頭部MRIとを施行されており異常はないと言われていたが,頭部MRIをもう一度行ってほしいと患者は強く希望している。 この患者にまず医師がかける言葉として適切なのはどれか。
- a.「私に任せなさい」
- b.「医療費の無駄遣いです」
- c.「頭部MRIの予約をします」
- d.「脳神経外科を受診しなさい」
- e.「頭の重いのが続くのが心配なのですね」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
繰り返し異常なしと言われても検査を強く希望する患者の背景には、重大な病気が見逃されているのではという不安や、これまでの説明への不納得が隠れていることが多くあります。最初にかける言葉としては、「頭の重いのが続くのが心配なのですね」のように訴えと感情を言葉にして返す共感的応答が適切で、これが信頼関係を築く第一歩になります。頭ごなしの拒否や非難、言われるままの再検査、他科への丸投げ、医師主導の一方的な態度は、いずれも不安を解消せずドクターショッピングを招きかねません。共感の後は解釈モデルを聴き取り、検査結果の意味と再検査が不要な理由を説明し、緊張型頭痛への対処や警告症状を伝えて継続的に関わることが大切です。この流れはOSCEの医療面接だけでなく、日常診療のあらゆる場面で求められる基本的なコミュニケーション技術です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・35歳の女性。3か月以上持続する頭重感(締め付けられるような、重い感じの頭痛)。 ・症状は午後から夜にかけて強くなるが、日常生活には支障がない。 ・複数の医療機関で頭部CT・頭部MRIを受け、いずれも異常なしと説明されている。 ・それでも、もう一度頭部MRIを撮ってほしいと強く希望している。
病態の推定
慢性に続く頭重感で、夕方にかけて悪化し、生活に支障が少ないという経過は、一次性頭痛のうち最も頻度の高い緊張型頭痛に合致する。片頭痛であれば発作性で拍動性のことが多く、発作中は日常生活に支障をきたしやすい。また、画像検査が繰り返し正常であることから、脳腫瘍などの頭蓋内の器質的疾患はほぼ否定的であり、現時点でMRIを再検する医学的な必要性は乏しい。
設問の考え方
本問で問われているのは診断ではなく、最初にかける言葉、すなわち医療面接のコミュニケーションである。複数の病院を受診し、異常なしと言われてもなお検査を求める背景には、「重大な病気が見逃されているのではないか」という不安や、これまでの説明に納得できていない気持ちがあると考えられる。 こうした患者に対して、いきなり要求を拒否したり、逆に言われるまま検査を予約したりするのは適切ではない。まずは患者の訴えと感情を受け止め、「あなたの心配を理解している」と伝えること(共感的態度)が、信頼関係(ラポール)を築く第一歩となる。そのうえで、不安の中身(どんな病気を心配しているのか、なぜそう思うのか)を聴き取り、これまでの検査結果の意味と再検査が必要ない理由を丁寧に説明し、症状への対処を一緒に考えていく。したがって、患者の気持ちを言葉にして返す「頭の重いのが続くのが心配なのですね」が最も適切である。
選択肢考察
- ×a. 「私に任せなさい」
誤り。何をどのように任せるのかが不明確で、患者の話を聴く前に医師の判断を一方的に押し付ける、パターナリズム(医師主導で患者の意思を軽視する態度)的な言葉である。患者の不安の中身を確認しないままでは納得は得られず、患者が治療方針の決定に参加する共同意思決定の考え方にも反する。
- ×b. 「医療費の無駄遣いです」
誤り。検査の必要性が乏しいこと自体は医学的に妥当な判断であっても、患者の不安を無視して非難するような言い方は、患者を傷つけ、反発を招く。信頼関係が損なわれれば、患者はさらに別の医療機関を受診して同じ検査を繰り返す(いわゆるドクターショッピング)ことになりかねず、かえって医療資源の浪費につながる。
- ×c. 「頭部MRIの予約をします」
誤り。すでに複数回の画像検査で異常がなく、症状も緊張型頭痛に矛盾しないため、MRI再検の医学的適応は乏しい。患者の要望にそのまま応じても一時的に安心させるだけで、不安の根本は解決されず、問題を先送りすることになる。医師は患者の希望を尊重しつつも、医学的判断に基づいて必要性を説明する責任がある。
- ×d. 「脳神経外科を受診しなさい」
誤り。画像検査で頭蓋内に器質的病変は認められず、脳神経外科的な治療を要する疾患の可能性は極めて低い。患者の話を十分に聴かないまま他科へ回すのは、問題を他に押し付けているにすぎず、患者の不安も解消されない。総合内科として患者の訴えに向き合うべき場面である。
- ○e. 「頭の重いのが続くのが心配なのですね」
正しい。患者の訴え(頭重感が続いていること)と、その背後にある感情(心配)を言葉にして返す共感的な応答である。医師が自分の気持ちを理解してくれていると感じることで、患者は安心して不安の中身を話せるようになり、信頼関係の構築につながる。これだけで問題が解決するわけではないが、その後に不安の内容を聴き取り、検査結果の意味やMRI再検が不要である理由、緊張型頭痛への対処法を説明していくための出発点として、最初にかける言葉に最もふさわしい。
医療面接における共感的な応答
・共感(empathy)とは、患者の感情を理解し、理解したことを患者に伝えることである。「〜が心配なのですね」「〜でおつらいのですね」のように、患者の感情を言葉にして返す(感情の反映)のが基本的な技法である。 ・ほかに、開放型の質問(「どのようなことが気になっていますか」)、傾聴、患者の言葉を繰り返す・要約する、といった技法がある。 ・医療面接では、患者が病気をどう捉え、何を心配し、何を期待しているか(解釈モデル)を把握することが重要である。本問のように検査を強く求める患者では、「脳腫瘍ではないか」などの具体的な不安が隠れていることが多い。
検査を強く希望する患者への対応の流れ
1. 訴えと感情を受け止める(共感)。 2. 不安の中身と、検査に何を期待しているかを聴き取る。 3. これまでの検査結果の意味を説明し、現時点で再検査が必要ない理由をわかりやすく伝える。 4. 症状を和らげる方法や、どのような症状が出たら再受診すべきか(警告症状)を示し、継続的に診ていく姿勢を示す。
緊張型頭痛
・一次性頭痛の中で最も頻度が高い。 ・両側性で、圧迫感・締め付け感のある非拍動性の頭痛。強さは軽度〜中等度で、日常的な動作で増悪しない。 ・悪心・嘔吐は伴わず、光過敏・音過敏はあってもどちらか一方のみ。 ・長時間の同じ姿勢、精神的ストレス、肩こりなどが誘因となり、夕方に悪化しやすい。 ・治療は生活指導(姿勢改善、ストレッチ、運動)、急性期には鎮痛薬(アセトアミノフェン、NSAIDs)を用いる。慢性化例には三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)が用いられることがある。鎮痛薬の使い過ぎによる薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)に注意する。
片頭痛との違い
片頭痛は片側性・拍動性で中等度〜重度、日常動作で増悪し、悪心・嘔吐や光過敏・音過敏を伴い、発作中は日常生活に支障をきたしやすい。
POINT
・医療面接で患者に最初にかける言葉は、患者の訴えと感情を受け止める共感的な言葉が基本である。 ・医学的に不要な検査を求められた場合も、頭ごなしに拒否せず、言われるまま実施もせず、まず不安の中身を聴き取ってから必要性を説明する。 ・他科への丸投げや、医師中心の一方的な態度(パターナリズム)は不適切である。 ・慢性の頭重感で夕方に増悪し、日常生活に支障がない場合は緊張型頭痛を考える。
