StudyMed医師国家試験

「まだその気がない人」に何を言う?―行動変容ステージに合わせた支援の考え方

第108回医師国家試験 H問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第108回 H問題 第12問

行動変容のステージとアプローチの組合せで適切なのはどれか。

  1. a.無関心期 ―― 具体的行動の指導
  2. b.関心期 ―― 動機付け
  3. c.準備期 ―― 実行の強要
  4. d.実行期 ―― 罰則設定
  5. e.維持期 ―― 支援終了

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は行動変容ステージモデル、トランスセオレティカルモデルとも呼ばれる考え方の問題だ。禁煙や運動、食生活の改善を支援するとき、相手がどの段階にいるかで有効な働きかけが変わる。その対応関係を理解しているかがポイントだよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習いました。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5段階でしたよね。
ドクタードクター
その通り。もとはProchaskaとDiClementeが禁煙の研究から提唱したモデルで、今では特定保健指導など日本の保健指導の現場でも広く使われている。各段階の目安も確認しておこう。無関心期はおおむね6か月以内に行動を変えるつもりがない段階、関心期は6か月以内に変えようと考えている段階、準備期は1か月以内に始めるつもりの段階だ。
医学生医学生
実行期と維持期は、行動を始めてからの期間で分けるんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。行動を変えて6か月未満が実行期、6か月以上続いていれば維持期だ。では最初の組合せから考えよう。無関心期の人に具体的な行動を指導するのはどうだろう。
医学生医学生
生活習慣を変えたほうがいいと教えるわけだから、良さそうな気もしますが……。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。無関心期の人は、そもそも変える必要性を感じていない。そこへ運動メニューや食事内容を細かく説明しても、本人にとっては関心のない話で、聞き流されてしまう。この段階で必要なのは、今の習慣が健康にどう影響するかを伝えて気づいてもらうこと、「このままではまずい」と感じてもらうこと、自分の行動が家族にどう影響するかを考えてもらうことなんだ。
医学生医学生
具体的な指導はもっと後の段階、ということですね。では関心期に動機付けをするのは?
ドクタードクター
これが正解だ。関心期の人は「変えたほうがいい」という気持ちと「面倒だ、今のままでいい」という気持ちの間で揺れている。これを両価性という。変えた場合の利益と変えない場合の不利益を一緒に整理したり、変わった自分を前向きにイメージしてもらったりして、踏み出す意欲を高める。まさに動機付けが求められる段階なんだ。
医学生医学生
内科の外来実習で、禁煙を迷っている患者さんに先生が「タバコをやめたら何が良くなりそうですか」と聞いていたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい場面を見たね。それは動機付け面接の技法で、本人自身の言葉で変わる理由を引き出していくやり方だ。では準備期に実行を強要する、はどうかな。
医学生医学生
1か月以内に始めるつもりなら、背中を強く押してもよさそうですけど、強要はやりすぎでしょうか。
ドクタードクター
その感覚は正しい。準備期では、達成できそうな目標を一緒に立て、具体的な行動計画を作り、「自分にもできる」という自己効力感を高めることが大切だ。周りに宣言してもらうのも後押しになる。でも他人から強要されると自発性が損なわれて反発を招き、行動は定着しにくい。強要はどの段階でも不適切だと考えていい。
医学生医学生
実行期に罰則を設けるのも、同じ理由でよくないですね。
ドクタードクター
そうだね。実行期はまだ習慣が定着しておらず、元に戻りやすい時期だ。続けられたことを褒めたりごほうびを用意したりする強化、家族や仲間の支え、行動しやすい環境づくり、ストレス解消を飲酒から運動に置き換えるような行動置換が役立つ。罰則で締め付けると意欲が下がり、脱落を招きかねない。
医学生医学生
維持期まで来たら、もう支援を終えても大丈夫そうに思えますが。
ドクタードクター
そこも注意が必要だ。6か月以上続いていても、ストレスや環境の変化をきっかけに逆戻りすることは珍しくない。だから経過を確認し、逆戻りしそうな場面への対処法を一緒に考え、周囲のサポートも続けることが望ましい。支援の打ち切りは適切とはいえないね。
医学生医学生
逆戻りしたら、それは失敗ということになるんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。このモデルでは、逆戻りは失敗ではなく変容の過程の一部と考える。戻った段階から改めて一歩ずつ進めるよう支援を続ければいい。臨床で大事なのは、まず相手が今どのステージにいるかを見極めて、その人を次の段階へ一歩進める働きかけを選ぶことだ。
医学生医学生
相手の段階を無視して正論をぶつけても届かない、ということですね。OSCEの医療面接でも、患者さんの気持ちを確認してから説明するよう指導されました。
ドクタードクター
その通り。強要、罰則、支援の打ち切りのように、本人の自発性を損なったり支援を放棄したりするアプローチはどの段階でも原則として適切でない、という視点を持っておくと、この種の問題は迷わず解けるよ。

まとめ

行動変容ステージモデルでは、人は無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期の5段階を経て健康行動を身につけると考え、段階ごとに有効な働きかけが異なります。無関心期には情報提供による気づき、関心期には利益と不利益を整理して意欲を高める動機付け、準備期には目標設定と行動計画・自己効力感の強化、実行期と維持期には強化や周囲の支援による継続支援と逆戻り予防が求められます。強要や罰則、支援の打ち切りは本人の自発性を損なうため、どの段階でも適切ではなく、維持期でも逆戻りに備えた支援を続けることが大切です。対象者の現在のステージを見極めて次の段階へ導く考え方は、禁煙指導や特定保健指導、日常診療での生活習慣指導に広く応用できます。

解答・解説

正解はbです

本問は、行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル、多理論統合モデルとも呼ばれる)における各ステージと、そのステージに合った支援方法の対応を問うている。 このモデルでは、人が禁煙・運動・食習慣の改善などの健康行動を身につけるまでに、無関心期 → 関心期 → 準備期 → 実行期 → 維持期 という5つの段階を経ると考える。重要なのは、どの段階にいるかによって有効な働きかけが異なるという点である。本人の準備ができていない段階でいきなり行動を指示したり、外から強制・罰則で縛ったりしても、行動は変わらず、かえって反発や脱落を招く。 したがって、支援者はまず対象者が現在どのステージにいるかを見極め、その人を「次の段階へ一歩進める」ための働きかけを選ぶ。本問では、選択肢ごとに「そのステージで必要とされる働きかけ」と「示されたアプローチ」が一致しているかを判断すればよい。強要・罰則・支援の打ち切りといった、本人の自発性を損なう、あるいは支援を放棄するアプローチは、どの段階においても原則として適切ではない、という視点も解答の助けになる。

選択肢考察

  1. ×a.  無関心期 ―― 具体的行動の指導

    無関心期は、行動を変える必要性をまだ感じておらず、近い将来(おおむね6か月以内)に変えるつもりもない段階である。この段階の人に運動メニューや食事内容などの具体的な行動を指導しても、本人にとっては関心のない話であり受け入れられにくい。まず必要なのは、現在の生活習慣が健康に及ぼす影響やリスクについての情報を提供して問題に気づいてもらうこと(意識の高揚)、「このままではまずい」と感じてもらうこと(感情的体験)、自分の行動が家族や周囲に与える影響を考えてもらうこと(環境の再評価)である。具体的な行動の指導は準備期以降に行うのが適切である。

  2. ○b.  関心期 ―― 動機付け

    関心期は、行動を変える必要性を認識し、おおむね6か月以内に変えようと考えてはいるが、まだ踏み出せていない段階である。この時期の人は「変えたほうがよい」という気持ちと「面倒だ」「今のままでよい」という気持ちの間で揺れ動いている(両価性)。そこで、行動を変えた場合の利益と変えない場合の不利益を本人と一緒に整理し、行動を変えた自分を前向きに思い描いてもらう(自己の再評価)といった働きかけによって、行動に踏み出す意欲を高める、すなわち動機付けを行うことが有効である。これにより準備期へ進むことが期待できるため、組合せとして適切である。

  3. ×c.  準備期 ―― 実行の強要

    準備期は、おおむね1か月以内に行動を始めるつもりがあり、すでに何らかの小さな取り組みを始めていることもある段階である。この時期には、達成可能な目標を本人と一緒に設定し、具体的な行動計画を立て、「自分にもできる」という自信(自己効力感)を高めることが大切である。周囲に実行を宣言してもらうこと(自己の解放)も後押しになる。一方、他者から実行を強要されると、本人の自発的な意思が損なわれ反発を招きやすく、行動変容は定着しない。強要はどのステージでも不適切である。

  4. ×d.  実行期 ―― 罰則設定

    実行期は、実際に行動を変え始めてから6か月未満の段階である。まだ行動が習慣として定着しておらず、元の生活に戻りやすい(逆戻りしやすい)時期であるため、行動を続けられたことに対して褒める・ほうびを与えるといった正の強化(強化マネジメント)、家族や仲間の支え(援助関係)、行動しやすい環境を整えること(刺激の統制)、不健康な行動を健康的な行動に置き換えること(行動置換)が有効である。罰則を設けて外から締め付けるやり方は、意欲を低下させ脱落を招くおそれがあり、適切ではない。

  5. ×e.  維持期 ―― 支援終了

    維持期は、新しい行動を6か月以上続けている段階である。行動はある程度定着しているが、ストレスや生活環境の変化などをきっかけに以前の行動へ逆戻りすることがあり、その場合は前のステージからやり直すことになる。そのため、維持期でも経過の確認、逆戻りしそうな場面への対処法を一緒に考えること、周囲からのサポートの継続などの支援を続けることが望ましい。維持期に入ったことを理由に支援を終了するのは適切ではない。

行動変容ステージモデルの概要

プロチャスカ(Prochaska)とディクレメンテ(DiClemente)が禁煙の研究をもとに提唱したモデルで、現在では運動、食生活、飲酒などさまざまな生活習慣の改善に応用されている。特定健康診査後の特定保健指導など、わが国の保健指導の現場でも広く用いられている。

5つのステージ(一般的な時間の目安)

・無関心期(前熟考期):6か月以内に行動を変えるつもりがない ・関心期(熟考期):6か月以内に行動を変えるつもりがある ・準備期:1か月以内に行動を変えるつもりがある(小さな取り組みを始めていることもある) ・実行期:行動を変えてから6か月未満 ・維持期:行動を変えてから6か月以上継続している

ステージごとの主な働きかけ(変容プロセス)の例:運動習慣の場合

・無関心期:意識の高揚(運動のメリットを知る)、感情的体験(このままではまずいと感じる)、環境の再評価(自分の運動不足が周囲に及ぼす影響を考える) ・関心期:自己の再評価(運動不足の自分を否定的に、運動している自分を肯定的にイメージする) ・準備期:自己の解放(運動できるという自信を持ち、始めることを周囲に宣言する) ・実行期・維持期:行動置換(ストレス解消を飲酒から運動に置き換えるなど)、援助関係(周囲のサポートを活用する)、強化マネジメント(継続できたことにほうびを与える)、刺激の統制(運動しやすい環境を整える)

逆戻りについて

ステージは一方向に進むとは限らず、途中で前の段階に戻ることも珍しくない。逆戻りは失敗ではなく変容の過程の一部とみなし、再びステージを進められるよう支援を続けることが大切である。

関連する考え方

・自己効力感(self-efficacy):ある行動をうまく実行できるという自信。準備期以降で特に重要となる。 ・動機付け面接:対象者の両価的な気持ちを受け止めながら、本人自身の言葉で変化の理由を引き出す面接技法で、無関心期や関心期の支援に用いられる。

POINT

・行動変容は 無関心期 → 関心期 → 準備期 → 実行期 → 維持期 の5段階で進むと考える。 ・対象者の現在のステージを把握し、そのステージに合った働きかけで次の段階へ進める。 ・無関心期は気づき・情報提供、関心期は動機付け、準備期は目標設定と行動計画・自信の強化、実行期と維持期は継続支援と逆戻り予防。 ・強要・罰則・支援の打ち切りは、どのステージでも適切なアプローチではない。 ・維持期でも逆戻りがありうるため支援は継続する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。