StudyMed医師国家試験

診断がついたらすぐ治療、でもその前に―若年リンパ腫患者の「治療開始」に必要なこと

第109回医師国家試験 B問題 第49問

国試問題にチャレンジ

第109回 B問題 第49問

28歳の男性。右頸部腫瘤を主訴に来院した。2か月前から右頸部腫瘤が増大し,1週前から発熱が出現したため受診した。体温38.2℃。右頸部と左鎖骨上窩とに径3 cmの圧痛のないリンパ節を2個触知する。頸部リンパ節生検で,びまん性大細胞性B細胞型リンパ腫と診断された。PET/CTでは右頸部,左鎖骨上窩および縦隔に取り込みを認めた。  治療開始に際して適切なのはどれか。2つ選べ。

  1. a.治療は無菌室が空くのを待ち行う。
  2. b.挙児希望であったので精子保存をする。
  3. c.病状の説明に主治医の他に看護師も同席する。
  4. d.後方視的臨床研究の結果をもとに治療計画を立てる。
  5. e.セカンドオピニオンを希望したので自分の父親が経営する病院を紹介する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は悪性リンパ腫そのものの診断ではなく、治療を始めるにあたって医師がどう動くべきかを問う問題だ。病型がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と確定していること、患者さんが20代と若いこと、この2点を意識して読んでみよう。
医学生医学生
診断はもうついているので、医学知識というより医療倫理やチーム医療の問題に近い感じがしますね。
ドクタードクター
その通り。ただ、背景にある病気の性質を押さえておかないと判断を誤る選択肢もある。まず、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫はどんな進行のリンパ腫だったかな。
医学生医学生
血液内科の講義で、中悪性度で月単位で進むと習いました。日本の非Hodgkinリンパ腫で一番多い病型ですよね。
ドクタードクター
そう。進行は速いけれど化学療法がよく効き、治癒を目指せる病気だ。病変は頸部、鎖骨上窩、縦隔と横隔膜の上側に限られているから、Ann Arbor分類ではII期。原因のはっきりしない38℃を超える発熱をB症状と考えればIIB期になる。標準治療は何だったかな。
医学生医学生
リツキシマブにシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロンを組み合わせたR-CHOP療法です。強い化学療法なので、感染対策で無菌室に入るのかなと思っていました。
ドクタードクター
そこがひっかけだね。無菌室が本当に必要なのは、同種造血幹細胞移植や急性白血病の寛解導入療法のように、好中球がほぼゼロの状態が長く続く治療だ。R-CHOP療法の好中球減少は比較的短期間で回復し、外来で行うことも多い。必要ならG-CSFや抗菌薬で対応する。進行の速いリンパ腫で、すでに発熱もあるのに、無菌室の空きを待って治療を遅らせるのは不適切なんだ。
医学生医学生
なるほど、「念のため」が逆に患者さんの不利益になるわけですね。では精子保存はどうでしょう。若い男性で挙児希望があるなら、大事な気がします。
ドクタードクター
まさに適切な対応だ。シクロホスファミドのようなアルキル化薬は、精巣で盛んに分裂している精子のもとになる細胞を傷害し、乏精子症や無精子症を起こしうる。回復することもあるけれど、永続的な不妊になる場合もある。だから化学療法を始める前に精子を採取して凍結保存しておく。治療開始後だと精子の数や質が落ち、DNA損傷の心配もあるから、タイミングは必ず治療前だ。
医学生医学生
でも、それで治療開始が遅れることはないんですか。
ドクタードクター
精子凍結は数日以内に実施できるので、治療を大きく遅らせずに済む。無菌室待ちとは違って、現実的で意味のある準備なんだ。では、病状説明に看護師が同席するという対応はどう思う?
医学生医学生
臨床実習で血液内科を回ったとき、告知の場面に看護師さんが同席していて、説明のあとに患者さんの話をじっくり聞いていたのが印象に残っています。
ドクタードクター
いい経験をしたね。がんの告知は患者さんにとって大きな精神的負担だ。看護師が同席すれば、説明中の表情や反応を観察できるし、医師には聞きにくい疑問や不安を後から拾い上げて補足につなげられる。化学療法中の副作用対策や感染予防、生活指導は看護師が中心になる場面も多いから、説明内容をチームで共有しておくことは安全な治療にも直結する。これも適切だ。
医学生医学生
後方視的臨床研究をもとに治療計画を立てる、というのは、研究に基づいているなら良さそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
そこは「どの研究か」が問題なんだ。後方視的研究は過去の診療記録をさかのぼって解析するので、患者背景の偏りや記録の欠落が避けにくく、エビデンスの質は低い。治療計画はランダム化比較試験やそのメタアナリシス、診療ガイドラインといった質の高いエビデンスに基づいて立てるべきだ。実際、R-CHOP療法の有効性もCHOP療法とのランダム化比較試験で示されている。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習ったエビデンスレベルのピラミッドですね。セカンドオピニオンで父親の病院を紹介するのは、さすがにまずいと思いました。
ドクタードクター
直感どおりだよ。セカンドオピニオンは、主治医以外の専門家から中立的な意見を聞いて、患者さんが納得して治療を選ぶための仕組みだ。主治医の親族が経営する病院では利害関係があり、客観性が疑われる。いわゆる利益相反だね。紹介先は患者さんの希望を尊重して決め、診療情報提供書や検査資料をきちんと用意するのが正しい対応だ。
医学生医学生
整理すると、治療を不必要に遅らせない、治療前に妊孕性に備える、多職種で説明する、質の高いエビデンスに基づく、中立なセカンドオピニオン、という軸で判断すればいいんですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。発展として、実際の治療開始前の準備も押さえておこう。ドキソルビシンは累積投与量に依存して心筋障害を起こすので、心エコーで心機能を評価しておく。リツキシマブや化学療法ではB型肝炎ウイルスの再活性化による劇症肝炎が問題になるから、HBs抗原だけでなくHBc抗体やHBs抗体も調べ、必要に応じて抗ウイルス薬の予防投与やHBV-DNAのモニタリングを行う。腫瘍量が多ければ、補液や尿酸降下薬で腫瘍崩壊症候群に備える。
医学生医学生
女性の患者さんの場合、妊孕性温存はどうするんですか。
ドクタードクター
未受精卵子や受精卵、卵巣組織の凍結保存などを検討する。いずれにせよ、がん治療で妊孕性が低下しうることは治療前に必ず説明し、本人の希望を確認することが大切だ。治す医療と、その後の人生を支える医療を両立させる視点を忘れないでほしい。

まとめ

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は月単位で進行する中悪性度リンパ腫ですが、R-CHOP療法で治癒を目指せるため、診断がつけば速やかに治療を始めます。R-CHOP療法は通常無菌室を必要とせず、無菌室待ちで治療を遅らせるのは不適切です。挙児希望のある若年男性では、アルキル化薬による不妊に備えて治療前に精子を凍結保存し、病状説明には看護師も同席して多職種で患者の理解と心理面を支えます。治療計画は後方視的研究ではなくランダム化比較試験やガイドラインなど質の高いエビデンスに基づき、セカンドオピニオンは利害関係のない医療機関へつなぎます。あわせて心機能評価、HBV再活性化対策、腫瘍崩壊症候群の予防といった治療前の準備を理解しておくことは、がん診療に携わる医師の基本となります。

解答・解説

正解はb, cです

症例の整理

・28歳男性。2か月で増大する右頸部腫瘤と、1週前からの38℃台の発熱。 ・右頸部と左鎖骨上窩に径3 cmの圧痛のないリンパ節 → 炎症性のリンパ節腫脹は圧痛を伴いやすく、圧痛がなく硬く大きいものは腫瘍性を疑う。 ・リンパ節生検でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL:diffuse large B-cell lymphoma)と確定している。 ・PET/CT(FDGというブドウ糖類似の薬剤の集積で活動性の高い病変を探す検査)で右頸部・左鎖骨上窩・縦隔に集積 → 病変はいずれも横隔膜より上の複数のリンパ節領域にとどまる。

病期と治療方針の考え方

悪性リンパ腫の病期はAnn Arbor分類(およびそれを改訂したLugano分類)で決める。横隔膜の同じ側の2つ以上のリンパ節領域に病変がある場合はⅡ期である。原因の明らかでない38℃を超える発熱、寝汗、6か月以内の10%を超える体重減少はB症状と呼ばれ、本例の発熱が他に原因のないものであればB症状に該当し、ⅡB期となる。DLBCLは月単位で進行する中悪性度(アグレッシブ)リンパ腫であり、診断がつけば速やかに治療を開始する。標準治療は、抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブにシクロホスファミド・ドキソルビシン・ビンクリスチン・プレドニゾロンを組み合わせたR-CHOP療法である(限局期では放射線療法を併用することもある)。

設問の考え方

本問は医学的な診断・治療そのものではなく、治療開始にあたって医師がとるべき行動を問うている。判断の軸は次の4点である。 ・治療を不必要に遅らせない(R-CHOP療法は通常、無菌室を必要としない)。 ・化学療法の長期的影響(妊孕性の低下)に治療前から備える。 ・病状説明は多職種で行い、患者の理解と心理面を支える。 ・治療計画は質の高いエビデンスに基づき、セカンドオピニオンは利害関係のない中立な医療機関へつなぐ。

選択肢考察

  1. ×a.  治療は無菌室が空くのを待ち行う。

    無菌室(クリーンルーム)は、同種造血幹細胞移植や急性白血病の寛解導入療法のように、好中球がほぼゼロの状態が長く続く治療で感染を防ぐために用いる。R-CHOP療法による好中球減少は比較的短期間で回復し、通常は外来でも施行できる治療であり、無菌室は原則不要である。好中球減少時には必要に応じてG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)の投与や抗菌薬で対応する。DLBCLは進行が速く、本例ではすでに発熱もみられるため、無菌室の空きを待って治療開始を遅らせるのは不適切である。

  2. ○b.  挙児希望であったので精子保存をする。

    抗がん薬、特にシクロホスファミドなどのアルキル化薬は、精巣で盛んに分裂している精子のもとになる細胞を傷害し、乏精子症や無精子症を引き起こす。回復することもあるが、永続的な不妊となる場合もある。本例は28歳と若く挙児を希望しているため、妊孕性を温存する目的で、化学療法を始める前に精子を採取して凍結保存しておくのが適切である。治療開始後に採取した精子は数や質の低下、DNA損傷のおそれがあるため、治療前に行うことが重要である。精子凍結は数日以内に実施でき、治療開始を大きく遅らせない点でも現実的である。

  3. ○c.  病状の説明に主治医の他に看護師も同席する。

    悪性リンパ腫の告知と治療方針の説明は、患者にとって大きな精神的負担を伴う。看護師が同席すると、説明中の患者の表情や反応を観察でき、医師に聞きにくい疑問や不安を後から拾い上げて補足説明につなげることができる。化学療法では副作用対策、感染予防、生活上の注意など看護師が中心となって支える場面が多く、説明内容を医療チームで共有しておくことは治療を安全に進めるうえでも重要である。多職種で患者を支えるチーム医療の観点から適切な対応である。

  4. ×d.  後方視的臨床研究の結果をもとに治療計画を立てる。

    後方視的研究は、過去の診療記録などをさかのぼって解析する研究で、患者背景の偏り(選択バイアス)や記録の欠落が避けにくく、エビデンスの質は低い。治療計画は、できるだけ質の高いエビデンス、すなわちランダム化比較試験などの前向き(前方視的)研究やそれらを統合したメタアナリシス、診療ガイドラインに基づいて立てるべきである。DLBCLに対するR-CHOP療法の有効性は、CHOP療法とのランダム化比較試験で示されている。

  5. ×e.  セカンドオピニオンを希望したので自分の父親が経営する病院を紹介する。

    セカンドオピニオンは、患者が主治医以外の専門家から中立的な意見を聞き、納得して治療を選ぶための制度である。主治医の親族が経営する病院を紹介すると、主治医と利害関係があるために客観性が疑われ、患者の自己決定を支えるというセカンドオピニオンの目的に反する(利益相反)。紹介先は患者の希望を尊重して決め、必要な診療情報提供書や検査資料を用意するのが適切である。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)

・日本の非Hodgkinリンパ腫で最も多い病型で、全体のおよそ3分の1を占める。 ・進行が月単位の中悪性度リンパ腫であるが、化学療法への反応性は良好で、治癒を目指せる。 ・標準治療はR-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)。限局期ではR-CHOP療法に放射線療法を組み合わせることもある。進行期の一部では、ビンクリスチンをポラツズマブ ベドチンに置き換えたPola-R-CHP療法も選択肢となっている。 ・予後の評価には国際予後指標(IPI:年齢60歳超、LDH高値、PS 2以上、病期Ⅲ・Ⅳ期、節外病変2か所以上)が用いられる。

Ann Arbor分類(Lugano分類)の要点

・Ⅰ期:1つのリンパ節領域 ・Ⅱ期:横隔膜の同じ側の2つ以上のリンパ節領域 ・Ⅲ期:横隔膜の両側のリンパ節領域 ・Ⅳ期:リンパ節以外の臓器(骨髄、肝、肺など)へのびまん性浸潤 ・B症状(原因不明の38℃を超える発熱、寝汗、6か月以内の10%を超える体重減少)の有無でA・Bを付記する。

治療開始前に行う主な準備

・心機能評価(心エコーなど):ドキソルビシンは累積投与量に依存して心筋障害をきたす。 ・B型肝炎ウイルスの検査:リツキシマブや化学療法によりHBVが再活性化し、劇症肝炎を起こしうる。HBs抗原に加えHBc抗体・HBs抗体も調べ、必要に応じて抗ウイルス薬の予防投与やHBV-DNAのモニタリングを行う。 ・腫瘍崩壊症候群の予防:腫瘍量が多い場合は補液、尿酸降下薬(アロプリノール、フェブキソスタット、ラスブリカーゼ)を用いる。 ・妊孕性温存:男性は精子凍結保存、女性は未受精卵子・受精卵・卵巣組織の凍結保存などを検討する。がん治療に伴う妊孕性低下の可能性は、治療前に必ず説明する。 ・インフォームド・コンセント:病名・病期、治療内容、副作用、治療成績、他の選択肢を説明し、多職種で患者の理解と意思決定を支える。

エビデンスレベルの目安

高い順におおむね、ランダム化比較試験のシステマティックレビュー・メタアナリシス → ランダム化比較試験 → 非ランダム化比較試験 → コホート研究などの前向き観察研究 → 症例対照研究・後ろ向き研究 → 症例報告・症例集積 → 専門家の意見、となる。

POINT

・R-CHOP療法は通常無菌室を必要とせず、アグレッシブリンパ腫の治療開始を遅らせない ・挙児希望の若年患者では、化学療法開始前に妊孕性温存(男性は精子凍結保存)を行う ・病状説明には看護師など多職種が同席し、チームで患者を支える ・治療計画は質の高いエビデンス(ランダム化比較試験、ガイドライン)に基づく ・セカンドオピニオンの紹介先は利害関係のない中立な医療機関とし、患者の希望を尊重する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。