StudyMed医師国家試験

褐色細胞腫の降圧は「αから」―利尿薬が禁物になる理由

第108回医師国家試験 I問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第37問

褐色細胞腫の血圧管理に用いるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.α遮断薬
  2. b.ループ利尿薬
  3. c.カルシウム拮抗薬
  4. d.スピロノラクトン
  5. e.サイアザイド系利尿薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は褐色細胞腫の血圧をどの薬で管理するかを問う問題だ。ポイントは、この高血圧が「何によって」起きているかと、患者さんの体液量がどうなっているかの2つ。まず、褐色細胞腫で血圧が上がる仕組みから確認しよう。
医学生医学生
副腎髄質の腫瘍からカテコールアミンが過剰に出るからですよね。生理学の講義で、ノルアドレナリンはα作用が強いと習いました。
ドクタードクター
その通り。カテコールアミンは血管平滑筋のα1受容体を介して強い末梢血管収縮を起こし、心臓のβ1受容体を介して心拍数と収縮力を増やす。高血圧の主役はα1を介した血管収縮なんだ。だから、それを断つα遮断薬が第一選択になる。
医学生医学生
内服だとドキサゾシンですか。
ドクタードクター
そう。選択的α1遮断薬のドキサゾシンを少量から始めて、血圧をみながら増量する。高血圧クリーゼや術中の急な血圧上昇には、静注のフェントラミンを使う。ここはセットで覚えておこう。
医学生医学生
α遮断薬だけで下がりきらないときはどうするんでしょう。
ドクタードクター
そこでカルシウム拮抗薬を追加する。カテコールアミンによる血管収縮も、最終的には平滑筋の細胞内カルシウム増加を介して起こる。L型カルシウムチャネルを遮断すれば血管が拡張して降圧が得られるわけだ。α遮断薬で不十分なときや、副作用で増量できないときの追加薬という位置づけだね。
医学生医学生
じゃあ、本態性高血圧と同じように利尿薬を併用してもいいように思えますが……。
ドクタードクター
そこが大事な落とし穴。褐色細胞腫では長く血管が締め付けられているせいで血管内容積が縮み、循環血漿量はむしろ減っているんだ。起立性低血圧を伴うことがあるのもそのためだよ。
医学生医学生
血圧は高いのに、体の水分は足りていないということですか。意外です。
ドクタードクター
そう、いわば「縮んだ器に少ない水」の状態。ここでループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬で体液を減らすと、起立性低血圧を悪化させるし、腫瘍摘出後の低血圧も重くなる。そもそも利尿薬はカテコールアミンの作用には働きかけないから、原因にも効かない。
医学生医学生
スピロノラクトンも利尿薬の仲間なので同じ理由で外れますね。CBTの勉強では原発性アルドステロン症の薬として覚えていました。
ドクタードクター
正確だね。スピロノラクトンはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬で、アルドステロン過剰による高血圧、特に手術をしない両側性の原発性アルドステロン症で使う。カテコールアミン過剰とは原因が違うし、体液を減らす点でも不適当だ。結局、正解はα遮断薬とカルシウム拮抗薬の2つになる。
医学生医学生
頻脈が強いときはβ遮断薬を使いたくなりますが、それは大丈夫ですか。
ドクタードクター
使うことはあるけれど、必ずα遮断薬を先に始めてから追加する。β遮断薬を先行または単独で使うと、β2受容体による血管拡張が失われてα刺激による血管収縮が相対的に優位になり、高血圧クリーゼや心不全を起こしうる。国試でも臨床でも頻出の禁忌だよ。
医学生医学生
内分泌内科の実習で、術前に「塩分制限はしない」と指示が出ていて不思議に思ったんですが、これもつながっていますか。
ドクタードクター
まさにそれ。α遮断で血管床が広がるぶん、塩分・水分をしっかりとってもらい、必要なら輸液で循環血漿量を回復させておく。腫瘍を摘出してカテコールアミンの供給が途絶えると血管が一気に拡張するから、器に水を満たしておかないと術後に重い低血圧になるんだ。
医学生医学生
降圧しつつ、体液は増やしておくという発想なんですね。
ドクタードクター
その通り。ほかにも注意点がある。メトクロプラミドやグルカゴンはカテコールアミン放出を誘発してクリーゼを起こしうるし、腫瘍の安易な生検も危険だ。降圧が難しい例では、カテコールアミン合成を抑えるメチロシンが使われることもある。また、MEN2やvon Hippel-Lindau病など遺伝性の背景をもつ例が少なくない点も頭に入れておこう。

まとめ

褐色細胞腫の高血圧は、過剰なカテコールアミンがα1受容体を介して血管を強く収縮させることで生じるため、α遮断薬(内服はドキサゾシン、クリーゼにはフェントラミン静注)が第一選択で、効果不十分ならカルシウム拮抗薬を追加します。慢性的な血管収縮で循環血漿量は減っているため、ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬・スピロノラクトンなどの利尿薬は用いず、術前は塩分制限をせず体液量を補って術後低血圧に備えます。β遮断薬は頻脈対策としてα遮断後に追加するもので、先行・単独投与は高血圧クリーゼを招くため禁忌です。病態生理から薬の選択と禁忌を導く考え方は、内分泌性高血圧の管理や周術期管理全般に応用できます。

解答・解説

正解はa, cです

褐色細胞腫の高血圧の成り立ち

褐色細胞腫は、副腎髄質(または副腎外の傍神経節に生じるものは傍神経節腫)のクロム親和性細胞から発生し、カテコールアミン(ノルアドレナリン、アドレナリン)を過剰に分泌する腫瘍である。過剰なカテコールアミンは、血管平滑筋のα1受容体を介して強い末梢血管収縮を起こし、心臓のβ1受容体を介して心拍数と心収縮力を増す。その結果、持続性または発作性の高血圧、頭痛、動悸、発汗などが生じる。 さらに、長く続く血管収縮のため血管内容積が縮小し、循環血漿量は減少している。このため起立性低血圧を伴うことがあり、腫瘍を摘出してカテコールアミンの供給が急に途絶えると、血管が一気に拡張して重い低血圧をきたしうる。

血圧管理の考え方

治療の根本は腫瘍の外科的摘出であるが、術前・術中の高血圧クリーゼや術後の低血圧を防ぐため、術前から十分な薬物療法を行う。 ・高血圧の主因であるα1受容体を介した血管収縮を断つα遮断薬が第一選択である。 ・α遮断薬だけで血圧が十分に下がらない場合には、カルシウム拮抗薬を追加する。 ・頻脈や不整脈に対してはβ遮断薬を用いるが、必ずα遮断薬を先に開始してから追加する。 ・循環血漿量が減っているため、利尿薬は用いない。むしろ術前は塩分制限をせず、輸液などで循環血漿量を回復させておく。 この観点から、α遮断薬とカルシウム拮抗薬を選ぶ。

選択肢考察

  1. ○a.  α遮断薬

    カテコールアミンによる血管収縮はα1受容体を介するため、これを遮断するα遮断薬が褐色細胞腫の降圧療法の第一選択である。内服ではドキサゾシンなどの選択的α1遮断薬を用い、少量から始めて血圧をみながら増量する。高血圧クリーゼや術中の急激な血圧上昇には、静注薬のフェントラミンを用いる。α遮断により血管床が広がるため、あわせて塩分・水分を十分にとらせて循環血漿量を回復させ、起立性低血圧や術後の低血圧に備える。

  2. ×b.  ループ利尿薬

    フロセミドなどのループ利尿薬は、Henleループ上行脚でのNa・Cl再吸収を抑えて強い利尿を起こす薬である。褐色細胞腫では慢性的な血管収縮によって循環血漿量がすでに減っており、利尿薬でさらに体液を減らすと起立性低血圧や腫瘍摘出後のショックを助長する。また、カテコールアミン過剰による血管収縮という高血圧の原因にも作用しないため、用いない。

  3. ○c.  カルシウム拮抗薬

    カルシウム拮抗薬は、血管平滑筋のL型カルシウムチャネルを遮断して細胞内へのカルシウム流入を抑え、血管を拡張させる。カテコールアミンによる血管収縮も最終的には細胞内カルシウムの増加を介するため、これを抑えることで降圧が得られる。褐色細胞腫では、α遮断薬を十分量使っても血圧が下がりきらない場合や、α遮断薬の副作用で増量できない場合に、追加薬として用いられる。

  4. ×d.  スピロノラクトン

    スピロノラクトンはアルドステロン受容体(ミネラルコルチコイド受容体)拮抗薬で、カリウム保持性利尿薬に分類される。アルドステロンの過剰を原因とする原発性アルドステロン症(特に手術をしない両側性の病型)の治療薬であり、カテコールアミン過剰による高血圧には作用しない。利尿作用により循環血漿量をさらに減らす点でも褐色細胞腫には不適当である。

  5. ×e.  サイアザイド系利尿薬

    サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管でのNa・Cl再吸収を抑える薬で、本態性高血圧では少量で降圧薬として用いられる。しかし、褐色細胞腫では循環血漿量が減少しているため、利尿でさらに体液を失わせることは起立性低血圧や術後低血圧の危険を高める。高血圧の原因であるカテコールアミンの作用にも関与しないので、用いない。

褐色細胞腫の概要

・症状:高血圧(持続性または発作性)、頭痛、動悸、発汗過多の3徴が有名である。そのほか、高血糖、代謝亢進による体重減少、蒼白、起立性低血圧など。腹部の圧迫、運動、排便、薬剤などで発作が誘発されることがある。 ・特徴:約10%ずつが両側性、副腎外、悪性、家族性とされてきた(10%病)が、現在は遺伝子変異をもつ例がより多いことがわかっており、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)、von Hippel-Lindau病、神経線維腫症1型、SDH遺伝子変異などとの関連がある。また、現在はすべての褐色細胞腫・パラガングリオーマが転移の可能性をもつ腫瘍として扱われている。 ・診断:血中・尿中のカテコールアミンおよびその代謝産物(メタネフリン、ノルメタネフリン)の増加、CTやMRIによる腫瘍の局在診断、123I-MIBGシンチグラフィによる機能的診断。

術前管理の要点

・α遮断薬(ドキサゾシンなど)を術前から十分な期間投与し、血圧を正常化させる。 ・α遮断が得られたのちに、頻脈があればβ遮断薬を追加する。β遮断薬を先行または単独で使うと、β2受容体を介する血管拡張作用が失われ、α受容体刺激による血管収縮が相対的に優位となり、急激な血圧上昇(高血圧クリーゼ)や心不全を起こすため禁忌である。 ・降圧が不十分ならカルシウム拮抗薬を追加する。カテコールアミン合成酵素(チロシン水酸化酵素)を阻害するメチロシン(α-メチルパラチロシン)も用いられる。 ・塩分制限は行わず、術前に輸液などで循環血漿量を補っておく。これにより腫瘍摘出直後の低血圧を防ぐ。

禁忌・注意すべき薬剤・検査

・β遮断薬の単独投与 ・メトクロプラミド(ドパミン受容体拮抗薬)、グルカゴン:カテコールアミンの放出を誘発し、クリーゼを起こしうる ・安易な腫瘍の生検:クリーゼの危険がある

POINT

・褐色細胞腫の降圧はα遮断薬が第一選択(内服はドキサゾシン、クリーゼにはフェントラミン静注)。 ・効果不十分ならカルシウム拮抗薬を追加する。β遮断薬はα遮断後に頻脈対策として使い、単独・先行投与は禁忌。 ・循環血漿量が減少しているため利尿薬(ループ、サイアザイド、スピロノラクトン)は用いず、術前は塩分制限をせず体液量を補う。 ・スピロノラクトンは原発性アルドステロン症の治療薬である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。