境界のない筋層肥厚―MRIが映す子宮腺筋症と「痛くて多い」月経
第108回医師国家試験 I問題 第36問
国試問題にチャレンジ
骨盤部MRIのT2強調矢状断像を別に示す。 この疾患でみられる症状はどれか。2つ選べ。

- a.排尿痛
- b.月経痛
- c.過多月経
- d.外陰部痛
- e.帯下の増加
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮腺筋症は子宮筋層内に子宮内膜様組織が存在し、周囲の平滑筋が増生して子宮が腫大する疾患で、MRI T2強調像では境界不明瞭な低信号の筋層肥厚と内部の点状高信号、接合帯の肥厚が特徴です。境界明瞭で偽被膜を伴う子宮筋腫とは、この「境界」の有無で区別します。主症状は、異所性内膜の出血や子宮収縮の増強による進行性の月経痛と、内膜面積の増大や収縮不良による過多月経(貧血)で、不妊の原因にもなります。排尿痛は尿路の炎症、外陰部痛は外陰の疾患、帯下増加は腟・頸管の炎症や癌で目立つ症状であり、本症の典型ではありません。病変の場所と性質から症状と治療までを結びつけて理解することが、婦人科疾患の鑑別と診療の土台になります。
解答・解説
正解はb, cです
画像所見の整理
骨盤部MRIのT2強調矢状断像で、子宮は腫大しており、特に後壁(体部後壁〜底部)の筋層が著しく厚くなっている。肥厚した筋層は全体に低信号で、その内部に小さな点状の高信号域が多数散在している。子宮内膜(線状の高信号)は圧排されて前方へ偏位しているが、病変と正常筋層との境界は不明瞭で、被膜のような縁取りはない。
診断のプロセス
・筋層のびまん性(または一方の壁に偏った)肥厚で、境界が不明瞭な低信号域 → 子宮筋層内に異所性の子宮内膜組織が入り込み、周囲の平滑筋が増生した状態を示す。 ・低信号域内の点状高信号 → 筋層内に迷入した内膜腺や、そこに生じた小さな出血・嚢胞を反映する、子宮腺筋症に特徴的な所見である。 ・鑑別となる子宮筋腫は、境界明瞭な類円形の低信号腫瘤として描出され、周囲の正常筋層を押しのける(偽被膜を伴う)点で区別できる。 以上より、子宮腺筋症と診断する。
設問の考え方
子宮腺筋症の症状は、筋層内の異所性内膜が月経周期に反応して増殖・出血を繰り返すことと、子宮そのものが腫大して内膜面積が広がることで説明できる。前者は炎症と子宮収縮の増強による強い月経痛(月経困難症)を、後者は月経血量の増加(過多月経)とそれに伴う貧血をもたらす。したがって、月経痛と過多月経が選ぶべき症状である。
選択肢考察
- ×a. 排尿痛
排尿痛は膀胱炎や尿道炎など下部尿路の炎症で生じる症状である。子宮腺筋症で腫大した子宮が膀胱を圧迫すると頻尿などの圧迫症状が出ることはあるが、尿路に炎症を起こすわけではなく、排尿痛は典型的な症状ではない。
- ○b. 月経痛
子宮腺筋症の最も代表的な症状である。筋層内に入り込んだ内膜組織が月経時に出血・腫脹し、プロスタグランジンなどの炎症性物質の産生や子宮筋の過剰な収縮を引き起こすため、強い下腹部痛・骨盤痛が生じる。月経の直前から月経期にかけて起こり、年齢とともに次第に増強していく(続発性月経困難症)のが特徴である。
- ○c. 過多月経
病変により子宮が腫大し、内腔が引き伸ばされ変形することで、月経時に剥がれ落ちる内膜の面積が増える。さらに筋層の病変のため子宮収縮による止血がうまく働かないことも加わり、月経血量が増え、月経期間も長くなりやすい。その結果、鉄欠乏性貧血をきたすことが多い。
- ×d. 外陰部痛
外陰部痛は、性器ヘルペスなどの外陰部の感染症、Bartholin腺膿瘍、外陰部の皮膚疾患、外陰痛症などでみられる症状である。子宮腺筋症は子宮体部の筋層の病変であり、外陰部に病変は及ばないため、外陰部痛は生じない。
- ×e. 帯下の増加
帯下の増加は、腟炎(カンジダ、トリコモナス、細菌性腟症)や子宮頸管炎などの感染症、子宮頸癌・体癌などで目立つ症状である。子宮腺筋症の病変は筋層内にあり、腟や頸管の分泌を増やすものではないため、特徴的な症状とはいえない。主症状はあくまで月経痛と過多月経である。
子宮腺筋症の概要
子宮内膜に似た組織(内膜腺と間質)が子宮筋層内に存在し、周囲の平滑筋が増生して子宮が腫大する疾患である。エストロゲン依存性で、性成熟期から更年期にかけて発生し、30歳代後半〜40歳代に多い。経産婦や、分娩・子宮内操作の既往がある女性に多いとされる。子宮内膜症や子宮筋腫を合併することも多い。病変が子宮全体に広がるびまん型と、前壁や後壁に限局して腫瘤状になる限局型(腺筋腫)がある。
症状
・月経痛(続発性月経困難症、進行性に増悪) ・過多月経、月経期間の延長、それに伴う貧血 ・不妊、流早産 ・腫大子宮による圧迫症状(頻尿、便秘など)
診断
・内診:子宮が全体に(または一部が)腫大し、弾性硬で圧痛を伴う。月経期に子宮が大きく柔らかくなることもある。 ・血液検査:CA125が上昇することがある(子宮内膜症でも上昇)。 ・超音波検査:筋層の非対称な肥厚、境界不明瞭な病変、筋層内の小嚢胞。 ・MRI(T2強調像):接合帯(junctional zone、内膜直下の低信号帯)の肥厚(おおむね12 mm以上)、境界不明瞭な低信号域とその内部の点状高信号。
子宮筋腫との鑑別
子宮筋腫は境界明瞭な類円形腫瘤で、正常筋層との間に偽被膜があり核出が可能である。子宮腺筋症は境界が不明瞭で、病変だけを取り出すことが難しい。症状(過多月経、月経痛)は重なるが、月経痛は腺筋症でより強く、進行性である。
治療
・薬物療法:鎮痛薬(NSAIDs)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト)、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)、GnRHアゴニスト・アンタゴニストによる偽閉経療法など。 ・手術療法:挙児希望がなければ子宮全摘術が根治的である。挙児希望がある場合には病巣切除術(子宮腺筋症核出術)が検討される。
POINT
・子宮腺筋症は子宮筋層内に子宮内膜様組織が存在する疾患で、30歳代後半〜40歳代、経産婦に多い。 ・主症状は進行性に増強する月経痛と過多月経(→貧血)であり、不妊の原因にもなる。 ・MRI T2強調像:境界不明瞭な筋層肥厚(低信号)+内部の点状高信号、接合帯の肥厚。境界明瞭な子宮筋腫と区別する。 ・排尿痛(尿路感染)、外陰部痛(外陰疾患)、帯下増加(腟・頸管の炎症)は本症の症状ではない。
