StudyMed医師国家試験

中脳がやせて橋が残る―矢状断に浮かぶハチドリが告げる進行性核上性麻痺

第109回医師国家試験 A問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第11問

パーキンソン症状を示す患者の頭部単純MRIのT1強調矢状断像を別に示す。  最も考えられるのはどれか。

第109回 A問題 第11問の問題画像
  1. a.Parkinson病
  2. b.正常圧水頭症
  3. c.多系統萎縮症
  4. d.進行性核上性麻痺
  5. e.大脳皮質基底核変性症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はパーキンソン症状を示す患者さんのMRIから、背景にある疾患を見抜く問題だ。パーキンソン症状を起こす病気はたくさんあるけれど、画像で「どこが萎縮しているか」を見ると鑑別がぐっと絞れる。注目してほしいのは、正中矢状断で見た脳幹、特に中脳と橋の大きさのバランスだよ。
医学生医学生
パーキンソン症状と聞くと、まずParkinson病を考えてしまいます。でもMRIの問題なので、画像に特徴が出る疾患ということでしょうか。
ドクタードクター
いい読みだね。Parkinson病は通常のMRIでは特徴的な異常が出ないことが多い。だからこそ、画像に明らかな所見がある場合は「パーキンソン症候群」と総称される別の変性疾患を疑うんだ。では脳幹を見てみよう。橋底部、つまり腹側の膨らんだ部分はどうかな。
医学生医学生
橋はそれなりにふっくらしている気がします。その上の中脳が細く見えます。
ドクタードクター
その通り。橋底部は比較的保たれている一方で、中脳被蓋、特に吻側が萎縮して上縁が平坦から凹状になっている。横から見ると、やせた中脳がハチドリの頭とくちばし、保たれた橋が胴体のように見えるので、ハチドリ徴候、hummingbird signと呼ばれるんだ。ペンギンのシルエットに例えることもある。
医学生医学生
神経内科の講義で聞いた覚えがあります。進行性核上性麻痺の所見でしたよね。
ドクタードクター
正解。これが進行性核上性麻痺に特徴的な所見だ。中脳被蓋には垂直方向の眼球運動の中枢があるから、ここが変性すると下方視を中心とした垂直性の核上性注視麻痺が起きる。画像と症状がきちんと対応しているわけだね。
医学生医学生
「核上性」というのは、眼球運動の神経核そのものではなく、それより上位の障害という意味ですか。
ドクタードクター
そう。随意的には下を向けないのに、頭を動かす人形の目現象では眼球が動く。神経核から下は保たれているから核上性とわかるんだ。では他の選択肢も見ていこう。多系統萎縮症は画像でどう違うかな。
医学生医学生
多系統萎縮症は小脳とか橋が萎縮するイメージがあります。hot cross bun signもありましたね。
ドクタードクター
よく覚えている。多系統萎縮症では橋底部と小脳の萎縮が目立ち、T2強調軸位断で橋に十字状の高信号が出る。パーキンソン症状が主体の病型では被殻の萎縮と、被殻外側縁に沿ったスリット状の高信号も見られる。今回のように橋が保たれて中脳だけがやせる所見とは、むしろ対照的なんだ。
医学生医学生
大脳皮質基底核変性症も、確か進行性核上性麻痺と近い病気だったと思うのですが。
ドクタードクター
鋭いね。どちらも4リピートタウが蓄積するタウオパチーで、病理的には兄弟のような関係だ。ただ大脳皮質基底核変性症は、左右差の明らかなパーキンソン症状に、肢節運動失行や他人の手徴候といった皮質症状を伴うのが特徴。画像も中心溝周囲を含む前頭・頭頂葉の左右非対称な萎縮が主体で、中脳被蓋の選択的萎縮ではない。
医学生医学生
正常圧水頭症も歩き方がパーキンソン病っぽくなると、臨床実習で脳神経外科の先生に言われました。
ドクタードクター
そうだね。小刻み・開脚・すり足歩行に認知障害と尿失禁が三徴だ。画像では脳室拡大が中心で、Evans indexが0.3を超えることが目安。シルビウス裂は開いているのに高位円蓋部の脳溝が詰まって見えるDESHという所見が特徴で、中脳萎縮とは違う。
医学生医学生
整理すると、中脳だけやせていれば進行性核上性麻痺、橋と小脳なら多系統萎縮症、左右差のある大脳萎縮なら大脳皮質基底核変性症、脳室拡大なら正常圧水頭症、異常なしならParkinson病、ということですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。ここからは臨床の話をしよう。進行性核上性麻痺は60歳代ごろに発症することが多く、早期から姿勢保持障害があって後ろ向きによく転ぶ。筋強剛は四肢より体幹や頸部に強く、首が後ろに反り返る頸部後屈が見られる。
医学生医学生
Parkinson病は安静時振戦があって左右差があり、レボドパがよく効くというのと対照的ですね。
ドクタードクター
その通り。進行性核上性麻痺では振戦は目立たず、症状はほぼ左右対称で、レボドパの効果に乏しい。さらに無感情や把握反射、拍手を3回と指示しても止まらない拍手徴候などの前頭葉症状、構音・嚥下障害も伴ってくる。根本的な治療はなく、指定難病だから、転倒予防や嚥下評価、社会資源の活用まで含めた支援が大切になるよ。
医学生医学生
転んでばかりの高齢者を見たら、目の動きと首の反り返りも確認するようにします。
ドクタードクター
それがいちばん実践的な学びだね。Parkinson病と思われていた患者さんが、実は早期の進行性核上性麻痺だったということは臨床でも珍しくない。画像と症状をセットで考える癖をつけておこう。

まとめ

パーキンソン症状を示す患者でT1強調正中矢状断像において橋底部が保たれ中脳被蓋が選択的に萎縮していれば、ハチドリ徴候として進行性核上性麻痺を考えます。進行性核上性麻痺は4リピートタウオパチーで、早期からの後方への易転倒性、下方視を中心とした垂直性核上性注視麻痺、頸部後屈を伴う体幹優位の筋強剛、前頭葉症状を特徴とし、レボドパの効果は乏しいです。鑑別として、多系統萎縮症は橋・小脳萎縮やhot cross bun sign、大脳皮質基底核変性症は左右差のある前頭・頭頂葉萎縮、正常圧水頭症は脳室拡大とDESHを示し、Parkinson病は通常のMRIで特徴的な異常を認めません。萎縮部位と臨床症状を対応させて理解することが、パーキンソン症候群を見分ける実践的な力につながります。

解答・解説

正解はdです

画像所見の整理

パーキンソン症状(動作緩慢、筋強剛、姿勢保持障害など)を示す患者の頭部MRI T1強調正中矢状断像である。脳幹を見ると、橋底部(腹側の膨らんだ部分)の大きさは比較的保たれている一方、その上に乗る中脳、特に中脳被蓋の吻側部が細く萎縮し、上縁が平坦〜凹状になっている。正中矢状断で脳幹を横から見ると、萎縮した中脳がハチドリの頭とくちばし、保たれた橋が胴体のように見えることから、この所見はハチドリ徴候(hummingbird sign)と呼ばれる。ペンギンの姿に例えてpenguin silhouette signともいう。

診断への考え方

パーキンソン症状を示す疾患は、Parkinson病のほか、進行性核上性麻痺〈PSP〉、多系統萎縮症〈MSA〉、大脳皮質基底核変性症〈CBD〉など「パーキンソン症候群」と総称される変性疾患、さらに正常圧水頭症や薬剤性パーキンソニズムなど多岐にわたる。これらの鑑別では、臨床症状に加えて画像所見が重要な手がかりとなる。 ・中脳被蓋の萎縮(ハチドリ徴候)→ 進行性核上性麻痺 ・橋の十字状高信号、被殻外側の線状高信号、小脳萎縮 → 多系統萎縮症 ・左右差のある前頭・頭頂葉の萎縮 → 大脳皮質基底核変性症 ・脳室拡大と高位円蓋部脳溝の狭小化 → 正常圧水頭症 ・通常のMRIで特異的異常なし → Parkinson病 本問では中脳被蓋の選択的萎縮が明らかであり、進行性核上性麻痺が最も考えられる。 中脳被蓋には垂直方向の眼球運動の中枢(内側縦束吻側間質核など)が存在する。PSPで下方視を中心とした垂直性核上性注視麻痺が生じることは、この部位の変性と対応している。

選択肢考察

  1. ×a.  Parkinson病

    Parkinson病では、通常の頭部MRIは多くの場合正常であり、中脳被蓋の萎縮はみられない。進行例で黒質と赤核の間が狭くなる所見がみられることがある程度である。むしろ、MRIで明らかな異常がないことが他のパーキンソン症候群との鑑別に役立つ。診断の補助にはMIBG心筋シンチグラフィ(心臓交感神経の取り込み低下)やドパミントランスポーターシンチグラフィ(DaT scan、線条体の取り込み低下)が用いられる。

  2. ×b.  正常圧水頭症

    特発性正常圧水頭症は歩行障害(小刻み・開脚・すり足)、認知障害、尿失禁を三徴とし、パーキンソン症状に似た歩行障害を示しうる。画像では脳室拡大が特徴で、軸位断で側脳室前角の最大幅を同じ断面の頭蓋内腔最大幅で割ったEvans indexが0.3を超えることが目安となる。単なる脳萎縮による脳室拡大とは異なり、シルビウス裂や脳底槽は拡大する一方で高位円蓋部・正中部の脳溝やくも膜下腔が狭小化する(DESH:disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus)。中脳被蓋の選択的萎縮は本症の所見ではない。

  3. ×c.  多系統萎縮症

    多系統萎縮症では橋底部と小脳の萎縮が目立ち、T2強調軸位断像で橋横走線維の変性を反映した十字状の高信号(hot cross bun sign、十字サイン)がみられる。パーキンソン症状が主体の病型(MSA-P)では被殻の萎縮と、被殻外側縁に沿った線状の高信号(スリットサイン)がみられる。本問の画像のように橋が保たれ中脳が選択的に萎縮する所見とは対照的である。

  4. ○d.  進行性核上性麻痺

    T1強調正中矢状断像で、橋底部が比較的保たれるのに対して中脳被蓋(特に吻側)が萎縮しており、ハチドリ徴候(hummingbird sign)を呈している。これは進行性核上性麻痺に特徴的な所見である。そのほか第三脳室の拡大、前頭葉の萎縮、上小脳脚の萎縮などを伴うこともある。臨床的には、早期からの易転倒性(特に後方への転倒)、垂直性核上性注視麻痺、体幹優位の筋強剛(頸部後屈)、前頭葉機能障害がみられ、レボドパの効果は乏しい。

  5. ×e.  大脳皮質基底核変性症

    大脳皮質基底核変性症は、左右差の明らかなパーキンソン症状に加え、肢節運動失行、他人の手徴候、皮質性感覚障害などの大脳皮質症状を示す。画像では初期には萎縮が目立たないが、進行すると症状の強い側と反対側優位に、中心溝周囲(運動野・運動前野)を含む前頭・頭頂葉の非対称性萎縮がみられる。中脳被蓋の選択的萎縮が主体となる疾患ではない。

進行性核上性麻痺〈PSP〉の概要

・4リピートタウ蛋白が神経細胞やグリア細胞(房状アストロサイトなど)に蓄積するタウオパチーである。大脳皮質基底核変性症も同じ4リピートタウオパチーに属する。 ・中年期以降(60歳代が多い)に発症し、指定難病である。 ・主要症状:発症早期からの姿勢保持障害と易転倒性(後方へ倒れやすい)、垂直性核上性注視麻痺(特に下方視障害。人形の目現象で眼球が動くことから「核上性」とわかる)、体幹・頸部優位の筋強剛(頸部後屈)、構音・嚥下障害、前頭葉症状(無感情、把握反射、拍手徴候〈applause sign〉など)。 ・レボドパへの反応は乏しく、根本的治療はない。

パーキンソン症候群のMRI所見のまとめ

・進行性核上性麻痺:中脳被蓋萎縮(ハチドリ徴候、ペンギン徴候)、中脳/橋の面積比の低下、第三脳室拡大 ・多系統萎縮症:橋・小脳萎縮、hot cross bun sign(橋の十字状高信号)、被殻外側のスリット状高信号 ・大脳皮質基底核変性症:左右差のある前頭・頭頂葉萎縮 ・正常圧水頭症:脳室拡大(Evans index>0.3)、DESH ・Parkinson病:通常のMRIでは特徴的異常なし

Parkinson病との臨床的な違い

Parkinson病では安静時振戦が多く、症状に左右差があり、四肢優位の筋強剛で、レボドパがよく効く。一方、PSPでは振戦は目立たず、症状は左右対称的で体幹優位、早期から転倒が多く、レボドパの効果に乏しい。

POINT

・T1強調正中矢状断で中脳被蓋の萎縮と橋の保持=ハチドリ徴候(hummingbird sign)→ 進行性核上性麻痺。 ・PSPは易転倒性、垂直性(下方視)核上性注視麻痺、頸部後屈を伴う体幹優位の筋強剛、レボドパ無効が特徴。 ・多系統萎縮症:hot cross bun sign、被殻外側のスリット状高信号、小脳萎縮。 ・正常圧水頭症:脳室拡大とDESH。Parkinson病は通常MRIで異常を認めない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。