StudyMed医師国家試験

キノロンはもう効かない―耐性化が進む淋菌感染症の基本を総点検

第109回医師国家試験 A問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第12問

淋菌感染症について正しいのはどれか。

  1. a.潜伏期間は10~14日である。
  2. b.淋菌はGram陽性双球菌である。
  3. c.膀胱炎として発症することが多い。
  4. d.クラミジアとの混合感染が90%にみられる。
  5. e.ニューキノロン系抗菌薬に対する耐性株が増加している。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は淋菌感染症の基本事項を確認する問題だ。病原体の形、潜伏期間、どこに感染するか、クラミジアとの関係、そして薬剤耐性。どれも性感染症の診療で必ず押さえておきたいポイントだよ。まずは菌そのものから。淋菌はGram染色でどう見えるかな。
医学生医学生
双球菌なのは覚えているんですが、陽性か陰性かでいつも迷ってしまいます。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。淋菌はGram陰性双球菌。ソラマメ形の菌が2つ向かい合った形をしていて、尿道分泌物のGram染色で好中球に貪食されている像が見えれば、淋菌感染症を強く疑える。同じNeisseria属の髄膜炎菌も、Moraxella catarrhalisもGram陰性双球菌だ。
医学生医学生
Gram陽性双球菌というと、肺炎球菌ですね。微生物学の実習でランセット形と習いました。
ドクタードクター
そう、それで区別しておけば混乱しない。次は潜伏期間。淋菌の尿道炎は感染からどのくらいで症状が出ると思う?
医学生医学生
性感染症なので、1〜2週間くらいかかるイメージがありました。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。淋菌はもっと早くて、男性の尿道炎ではおおむね2〜7日で強い排尿痛と膿性の分泌物が出てくる。1〜3週間とやや長いのはクラミジアのほうだ。しかもクラミジアは分泌物が少なく漿液性で、症状も軽いことが多い。潜伏期と症状の強さは両者を見分ける手がかりになる。
医学生医学生
では、膀胱炎として発症することが多いというのはどうでしょう。排尿痛があるので混同しそうです。
ドクタードクター
排尿痛という共通点はあるけれど、淋菌がまず感染するのは男性なら尿道、女性なら子宮頸管だ。膀胱炎の主な原因は大腸菌などの腸内細菌で、淋菌は典型的な膀胱炎の原因菌ではない。女性の子宮頸管炎は無症状のことが多いのも大事な点だね。
医学生医学生
無症状だと気づかれないまま広がってしまいそうです。
ドクタードクター
まさにそれが問題で、上行すると男性では精巣上体炎、女性では卵管炎などの骨盤内炎症性疾患や、肝周囲炎のFitz-Hugh-Curtis症候群を起こしうる。不妊や異所性妊娠の原因にもなるんだ。では、クラミジアとの混合感染はどのくらいの頻度だと思う?
医学生医学生
淋菌とクラミジアはよくセットで出てくるので、90%と言われると信じてしまいそうです。
ドクタードクター
セットで考えるのは正しいけれど、90%は多すぎる。わが国では20〜30%程度とされている。ただ、決して珍しくはないから、淋菌感染症と診断したらクラミジアの検査も行い、陽性なら両方を治療する。最近は両者を同時に検出できる核酸増幅法が広く使われているよ。
医学生医学生
そうすると、残ったニューキノロン系抗菌薬への耐性が正解ですね。
ドクタードクター
その通り。淋菌は薬剤耐性を獲得しやすい菌で、ペニシリン系、テトラサイクリン系、そしてニューキノロン系と次々に耐性化してきた。わが国ではニューキノロン耐性がおよそ8割に達するとの報告もあり、治療薬としては推奨されていない。
医学生医学生
泌尿器科の実習で、尿道炎の患者さんにセフトリアキソンを点滴していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そう。現在はセフトリアキソンの単回静注が中心で、スペクチノマイシンの単回筋注も選択肢になる。咽頭感染にはセフトリアキソンが推奨される。ただし近年、セフトリアキソンに感受性が低下した株も報告されていて、耐性化の動向には今後も注意が必要だ。
医学生医学生
治療するときは、本人だけでなくパートナーも診る必要がありますよね。
ドクタードクター
とても大切な視点だね。パートナーを同時に検査・治療しないと、治ってもすぐに再感染してしまう。それから淋菌は咽頭や直腸、結膜にも感染するし、産道感染で新生児の結膜炎を起こすこともある。まれに発熱や関節炎、皮疹を伴う播種性淋菌感染症になることもあるから、性器以外の症状にも目を配ってほしい。
医学生医学生
排尿痛の若い男性を見たら、潜伏期間と分泌物の性状を聞き、Gram染色を見て、クラミジアの検査とパートナーの治療まで考える、という流れですね。
ドクタードクター
完璧だ。その流れが身についていれば、外来でも国試でも迷わないはずだよ。

まとめ

淋菌感染症はGram陰性双球菌である淋菌による性感染症で、潜伏期間は2〜7日程度と短く、男性では強い排尿痛と膿性分泌物を伴う尿道炎、女性では無症状のことが多い子宮頸管炎として発症します。クラミジアとの混合感染はわが国で20〜30%程度と少なくないため、診断時にはクラミジアも検査し、パートナーも含めて治療することが重要です。淋菌は薬剤耐性を獲得しやすく、ニューキノロン系の耐性率は約8割に達するため推奨されず、現在はセフトリアキソンの単回静注などが治療の中心となっています。上行感染による骨盤内炎症性疾患や不妊につながりうることも踏まえ、淋菌とクラミジアの違いや耐性化の動向を押さえておくことは、性感染症診療の基本となります。

解答・解説

正解はeです

淋菌感染症は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)による代表的な性感染症〈STI〉である。本問は、淋菌感染症の基本事項である「病原体の性状」「潜伏期間」「主な病型」「クラミジアとの混合感染の頻度」「薬剤耐性」を問うている。 押さえるべき骨格は次のとおりである。 ・淋菌はGram陰性双球菌(ソラマメ形の菌が2個向かい合った形)で、好中球に貪食された像がGram染色でみられる。 ・潜伏期間は短く、男性の尿道炎では2〜7日程度である。 ・男性は尿道炎、女性は子宮頸管炎として発症することが最も多い。男性の尿道炎は膿性の分泌物と強い排尿痛を伴いやすいのに対し、女性は無症状のことが多い。 ・クラミジアとの混合感染はわが国で20〜30%程度である。 ・淋菌はさまざまな抗菌薬に耐性を獲得してきた歴史があり、ペニシリン系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系はいずれも耐性率が高く、現在は第一選択として用いられない。 これらの知識から、各選択肢の数値や記述の正誤を判断する。

選択肢考察

  1. ×a.  潜伏期間は10~14日である。

    淋菌感染症の潜伏期間はもっと短い。男性の尿道炎では感染後2〜7日程度で排尿痛と膿性分泌物が出現する。女性は無症候のことが多いため潜伏期を明確に決めにくいが、発症する場合はおおむね感染から10日以内と考えられている。なお、クラミジア尿道炎の潜伏期間は1〜3週間程度と淋菌より長く、症状も軽いことが多い。潜伏期間の長さは両者を区別する手がかりの一つである。

  2. ×b.  淋菌はGram陽性双球菌である。

    淋菌はGram陰性双球菌である。同じNeisseria属の髄膜炎菌もGram陰性双球菌であり、Moraxella catarrhalisも同様の形態をとる。Gram陽性双球菌として代表的なのは肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae、ランセット形)である。尿道分泌物のGram染色で、好中球内に貪食されたGram陰性双球菌を認めれば淋菌感染症を強く疑える。

  3. ×c.  膀胱炎として発症することが多い。

    淋菌感染症は、男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎として発症することが最も多い。膀胱炎の主な原因菌は大腸菌などの腸内細菌であり、淋菌は典型的な膀胱炎の原因菌ではない。淋菌感染が上行・進展すると、男性では精巣上体炎、女性では卵管炎などの骨盤内炎症性疾患〈PID〉や肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)を起こしうる。

  4. ×d.  クラミジアとの混合感染が90%にみられる。

    淋菌とクラミジア(Chlamydia trachomatis)の混合感染は珍しくないが、90%は過大である。わが国では20〜30%程度、米国では40〜50%程度と報告されている。混合感染が少なくないため、淋菌感染症と診断した場合にはクラミジアの検査も行い、陽性であれば両方を治療する必要がある。

  5. ○e.  ニューキノロン系抗菌薬に対する耐性株が増加している。

    淋菌は薬剤耐性を獲得しやすく、わが国ではニューキノロン系抗菌薬に対する耐性率がおよそ80%に達すると報告されている(地域差あり)。そのため、ニューキノロン系は淋菌感染症の治療薬として推奨されていない。現在の治療には、セフトリアキソンの単回静注が中心となり、スペクチノマイシンの単回筋注なども用いられる。咽頭感染ではセフトリアキソンが推奨される。近年はセフトリアキソンに感受性が低下した株も報告されており、耐性化の動向に注意が必要である。

淋菌の性状

Neisseria gonorrhoeaeはGram陰性双球菌で、好気性(CO2を好む)である。乾燥や温度変化に弱く、人体外では長く生存できないため、ほぼ性的接触でのみ感染する。培養にはサイヤー・マーチン培地などの選択培地を用いる。

臨床像

・男性:尿道炎(強い排尿痛、多量の膿性分泌物)、精巣上体炎 ・女性:子宮頸管炎(無症状が多い)、骨盤内炎症性疾患、肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)、不妊や異所性妊娠の原因 ・性別を問わず:咽頭感染、直腸感染、結膜炎 ・新生児:産道感染による新生児結膜炎(膿漏眼) ・まれに播種性淋菌感染症(発熱、関節炎、皮疹)

診断

分泌物のGram染色(特に男性尿道炎で感度が高い)、培養(薬剤感受性検査が可能)、核酸増幅法〈NAAT〉が用いられる。核酸増幅法ではクラミジアを同時に検出できる方法が広く使われる。

治療

セフトリアキソン単回静注、スペクチノマイシン単回筋注などを用いる。クラミジアとの混合感染があればマクロライド系(アジスロマイシン)やテトラサイクリン系を併用する。パートナーも同時に検査・治療することが再感染防止に重要である。

淋菌とクラミジアの比較

・潜伏期間:淋菌は2〜7日、クラミジアは1〜3週 ・症状:淋菌は膿性分泌物と強い排尿痛、クラミジアは漿液性の少量分泌物で軽症〜無症状 ・治療:淋菌はセフトリアキソン等、クラミジアはマクロライド系・テトラサイクリン系

POINT

・淋菌はGram陰性双球菌(Gram陽性双球菌は肺炎球菌)。 ・潜伏期間は2〜7日と短い。 ・男性は尿道炎、女性は子宮頸管炎が最多(女性は無症状が多い)。 ・クラミジアとの混合感染はわが国で20〜30%程度。 ・ニューキノロン耐性が約80%と高く、治療はセフトリアキソンやスペクチノマイシン。パートナー治療も必須。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。