StudyMed医師国家試験

手を反らせて待つ数秒間―羽ばたき振戦を「引き出す」診察肢位

第108回医師国家試験 H問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第108回 H問題 第13問

肢位の写真を別に示す。  異常所見を見出すためにこの肢位が最も適しているのはどれか。

第108回 H問題 第13問の問題画像
  1. a.肝性脳症
  2. b.ラクナ梗塞
  3. c.Parkinson病
  4. d.甲状腺機能亢進症
  5. e.良性発作性頭位眩暈症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、写真で示された診察肢位から、その姿勢で見つけやすい異常所見と疾患を結びつける問題だ。写真では、両腕を前にまっすぐ伸ばし、手首を手の甲側へ反らせた状態を保たせている。ポイントは「この姿勢で何が起こりやすいか」を、所見の機序から考えることだよ。
医学生医学生
腕を前に伸ばす姿勢というと、OSCEの神経診察で練習したBarré徴候を思い出しました。麻痺を見る肢位でしょうか。
ドクタードクター
そう考えるのは自然だね。でもBarré徴候は手のひらを上に向けて指をそろえ、目を閉じて保持させる。麻痺側が回内しながら下がってくるのを見るんだ。今回は手首を背屈させている点が決定的に違う。
医学生医学生
手首を反らせて保つ……。もしかして羽ばたき振戦ですか。
ドクタードクター
その通り。これは羽ばたき振戦、asterixisを誘発する代表的な肢位なんだ。では、羽ばたき振戦がどういう現象か説明できるかな。
医学生医学生
手が細かく震えるもの、と思っていました。名前に振戦と付いているので。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。本来の振戦は筋が律動的に収縮して起こる。一方、羽ばたき振戦は、姿勢を保つために収縮し続けている筋の緊張が、一瞬ふっと途切れる現象なんだ。陰性ミオクローヌスと呼ばれる。だから背屈させていた手が不規則にパタンと落ちて、すぐ元に戻る。それが鳥の羽ばたきのように見えるわけだ。
医学生医学生
筋の緊張が途切れるのを見たいから、わざと力を入れて姿勢を保たせる必要があるんですね。
ドクタードクター
まさにそこが核心。持続的に筋力を使う姿勢でないと、途切れたことが見えない。手関節の背屈位保持はそのための肢位なんだ。そして羽ばたき振戦の代表的な原因が肝性脳症。アンモニアなどの神経毒性物質が脳に影響して起こる意識・精神神経障害だね。
医学生医学生
消化器内科の実習で、肝硬変の患者さんの昏睡度を犬山分類で評価していました。羽ばたき振戦はII度あたりから出るんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。見当識障害や傾眠傾向が出るII度、せん妄や嗜眠傾向のIII度でみられやすい。逆に、IV度以上の昏睡になると指示に従えず、この姿勢自体を保てないから評価できなくなる。では、ほかの選択肢も確認しよう。Parkinson病の振戦はどうだろう。
医学生医学生
安静時振戦なので、力を抜いた状態のほうが目立つはずです。丸薬丸め様の振戦ですよね。
ドクタードクター
正解。坐位で手を膝の上に置いて脱力させたときに観察しやすく、姿勢保持や随意運動ではむしろ軽くなることが多い。だから今回の肢位は向かない。甲状腺機能亢進症はどうかな。
医学生医学生
交感神経の亢進で細かい振戦が出るので、腕を伸ばす姿勢なら見えそうな気もします。
ドクタードクター
鋭いね。甲状腺機能亢進症の振戦は姿勢時振戦だから、腕を前に伸ばせば見えることはある。ただ通常は指も伸ばして開いた状態で観察し、手の甲に紙を載せると揺れがわかりやすい。手首を背屈させて保持させるのは羽ばたき振戦を狙った肢位だから、「最も適している」のは肝性脳症になる。
医学生医学生
ラクナ梗塞は、さっきのBarré徴候で軽い麻痺を見る、ということですね。
ドクタードクター
そう。穿通枝の小さな梗塞による軽い麻痺は、Barré徴候や、手のひらを下に向けて小指が離れていく第5指徴候で拾う。良性発作性頭位眩暈症はどうかな。
医学生医学生
あれは耳石が半規管に入り込んで起こるめまいなので、上肢の肢位とは関係なさそうです。Dix-Hallpike法で眼振を見るんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。Frenzel眼鏡をつけて頭位眼振検査や頭位変換眼振検査を行い、誘発される眼振を観察する。腕の姿勢とは無関係だね。
医学生医学生
振戦の種類ごとに、観察するのに適した姿勢が違うんですね。安静時、姿勢時、運動時、そして羽ばたき振戦。
ドクタードクター
いい整理だ。小脳障害の企図振戦は鼻指鼻試験のように目標に近づく動作で強くなる。最後に臨床での注意点。羽ばたき振戦は肝性脳症に特異的ではなく、尿毒症やCO2ナルコーシス、低血糖や電解質異常などの代謝性脳症でもみられる。肝硬変の患者さんでも、腎不全や呼吸不全が重なっていないか、意識障害の原因を広く考えることが大切だよ。
医学生医学生
羽ばたき振戦を見たら肝性脳症と決めつけず、代謝性脳症全体を考える、ですね。病棟で意識が少しおかしい患者さんがいたら、まず腕を伸ばしてもらおうと思います。
ドクタードクター
それは実践的な姿勢だね。便秘や消化管出血、感染、脱水などの誘因探しもセットで行おう。簡単な診察が早期発見の手がかりになるんだ。

まとめ

両上肢を前方に伸ばし、手関節を背屈させて保持させる肢位は、羽ばたき振戦を誘発・観察するための代表的な診察法です。羽ばたき振戦は姿勢保持筋の緊張が瞬間的に途切れる陰性ミオクローヌスで、律動的な筋収縮による真の振戦とは機序が異なり、肝性脳症(犬山分類II〜III度)で典型的にみられますが、尿毒症やCO2ナルコーシスなどの代謝性脳症でも出現します。Parkinson病の安静時振戦は脱力位、甲状腺機能亢進症の姿勢時振戦は手指を開いた上肢挙上位、軽い麻痺はBarré徴候、良性発作性頭位眩暈症は頭位・頭位変換眼振検査と、所見ごとに適した診察法が異なります。所見の機序と観察肢位を結びつけて理解することは、ベッドサイドで意識障害や神経症状を的確に評価する力につながります。

解答・解説

正解はaです

写真の肢位は、両上肢を前方へ水平に伸ばし、手関節を背屈(手の甲側へ反らす)させて、その姿勢を保たせるものである。これは羽ばたき振戦(asterixis、flapping tremor)を誘発・観察するための代表的な診察肢位である。 羽ばたき振戦は「振戦」と名が付いているが、筋が律動的に収縮する本来の振戦とは機序が異なる。姿勢を保つために持続的に収縮している筋の緊張が、ごく短時間ふっと途切れる(陰性ミオクローヌス)ことで、背屈させていた手が不規則にパタンと落ち、すぐに元の位置へ戻る。この動きが鳥の羽ばたきのように見えることからこの名で呼ばれる。したがって、観察には「一定の筋力を入れて姿勢を保持させる」肢位が必要であり、手関節の背屈位を保たせるこの姿勢が最も適している。 羽ばたき振戦を来す代表的な病態は肝性脳症であり、ほかに尿毒症、CO2ナルコーシス(高二酸化炭素血症)などの代謝性脳症でもみられる。一方、選択肢に並ぶ他の疾患では、観察すべき所見や適した診察法が異なる(安静時振戦は脱力させた状態で、姿勢時振戦は手指も伸ばした上肢挙上位で、軽い麻痺はBarré徴候で、頭位めまいは頭位・頭位変換眼振検査で評価する)。この肢位で「最も」見出しやすい異常所見は何かを考えれば、肝性脳症が選ばれる。

選択肢考察

  1. ○a.  肝性脳症

    肝性脳症は、肝機能の高度な低下や門脈大循環シャントによって、アンモニアなどの神経毒性物質が脳に達して生じる意識・精神神経障害である。わが国で用いられる昏睡度分類(犬山分類)でII度(見当識障害、傾眠傾向など)以上になると羽ばたき振戦が出現しやすくなり、重要な診断の手がかりとなる。羽ばたき振戦は姿勢保持に働く筋の緊張が一瞬途切れる現象であるため、両上肢を前方に伸ばして手関節を背屈させ、その姿勢を保たせる本問の肢位で最もよく観察できる。なお、昏睡が深くなり(IV〜V度)指示に従えなくなると、この肢位を保持させること自体ができず、羽ばたき振戦は評価できなくなる。

  2. ×b.  ラクナ梗塞

    ラクナ梗塞は、脳深部の細い穿通枝が閉塞して生じる直径15mm未満の小さな梗塞である。これによる軽い上肢の麻痺を見つけるには上肢のBarré徴候を用いる。手のひらを上に向け(回外位)、指をそろえて両上肢を前方に水平挙上させ、閉眼で保持させると、麻痺側の上肢が回内しながら下降し、肘が屈曲してくる。手のひらを下に向けて指を閉じた状態で保持させ、麻痺側の第5指が離れていく所見(第5指徴候)も軽微な麻痺の検出に用いられる。いずれも手関節を背屈させる肢位ではなく、本問の肢位は適さない。

  3. ×c.  Parkinson病

    Parkinson病の振戦は、力を抜いて安静にしているときに目立つ安静時振戦(4〜6Hz程度で、母指と他指をこすり合わせるような丸薬丸め様振戦)が特徴であり、随意運動や姿勢保持で軽減することが多い。観察には、坐位で手を膝の上に置くなど、上肢を脱力させた状態をとらせるのが適している。上肢を挙上して手関節の背屈位を保持させる本問の肢位は、安静時振戦の観察には向かない。

  4. ×d.  甲状腺機能亢進症

    甲状腺機能亢進症では、交感神経活動の亢進に伴い、細かく速い姿勢時振戦(生理的振戦の増強)がみられる。姿勢時振戦は上肢を前方に挙上して姿勢を保持させると現れるため、本問の肢位でも観察は可能であり、完全な誤りとはいえない。しかし、甲状腺機能亢進症の振戦は通常、両上肢を前方に伸ばし手指も伸ばして開いた状態で観察する(手の上に紙を載せると振戦がわかりやすい)。手関節を背屈させて姿勢の保持を課す本肢位は、羽ばたき振戦の誘発を目的とした肢位であり、「最も適している」のは肝性脳症である。

  5. ×e.  良性発作性頭位眩暈症

    良性発作性頭位眩暈症(BPPV)は、耳石器から剥がれた耳石が半規管内に入り込むことで、特定の頭位をとったときや頭位を変えたときに短時間(多くは1分以内)の回転性めまいが生じる疾患である。診断には、Frenzel眼鏡(眼振を観察しやすくする凸レンズ付きの眼鏡)を用いて、頭位眼振検査や、坐位から懸垂頭位へ頭位を変える頭位変換眼振検査(Dix-Hallpike法など)を行い、誘発される眼振を観察する。上肢の肢位とは関係がない。

羽ばたき振戦(asterixis)の特徴

・機序:姿勢を保つための持続的な筋収縮が一瞬途切れる陰性ミオクローヌスであり、筋の律動的な収縮による真の振戦とは異なる。 ・所見:上肢を前方に伸ばして手関節を背屈位に保たせると、手が不規則に掌屈方向へ落ち、すぐに元の位置へ戻る。多くは両側性で不規則である。 ・原因:肝性脳症が代表的で、ほかに尿毒症、CO2ナルコーシス、低血糖・電解質異常などの代謝性脳症、一部の薬物中毒などでもみられる。肝性脳症に特異的な所見ではない点に注意する。

肝性脳症の昏睡度分類(犬山分類)の概略

・I度:睡眠覚醒リズムの逆転、多幸・抑うつなど。振り返ってみてわかる程度の変化 ・II度:見当識障害、異常行動、傾眠傾向。羽ばたき振戦がみられる ・III度:興奮状態やせん妄、嗜眠傾向(ほとんど眠っているが呼びかけで開眼する)。羽ばたき振戦がみられる ・IV度:昏睡(完全な意識消失)だが痛み刺激に反応する ・V度:深昏睡で痛み刺激にも反応しない

振戦の種類と観察法の整理

・安静時振戦:脱力した安静状態で出現。Parkinson病が代表。 ・姿勢時振戦:上肢を前方挙上して姿勢を保つと出現。本態性振戦、甲状腺機能亢進症(生理的振戦の増強)など。 ・企図振戦(運動時振戦):目標に近づく動作で増強。鼻指鼻試験などで評価し、小脳障害でみられる。 ・羽ばたき振戦:手関節背屈位の保持で出現。代謝性脳症(肝性脳症など)。

軽微な上肢麻痺の診察

上肢Barré徴候(手掌を上にして前方挙上・閉眼保持 → 麻痺側が回内・下降)、第5指徴候(麻痺側の小指が外転してくる)などを用いる。

POINT

・両上肢を前方に伸ばし手関節を背屈させて保持させる肢位は、羽ばたき振戦の誘発に用いる。 ・羽ばたき振戦は姿勢保持筋の緊張が瞬間的に途切れる陰性ミオクローヌスで、真の振戦ではない。 ・肝性脳症(昏睡度II度以上)が代表だが、尿毒症やCO2ナルコーシスでもみられる。 ・振戦の観察肢位:Parkinson病は脱力した安静時、甲状腺機能亢進症・本態性振戦は上肢挙上の姿勢時、小脳障害は運動時。 ・軽い上肢麻痺はBarré徴候、BPPVは頭位・頭位変換眼振検査で評価する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。